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私はこれで「電気」をやめました 「東電フリー」な電気代0円生活
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171026-00000017-sasahi-life
2017年11月3日号
染織作家であるフジイさんの仕事部屋。「東電フリー」でもミシンやライトは問題なく使える
2011年の東日本大震災と、それに伴う原発事故により、節電を意識するようになった人は多いはず。さらには、電力会社との契約を解除し、すべての電力を自力で賄っている人たちも存在する。そんな「東電フリー」な生活とは?
都内の公営団地に暮らす染織作家フジイチカコさんが「東電フリー」生活に一歩を踏み出したきっかけは、東日本大震災だった。日中と夜間に3時間ずつ、合計4回の計画停電を経験し、近所の友人とロウソクの灯るカフェに集まり、不安を分かちあった。
「たまたま私がキャンプ用に持っていたソーラー式ランタンが役立ち、電気を自給する『オフグリッド』やソーラーパネルの話で盛り上がりました。エネルギー問題について考えている人が多く、仲間と情報交換をしながら節電を始めたのですが、すっかり楽しくなっちゃって」
まず取り組んだのは、契約アンペア数を30アンペアから15アンペアに下げること。すると3千円台だった電気料金が、一気に2千円台に下がった。約半年後の2011年秋には冷蔵庫のプラグを抜いた。24時間365日使いっぱなしとなる冷蔵庫は、家庭での消費電力の約14%を占める。当初はハードルが高いと思ったが、結果は「なくても意外と大丈夫」だった。
「野菜や卵は常温でも保存できるし、生鮮品は近所のスーパーでそのつど買えば問題ありません。また体が野菜中心の生活になじんで、肉や魚はほとんど口にしなくなりました」
掃除は箒や雑巾を使えばいいし、お米は鍋で炊けばいい。ストーブにやかんを置けば加湿器代わりになる。掃除機、炊飯器、加湿器、ドライヤー、トースターなどの家電製品は、次々に押し入れ行きとなった。電話機も、昔ながらの電気の必要ないタイプに買い替えた。そして12年8月、契約アンペア数を最小の10アンペアに落とした。
「月の電気代は千円に下がりましたが、仕事上必須のアイロンが15アンペア必要なので、とても困りました。インテリアに買ってあった骨董品の炭火式アイロン(グラビア参照)が役に立ちました」
並行してソーラーパネルを12万円で譲ってもらい、ベランダに設置。そして12年9月1日(奇しくも防災の日)、ついに東京電力との契約を解除した。
現在、フジイ家はソーラーパネル4枚で、1日最大2キロワットの電力を賄う。発電効率が最も上がるのは黄道(太陽が通る軌道)が低くなる冬の晴れた日で、使い切れないくらい発電してくれる。
「化石燃料に頼らなくても、こんなに自給できるのかと驚きました。余った電力をみんなにおすそ分けしたいくらい(笑)」
ソーラー発電の欠点は、天候に左右されること。特に雨の日は発電量が乏しくなる。そんなときは知人から譲り受けたエアロバイク発電機で自家発電する。10分ペダルを漕ぐだけで、脱水機3分、扇風機3時間、5ワットのLEDランプ(白熱灯で40ワット相当)2時間分の発電が可能だ。
ここで、フジイさんが「東電フリー」生活から得たアイデアをいくつか紹介しよう。
●ソーラークッカー
太陽熱で加熱する調理器具。驚くほどの熱量があり、食材のうまみが引き出せる。市販もされているが、ステンレスシートなどを使って手作りも可能。
●手作りCDライト
電球の傘のようにCDをLEDライトのまわりに取り付ける。鏡面に反射して光量が大きくなる。
●植木鉢ストーブ
金属製のバットの上に網を敷き、キャンドルを置いた上に植木鉢をかぶせると火鉢のような暖かさに。大小の植木鉢を組み合わせて二重にすると、さらに効果的。
現在は第二種電気工事士などの資格を取得しているフジイさんだが、最初は特別な知識など何もなかった。
「ゼロから始めた主婦としては、まずは身近な節電に目を向けていただければと思います。待機電力をおさえるために、こまめにプラグを抜く。バスタオルは洗濯時にかさばるのでフェイスタオルを使用する、乾きやすい麻の素材を使用することなども、節電につながります。また、ドライヤーやアイロン、電子レンジなどの消費電力の大きい家電を同時に使わず、使用時間を分けることで、アンペア数を下げることができます」
フジイさんの取り組みは『ソーラー女子は電気代0円で生活してます!』にまとめられている。
西武線飯能駅から車で約30分。埼玉県入間川の源流に位置する旧名栗村の下田家は、「東電フリー」を実践して5年目に突入した。夫の亘さん(58)、妻の洋子さん(53)、双子のさちさん、ゆきさん(20)の4人暮らしで、暖房、炊事、入浴と、必要な熱量のほとんどすべてを薪炭で得る。山間地だけに夏は涼しくてエアコン要らず。冷たい湧き水のお陰で冷蔵庫も必要ない。
