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「デフレ完全脱却」への財政・金融政策の組み合わせはこれ 「シムズ理論」を日本に当てはめると…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53107
2017.10.05 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
「シムズ理論」の実証分析
今年初め、浜田宏一内閣官房参与によって、「シムズ理論」なるものが日本に紹介され、一時的にブームになった。そのためか、提唱者であるプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は来日して講演を行うと同時に、官邸にも招かれ、デフレ脱却のための経済政策についての話をされたときいている(ただし、安倍首相の琴線に触れたか否かはよくわからない)。
「シムズ理論」は、正しくは、「物価の財政理論(Fiscal Theory of Price Level)」と呼ばれるものであり、リフレ政策との対比で単純にいえば、「(財政規律を放棄するようなスタンスでの)財政支出拡大を行えばインフレをもたらす」というものである。
現在の日本の状況に照らし合わせれば、「このタイミングで思い切って財政拡大を行えば、(追加の金融政策なしでも)デフレから脱却できる」という風にも取れることから、賛否両論、大きな話題を呼んだ。
左がクリストファー・シムズ教授 〔PHOTO〕gettyimages
この「シムズ理論」は、1990年代終盤から2000年初め頃にかけて、主に米国の数名の経済学者によって提唱され、その当時も日本で紹介されたことがある。だが、そのときにはさほど大きな話題にもならず、やがて忘れ去られていった。
また、米国においても、あくまでも理論的な可能性を論じるにとどまり、実証分析はなされてこなかった(強いて挙げれば、プリンストン大のマイケル・ウッドフォード教授が、1940年の米国が「シムズ理論」が適用可能な経済状況だったかもしれないと指摘しているが、これについての定量的な実証分析はなされていない)。
しかも、理論面でも、カーネギーメロン大のベネット・マッカラム教授らによる強い批判があり、そのうち議論は下火になっていった。
だが、2010年代に入って、定量分析の技術の発展もあり、「シムズ理論」は、実証分析に適用されるようになってきている。
とはいえ、これらは、「シムズ理論」そのものを実証的に考察するものではなく、過去において、金融政策と財政政策の組合せが、実際の経済にどのような影響を与えてきたかについての実証分析が主流になっている。そして、その中で、金融政策と財政政策の組合せの1つとして、「シムズ理論」がどのように位置づけられるかの考察に変わってきている。
このような金融政策と財政政策の組合せについての実証分析を行ったデューク大のフランシスコ・ビアンチ准教授は、金融政策と財政政策をそれぞれ、「Active(能動的)」と「Passive(受動的)」の2つの「レジーム」に分類し、計4通り(2×2)の政策の組合せを考え、米国における金融政策と財政政策の組合せが、4つの中のどの組合せであったかを定量的に検証している。
財政政策と金融政策の組み合わせ
ここで、財政政策の「レジーム」を簡単に説明すると、まず、「Passive(受動的)な財政政策(PF)」というのは、政府が、債務残高(国債発行残高)の対GDP比が一定の値に収斂していくように財政政策を運営する「レジーム」を意味している。すなわち、「Passive(受動的)な財政政策(PF)」というのは、財政規律を重視する財政政策スタンスを意味する。
逆に、「Active(能動的)な財政政策(AF)」というのは、政府が財政規律の遵守にコミットしない政策スタンスを指す。
そこで、財政政策のレジームを考えるときに注意すべきは、いわゆる「景気対策」による一時的な財政支出拡大をどのように考えるかである。ここでは、あくまでも「レジーム」、すなわち、中長期的な財政政策の枠組みを考えているので、「景気対策」としての一時的な財政支出拡大は影響しないように、実証分析上は、「景気循環要因」は技術的に除去される。
一方、金融政策の「レジーム」において、「Active(能動的)な金融政策(AM)」とは、インフレ率を制御するように金融政策を運営する「レジーム」を意味する。ゼロ金利ではない場合には、まさに「テイラールール」に従って金融政策が運営されている局面である。
逆に「Passive(受動的)な金融政策(PM)」とは、必ずしもインフレ率の制御にコミットしない金融政策スタンスを指す。一般的には、政策金利がゼロに到達してしまった後の局面は、「Passive(受動的)な金融政策(PM)」に分類されることが多い。
次に、金融政策と財政政策の組み合わせについて考える。「平時(デフレ、もしくは経済危機ではない局面)」においては、「Active(能動的)な金融政策とPassive(受動的)な財政政策(AM/PF)」の組み合わせが一般的であるとされる。
すなわちこれは、金融政策では「テイラールール」を遵守しながら、財政政策は「中立的なスタンス」をとり、政府債務の対GDP比率を一定の水準に収斂させる政策がとられることが多いことを意味する(繰り返しになるが、この「レジーム」において、景気後退局面での一時的な財政拡張はあり得るが、景気回復期の緊縮財政政策で相殺されることが前提となっている)。
