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消費税率を引き上げれば、それこそ「国難」がやってくる可能性 2014年4月のケースをもとに考える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53026
2017.09.28 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■安倍政権の経済政策スタンス
9月25日の記者会見で、安倍首相は衆議院の解散総選挙を発表した。記者会見の場で、安倍首相は、今回の解散を「国難突破解散」を位置づけ、「国難突破」の重責を現政権が担うことについて、国民の信を問う姿勢を明らかにした。
この記者会見で安倍首相が言及した「国難」とは、北朝鮮の脅威と将来の日本経済の成長余力の低下であった。
今年1月に出演させていただいたNHKの「日曜討論」において、「トランプ政権誕生を機にアジア地域での有事に備えて防衛力の増強をはかるべき」と発言した筆者にとっては、「今そこにある危機」としての北朝鮮問題にリスクを負って真剣に立ち向かおうとする安倍首相の真摯な姿勢に賛同する。だが、問題は、後者の「経済」である。
安倍首相は、将来にわたる日本経済の成長のためには、人的資本の質の向上が重要だという位置づけから、2019年10月に予定通り、消費税率を10%に引き上げ、それによる増収分を子育てや教育に振り向ける考えを明らかにした。
筆者は、次の消費税率引き上げまで2年余りを残すこの時期に、消費税率引き上げを宣言する必要はないのではないかと考えているので、日本経済の先行きについてやや心配になったのだが、普段、親しくさせていただいている何人かの識者によれば、今回の消費税率引き上げにはそれほど重要な意味はないということらしい。
より身近な問題として北朝鮮有事が勃発すれば、それこそ、消費税率引き上げの是非などと悠長なことを言っている場合ではなく、消費増税の話はどこかに吹き飛ぶだろうし、そうでなくとも、ひょっとすると、実際に消費税率引き上げを正式に決定する時期が来た場合にはあらためて国民に信を問う可能性もあるという話も聞いた。
おりしも、9月26日の夜、安倍首相は、「あくまでもリーマンショック級の緊縮状況が起きなければ、予定通りに消費税率引き上げを実施する」と発言した。これは、前回の消費税率引き上げ見送り前の発言と同じである。
この安倍首相の発言によって、安倍首相の経済政策についてのスタンスが「まず消費増税ありき」ではないということが、インサイダー情報ではなく、公にされたと考える。これは、今後の安倍政権の経済政策運営に、ある程度の安心感を与えるものかもしれない。
■消費支出を減少させるリスク
ところで、2014年4月の消費税率引き上げの影響はどうだったか。
消費税率引き上げは、価格転嫁された分、物価水準を押し上げるため、実質可処分所得の減少を通じて、消費支出にマイナスの影響を与えるというのが一般的な認識であろう。すなわち、増税が事実上の可処分所得の減少を通じて消費を減らすというロジックである。
「先立つものがないと買えない」ということで、それゆえ、家計への財政的な手当て(特に低所得者や若年世帯向け)や消費税率の再引き下げが消費拡大のための政策として提案されることが多い。
だが、実質可処分所得と実質消費支出の関係をみると、必ずしもそのような関係ではないことがわかる。
図表1は、2001年以降の実質可処分所得と実質消費支出の関係を示したものである。
この図によれば、消費税率引き上げが実施される2014年4月以前までは、実質可処分所得と実質消費支出の間には緩やかな相関関係(すなわち、「実質可処分所得が増えれば実質消費支出も増える」という関係)があったが、消費税率引き上げ以降は、両者の関係は崩れてしまい、実質可処分所得と実質消費支出との間にはほとんど相関がみられなくなっている(図表中の×のところ)。
すなわち、消費税率引き上げのマイナスの影響は、必ずしも、「その時点の」実質可処分所得の減少を通じてもたらされたわけではない、ということになる。
それでは、消費税率引き上げ以降、家計に何が起こったか。それを端的に示したのが図表2である。
この図は、勤労者世帯の貯蓄率の推移をみたものであるが、2014年4月の消費税率引き上げ以降、家計貯蓄率が急激に上昇したことがわかる。
もし、消費税率引き上げが実質可処分所得の減少を通じて、実質消費支出を減少させたのであれば、生活必需品を含む消費支出は所得の増減如何で自由に減らすことはできないので、貯蓄率は消費支出ほど大きくは変動しないはずである(場合によっては貯蓄の取り崩しを余儀なくされることで逆に低下することもあり得る)。
筆者は、この貯蓄率の上昇は、消費税率引き上げをきっかけに家計の生活防衛姿勢が強まったために生じたのではないかと推測する。
2012年終盤以降、消費税率引き上げ前までは、金融政策を中心とする「初期アベノミクス」の効果によって、デフレ圧力が急激に払拭される局面であった。そして、この時期には、デフレ解消の方向性が定着する中、多くの家計が将来の所得増に希望を見出すことで、消費支出も拡大に転じた。
だが、ことさら将来の財政危機を煽りながらの消費税率引き上げは、将来にわたって増税が続く懸念を家計に抱かせて、来るべき本格的な「増税社会到来」のための生活防衛の姿勢を強めたのではなかろうか。特に、デフレ回復まで道半ばで将来の増税を意識されることは、「平時(すなわち、デフレでなくマイルドインフレで安定的に経済が成長していく局面)」よりも生活防衛の意識をより強く持たせたと思われる。
