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人手不足の「業種格差」を放置すれば、日本経済ははてしなく停滞する 既存産業の「創造的破壊」が必要だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52658
2017.08.25 竹中 正治 龍谷大学経済学部教授 現代ビジネス
■「団塊世代の引退が人手不足の原因」はウソ
人手不足を訴える業界や企業が増えている。日本経済の問題は、リーマンショック不況の2009年から8年経った今、失業から人手不足へと、完全にシフトしたと言えるだろう。
成長戦略(経済成長のための規制改革)による労働生産性の向上が実現するかどうかが、いよいよ問われる局面になったのだ。イノベーションと労働需給のミスマッチの観点から、現状の問題を考えてみよう。
失業率2.8%(6月)という水準は1990年代初頭まで遡る低さである。有効求人倍率1.51倍は90年前後のバブル期のピークにもなかった高さだ。
一部の論者は、こうした雇用情勢の改善は「見かけ」に過ぎず、2013年前後に団塊の世代が65歳となり、引退年齢に入ったこと、つまり労働力の減少による結果に過ぎないと景気の回復を否定する言説を流している。
しかし、筆者が5月に当サイトに寄稿した「日本経済を食い尽くす、医療・福祉への『雇用一極集中』」でも示したが、雇用者数は2012年10-12月期から17年4-6月期にかけて240万人増えており、現在の人手不足が雇用増加を伴ったものであることは明確だ。また、正規雇用も2015年以降は非正規雇用の増加を上回って増えている。
■すっかり構造が変わった労働市場
1980年代以降の雇用動向をレビューしてみよう。図1は、横軸が失業率、縦軸は日銀短観による企業の「雇用人員判断DI」である。雇用人員判断DIとは、企業アンケートで人員が余剰と答えた企業の比率から人員不足と答えた企業の比率(%)を引いたものであり、プラスだと人員余剰、マイナスだと不足の企業が多いことを示す。
図1
景気回復期には失業率が低下し、人員不足の企業が増え、景気後退期にはその逆に動く。したがって、2つのデータには正の相関関係があり、図上右肩上がりに分布する。しかし分布の傾きと位置が色分けした3つの時期で大きく異なることにご注目いただきたい。
1983-94年の期間(図の青線)は、失業率の変動がほとんど2〜3%という狭い範囲に収まっていた一方で、人員の過不足の変動の幅は大きい。その後、銀行不良債権危機とアジア通貨危機で戦後最大の不況となった98年を中心とする95-99年の期間(図の赤線)には、分布は大きく右にシフトした。
これは、企業部門がそれまで不況期でも抱えていた余剰人員を抱えきれなくなってリストラに動き、また新卒の採用を厳しく抑えた結果である。右に分布がシフトするほど、同じ水準の人員過不足でも失業率は高くなるので、労働需給のミスマッチが拡大していると理解できる。
2000年以降(図の緑線)の期間では、再び分布は右肩上がりの安定的な傾向を取り戻し、現状は失業率が低く、人員不足が大きい最も左下に位置している。しかし94年までの青の期間に比べると、分布の近似線の傾きは小さい。これは失業率の変化の幅が拡大し、企業内の人員過不足の幅は相対的に小さくなっていることを示している。
つまり90年代後半を境に、企業は正規雇用を抑制し、パート労働などの非正規雇用を増やすことで、景気循環に伴う人員の過不足を主に非正規雇用の増減で調整するようになったのだ。
この点について、日本企業がそれまでより「従業員軽視、利益本意」になったと嘆く声もあるようだが、むしろ90年代後半に起こった期待成長率の低下という環境に合理的に適応した結果と言うべきだろう。
つまり、90年前後までの比較的高い経済成長の下では、景気後退期に企業内で人員余剰が生じても、次の景気回復期にはより多くの人員が必要になる。そのため、景気後退期でも熟練度の高い正社員を中心に雇用を維持することに合理性があった。
ところが低成長下では、次の回復期により多くの人員が必要になる可能性は乏しく、景気後退期に抱える余剰人員はそのままコストになってしまう。そこで景気変動による人員の過不足を非正規雇用で調整することの方が、企業行動としては合理的になる。
ちなみに、雇用人員判断DIは大中小の企業規模別に開示されているが、図1では3つの単純平均を使っている。中小規模の企業の方が大企業よりも、より人員不足感がやや強い点を除くと、企業の規模による分布傾向の違いはほとんど見られない。
■ミスマッチによる人手不足は長期化する
こうした状況が2000年以降の景気変動の中で繰り返されて来たのだが、さらに一段の構造変化が始まっている兆候がある。
2013年以降の実質GDP経済成長率は平均1.5%であり、これは2000年以降の平均値1.0%から向上したものの、その差は0.5%で景気に特段の過熱感があるわけでもない。しかし労働市場は2000年以降ではなかったほどに需給が逼迫し、人手不足になっているのだ。これはなぜだろうか。
長期的な供給サイドの要因としては、もちろん全人口に占める生産年齢人口の比率が低下していることがあるのだが、需要サイドの要因としては、(必要不可欠ながらも)低付加価値の職種が増えることで、その分野に雇用が吸収されているからだろう。
その代表的な分野が「医療・福祉」である。
