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大塚家具・大塚久美子社長(Natsuki Sakai/アフロ)
「もはや中古家具店」大塚家具、経営危機の内幕…久美子改革が完全失敗、経営陣一掃は必須
http://biz-journal.jp/2017/09/post_20601.html
2017.09.17 文=石室喬 Business Journal
最近、大塚家具の経営状況の悪化が顕著になっている。前会長の大塚勝久氏は、娘である現社長の久美子氏をとても心配しているという。
同社では父親と長女が経営手法をめぐってもめた末、久美子社長が勝ち残り新しいビジネスモデルを導入した。それによって一時は業績が上向いたものの、長くは続かなかった。久美子社長の経営手法は、基本的にイケアやニトリなどの競合他社と真っ向からぶつかるモデルで、久美子社長の手法には当初から懸念する声は大きかった。
それが今、現実になっている。今後、同社の経営は一段と厳しくなることが予想される。
予想以上に拡大した親子間の経営方針対立
大塚家具の内紛は、経営の実権を親子が奪い合ったケーススタディといえるかもしれない。同社の中興の祖であった勝久氏は、当時としては珍しい会員制を導入し、来店した顧客に店員が付き添い積極的な接客を行うという販売戦略を取り入れた。
それによって、住居の新築時や結婚など、人生の節目節目での家具の買い替え需要を取り込むことに成功し、顧客との長期的な関係の構築につながった。そうした戦略は、何よりもイケアやニトリなど競合他社とは異なるビジネスモデルとして差別化に成功した。
同時に、勝久氏は上場企業でありながらも自らを最高権力者に位置づけ、家族重視の内向きな経営を進めた。これに対して社内外から反発が出たのは当然であり、結果的に久美子氏との委任状争奪戦に発展した。
大塚家具が身内同士の骨肉の争いの場と化した原因は、さほど複雑なものではないだろう。親であれば子供に対して「親の言うことがわからないのか」という気持ちになることは多々ある。それは、論理の世界ではない。感情、思い込みの世界だ。それゆえ、「言わなくてもわかるはずだ」という一方的な主張がいき過ぎてしまう。
一方、娘の側にも親の発想が社会の変化にあっていない、自分の考えに共感する従業員は多く一定の効果も上げてきたというプライドがあった。親の意地と子供のプライドがぶつかり合った結果、委任状の争奪戦という最終的な手段によってのみ、内紛が解決される状態になってしまった。
大塚家具の場合、親子の衝突が表面化する以前から創業家一族を中心とする経営の在り方に疑問を抱く投資家は多かった。遅かれ早かれ、組織が混乱し、経営が不安定化するとの見方を持つアナリストは多かったようだ。
問題は、自分自身が育て上げてきた企業であるというプライドが、経営者の冷静な判断を難しくすることである。プライドがあるがゆえに、第三者からの冷静かつ正当な指摘も、時としてノイズ=雑音になってしまう。これはオーナー企業だけでなく、他の組織にも当てはまる問題だ。
致命的だったビジネスモデル戦略の失敗
大塚家具の経営の悪化は、創業家の内紛とは切り離して考えるべき、別の問題だろう。その問題を一言で言い表すと、久美子氏が取り入れたビジネスモデル、特にマーケティング戦略の失敗だ。
もともと、同社は顧客のロイヤリティ(顧客の製品やサービスに対する愛着心)を獲得することを重視してきた企業だった。顧客を会員として囲い込み、来店した際には距離を詰めて寄り添い、ニーズに合った商品を提案する、これが大塚家具という企業のイメージを支える根底にあったはずだ。マーケティング理論ではこの方法を、積極的な接客、会員制度の整備はロイヤリティを高めるために重要な取り組み=ロイヤリティ・マーケティングとして扱っている。
経営者交代後の大塚家具は、大塚家具という企業のイメージを壊してしまった。言い換えれば、顧客は大塚家具ならではの丁寧な接客と会員という特別感がもたらす消費体験を得づらくなった。非公開企業であるため詳細はわからないが、もともとの顧客が勝久氏の創業した匠大塚に流れたことは容易にイメージできる。
現在、大塚家具と言われた際に真っ先に思い浮かぶのは、中古の家具販売企業というイメージだ。顧客のロイヤリティを高め、長期的な関係を重視する姿勢は感じられない。それでは、収益を獲得することは難しい。2017年12月期、同社の営業損益は43億円の赤字に陥る見通しであり、前年同期(同45億円の赤字)に引き続き2期連続の赤字となる。経営の再建は遅々として進んでいない。
久美子氏は父親の身勝手な経営を改め、風通しの良い組織を目指した。それは、理論的には正しい判断といえる。しかし、ガバナンスの強化を標榜したものの、自身の経営戦略の正当性をモニターし、改善するためのガバナンスは機能していない。それゆえ、マーケティング戦略の失敗に焦点が当たっていないのではないか。大塚家具の企業統治は再び迷走している。
早く昔の姿に戻したい父親の願望
15年に親子による経営権の争奪戦への注目から株価が上昇した以外、大塚家具の株価は軟調に推移し続けている。経営の立て直しが行き詰まりの状況にあることを考えると、今後の下落リスクは軽視すべきではないだろう。
市場参加者の視点から考えた場合、大塚家具は社会の公器であるという企業のテーゼを忘れてしまったようだ。親子間での骨肉の争いに多くの株主を巻き込んだ代償はあまりに大きすぎる。同社は投資家からの信頼を失ったといえる。その上に業績の低迷が重なっている。打開策を見いだすことは容易ではない。本気で経営の再建を目指すなら、現経営陣が責任をとって一線を退き、経営のプロに再建をゆだねるべきとの見方もできる。
大塚家具のケーススタディから導き出されるインプリケーション(含意)は、ガバナンスの機能不全に端を発する業績の悪化を食い止めることはかなり難しいということだ。東芝の巨額損失の場合、一部の“声の大きい”マネジメントの意向が優先され、海外での買収にかかわる契約リスクが見落とされた。タカタの場合、創業者一族の影響力が大きかったため保身が重視され、問題が隠ぺいされたとの指摘が多い。
経営上のリスクが顕在化した時点で、こうした企業の経営陣は「この問題は対応可能であり、大したことにはならない」と高をくくっていたのではないか。その背景には、常にこれまでのシェアと収益力があるから経営状況が悪化することはないとの過信、慢心がある。その認識が問題を放置し、気づいた時には対応策が見いだせないほどにまで状況を悪化させてしまう。
大塚家具も同様だ。形式上のガバナンスを整えても、機能はしない。ガバナンスの強化を経営改善につなげるためには、第三者などからの諫言を冷静に受け止める経営者のマインドセットが不可欠だ。大塚家具の再建がどうなるかは、現経営陣がこの問題をどう理解するかにかかっていると言っても過言ではない。
勝久氏としては、けんか別れした長女のことがかなり心配になっているようだ。勝久氏とすれば、早く久美子氏が失敗に気づき、勝久氏との共同経営の体制に戻したいというのが本音なのだろう。
(文=石室喬)
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