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ミサイル発射で「有事の円買い」を招いた日銀の愚行 20年分のデータを見てわかったある事実
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52737
2017.08.31 安達 誠司 エコノミスト :現代ビジネス
■ミサイルが飛ぶと円が売れる?
「有事の円買い」、または、「危険回避の円買い」という話をよく聞く。このところの北朝鮮のミサイル発射実験をきっかけに発生した円高も、「危険回避の円買いによって円高が発生した」とほとんどのニュース番組が当たり前のように報じていた(もっとも円高と騒ぐほどの円高でもなかったが)。
普通に考えると、これは不思議である。万が一、北朝鮮のミサイルが日本に着弾した場合、多大な被害を受けるのは日本である。着弾した場所によっては、日本経済にも甚大な影響を及ぼす懸念がある。
投資家としては、日本経済に甚大な被害が出た場合に、日本国内でしか通用しない日本円を保有していたところでその価値は低減するだけなので、むしろ、日本円を他国通貨と交換するほうがむしろ合理的と考えるのが普通ではなかろうか。
「いや、甚大な被害を受けた場合の復旧や補償などは、日本円でしなければならないので、日本に被害が及びそうになった時には、多くの企業はそれに備えて『念のため』外貨で運用していた資金を円に戻すのだ」、という意見もあるようだ。
個人投資家にとっては、このような有事でモノの値段が上がったときに備えて、キャッシュとしての円貨を予備的に持っておく必要が生じるのだ、という意見もあるだろう。
だが、筆者にとっては、やはり、多くの企業や個人、もしくは金融機関が、この手の需要に備えるための円資金の需要に対応して、わざわざ外貨を円に換える理由は理解できない。
そもそも、そのような需要が為替レートを動かしてしまうほど、普段はみんなが、円の保有をぎりぎりまで抑えて、多くの部分を積極的に外貨で運用しているのだろうか。そういうことはないと思うのだが……。
また、どちらかというと、このような災害時には、円よりも外貨(例えば米ドル)を保有しておいたほうがいざというときには有利ではないかと思ったりする。
(例えば、戦後まもなく、空襲などで日本国内の設備が崩壊してしまった場合、それこそ、ハイパーインフレやデノミなどで、現在保有している円の価値は急落してしまうというリスクの方が大きいのではないかと思う)
そういう意味で、筆者にとっては、いわゆる「有事におけるリパトリ(外貨運用の解約などで資金が日本円に逆流する)需要の増加」というのは、投資行動としては必ずしも合理的ではないような気がする。従って、このような理由で「有事の円買い」が発生しているという説が、本当に妥当するのか筆者にはよくわからない。
一方、筆者は、かつて当コラムで、例えば、世界的な金融危機の発生などで、いち早く金融緩和に動かなければならないタイミングで、かつての日本銀行は全く動かなかったこと、すなわち、日本の金融緩和が不十分であったことが、有事の円買いにつながったのではないかと指摘したことがあった。
そこで、次にこれが妥当かどうかあらためて検証してみよう。
■1987年から先月までで見ると…
ここでは、プラザ合意(1985年9月)の影響がほぼ一巡した1987年1月以降のドル円レートにおいて、1ヵ月間の変動率が大きかった局面(具体的には、月次の変動率が2%、3%、5%の円高であった局面)を「急激な円高局面」と考える。
1987年1月から2017年7月までの367ヵ月中、月次の変動率が2、3、5%以上の円高であったのは、「月数」で換算して、それぞれ、75回(全体の20%)、44回(同12%)、15回(同4%)あった。
次に、このような急激な円高局面において、日米の短期金利差(1ヵ月のLIBORの差)、及び、マネタリーベース比率が1ヵ月間でどの程度変動したかをみる。ここでは、日米の短期金利差は、「ドルLIBORマイナス円LIBOR」、マネタリーベース比率は、「米国のマネタリーベース÷日本のマネタリーベース」で計算している。
従って、急激な円高局面で、日米短期金利差が縮小する(マイナスになる)か、もしくは、日米マネタリーベース比率が拡大する(プラスになる)場合には、米国と比較して日本の金融緩和が足りなかったことを意味する。
まず、2%以上の円高となったケースをみると、日米の短期金利差は平均して0.011%縮小した。これだけをみると、確かに、月次で2%以上円高が進んだ局面では、金利差は縮小しており、米国と比較して日本の金融緩和(金利低下)が足りなかったようにみえる。
