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人口減少は、北朝鮮の核ミサイルと同レベルの「国難」と心得よ 『未来の年表』著者の警告
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53202
2017.10.17 河合 雅司 産経新聞社論説委員 大正大学客員教授 現代ビジネス
小池百合子氏が希望の党を立ち上げたかと思えば、枝野幸男氏も立憲民主党を立ち上げる――政治家たちのただならぬ動きばかりが注目されるが、私たちが見極めるべきは、その「政策」である。
一票を投じる前に、彼ら・彼女らの訴える「政策」を精査することは私たちの責務だ。今回の選挙戦の争点はずばり、少子高齢化問題への対応策。
27万部を突破した大ベストセラー『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』の著者・河合雅司氏が、長年、政治部記者をつとめた経験に基づき、今回の選挙戦を「人口減少」の切り口から解説する。
■人口減少は「静かなる有事」
小池旋風が吹き荒れ、民進党の分裂劇にまで発展した衆院選は、10月22日の投開票に向けて、各選挙区で熱き舌戦が繰り広げられている。
当初は「大義なき解散」との批判も強かったが、少し視点を変えて眺めてみれば、今回の選挙には極めて大きな意味がある。
安倍晋三首相が、衆議院解散にあたって、少子高齢化を、北朝鮮問題と並ぶ「国難」と位置づけたことである。
安倍首相は「国難突破解散」と名付けていたが、少子高齢化への対策を理由に衆議院が解散されたのは、憲政史上初めてのことだ。
少子高齢化は国家の土台を根底が揺るがす「静かなる有事」である。安倍首相が声高に強調せずとも、多くの国民はこれを「国難」と認識していることだろう。
むしろ問題なのは、少子高齢化の実態を正しく理解せず、その深刻さに気付いていない人がまだまだ少なくないことである。今回の立候補者たちとて、例外とは言い切れない。
■「幼児教育無償化」に効果はあるか
残念ながら、人口減少も出生数の減少も簡単には止まらない。これまでの少子化で女児の出生数が減ってしまっており、今後、子供を産める年齢の女性の激減が避けられないからだ。
成熟社会となった日本が、再び“多産社会”に戻ることは考えづらい。出生率が多少上昇することがあったとしても、出生数は減り続けるのである。
われわれは、人口減少が避けられないという「現実」をしっかりと受け入れ、それを前提に社会を作り直さざるを得ない。
だからこそ、安倍首相もこの問題を「国難」と位置づけたのであろう。
ここで、安倍首相がその解決策として掲げたのは、「幼児教育・保育の無償化」であった。
これが無意味な政策だと言うつもりはない。だが、「国難突破」と大見得を切った割には、あまりに発想が貧弱だと言わざるを得ない。
幼児教育・保育の無償化が、一体どれぐらい、少子化の歯止めに効果があると考えているのだろうか?
■高齢者向けサービスを絞るべき
幼児教育・保育の無償化はさまざまな問題を内包している。
自民党の公約では、消費税率を10%に引き上げることで得られる5兆円超の税収のうち、借金軽減に充てる予定だった約2兆円を社会保障の充実に回すという。
2020年度までに、3〜5歳児のすべての子供と、0〜2歳児は低所得世帯に限って無償化するともいう。さらに、低所得世帯には高等教育向け給付型奨学金などの拡充を図るとしている。
これによって、高齢者向けの給付が中心である現在の社会保障を、「全世代型」へと大きく転換していくのだというのだ。
「全世代型」を目指すという方向性そのものは間違っていない。だが、若者向けのサービスを単に「足し算」することでそれを達成するのでは、社会保障の総枠が膨らむばかりだ。
これまでに行ってきた社会保障費の抑制努力は何だったのか……と言いたくなる。
「全世代型」を目指すのならば、まずは既存サービスの無駄や手厚すぎる部分もある高齢者向けサービスを絞り込むことが先決だろう。医療現場のIT化は遅れている。検査の重複や不必要な入院など、見直すべき課題は山積している。
政策優先順位の観点からしても疑問が大きい。幼稚園・保育園の無償化よりも、急ぐべきは保育の受け皿の整備ではないのか。
■その政策は本当に「届く」のか?
