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http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1710/19/news016.html
神戸製鋼のデータ改ざん問題が大変な騒動になっている。自動車や航空機などで同社製品が使われているので、その影響は拡大していきそうだが、海外メディアはこの問題をどのように報じているのか。まとめてみると……。
[山田敏弘,ITmedia]
今、大手鉄鋼メーカーの神戸製鋼所のデータ改ざん問題が大変な騒動になっている。
多くのメディアが報じている通り、神戸製鋼はアルミ製品や銅製品の一部で強度などのデータを改ざんした。自動車、航空機、原子力発電所、防衛装備品、H2Aロケットなどで同社製品が使われているので、その影響は拡大していきそうだ。リコールや損害賠償となれば、さらに混乱が広がることになる。
この問題は世界中のメディアでも大きく取り上げられ、多くが日本製品のクオリティーについて言及している。海外の報道を見ていると、今回のデータ改ざんが世界的な日本のイメージに対して、かなり大きなダメージを与えているのが分かる。さらに言うと、もしかしたら「メイド・イン・ジャパン」という高品質を売りにしたポジティブなイメージが、もはや「終わりの始まり」になっているのかもしれないとすら感じる。
海外での報じられ方を眺めていると、筆者もこのスキャンダルは日本企業の対外的なイメージを失墜させる象徴的なケースになるのではないかと思う。そんな理由から世界の主要なメディアがこのニュースをどう報じたのか見ていきたい。
まずカタールのアルジャジーラだ。番組では、司会者が「神戸製鉄が製品の強度についてデータを改ざんしていた。ジェネラル・モーターズ、ボーイング、トヨタ、ホンダなどこれら企業がサプライチェーンを見直す必要が出てきた」と、このニュースを大々的に報じている。日本の新幹線にも神戸製鉄の製品が使われていて、「その規模は過去10年間で200企業に広がる」とし「さらに規模は広がる可能性がある」と伝えている。事実、日本メディアはすでにその数は500社とも報じている。
その上で、アルジャジーラは、神戸製鉄のスキャンダルが珍しくないとし、エアバッグのタカタが「史上最大規模のリコール」となって経営破たんし、日産自動車も最近、資格がない従業員が完成車検査していたとして116万台のリコールを発表したと報じている。そして「こうしたスキャンダルが、品質の高さで知られる日本の製造業への打撃となる。その品質の高さを理由に、中国などと比べて割高の値段をつけていたのだから」とまとめている。
「日本企業はなぜ手抜きするのか」という番組司会者の質問に対し、シンガポールから番組にコメントした欧米人専門家は、日本企業の「年功序列型賃金体系」という企業文化によって、職員は長く会社に勤めたいがために問題に目をそらす傾向があるとする。また景気低迷のコストカットもそこに影響を与えている可能性を指摘する。
海外メディアは神戸製鋼の改ざん問題をどのように報じたのか(写真と本文は関係ありません)
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バブル時代の遺産が日本を苦しめている
英語やアラビア語でニュースを提供するアルジャジーラはアラブ諸国を中心に多くの視聴者を抱えている。同局の発表ではその数は世界で4000万人にもなるというが、アラブ圏には日本製品のクオリティーを評価している親日の人が多いだけに、こう何件もニュースで報じられると、かなりのネガティブなインパクトを与えることになるだろう。
英国で発行されているタイムズ紙も、日本の企業文化を問題視している。「日本の中間管理職が失敗やミスを上司に上げたがらないという日本の企業文化が原因のひとつの可能性がある」という。これだけではちょっと言葉足らずでなぜ「中間管理職」なのかは分からないが、アルジャジーラに登場した専門家のようなことが言いたかったのだろう。
タイムズ紙はさらに深いところで分析を試みている。「日本全体を苦しめている中核となる問題は、1980年代に短い期間人々を夢中にさせたバブル時代の遺産だ。世界最大の経済国として米国をも超えるかのようだったが、それは維持できない資産価値によるもので幻想だった。だがそれによって、神戸製鋼のような会社のセルフイメージが形成された。理想的な会社はグローバルに展開し、最高水準の品質に献身するものであるだろうと」