逆に、「財政再建派」の識者が指摘するように、増税を先送りすることによる将来不安が貯蓄率を高めるのであれば、それは消費税率引き上げのタイミングでは逆に若干低下するはずであるし、初期のアベノミクスの局面で低下することはなかっただろう。なお、2017年に入ってからの貯蓄率の低下は、株高によるものだと推測される。
すなわち、可処分所得には、株式等の売却益はカウントされないため、株式等の売却益によって消費支出が増加した場合、「(可処分所得−消費支出)÷ 可処分所得」で計算される事後的な貯蓄率は低下する。また、もし、高齢化の進展による消費減少が支配的なのであれば、可処分所得の大幅な減少がみられるはずなので、貯蓄率は逆に低下するはずである。
以上より、デフレからの脱却が十分に実現しない中での消費税率の再引き上げは、2014年の消費税率引き上げをきっかけに水準が落ちた消費支出をさらに減少させるリスクがある。
確かに消費増税による税収増分を子育て・教育支出の補助に振り向けることはいいことだが、これによって、国民が、「将来時点における財政再建のための次なる増税」を強く意識すれば、やはり消費は減少せざるを得ないのではなかろうか。
そして、これは自己実現的にデフレ圧力を拡大させるため、企業の設備投資意欲を減退される懸念がある。また、これをきっかけに企業が冷静な経営判断をすれば、現在の雇用拡大も止まるかもしれない。
■追加緩和の必要性
もっとも、消費税率引き上げの影響は、引き上げ時のマクロ経済状況に依存する。万が一、消費税率を引き上げる2019年10月時点で、日本経済が完璧にデフレから脱却していれば、影響は一時的かつ軽微かもしれない。だが、2年間で「完璧に」人々のマインド転換を含め、日本経済がデフレを克服する可能性はゼロに近いのではなかろうか。
そこで、予定通り消費税率を引き上げると仮定した場合の「次善の策」は何だろうか。
ある程度のデフレ圧力が残る中で消費税率引き上げを「断行」した事例としては、2011年1月のイギリスがある(ただし、当時のイギリスのインフレ率は1%台なので正確にいえばデフレではない、また、消費税率の引き上げは、リーマンショック時の緊急的に引き下げた分を元に戻したもの)。
当時、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行はリーマンショック直後までに大幅な量的緩和を実施していた(イギリスはリーマンショックよりも先に不動産バブル崩壊による金融機関の破綻を経験した)。そして、2010年初めには、ほぼ危機を脱したという判断から、イングランド銀行は量的緩和を段階的に縮小(「テーパリング」)を始めた。
そして、それとほぼ同時に、リーマンショック時に拡大した財政赤字(政府債務)を削減すべく、イギリス政府(キャメロン政権)は、緊縮財政に転換した。2011年1月から実施した消費税率引き上げも財政再建の一環であった。
図表3をみれば明らかなように、2011年に本格化した金融、財政両政策の「正常化」によって、景気は再び失速し始めた。これをみて、イングランド銀行は再び量的緩和を拡大させた。
イングランド銀行はリーマンショック時に自行のバランスシートを3倍に拡大させたが、2011年1月の消費税率引き上げに際して量的緩和を再開させた際には、バランスシートをさらに1.77倍拡大させた(準備預金だけでみれば、リーマンショック時は平時と比較して5.5倍、消費税率引き上げ以降は、3.2倍に拡大している)。
消費税率引き上げ後の量的緩和によって、イギリス経済は一応、失速を免れた。名目経済成長率は4%近傍を維持している。また、消費税率引き上げで一旦は再浮上のきっかけを失い、失速しつつあった実質小売売上高は劇的に改善した(図表4)
ひるがえって、日本のケースをみると、日本銀行は、2014年4月以降、直近(2017年7月)までに、マネタリーベースを2.1倍、準備預金を2.6倍に拡大させている。これは、当時のイングランド銀行と比較して遜色ないようにみえるが、イングランド銀行との違いは、現在の日銀の量的緩和のペースは、基本的には、消費税率引き上げ前のペースにほぼ等しいという点である。
イングランド銀行の場合には、量的緩和のペースが「ジャンプ」しており、この量的緩和ペースの「ジャンプ」が緊縮政策(もしくは早すぎた出口政策)によって後退した「リフレ政策のレジーム」を元の状態に引き戻した可能性がある。
一方、日銀の場合は、量的緩和のペースとしては遜色ないものの、追加緩和によって、緩和のペースが「ジャンプ」することはなかった。そのため、消費税率引き上げによる「リフレレジーム」の後退をそれ以降の追加緩和で引き戻すことができなかった可能性がある(なお、消費税率引き上げ以降の「リフレレジーム」の後退については、例えば、7月27日付けの当コラムなどをご参照いただきたい)。
そう考えると、9月21日の金融政策決定会合で片岡剛士審議委員が主張した追加緩和の必要性は、消費税率引き上げの影響を相殺し、(財政政策を含めた)日本の経済政策レジームを「リフレレジーム」に引き戻すためには重要な意味を持つと考える。
なお、今回の消費税率引き上げ、及びその使途の変更について、「2020年までにプライマリーバランス黒字化達成」という従来の財政再建目標を放棄した点が重要であるという意見がある。この点は、最近のマクロ経済分析における「政策レジーム分析」の流れとも関連する重要なイシューだと考えるので、また次回以降に検討したい。
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