保育スタッフや施設は不足しており、待機児童ゼロは解消していない。育児休業の補償も不十分だ。こうしたことを理由に、子供をもうけること自体を諦めてしまっているカップルは少なくない。
安倍首相は「待機児童解消を目指す安倍内閣の決意は揺るがない」とも語り、32万人分の受け皿整備計画を2年前倒しすることを表明した。
しかし、無償化すれば、入園を求める需要はさらに掘り起こされる。
これで間に合うのだろうか? 入園する権利は得ても、定員がいっぱいで結局入園できないのでは、無償化の恩恵にあずかれない。
「幼稚園・保育園の無償化」は相変わらず、生まれてきた子供に対する「子育て支援策」なのだ。他方、少子高齢化日本で問われているのは、子供が生まれてこない社会をいかに打破するかなのである。
結婚したくともできない、子供がほしいのに持てないという人には、子育て支援の充実という政策は届かない。
■「ムダを削る」だけでは、もう無理
消費税は、社会保障をまかなう財源と位置付けられている。そこに教育を含めてよいかどうかという問題もある。
消費税の使い道を拡大すれば、そのぶん、財政規模は膨らむ。「少子化対策」を名目として教育にも消費税を使う前例を認めてしまえば、他省庁も「少子化対策だ」として、子供に関わるような事業に消費税を当て込むようになりはしまいか。
それ以前の問題もある。
この無償化案は消費税が増税されることを前提としている。逆に言うと、消費税がさらに先延ばしされたならば、それは実現しないということである。
その程度の位置づけの政策なのだろうか。「国難突破」とまでいうのならば、消費税増税に頼るのではなく、既存の税財源において、他の歳出を削減してでも実行すべきだろう。
安倍首相が幼稚園・保育園の無償化を、どこまで「国難突破」のメニューとして真剣に考えたのか疑わしくさえなる。
一方、野党各党はさらにお粗末だ。
小池百合子東京都知事が率いる希望の党をはじめ、野党各党は教育の無償化や負担軽減などを訴えている。
だが、同時に消費税増税は凍結するという。
「無駄遣いの見直しで無償化の財源は捻出できる」という説明も聞こえてくるが、消費税が賄うのは幼児教育・保育の無償化だけではない。高齢者激増に伴う社会保障費の伸びにどう対応しようというのだろうか?
■戦略的に縮むためには
こう考えてくると、与野党とも、少子高齢化という「国難」を克服する展望を示しているとは、お世辞にも言えない。
では、「国難」の突破に向けて、われわれはどうすればよいのだろうか?
前述したように人口減少は止めようもない。ならば、追い込まれてから対策を考えるより、「戦略的に縮む」という積極的な選択をしたほうがよい。
「縮む」というと、衰退や貧困といったマイナスイメージで受け止められがちだが、そうと決まっているわけではない。日本より小さくとも豊かな国はいくつもある(これについては拙著『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』で詳しく記したので、政治的転換点であるこの機会に是非ご一読いただきたい)。
もちろん、「戦略的に縮む」には、これまでの価値観を大きく変えなければならない。業種や職種によっては「痛み」を伴うことにもなるだろう。
反対に、人工知能(AI)などの開発によって、部分的には明るい「未来」を呼び込めることもできるかもしれない。
そうしたことを含め、日本が置かれている現状を国民にしっかり説明し、人口減少社会への具体的対応策を論じるには、衆院選こそ絶好の機会だ。
ダイナミックに日本社会を変えうる候補者は誰なのか? あるいは、「人口減少を止めます」などという周回遅れの公約をいまだに掲げ続ける“鈍感な候補者”はいないだろうか?
私たちが一票を投じるにあたって、しっかりと「本物」を見極めなければ、われわれは遠くない将来、人口減少という激流に呑み込まれ、溺れてしまうことになる。
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