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東芝のメモリ事業売却、米国の報道では「WD勝利」一色だ
日米報道で異なる東芝メモリ売却の現実、なぜ「ウエスタンデジタル勝利」なのか
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170905-00034005-biz_plus-bus_all
ビジネス+IT 9/5(火) 6:10配信
東芝の米原子力事業における巨大損失を穴埋めする目的で行われる半導体事業の東芝メモリ売却を巡り、協業先の米ウエスタンデジタル(WD)との泥沼訴訟、売却先候補の二転三転、関係各国で予想される独占禁止法審査の難航などで、迷走が続く。国内メディアでは「結末が見えにくくなっている」という論調が支配的だ。だが、一方の米国のメディアや投資サイトでは、「WDによる買収は確実だ」「最終的には、WDが東芝メモリの議決権をコントロールする」との声が、確信をもって語られている。論拠は何なのか。なぜ、こうした認識の差が日米間で生まれるのか。米論壇の声をまとめてみた。
●ウエスタンデジタル勝利に賭ける米投資家
「WDの勝利は不可避だ」(有力ファンドマネージャーのスニル・シャー氏)
「WDは過小評価され過ぎだ」(著名ヘッジファンド創業者のデイビッド・テッパー氏)
東芝が4月に分社化した半導体子会社の東芝メモリの売却を巡り、米半導体大手WDは政府系ファンドの産業革新機構・日本政策投資銀行・米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が加わる「新日米連合」の一角として買収に名乗りをあげるとともに、複数の訴訟で競合他社への売却を阻止しようと、協業先の東芝と争っている。
WDは急成長中の主力事業であるNAND型フラッシュ供給のほぼすべてを三重県四日市市にある東芝との合弁工場に依存することから、米投資家は不透明さを理由に敬遠しているかと思いきや、今年に入って株式は30%ほど上げて90ドル前後をつけている。
米金融大手シティグループのアナリストのクリストファー・ダネリー氏は「買い」を推奨し、目標株価を110ドルに設定した。別の米金融大手コーエンのアナリスト、カール・アッカーマン氏は「東芝とWDは、WDへの東芝メモリ売却で合意に至る」と見て、目標株価を117ドルとしている。
こうしたなか、前述のテッパー氏をはじめ、オレゴン州公務員退職金基金、オハイオ州教職員退職金基金、アラスカ州歳入局など機関投資家もWD株を買い増していることが明らかになった。
このような投資家の「WD勝利」の読みの裏にあるのは、「NAND業界の底流がWDに有利」「WDの法的勝利は必定」「庇(ひさし)を貸してもらったWDが、議決権の追加取得や役員派遣などの契約の抜け穴を利用し、いずれ東芝メモリという母屋を乗っ取る」という認識だ。
●サムスンに対抗するにはWDと組むしかない
米半導体業界アナリストのロバート・カステヤーノ氏は、米投資サイト『シーキング・アルファ』に寄稿し、「NAND生産で世界先端を走る韓国サムスン電子が、中国西安市にある製造拠点で今後3年間に70億ドル(約7,700億円)を投じて生産を拡大する計画が、東芝との係争でWDの勝利をもたらす」と論じた。
根拠は、米半導体業界調査会社DRAMeXchangeが報じた4〜6月期のNAND市場の売り上げの数字(米ドルベース)だ。サムスンが1〜3月期と比較してシェアを1.2ポイント増やし35.6%とする一方、第2位の東芝は1.3ポイント落として17.5%に、第3位のWDは0.1ポイント増の17.5%となり、東芝に並んだ。
カステヤーノ氏は、「サムスンと東芝のシェアのギャップは同期間に15.6ポイントから18.1ポイントへと開いている」と指摘し、「こうしたなかでサムスンが生産能力を増強するのだから、サムスンに対抗するためにもWDと東芝は四日市の世界最大のNAND工場での協業を継続するしかない。それが業界5位の韓国SKハイニックスの設備増強の動機を削ぎ、4位の米マイクロンのシェア拡大を抑止する」とする。
有力ファンドマネージャーのスニル・シャー氏は、「WDの勝利は不可避」と断言し、「WD買い」を強く奨励する。同氏は、「WDが、(産業革新機構・米投資ファンドのベインキャピタル・韓国のSKハイニックスで構成されていた)『(旧)日米韓連合』の応札価格まで、自社連合の入札価格を引き上げたのだから、(2期目の債務超過で上場廃止を避けたい)東芝が断る理由はすでにない」との見解だ。
●東芝に法的な勝ち目なし