一方、「Passive(受動的)な金融政策とPassive(受動的)な財政政策(PM/PF)」の組み合わせというのは、ビアンチ准教授らの論文では考察の対象外(すなわち、実現することが想定されていない)とされているが、例えば、2011年以降のイギリスでは、量的緩和政策と緊縮財政の組み合わせであったので、このレジームが妥当するのではないかと筆者は考える。
だが、注意すべきは、理論的には、この「PM/PF」の組み合わせの場合、複数の「解」が導出されるとされており、実証分析に即して考えてみると、この政策の組み合わせによって、デフレ状況(または長期停滞)が続くか、デフレから脱出(経済の正常化)するかは、「運任せ」となる可能性がある。
また、「Passive(受動的)な金融政策とActive(能動的)な財政政策(PM/AF)」の組み合わせは、財政規律を放棄し、拡張された財政支出を金融緩和(量的緩和)によってファイナンスするレジームとなるので、いわゆる「ヘリコプターマネー(もしくは考えようによっては「シムズ理論」)」の考え方に近いのではないかと思われる。
最後に「Active(能動的)な金融政策とActive(能動的)な財政政策(AM/AF)」の組み合わせは、インフレ抑制のために金融引き締めを行いながら、同時に財政拡張を行うことを意味している。
ビアンチ准教授らの論文では、第一次、第二次オイルショックの際に米国の政策当局が採用したポリシーミックスであるとされている。この政策の組み合わせは政府債務の無秩序な増大(政府債務の対GDP比率の発散)とGDPの縮小、インフレというスタグフレーションを招く最悪の組み合わせであるとされている。
デフレ解消の確率は5分5分
さて、この考え方を日本経済に当てはめるとどうなるだろうか。ここでは、ビアンチ准教授らのような精緻な手法ではないが、それに近い方法で実験的に金融政策と財政政策の組み合わせを推定してみた。
金融政策のレジームが図表1に、財政政策のレジームの図表2に示されている。どちらも「Passive(受動的)」な政策を採用している確率で示してある(50%超か否かでレジームがどちらに位置しているかを判断する)。
金融政策のレジームについては、基本的にゼロ金利・量的緩和の局面(もしくは、それが予想される局面)で「Passive(受動的)な金融政策」の確率が上昇し、50%を超える状況となっている。
また、量的緩和の局面においては、マネタリーベースの伸び率が前年比で5%を下回る局面で、50%は上回っているものの、「Passive(受動的)な金融政策」の確率が急低下している。
一方、財政政策のレジームについては、1990年代初頭までは概ね「Passive(受動的)」なスタンスで推移していたことがわかる。これは、政府が景気対策による一時的な歳出拡大を除けば、「財政再建」のスタンスを維持していたためだと推測される。
ところが、1990年代に入ってからは、前半は、不良債権処理のための費用等による財政支出拡大、及び、小渕政権下でのデフレ対策の一環としての大幅な財政支出拡大をきっかけに財政政策のレジームが「Active(能動的)」に転換していることがみてとれる。
その後は、リーマンショック後の経済対策として、財政出動がなされた局面で、財政政策は再び「Active(能動的)」に転換しているが、その他の局面での財政政策のレジームは「Passive(受動的)」である。
2005年からリーマンショック前までの局面、及び、意外だが、安倍政権の局面では、ある程度の金融政策の成功による景気拡大が税収を押し上げたことに加え、消費税率引き上げと財政支出の抑制(及び、2020年までにプライマリーバランスを黒字化させるという「財政健全化目標」へのコミットメント)から日本の財政状況は改善しており、そのため、財政政策のレジームは「Passive(受動的)」に転換しているものと考えられる。
ところで、現在の日本の金融、財政政策のレジームの組み合わせは、「Passive(受動的な)金融政策とPassive(受動的)な財政政策(PM/PF)」の組み合わせであると考えられる。これは、2011年以降のイギリスの政策レジームと同じである可能性が高い。
ただ、注意すべきは、このポリシーミックスによって、デフレが解消する確率はよくて5分5分(すなわち、運が良ければデフレが解消する可能性もある)という点である。
デフレから脱し切れない現状で
ひるがえって、現在の日本経済の状況をみると、雇用環境の改善が続き、企業の景況観の改善が主に国内の非製造業の設備投資を動かしつつある。世界景気の堅調もあり、輸出や製造業の業況も堅調を維持しており、株価も堅調に推移している。
海外投資家の間では、「日本(株)見直し論」も台頭しつつあると聞く。日本経済において、このトレンドが続けば、やがてはデフレ脱却も視野に入ってくるかもしれない。だが、繰り返しになるが、この経済政策の組み合わせでは、運任せである側面が強い。
従って、完全にはデフレから脱し切れていない現状で、経済政策の組み合わせを正常化(すなわち、「Active(能動的)な金融政策とPassive(受動的)な財政政策(AM/PF)」)に転換するのは時期尚早と思われる。
また、現在のレジームでは、何らかのショック(例えば、北朝鮮有事)をきっかけにデフレ解消に向かう流れが一気に逆転してしまうリスクがある。
従って、北朝鮮の有事を想定する場合には、「Passive(受動的)な金融政策とActive(能動的)な財政政策(PM/AF)」という政策の組み合わせが起こり得ることを想定しておくべきかもしれない。
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