http://www.asyura2.com/17/hasan124/msg/127.html
Tweet |
謝罪する日産自動車部長ら。社長や役員ではない従業員に会見を任せたことは「危機意識の欠如」と非難された Photo:毎日新聞社/アフロ
日産の「無資格検査問題」が起こるべくして起きた意外な背景
http://diamond.jp/articles/-/145363
2017.10.12 井元康一郎:ジャーナリスト ダイヤモンド・オンライン
日産自動車で無資格の社員が完成検査をしていた問題は、約116万台という大量リコールを出しただけでなく、同社の信頼とブランドイメージを損ないかねないほどの事態となった。そもそも完成検査とは何か、なぜ問題が発生したのか。根本的な理由や背景を探った。(ジャーナリスト 井元康一郎)
「好調ぶり」に水を差した事件
そもそも完成検査とは何か
昨年秋に三菱自動車を傘下に入れ、今年9月にはロングレンジEVの新型「リーフ」を発売するなど、好調ぶりをアピールしていた日産自動車にとって、無資格者による完成検査の横行が発覚したことは、まさに好事魔多しと言うべき事件であった。
9月29日に無資格者検査の事実を公表してから1週間後の6日には過去3年間に国内販売した38車種、106万台についてリコールの届け出を行うなど、早期の事態収拾を図っているが、「実態の把握と原因究明には1ヵ月ほどかかる」(日産自動車関係者)と、傷ついたブランドイメージの回復についてはまだ途上にある。
完成検査とは、製造したクルマが公道を走る要件を満たしているかどうかのチェックで、いわば「0回目の車検」にあたる。スピードメーターの誤差は基準値以内か、ブレーキはちゃんと利くか、ライトの光軸は狂っていないか、警笛はちゃんと鳴るか等々、チェック項目も車検に準じたものだ。初めてクルマを登録するときに運輸支局にクルマを持ち込んで検査を受ける新規検査を、自動車メーカーが代行すると考えればわかりやすい。
自動車メーカーは自社の製品について、エンジンや車体などの仕様が一定で、環境性能や保安基準などの要件を満たしているという認定、すなわち型式指定を国道交通省から受ける。
その指定を受けたクルマについては、車検を行う運輸支局にいちいち持ち込まずともディーラーでナンバーをつけてそのまま走らせることができるのだが、それにはメーカーがちゃんとチェックをしましたよと証明する完成検査終了証が添付されていることが条件だ。ちなみに、この証書には9ヵ月という有効期限があり、ディーラーが売れ残りなどで未登録の新車をそれ以上長期にわたって在庫してしまった場合は、新車であっても運輸支局であらためて予備検査を受ける必要がある。
完成検査はチェック項目こそ決められているが、やり方は自動車メーカーによって異なっている。国交省が唯一求めているのは、「公的な車検場における検査官と同等技量を持つという資格制度を社内で設け、資格があると認定された人物が検査を行え」ということだ。
日産自動車が不正を行ったとされるのは、有資格者ではない人物が完成検査を行っていたということ。
「運輸支局にクルマを持ち込まなくてもいいという型式指定制度の信頼を揺るがす」(国交省関係者)と、国がおかんむりになっているのもむべなるかなで、日産の違法行為は糾弾されて当然である。
なぜ日産は初歩的な
不正をやってしまったのか
ここで、どうしても解せないのは、なぜ日産がそんな初歩的な不正をやってしまったかということだ。筆者は日産の工場を何度も見学したことがある。日産は高級車ブランドであるインフィニティの世界展開を目指していることもあってか、品質検査を行う熟練職人の養成については、自動車メーカーのなかでもことのほか熱心な方だった。
ライトを当てただけで、ほとんどわからないような小キズや塗装ムラを発見したり、手で触れただけで0.1mm単位のドア、ボンネット、トランクなどの取り付け誤差を検知できるような人材は、一朝一夕に育つものではない。その人材を育成するため、ベテランが若手を教育し、日々テストを行って一人前にしていくのである。最終到達地点は、数万点の部品の役割をすべて理解し、自分ひとりでクルマを組み立てられるというものだ。
ところが、完成検査は商品検査と違ってそういう“匠の技”のようなものではない。クルマが保安基準に適合しているかどうかを見るだけだ。