要するに、今回のスキャンダルはバブル時代が生み出した高品質崇拝に背景があるということらしい。さらに中国などが低いクオリティーを提供する中、多くの企業が日本の提供するハイクオリティーは高くて手が出ないと考えているのに、それを提供しなければいけないと神戸製鋼は勝手に思い込んでいると指摘する。
もちろんタイムズのいち記者の見解に過ぎないのだが、少なくともこの記事が世界各地で読まれていることは間違いない。
神戸製鋼はデータ改ざん問題について、自社サイトでお詫び文を掲載している(出典:神戸製鋼の公式Webサイト)
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「メイド・イン・ジャパン」の信頼が揺らぐ
一方で米国のブルームバーグの分析は深い。日本の「Kaizen(改善)」という企業文化が世界でも本などになっていることを挙げて、「日本のハイクオリティーという名声に寄与した工程革新の多くが、世界中で受け入れられ、本物で目に見えるような恩恵を与えている。だが完璧主義は時に崇拝のようになり、日本の国家的誇りが、優れた製造業の根幹にある謙虚さを低下させるリスクをはらんでいる」と書く。
ドイツの放送局であるドイチェ・ヴェレも、神戸製鉄の疑惑は、日本企業の信頼を揺るがしている不正行為の数々に新たなケースが加わることになったとリポートし、「トップクオリティーの製造業という世界的な評価に傷をつけた」と指摘する。ロシア政府系のロシア・テレビは、「神戸製鋼はかなり残念な『クラブ』の仲間入りをした。そのクラブはスキャンダルや不始末に覆われた日本企業がメンバーである」と皮肉る。
インドのDNA紙は、「世界は日本企業からちょっと多くを期待すぎているのではないか……完璧な人間などいない」と書く。そして神戸製鋼には「金繕い」が求められるという。金繕いとは、壊れた傷を見た目に残したまま修復を行う方法だ。今回負った傷を忘れないように、前に進むしかないという。だがもちろん、再起不能になるほどのリコールや損害賠償が出る可能性もまだあるのだが……。
米国のニューヨーク・タイムズ紙はこう見る。「日本はテレビや携帯電話、コンピュータのようなテクノロジーで首位を明け渡してしまったが、評価の高い商品の内部の精密機器や特殊化学製品、センサーやカメラなどで使われている」とし、「日本は痛いところを突かれた。安い代替品を提供する中国やほかの国々に対するセールスポイントとして質の高い製造業という名声に頼っている。だがいくつかの大企業による一連の問題によってその名声が損なわれている」
そして同紙が最大の打撃だったという2017年のタカタ、さらに2016年に燃費不正問題を起こしたスズキと三菱自動車、最近の日産自動車のケースを取り上げている。
もちろん、大半の企業がこうした不正行為をしていないだろうし、そうだと信じたい。データの改ざんがあっても、いまだに中国やドイツでさえも提供できない高品質な製品を作っているのは事実である。だが、少なくとも、これまでの大手による不正で世界からの「メイド・イン・ジャパン」に対する信頼が揺らぐ中で、今回のスキャンダルが一気にその傷口を広げることになるだろう。一部の大手企業が犯したことかもしれないが、対外的には日本の製造業全体のイメージをかなり失墜させることは間違いない。
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日本人のイメージはどうなっていくのか
今、フェイクニュースや印象操作に対する批判が聞かれるようになっており、情報によっていかに人の考え方やイメージが左右されるのかが広く語られるようになった。このスキャンダルのような「事実」も、海外にいる人たちには、「メイド・イン・ジャパン」製品の実態として刷り込まれていくことになる。
世界各地を訪れ、世界各地の人たちとやりとりをする人は、日本の良好なイメージの背景に、戦後たちまち復興し、経済大国として世界のトップに上り詰めた日本の企業文化や製品クオリティーなどが大きく貢献しているのをよく知っている。
それだけに、その部分が失われたら日本人のイメージはどうなっていくのだろうか。一連の不祥事は、対外的なイメージにおいても残念でならない。
筆者プロフィール:山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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