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「空き家だらけ」化する日本列島…近隣住民が無償取得&撤去費補助の対策広がる
http://biz-journal.jp/2017/10/post_21011.html
2017.10.20 文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員 Business Journal
空家対策特措法が2015年5月に全面施行されて以来、近隣に悪影響を及ぼす「特定空家」への対処が進み、所有者に代わって取り壊すなどの代執行の事例も出てきた。また、市場に流通させることは難しいが、所有者の理解の下、交流スペースなど地域のニーズに合致したかたちで空き家を活用する例も増えてきた。
最近新たに出てきた空き家対策で注目されるのは、近隣の力を積極的に活用しようというものである。市場では価値を持たないような空き家の処分に困った場合、昔から、まずは隣の人に取得意向があるかどうかを聞いてみるのが有効といわれてきた。
■近隣への撤去費用の補助
北海道室蘭市では今年度から、特定空家を近隣住民や自治会が撤去する場合に、費用を補助する仕組みを設けた(費用の9割、上限150万円)。現在、多くの自治体が、空き家撤去の費用補助の仕組みを設けているが、その場合、補助を受けるのは所有者である。室蘭市では、近隣住民などが撤去を求めた場合、空き家を管理しきれない所有者から土地・建物を近隣住民などに無償で取得させ、撤去費用を補助する。跡地は住民が活用できるが、10年間は宅地や営利目的に使えず、広場などとして使うという条件付きである。
室蘭市ではかつての鉄鋼産業が衰退し、空き家増加が著しい地域であるが、近隣への支援によって、空き家撤去を進める施策を取り入れた。補助は所有者本人に行うのが筋であるが、近隣住民に取得意向があるのであれば、その後の管理も含め、近隣の人に任せたほうが合理的とも考えられる。この施策で数件の撤去が進められる見込みという。
■不在者財産管理人制度を利用した近隣住民への売却
一方、東京都世田谷区では今年7月、所有者不明の空き家を、近隣住民に売却する前提で、不在者財産管理人制度を利用して取り壊した。同制度を活用する場合、裁判所に申し立てて不在者財産管理人を選任する必要があるが、その際、一定の予納金(管理人への報酬支払いに備えた費用)が必要になる。しかし、敷地を売却できないと撤去費用も含めて回収できなくなるため、これが制度利用のネックになっている。これに対し、市場では価値がなくとも、近隣住民が買い取る意向を持っていることがわかれば、この仕組みを利用して更地にして売却するという道が開ける。世田谷区は、この点に着目して今回の措置をとった。
同じことは、空家対策特措法に基づいて略式代執行(所有者がいない場合に行う代執行)の措置を取り、その後に不在者財産管理人を選任して、敷地を売却する道もあるが、今回の世田谷区の措置のほうが、手間が省けるメリットがある。所有者がいない状態は、相続放棄されたケースでも生じるが、その場合は似た仕組みであるが、不在者財産管理人制度ではなく、相続財産管理人制度の利用になる。
山口県宇部市では、空家対策特措法に基づく略式代執行で撤去した後、相続財産管理人を選任し、敷地売却によって費用を回収しようとしている例がある。今後については世田谷区のように、まずは近隣の意向を確認した上、手間を省くために直接、財産管理人制度を活用するというのは一つのツールになると考えられる。
■空き家の近隣住民への斡旋
空き家が発生した場合、近隣住民に積極的に取得を持ちかけてきた住宅地の例もある。埼玉県毛呂山町は埼玉県南西部で池袋から電車で1時間ほどの場所にあるが、1960年代に開発された古い戸建て団地の敷地が狭小であり(60〜90平方メートル)、居住環境が良いとはいえない状況にあった。
その後、老朽化が進み、空き家が発生するようになると、地元不動産業者がまずは近隣住民に取得を持ちかけるようになり、これまで200件ほどの隣地取得が行われた実績がある。敷地が狭いため、空き家になった区画を団地外から新たに取得しようとする人は現れにくいが、近隣住民にとっては空き家を取得して敷地を拡張するチャンスになるため、業者がそこに商機を見いだして積極的に動いたという事例である。
毛呂山町は埼玉県内で最も空き家率が高く、空き家問題が深刻であるが、こうした事例も踏まえ、空き家を減らすためには、低価格での優先譲渡など隣地と統合する枠組みも検討課題としている。ただ、近隣の人も高齢となり、あとを継いで住む人もいない場合には、隣地取得のインセンティブはない。タイミングが合わなければ、隣地取得促進の施策も効果を生むかはわからない。
たとえば、東京都江戸川区ではかつて、小規模宅地の解消を目的に隣地買い上げや新規購入について低利融資を行う仕組み(「街づくり宅地資金貸付制度」)を設けていたことがある(1994〜2012年度)。対象は、隣地買い増しにより70平方メートル以上になる場合などであった。しかし、実際には隣地買い上げではなく、新規購入で使われるケースが圧倒的に多かった。隣地であっても、希望やタイミングが合わなければ、容易には取得されないことを示している。
ただ、今後とも住宅地として残る地域においては、隣地取得の支援策があれば、それによって多少なりとも敷地が統合され、居住環境の改善に役立つ可能性がある。
■「近隣力」活用のメニューを
以上、近隣の力を活用して空き家を解消しようとする取り組みについて述べてきた。空き家対策には、これをやればすべて解決するという万能の処方箋はない。したがって、「近隣力」の活用メニューも、地域の置かれた状況によっては有効になると考えられるため、検討していく価値はある。
たとえば、近隣住民が費用面で取得意向を示さない場合でも、かつての江戸川区のような支援を行って取得してもらえば、以降は自治体が管理不全の問題を心配する必要もなくなる。取得費用などを支援しても、自治体や地域にとってはそのほうが望ましいと考えられる場合はあると考えられる。実際、室蘭市では、近隣に取得させた上、撤去費用を支援するというところまで踏み込んだ。今後の自治体の創意工夫が求められる。
(文=米山秀隆/富士通総研経済研究所主席研究員)
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