「ウチは完成検査はすべて有資格者がやるよう、昔から徹底してきた。ただ、完成検査はクルマの品質がちゃんとしているかどうかを見る検査とは違う。有資格者と言っても、車検レベルの検査能力を習得するのは難しくはないし、社内の認定基準もそう厳しいものではない。そもそも検査工程は正規従業員であろうと期間工であろうと、かなり経験を積んだ人材が配置されるという実情を考えると、日産さんも検査工程に振り向ける人材については早い段階でどんどん完成検査の資格を取らせればよかったのではないかと思う。なぜそうしなかったのか」
生産に詳しいライバルメーカーの幹部は、日産の生産体制についてこう不思議がる。
日産はこのところ、グローバルでの販売が好調で、生産台数を急激に増やしてきた。2017年上半期の国内生産台数は前年同期に比べて実に23%も多い53万2800台であった。リーマンショック直後、神奈川の追浜工場の様子を見たことがあるが、その時はクルマの売れ行きが悪く、生産ラインは止まっているのではないかというほどスカスカだったのだが、今はフル生産に近い状態だという。
「生産台数が急に増えた時というのが、制度にきしみが出るリスクがいちばん高まる時。品質がいい加減にならないようにするにはどうしたらいいかという点については、現場が一所懸命工夫するので、それほど大きな問題にならない。
それに対し、必要な人材をどうしたら確保できるか、現有の陣容で生産増にどう対応したらいいかといった制度面については、経営者や工場をコントロールする生産担当役員、工場長などが現場ときちんとコミュニケーションを取り、やり方を現実に即したものに柔軟に変えてあげないと、現場の側の工夫だけではいかんともしがたい。
ライバルのことなのであくまで想像ですが、品質ではなく完成検査なんかで問題を起こしたのを見ると、日産さんにはそこが足りなかったのではないでしょうか」(前出のライバルメーカー関係者)
「危機意識がなかった」と
非難されても致し方ない
今回の不祥事は、日産にとってはブランドイメージの低下という点で痛い失点だ。昨年の三菱自動車買収の際、当時日産の社長だったカルロス・ゴーン氏は「ダメな三菱自動車を完璧な我々が再生させる」と言わんばかりであった。
その日産が違法行為を行っていたというのでは失笑を買うことは避けられない。が、そればかりでなく、せっかく新しい企業統治体制を敷いた三菱自動車においても、「日産の言うことなど聞けるかと」いうレジスタンスが出てくる隙をみすみす見せてしまったのもいただけない。
品質問題ではなく完成検査の問題ということで事態を軽く見すぎたのか、今回の問題で、日産は最初に西川廣人社長や生産担当役員ではなく、一般の従業員に会見を任せた。
これはいくら何でも「危機意識がなかった」と非難されても致し方ない。
実際には技能を持っている人材がやるのだからと、勝手な法解釈にもとづいてクルマづくりをやったというのは事実で、この件が露見した段階で同じように法運用や企業統治に乱れがあるのではないかと疑い、その部分も含めて速やかに対処法を出すのがトップの仕事だからだ。
昔のまま法や規則を
放置していた国交省の制度設計
こうした日産個社の問題の一方で、国交省側の制度設計もあらためて問われる。
昨年の三菱自動車の燃費不正問題では、本来はイコールコンディションで審査をすべき走行抵抗(燃費を計測するうえでの重要な項目)の計測をメーカー任せにしていたのが不正を許す要因になっていた。
今回の完成検査については逆に「クルマの品質がごく低かった60年前ならいざ知らず、今の自動車工学の水準のもとでは完全に形骸化している。法は守るべきだが、昔のまま法や規則を放置していたのも問題」(自動車業界事情通)という側面もあるのだ。
国交省はこのところ高速道路のトンネル崩落、耐震偽装、燃費不正、今回の完成検査と、まさに失態続きだ。前身である旧建設省、旧運輸省は、ともに許認可意識が非常に強いのが特徴であった。
これまでは責任問題に発展しかねない事件が起きるたびに、華麗に批判をかわしてきた同省だが、そろそろ謙虚に、時代に即した制度設計に抜本的に取り組む柔軟性と謙虚さを持つべきだろう。
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民124掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民124掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。