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東芝の「上場廃止」回避のウラには忖度があったのか 国際的信用を失いかねない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53232
2017.10.18 磯山 友幸 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
「崖っぷち」だったにもかかわらず…
東京証券取引所が「特設注意市場銘柄(特注銘柄)」と「監理銘柄」に指定していた東芝株を10月12日付けで「指定解除」した。晴れて東芝は堂々の二部市場銘柄として復帰、内部統制の不備を理由として上場廃止にされる可能性はとりあえず消えたことになる。
東証は解除理由について、「同社の内部管理体制等については、相応の改善がなされたと認められました」とした。粉飾決算やその後の巨額損失の発覚、米原子力子会社の破綻、監査法人との対立と決算の遅延など、世の中を騒がせ続けた東芝だが、指定の解除で東証は「どうぞ安心して売買してください」と表明したことになる。
東証は2015年9月に東芝を特注銘柄に指定した。この年の4月に発覚した不正会計問題を受けた措置だったが、同時に上場契約違約金9120万円を東芝に科しており、1年間の特注銘柄指定で問題を終わらせようとした。
東芝は1年後の2016年9月に内部統制報告書を提出、指定解除を求めた。本来だったらそれを受けて指定解除されるはずだったが、子会社で小規模な不正事件が発覚。これを受けて東証は指定を半年延期し、2017年3月までとした。
「あの時、指定解除しなくて本当に良かった。大恥をかくところだった」と東証の理事のひとりは振り返る。半年間の指定延期を発表した直後に、米国の原子力子会社に巨額の損失が生じていることが発覚したのだ。
2月に予定されていた四半期決算の発表ができないまま、東芝は3月に内部統制報告書を再度提出。指定解除を求めていた。その審査がこの10月まで続いていたのだ。
ルールでは特注銘柄の指定は最長1年半ということになっており、3月の段階で「期限」が到来していた。このため、上場廃止になる可能性があることを周知するために「監理ポスト」にも指定された。後は、内部管理体制が改善されたとみなすことができなければ、上場廃止しかない状況にまで追い詰められていたのだ。
「官邸の意向」で救われた?
その後、東芝は決算を巡って監査法人と対立。監査を担当するPwCあらたが監査意見を出すかどうかが大きな焦点になった。監査意見が出なければ、それはそれで上場廃止基準に抵触する。
結局、監査法人から意見を得て有価証券報告書を提出したのは8月10日になってからだった。しかも、監査意見は「限定付き適正」という大企業の決算では前代未聞の意見だった。
その間、東証は事実上、内部統制報告書に基づく「審査」を止め、決算と監査意見が出るのを待った。「上場廃止にすべきだ」という声も東証の外部理事の間から上がったが、決断を先送りし続けた。
外部から見ていると、東証は必死に東芝を上場廃止の道から救おうとしているようにみえた。なぜそんな事が起きたのか。
「東芝を上場廃止にするなという指示が官邸から出ていた」と安倍内閣の閣僚のひとりはささやく。それも菅義偉官房長官や世耕弘成経済産業大臣ではなく、経産省出身の首相側近からの指示だというのだ。
東芝が上場廃止になって仮に倒産すれば、半導体など日本の基幹技術が海外へ流出する、というのが大義名分だった。だが、その後の半導体子会社・東芝メモリの売却先を見ると、韓国の半導体大手SKハイニックスが含まれている。
東芝を守りたい別の理由が官邸にはあったのだろう。東芝が米半導体ウエスチングハウスを買収する際に、経済産業省で旗振り役を担った官僚たちが、自らの責任を問われるのを避けるために、東芝を守っているという指摘もある。
何のためにルールがあるのか
だが、上場廃止を決める東証の自主規制法人は、霞が関には直接関係ないはずだが、どうもそうではないらしい。
自主規制法人の理事は7人おり、うち4人が「外部理事」ということになっている。理事長の佐藤隆文氏も「外部」という扱いだ。つまり、上場廃止の可否については、独立性の高い専門家が判断しているという建前なのだ。
ところが、理事長は元金融庁長官の天下りである。前任の林正和氏も元財務次官で、自主規制のトップは天下り官僚の指定席になっているのだ。どんなに「外部」だと言ってみたところで、彼らが官邸や霞が関の意向を忖度しないはずはない。「東芝を守れ」という指示が飛んだとされる今年春以降、佐藤氏の会議での発言が一気に歯切れが悪くなった、という証言もある。
そして、まさかの「内部管理体制は改善している」という判断である。
実は、PwCあらた監査法人は、東芝の決算書に「限定付き適正」を出した際、内部統制報告書については「不適正意見」を付けているのだ。東芝は即座に「重要な不備は是正され、内部統制は有効と判断した」というリリースを出したが、監査法人が内部統制は不適正とした事実は厳然と残っている。にもかかわらず、東証は内部管理体制は改善したと評価したのだ。
つまり、東証の自主規制法人は、第三者である監査法人の意見よりも、会社自身の主張を受け入れたわけだ。驚天動地の判断と言っていいだろう。
取引所は株式の公正な売買を守る責務がある。投資家を保護することが最優先であるはずだ。上場廃止のルールがあるのも、粉飾決算などによって投資家の目を欺く会社を市場から排除するためである。
粉飾決算などで即刻上場廃止となると、かえって株式を保有している投資家が損失を被るとして、上場廃止ルールが見直され、特注銘柄の制度が導入された。上場企業に改善のチャンスを与えるとともに、投資家に上場廃止になるリスクがあることを周知徹底するためだった。
東証は、そのルール自体も、監査法人という第三者がチェックする制度も踏みにじって、東芝を守ったことになる。
そんな霞が関への「忖度」や老舗企業への「配慮」が横行すれば、資本市場としての「質」が大きく問われることになる。世界から東証は「いい加減な市場だ」というレッテルを貼られない事を祈りたい。
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