米論壇で根強いのが、「東芝とWDの係争におけるWDの法的立場は争いようがないほど強く、東芝はWDに半導体事業を売却するしかない」とする見方だ。
投資評論の「テクノロジー株投資戦略研究所」は『シーキング・アルファ』で、「東芝の態度が二転三転するのは、(東芝メモリの売却先の本命である)WDからより良い条件を引き出すための戦術だ」と看破した上で、「東芝は、2期連続の債務超過を回避する時間がなくなりつつある。WDは東芝メモリ買収を急ぐのではなく、逆に東芝からより良い条件を引き出すべきだ」と主張した。
さらに「東芝は、1997年に300万ドルを出資して米レクサーと組んだ合弁事業で、NAND型フラッシュメモリの制御技術および製造方法に関する機密情報を盗用したとして、米裁判所で2005年3月に3億8,000万ドルの賠償を命じられている(筆者注:のちにこの判決は覆り、東芝は2006年9月に2億8,800万ドルを支払って和解。レクサーはマイクロンに買収され、WD・サンディスクや東芝のライバルとなるのだが、マイクロンは今年6月にレクサーブランドから撤退)」と指摘した上で、「今回も東芝は同じように合弁相手の権利を踏みにじろうとしている。だが、東芝の法的主張には根拠が薄い」と切り捨てた。
これらの米側分析の多くでは、2015年にWDによって買収される前のサンディスクと東芝の間に、2006年に締結された合弁契約書の英語正文へのリンクが掲載される。「相手の同意なしに半導体メモリ事業を売却できない」と明記され、さらに「契約に関するあらゆる事項と解釈は米カリフォルニア州の法律に支配される」と書かれている。これを根拠に、一連の論評は一致して「東芝に勝ち目はない」とする。
ちなみに東芝に不利なこの合弁契約は、2,800億円の価値しかないとされた米原子力大手ウェスティングハウス(WH)を6,000億円で買収した責任者の西田厚聰氏が、東芝社長としてWH買収契約を結んだ同じ年に締結されている。
●WDは東芝メモリを乗っ取るのか
東芝メモリ売却に関する『シーキング・アルファ』の複数の記事コメント欄では、「WDがメンバーの『新日米連合』が勝利し、将来的にその一角であるKKRがWDに東芝メモリ株を譲渡して、最終的にWDが東芝メモリの議決権の3分の1以上をコントロールする」という観測が繰り返しささやかれている。
翻って、米金融大手サスケハナ・フィナンシャルグループのアナリスト、メーディ・フセイニ氏は、「東芝とWDが合意できるかは、9月8日に米カリフォルニア州の裁判所で行われる次回審問で、明らかになるだろう。東芝は『米裁判所は、日本における日本企業の売却契約に司法管轄権を持たない』との主張を繰り返すと予想され、別途係争中の国際仲裁裁判所(ICC)の最終調停人名簿も決まらないままだ」と指摘し、膠着状態のさらなる長期化を予想する。
また、WDが一角を占める「新日米連合」が勝利しても、日米政府が干渉できない中国での独占禁止法審査が長引き、来年3月の東芝の上場廃止を回避するための東芝メモリの売却そのものに意味がなくなることも予想されるようになった。こうした状況の変化を受け、「東芝は半導体事業を売るな」という論調も出てきた。
米投資評論サイト『ブルームバーグ・ギャドフライ』のコラムニストであるティム・カルパン氏は、「東芝は売却をあきらめ、代わりに(潤沢な現金を持つ)アップルにNAND製品の大量提供を持ち掛けて、多額のキャッシュで前払いを受ければよい。そうすることでアップルは(スマホ市場でのライバルの)サムスンへの依存度を下げるとともに、自社製品にWDのストレージを使わなくてもよくなり、製品価格を下げられる。東芝もWDとの訴訟がなくなり、めでたしだ」と提言している。
そうしたなか、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が9月1日、東芝の無担保社債の格付けを1段階下げる一方、「東芝メモリ売却が失敗しても東芝が債務超過に陥らぬよう、銀行による優先株の引き受けや新株予約権無償割り当てが検討されている」と伝えられるなど、状況は予断を許さない。
だが、WDのミリガン最高経営責任者(CEO)は2月に、「どのような状況下でも、我が社の生命線である合弁における利益を死守する」と語っている。
WDにとって、今回の東芝メモリ騒動のようなことが再び起こり、自社の稼ぎ頭分野が脅かされるようなことが二度とあってはならない。東芝メモリの議決権を何としても確保せねばならない。そのWDの不退転の決意が、米国で支配的な「WD勝利論」につながっているようだ。
在米ジャーナリスト 岩田 太郎
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