建坪15坪の木造住宅は、棟上げ、屋根工事までは業者に任せ、内外装工事は自分たちで、1年半かけて仕上げた。当初から「無電化住宅」を考えていたので、開口部を広く取るなど採光に配慮。必要な電力は最小限にとどめ、いわゆる「白物家電」は洗濯用の脱水機だけ。1.2ワットのLED電球8個と、大工仕事に使う電動工具、スマホの充電などはソーラー発電で賄う。あまりの徹底ぶりに、娘のさちさんからはこんな本音も。
「環境にも健康にもいいのはわかりますが、トイレは臭いし……。両親はいいでしょうが、私はもう少し便利な暮らしがしたいです」
実は下田家は以前、埼玉県内のごく普通の住宅街で「オール電化」の家に住んでいた。
「25年前に建てた家で、ソーラー設備付きなので電気料金が0円と安上がりでしたが、電磁波について調べるうちに、幼い子供への影響が怖くなりました」
さらに3.11後の計画停電で、オール電化の脆さを痛感した。給湯器が動かず風呂が使えない、IHなので調理もできないなど、「まるっきりなにもできなかった」という。
2人の娘が飯能市の私立中学に進学するのを機に、電力に頼らない家を求めて近隣で古民家を探した。しかし売りに出ている物件はなく、ゼロから理想の住宅を建てることになった。
下田家のエネルギーの大半を担うのが、薪ストーブだ。ガスや灯油も使用しないので、災害時には特に強みを発揮する。しかし一方で膨大な薪が必要だ。
「1年で使う薪は軽トラック20台分ほど。近隣の森林ボランティア団体の活動に参加して、間伐材をもらってきたり、近所の製材店から、軽トラ一杯500円で端材を譲ってもらうなどして賄います」
地元民や移住仲間との交流が、今の暮らしを支える力になっているという。妻の洋子さんも地元で開催される朝市などのイベントを通して、自家製クッキーなどの販売をしている。
「人と関わらなければ暮らしは回りませんが、それこそがこの生活の楽しみですね」(洋子さん)
さらにワイルドな「東電フリー」生活を満喫しているのが、埼玉県秩父市の新井亮介さん(29)だ。「82坪で20万円。軽トラを買うよりも安かった」と本人も笑うほどの格安で土地を購入。ほぼ一人、独学で昨年建てた小屋に暮らす。
「全部で100万円かかってない」という家には、電気、ガス、水道はナシ。川の水を生活用水とし、飲料水は近所の道の駅で汲んでくる。煮炊きはたき火とカセットコンロ。トイレはブルーシートで囲ったバケツで済ませ、風呂は近所の銭湯へ。照明と、携帯などの充電は、ソーラーパネル2枚で賄う。オンラインでネットにもつながっているが、
「『電気がない家に光回線を引いたのは初めて』と、電話会社の人が呆れていました」
普段は9時5時勤務のサラリーマン。車で約40分の水源管理会社でダムの保全を担うが、休日は猟師となって山野に獲物を追う。最近は婚約者の青木翔子さん(28)が、武甲山の登山口に開店したカフェ「LOGMOG cafe&shop」の隣に建てる新居の建築に忙しい。婚約者の目に、彼の小屋住まいは、どう映っているのか?
「私もどちらかというと都会的な『モノを持ってナンボ』の世界に疑問を感じていたので、なににも縛られない生活を実行している彼が、東京の男子より断然、頼もしく見えます。トイレだけはいただけませんが」
そもそも新井さんが小屋暮らしを始めたのは、モノの少ない生活に憧れたためだ。県内の実家に住んでいたころ、「自分の部屋なのに、自分の動けるスペースが狭い」と思ったのがきっかけだった。それから洋服や靴、雑貨を捨てる「断捨離」を始めた。引っ越し時の荷物は、軽トラ1台分にも満たなかった。現在も、冷蔵庫、テレビ、エアコンは持たず、代わりに冷たい飲み物はコンビニへ、テレビが見たくなったらラーメン店へ、猛暑日は図書館でやり過ごす。いわば徹底的な「断捨離」の結果が、「東電フリー」の小屋住まいだったわけだ。
小屋の維持費は、固定資産税が年間7千円。月の生活費は5万円程度だ。
「新居を建てたら、のんびり子育てして過ごしたいですね。本来、定年してからやることを、やってしまいましたから」
「而立」の年を前に、早くもセミリタイアにシフトしつつある新井さんであった。
* * *
日本の電力需要は戦後、ほぼ一貫して増え続けてきたが、節電意識が高まった東日本大震災以降はその伸びは鈍化傾向にあるという。震災以降、東京電力管内では電力使用量が約600万キロワット減少した。
「電力会社と契約しない」「契約を解除する」には、相当な覚悟が必要だ。しかしソーラー発電の普及により、電力会社に頼らずとも照明や情報端末の充電など、最低限の電力を確保することが可能になった。
戸建て住宅の太陽光パネル導入は16年度に200万件を超えた。背景には、家庭用の太陽光発電システムの設置費用の低下がある。1キロワットあたりの設置費用は11年に50万円前後だったのが現在では30万円程度となり、4割程度下がっている。
「東電フリー」の暮らしは、意外と身近なところにあるのかもしれない。(ライター・中山茂大)
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