だが、より大きな円高の場合、すなわち、3%、及び、5%の円高となったケースでは、金利差は、それぞれ、0.004%、0.047%と拡大しており、逆に、より急激な円高局面では、日本の方がより緩和的なスタンスになったことが示唆される。
一方、これをマネタリーベース比率でみるとどうなるか。2%、3%、5%の円高となったケースで、マネタリーベース比率は、それぞれ、0.015、0.022、0.032ポイントと、マネタリーベース比率は拡大しており、マネタリーベースという量的指標でみた場合には、いずれのケースにおいても日本の金融緩和が足らなかった結果になった。
だが、これにはトリックがある。筆者の印象では、日本の金融緩和が著しく過少であったケースは、リーマンショックくらいではなかったかと思われるので、これらの円高局面から、リーマンショックの影響、具体的には、2008年9月から2009年12月までの期間に該当する部分を除いてみた。
すると、日米の短期金利差は、それぞれ、0.012%、0.054%、0.0519%と、いずれのケースでも日米金利差は拡大しており、日本の金融緩和がより大きいという結果となった。
さらに、マネタリーベース比率の変化をみると、それぞれ、0.002、0.001、0.002ポイントと、ほとんど変化がないという結果となり、リーマンショックを除く急激な円高進行局面では、日本の金融緩和の方が大きかったか、少なくとも遜色なかったという結果になった。
(ちなみにリーマンショックのときの急激な円高局面では、日米金利差は急激に縮小、マネタリーベース比率は大きく上昇しており、日本の金融緩和が不十分であったことが示唆される結果となった)
しかも、この現象は、もう一つの「逃避通貨」であるスイスフランにも共通であった。それどころか、むしろ、マネタリーベース比率の変化でみると、スイスフラン高の局面では、スイスのマネタリーベースの増加率の方が大きく、より金融緩和を進めたにもかかわらずスイスフラン高が進行したことがわかった。
しかも、ここでの円高が急激に進行する局面とスイスフラン高が急激に進行する局面はほぼ同時進行であった。すなわち、リーマンショックを除く急激な円高局面では、金融緩和の格差はあまり大きな影響を及ぼしていない可能性が高いと考えられる。
以上より、ドル円レートでみた場合、リーマンショックの局面では、確かに、日本の金融緩和が著しく消極的であることが円高をもたらした可能性が高いが、その他の局面では、必ずしも金融緩和の差が円高をもたらしたわけではなかったと推測される。
そして、これは同時期に、より積極的に金融緩和を進めたスイスも急激な通貨高に見舞われたことからも伺える。
■リスクオフで日本円が通貨高になる理由
それでは、何故、リスクオフ局面で日本円は急激な通貨高に見舞われるのか。
詳細はテクニカルなので捨象するが、筆者が、ドル円レートがファンダメンタルズ(マネタリーベース比率)とトレーダーの順張り戦略(具体的には、1期前の為替レートの変動率で今期の為替レートの変動率を説明する方法)の混合モデルで決まるという定式化で推定した結果、金融危機や有事(例えば、戦争やテロ)による「リスクオフ」の局面では、為替レート変動におけるファンダメンタルズの説明力が急激に低下する一方、順張り戦略が有効になる可能性があることがわかった。(逆に、「リスクオン」の局面では、ファンダメンタルズの説明力が高まる)
これを解釈すると、リスクオフの局面では、ファンダメンタルズを重視する投資家が投資を控え、短期的な利益を追求するトレーダーによる順張り戦略が支配的な戦略になり、これが、円高、及びスイスフラン高をもたらしている可能性が高いということになる(多くのトレーダーは、逆張りでリスクをとるよりも、順張りでトレンドをフォローするような戦略を多く用いると考えられる)。
問題は、円やスイスフランにおいて、トレーダーが何故、円高、スイスフラン高方向の順張り戦略をとるかだが、それは、各種サーベイ調査によれば、これらの通貨の長期のトレンドがそれぞれ、円高、スイスフラン高であるという単純な理由、もしくは、いずれも、対外純債権国である可能性が指摘されている。
従って、「リスクオフ」での円高になった場合、金融政策によって短期的な円高を阻止するのは困難ということになる。
ただし、順張り戦略の影響力は、時間の経過とともに減衰していく。日本の場合、約半年程度で影響力はほぼゼロになり、ファンダメンタルズが再び支配的になる。
そして、円高がもたらす経済へのマイナスの影響を相殺するために金融緩和が実施されるのであれば、その後は円安に転換することが想定されるため、リスクオフ局面での急激な円高進行に過度に反応しないほうがよいかもしれない。
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