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JPモルガンが「ビットコインは詐欺」と明言した事情 日本は9月末がヤマ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52906
2017.09.18 宿輪 純一博士(経済学)・帝京大学経済学部教授 慶應義塾大学経済学部非常勤講師 現代ビジネス
■いよいよ始まった
Bloombergが13日に報道したところによると、
「米銀JPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)は12日、同行のトレーダーが仮想通貨ビットコインの取引を行ったとしたら解雇すると言明した」
「ダイモンCEOはニューヨークでの投資家会議で、ビットコインは『良い終わり方はしないだろう』と述べ、バブルがはじけると予言。『これは詐欺』であり、最古のバブルと言われる17世紀オランダの『チューリップ球根より悪い』と指摘した」
「同CEOはその上で、JPモルガンのトレーダーがビットコイン取引を始めたとしたら、『即座に解雇するだろう。理由は2つだ。当行の規則に反する上に愚かであり、いずれも危険なことだ』と語った」
「ダイモンCEOは、特に何か問題が発生すれば、監督を受けずに仮想通貨が流通するのを各国当局は許さないだろうと指摘した。ビットコインの基となるブロックチェーン技術については、有益かもしれないとしつつも、同技術を銀行が応用できるようになるまでには時間がかかると述べた」
「同CEOはさらに、『ベネズエラやエクアドル、北朝鮮などに住む人や、麻薬密売人や殺人者の類いであればドルよりもビットコインを使うことで裕福になるだろう』」
このような、ビットコインなどの仮想通貨への疑問視の姿勢は、世界的に強まっている。各国で規制が導入され始めており、日本の金融庁をはじめ世界の金融当局が問題しているのは、特に利用者保護とマネーロンダリングの観点である。日本の当局対応も、実は、この9月末が山となるのである。
■仮想通貨ではない「デジタル通貨」
最近「デジタル通貨」という単語が躍っている。以前「デジタル通貨」とは「仮想通貨」のことをいった。筆者の書籍『決済インフラ入門』(東洋経済新報社)でも、仮想通貨の英語を”Virtual Currency、Digital Currency、Crypto Currency”と書いている。
最近の「デジタル通貨」とは、いわゆる仮想通貨ではなく、その国の通貨の電子化したもの、中央銀行が発行(管理)する公的な電子マネーのことで、仮想通貨のことではない。
まだまだ誤解している方は多いので、念の為申し上げるが、通貨とは「法的通用性のある貨幣」のことで、円やドルのことをいう。したがって、日本でも法的(改正資金決済法)によって、通貨でも、金融商品でなく、モノ(財産的価値)と確認された。仮想通貨は、本来は「通貨」という単語を使うのは適正ではない。仮想通貨は管理する主体もない。なお、「貨幣」というのは、一般的な「お金」(全般)をいう。
さらに、仮想通貨やフィンテックの分野では、研究・検討・提携・実証実験という状況が長く続くという特徴がある。最近でもこの「デジタル通貨」に興味を持って研究している中央銀行は、ロシア・シンガポール・中国・エストニア・スウェーデン、そして日本などがある。
ちなみに、という話であるが、エストニアは仮想通貨「エストコイン」を発行する計画を検討中である。彼らにとって電子化は国外の外国人取込み、投資誘致として小国の生命線なのである。しかし、エストニアの通貨はそもそもユーロである。この基本的なルールに違反しようとしているエストニアに対し、当然、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は公式に批判している。
このデジタル通貨というものを考えたときに、現在の通貨・銀行制度は、中央銀行を中心に銀行が口座を持つ形の階層構造であり、システム上の記帳(内部振替)がほとんどである。すでに各銀行に「分散された台帳」であり、デジタル通貨となっているのである。
これより進めるとなると、SUICAやPASMOのような電子マネーを日本銀行などの中央銀行名で発行するか、日銀が国民のお金(通貨)の動きをすべて管理するのかという形になってくる。
一方、日本の現金流通は欧米の約3倍弱である。そもそもマネロンや脱税防止の観点からも、世界的に高額紙幣の廃止と電子マネー・デビットカードの使用などが進んでいる。ロシア・シンガポールなど、中央銀行の中では特に「イーサリアム」型のブロックチェーンの研究が流行っている。
イーサリアムは「スマートコントラクト」という契約に関する情報をブロックチェーンに書き込めるという利点があるからである。
