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ファミリー向けマンション、大余剰時代突入の兆候…賃料&売買価格が大幅下落か
http://biz-journal.jp/2017/09/post_20454.html
2017.09.05 文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役 Business Journal
先日、都心部に持っていたファミリータイプの区分マンションを売却しました。駅徒歩1分の高級タワーマンションだったこともあり、幸いにして購入したときから少し下がった程度の値段で買い手が見つかりました。がっつりローンを組んで自己資金ゼロで購入したのですが、それから10年以上経ち残債もかなり減っていたため、ある程度まとまった現金が手に入りました。
今回の売却を通じ、出口戦略の重要性について改めて考えさせられました。それは品川にあるマンションだったのですが、2020年の山手線新駅開業や27年のリニア開業など、将来賑わいを見せるエリアになるのではと予想し、しばらく保有するつもりでした。
にもかかわらず売却に至った経緯は、大きく2つの理由があります。
ひとつは供給過剰です。前入居者が退去したあと、フルリフォームしたにもかかわらず、内見の問い合わせが少なかったことがきっかけでした。調べてみると、考えることは不動産デベロッパーも同じのようで、近隣にはたくさんの新規大規模マンションの分譲計画が目白押しなのです。
また、数年前の品川近辺の開発ラッシュ時に分譲されたマンションで、時間が経過し賃貸に出される物件も出てきています。これらは自分が所有しているのと同じファミリータイプですから、直接的な競合が増えることを意味します。
さらに賃貸というくくりで需要を見ると、この物件の周辺だけではなく、勝どき、晴海、豊洲、月島、東雲といった湾岸エリアも競合となるようです。が、こちらもタワーマンションの建設ラッシュで、すでに完成した物件もやはりちらほら賃貸に出されるようになってきています。
現在はちょっと割高感が強く、今住宅ローンを組んで購入した人のなかには、将来もし金利が上昇したとき、返済が苦しくなって売りに出してくる可能性もあります。中国人投資家が買っていた湾岸のタワーマンションも、東京オリンピック前に利益確定で市場に放出されるのではという話も聞こえてきます。そしてダメ押しは、そのオリンピックで晴海に建設予定の選手村が、その後はマンションとして分譲されることですが、その数およそ5,000戸。
もっとも、もし自分が持っているのがワンルームマンションなど単身者向けであれば、ワンルーム規制で供給が少ない23区内は賃貸需要も期待でき、「まだ売らない」という判断をしたかもしれません。
しかし、ファミリータイプのマンションは、近い将来は賃貸にしても売買にしても供給過剰になる可能性が高く、これでは賃料も売買価格も下落圧力が高まり、苦戦するのではないか、と考えました。
■修繕積立金と建て替え
もうひとつの理由は、修繕積立金と建て替えの問題です。通常、デベロッパーや販売会社は、売りやすくするため初期の修繕積立金を低く抑えて販売します。一方、初期はデベロッパー紐付きの管理会社が高額な管理費を設定して暴利をむさぼっていますが、これものちのち問題になり、後年、管理会社が変更されるというマンションも増えています。
そのため、ほとんどのマンションでは大規模修繕のための資金が不足しがちで、徐々に値上げせざるを得ない状況に直面します。なかには一時金を徴収するマンションもあるようですが、なかなか組合員(所有者)の合意が得られず、段階的にアップさせるのが一般的です。
しかし、あまり上げすぎると組合員からの反対も出るし、売るときにも売りにくいといった問題もあるでしょう。しかも、古くなればなるほど修繕にお金がかかるようになり、築40年とか50年になってくるとエレベーターや配管の交換なども必要になるなど、もはや次の大規模修繕ができるお金がないマンションも出てきます。
そんなタイミングでやってくるのが建て替えです。現在と同規模のマンションに建て替える場合、一般的にではありますが、各戸1,000万円以上の拠出が必要です。建設当時に容積に余裕を持たせていた場合や当時以降に規制が緩和されている場合などは、戸数を増やしてその売却益で再建築費用を賄えることもありますが、かなりのレアケースです。
このとき、いろいろな思惑・経済状況の人がいますから、合意形成はかなりの難関です。
まだ元気な世帯であれば、建て替えに賛成する人も多いかもしれません。特に中古で買った人は、そもそも支払った金額が安いですから、ちょっとの支出で新築に住め、資産価値も上がるのはうれしいことです。
しかし、「うちにはそんなお金はない」と言い出す人は当然います。住民が高齢化していれば、もはや自宅に多額のお金をかけたくない人も少なくないでしょう。建て替え工事の期間は、どこか賃貸に引っ越さなければなりませんから、それがストレスに感じて反対する人もいます。自分は資産価値を維持したくても、ほかの住民もそうとは限りません。自分には建て替えのためのお金があっても、ほかの住民もそうとは限らないのです。
現行の区分所有法では、建て替えの決議は、区分所有者の5分の4の賛成が必要ですが、そうしたさまざまな利害関係がぶつかり、調整は困難を極めます。もし賛成派と反対派に分かれたら、あれほど円満だった住民の間でいがみあいが始まるかもしれません。そうなると日常の生活までギクシャクしてしまいます。
建て替えはあきらめて組合も解散、という可能性もありますが、壊すのもお金がかかります。更地にしてもたいした金額では売れないとわかると、そのままにしておいたほうがよいという判断になるかもしれない。かくしてその物件はゴーストタウン化し、まともな値段で貸すことも売ることも難しくなります。
以上はちょっと悲観的過ぎる予測であり、その前に建て替えがスムーズにできるスキームや法整備が進めばこのような心配もなくなるとは思います。組合が区分所有権を買い取る事例もあるようです。
■出口戦略
今回私が売却した物件は都心にあるので、郊外型マンションよりもそうしたリスクは低いとは思います。しかし起こらないとは限らず、そういう不確実性は避けたい。
そのとき、賃貸で入居中の投資物件のままだと利回りで判断されますが、空室状態なら実需の引き合いがあるため、利回りとは関係のない要素で判断されます。つまり一般的には、ファミリータイプのマンションは空室のほうが高値がつきやすい。
しかしもし今回売却を見送って賃借人が決まってしまうと、追い出すことは現実的ではないため、次の売却のタイミングを失うかもしれない。
また、次の買い手がもし住宅ローンを使うとなると、築年数も30年を過ぎないうちがよさそうである。
しかも今は住宅市場はまだ活況で、買い叩かれるリスクも小さい。暴落というほどの地価下落の可能性は小さいけれども、売れる時に売って利益確定しておくのも出口戦略のひとつ。そう考えて売却を判断しました。
逆に考えると、これから中古マンションを購入しようと考えている人は、安く買える一方で、その値段には将来の修繕や建て替えのリスクが織り込まれているということを認識しておいたほうがよいかもしれません。
(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)
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