前掲の「日本経済を食い尽くす、医療・福祉への『雇用一極集中』」で述べた通り、2002年以降、医療・福祉分野での雇用者は430万人(現行データが遡れる2002年1月)から748万人(2017年2月)へと、318万人も急増している。雇用全体では同期間に451万人増えており、増加分の70.5%を医療・福祉が占めていることになる。
すでに日本では生産年齢人口(学卒から64歳までの人口)が緩やかに減少している。それでも雇用総数が増えているのは、女性や65歳以上の高齢者の雇用が増えている(=労働参加率が上昇している)おかげだ。
労働参加率の上昇は、女性の就業率の上昇と、健康余命の伸びに支えられた高齢者就業者の増加で、もうしばらく続きそうであるが、あと10年もすれば上昇の限界にぶつかるだろう。しかし、人口に占める高齢者の比率は2040年代まで増え続ける。
こうした事情の結果、人手不足は長期的、趨勢的なものになるかもしれない。もちろん、人手の過不足は景気動向次第で変動するのだが、図1で見たように、同じ失業率の水準でも時代による企業の雇用人員過不足はかなり違うのだ。今後は同じ失業率の下でも、企業の人員不足感のレベルが上がるかもしれない。
その兆候はすでに現れている。2014年3月から15年3月までの期間、景気判断の重要指標として内閣府が公表している景気動向指数(一致指数)は6.2ポイント低下した。消費税率引き上げ後の国内消費の反動減に加え、中国経済の成長鈍化や原油を中心に国際天然資源価格が急落したことで、世界経済全体の不安定化が起こったためである。
これは景気後退と判定された12年3月から11月にかけての下落幅(6.8ポイント)にほぼ匹敵するものであり、景気後退と判定されても不思議ではなかった。2014年4-6月から15年10-12月の実質GDP成長率も平均マイナス0.1%だった。
ところが、この期間も雇用の回復は持続し、失業率は緩やかに低下、日銀短観の雇用人員判断も「不足」状態が継続したのだ。
■どこまでも目立つ労働需給のミスマッチ
図2
まず目につくのは一番左上に位置する「事務的職業」である(赤色)。就職件数で最大のボリュームゾーンであるが、有効求人倍率は0.4倍と最も低く、雇用需給は著しく余剰に傾斜している。
比較的大きなボリュームゾーンで有効求人倍率が2.0以上(水色)は、「専門的・技術的職業」、「サービスの職業」、「介護関係の職種」、「輸送・機械運転の職業」である(サービスの職業は介護、保健医療、飲食物調理、接客・給仕等からなり、近年追加された「介護関係職種」と重複する)。
また、民間の転職・求人仲介会社の求人倍率を見ると(DODA転職求人倍率レポート2017年7月)、業種別では「IT・通信系」が5.5倍と突出して高く、「サービス」2.8倍が次となっている。同データを職種別に見ると、「技術系(IT・通信)」6.9倍、「専門職」5.8倍と高く、「事務・アシスタント系」は0.22倍という低さだ。
こうした求人倍率の分布は、まさに現代のイノベーションが引き起こしている雇用需給構造のシフトを如実に表している。
すなわち、90年代から機械による代替が進んだ定型的な事務労働は、依然大きなボリュームゾーンではあるが、完全に雇用需給が余剰基調である。
一方、人手不足分野では、相対的に高付加価値の専門的・技術的職業と、対人的なサービスの職業(含む介護関係の職種)や輸送・機械運転の業務、ならびに運転や建設など現場業務への二極化が進行している。
■イノベーションに逆らうな
そして今日、AI・ロボット化による労働の代替は、製造業から非製造業全般へ、とりわけ専門的・技術的分野と各種の対人サービス、運転、建設の分野に進もうとしている。
こうしたイノベーションの波は、失業率が高い時には「雇用が失われる」とネガティブに受け止められやすいが、現下の人手不足の状況ならば「省力化・効率化」としてポジティブに受け止めることができる。むしろ、そのような変化への積極適応が経済全体で進まなければ、持続的な経済成長が不可能である局面に日本経済は至ったと言えるだろう。
どのような適応的変革が必要か。それは教育から法整備、業務慣行の見直しまで広範囲に及び、この小論で語るには余りあるが、社会・産業のイノベーションを語る時に象徴的なひとつの逸話を紹介しておこう。
英国では、ガソリンエンジンによる自動車の普及に先行して、19世紀に蒸気自動車が登場した時代がある。ところが、馬車から自動車への移行は、御者を含む馬車業界にとっては痛手である。
そうした保護主義的な意図を背景に、都市部での自動車の走行を安全なものにするという建前で、1865年に赤旗法(Red Flag Act)が制定された。この法律によって自動車は時速2マイルの速度制限を設けられ、かつ自動車の前方を赤旗を振った先導者が走ることを義務付けられたという。
驚くべきアンチ・イノベーションの法律だが、1895年に先導者が不要とされ、1896年には制限速度が時速14マイルまで引き上げられた。しかし、自動車産業の黎明期において、英国がドイツ、フランス、米国に大きく後れを取る要因になったと考えられている。
今日のイノベーションの課題に関しても、既存産業の創造的破壊を忌避し、既得権の保護に傾斜すれば、産業は二流化し、経済的成長が阻害されるものと心しよう。
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