繰り返しになるが、このような「デジタル通貨」の検討の背景にあるのが、ビットコインなどの仮想通貨への世界的疑問視の姿勢である。日本の金融庁をはじめ世界の金融当局が問題としているのは、特に利用者保護とマネーロンダリングの観点である。筆者は資金決済法(資金決済に関する法律)等の制定を支援してきた経験も踏まえご説明したい。
■利用者保護の問題
ビットコインなどの仮想通貨の用途は、決済と投機(投資)の2つがある。そもそもは決済で使われたが、最近では量的金融緩和や運用志向のせいもあり、投機の方が重視されるようになった。比率は日本では5%と95%と圧倒的に投機がメインの用途になっている。
利用者保護では、特に、相場の乱高下と詐欺的な行為の対応が問題となる。相場の乱高下は、仮想通貨の市場が比較的小さいため、昔の相場物の様に、相場の乱高下が大きくに利用者(投資家)が付いていけず損を被ることを指す。本件は市場操作の問題でもあり、対応も他の市場での経験の蓄積がある。
特に最近、注目されている「ICO(Initial Coin offering)」があり、これは株式市場におけるIPO(Initial Public Offering:新規上場)と同じような性質を持つ、資金調達手段である。
新しい仮想通貨をあたかも、株式のように発行し対価として資金を集める。しかも、株式だと証券取引所が審査して認可をするが、仮想通貨の場合にはそれがない。つまり、資金を集めて、詐欺的な行為を行うといった事件が相次いだ。
そのような市場に対し、中国、オーストラリア、そしてシンガポールが規制を加えた。それが最近のビットコインなどの仮想通貨が全面安となった理由の一つである。
■マネロンの問題
さらに大きい問題がマネーロンダリング(資金洗浄)の対応である。「米国外交問題評議会」や「ACIC(オーストラリア犯罪情報委員会)」がビットコインをテロのための資金調達に使用されていると指摘している。
テロ資金対策を含むマネロン対策などにおける国際的な協調指導・協力推進を行う機関にFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)がある。1989年の アルシュ‐サミット経済宣言により設立され、ここでの規制が世界標準となる。
仮想通貨についても規制を掛け、日本をはじめ金融当局は法規制を導入した。日本ではそれが「改正資金決済法」であり、4月1日に施行されている。
■米国の動きが最重要
実際の「金融」業務で影響力が大きいのは、何といっても米国(当局)の動きである。かれらの注目は、先の述べた仮想通貨もそうであるが、北朝鮮関係の金融制裁も検討している。
6月下旬に中国の「丹東銀行」が、北朝鮮のマネロン金融機関との取引を禁止した。その後もムヌーシン財務長官をはじめ中国に圧力をかけ、8月末までに中国銀行など大手国有銀行が実質的に北朝鮮との取引を停止した。
金融業務では、米国の動きの影響が極めて大きい。過去の事例をみても、北朝鮮との取引(送金)を指摘された「足利銀行」はその後、国有化された。また、HSBC(香港上海銀行)の追及の中で「北陸銀行」がロシアがらみのトラベラーズチェック(T/C)を大量に取引していることが発覚し、行政処分を受けた。この事件の影響で、トラベラーズチェックという金融商品が廃止となった。
このように日本でも、とにかく米国の不正に対する指摘の影響は大きい。
■日本は9月末が山
今年4月1日に施行された「改正資金決済法」にて、仮想通貨を通貨ではなく金融商品でもなく、財産的価値というモノであることを確認しだけではなく、マネロン等や詐欺を防止させるため「仮想通貨交換業者」の「登録」を義務とした(日本では登録でも免許と同じように審査される)。
たとえば本人確認を始めとした銀行並みのマネロン対応や法律順守の体制やシステムを始めとした強固なセキュリティ等が審査される。
この仮想通貨交換業者の登録は、法施行より6か月間の猶予が与えられてきた。その期日がこの9月末に到来する。しかも8月末まで1社も登録されていたない。業界団体の正会員は21業者あり、7月のビットコイン分裂騒動のときに連携取引を停止したのは、そのうちの13業者であった。主要な業者はこのように少なくとも10業者はあるはずである。
そもそも、海外、特に先進国で次々と規制が導入され、米国の主要銀行JPモルガンが詐欺と断定した仮想通貨に対して、日本の当局の動きはまさに注目に値する。
米国の動きによってはトラベラーズチェック廃止のようにもっと大きな規制も入る可能性があるので、さらに注意が必要である。
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