★阿修羅♪ > 経世済民122 > 899.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
血縁に見捨てられた認知症の伯母 ある成年後見人の手記 まさか消費者金融に世話になるとは 定年女子より真っ暗、役職定年女子
http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/899.html
投稿者 酢 日時 2017 年 8 月 08 日 12:45:31: JVuupfBNpkXsE kHw
 

WEDGE REPORT
血縁に見捨てられた認知症の伯母【ある成年後見人の手記(1)】
2017/08/07
松尾康憲 (ジャーナリスト)
 「松尾由利子さんが倒れ、脳の血管が切れて認知症となられました」

 2009年2月5日朝、単身赴任していた共同通信社大阪支社に出社間もなく、神戸市内の救急病院から電話。これで義理の伯母、当時86歳の成年後見人への道を選ぶに至った。
 2日後、病院に由利子を見舞う。車いすに座りぐったりしていた。それでも私が分かり「やっちゃん」と、か細い声で呼んでくれた。
 新大阪駅で買い持参した「いちご大福」を、看護師が小指の先ほどに切り食べさせる。いちごは、飲み下せない恐れがあり、捨てられた。「箸を認識できず、食事は手づかみ」と、ソーシャルワーカーの高田美恵(仮名)。
 危急の電話の主も高田だった。彼女が語る経過は……。
 ─―09年1月25日、バスの中で不快を訴え下車、停留所で動けなくなっているのを通行人が見つけ、救急車で搬入。由利子は、現金3万円と預貯金通帳、印鑑など貴重品を手提げ袋に入れ持ち歩いていた。
 高田は、所持品を手掛かりに神戸市内に住む血縁の2軒に電話したが、「関係ない」と、けんもほろろ。外信部次長時代の筆者、松尾康憲の名刺を頼りに東京本社に電話し、大阪に単身赴任中の私を手繰り寄せた─―
 「後見人になっていただけませんか? 身柄を引き取れとか言いません。受け入れる施設は、私が見つけ、その後もご相談に乗ります。拒否されるなら、神戸市長が後見人の選任を申し立てる選択肢もあります。でも、ご身内がなられた方が……」。成年後見とは、家庭裁判所から選任された「成年後見人」が、認知症になった人の預貯金の管理や不動産の処分などを行うとともに、福祉施設や病院の入退院手続きといった日常生活にかかわる契約などを支援する制度である。高田に、ぐいぐいと引きずり込まれていった。
 由利子は、筆者にとって亡父の兄の奥さん。夫は他界し子はいない。私とは血縁がなく扶養義務もない。

(iStock.com/kazoka30)
血縁はないが思い出を共有
 1959年秋に私が満6歳を迎える前に、由利子との最初の接点があった。私は東京都内で出生したが、2歳のときに両親が離婚。婿養子だった父が私を連れ郷里、広島県尾道市の実家に帰り、暮らすに至っていた。
 59年11月、父が33歳にして死去。家族、親族の女たちが号泣していた。その中の1人が由利子だ。その直前、父は死期を察していたのか、由利子に小遣いを託し私を近くの行楽地・千光寺公園に連れて行かせてくれたのを覚えている。実子のいない由利子はかわいがってくれた。

若き日の松尾由利子(撮影日・場所は不明。)
 尾道の家は印刷業を営んでいた。祖父が跡取りにと、神戸から由利子夫婦を呼び寄せていた。当時は都会と地方の生活差が大きく、朝食に紅茶とトーストを味わう夫婦はとてもハイカラに見えた。
 ところが、私が小学校1年か2年のとき、祖父と息子は家業の経営をめぐりいさかいを繰り返し決裂。由利子夫婦は神戸に舞い戻ることになった。その経緯は、私が子供だったため詳しくない。私は寂しくなった。
 少年期から思春期を迎え、私には、小さな町を出たくて出たくてたまらない思いが募っていく。18歳で神戸の公立大学に入り、日本育英会奨学金(当時)月1万2000円と新聞配達や家庭教師で自活して学生生活を送った。
 十数年ぶりに再会を果たした由利子夫婦に、大きな経済負担を掛けた覚えはない。だが保険外交員の由利子は、食事に招いたり、小遣いをくれたりした。義理の仲なのに嫌な顔もせず。多感な青年期にどれほど心温められ、孤独を癒されたか……。
 だから、今できる力がある以上は、独りにしておけない。
 義理の伯母である松尾由利子を実名で書いていくのは、彼女を巡る事態の推移が決して絵空事でなく確固たる現実であり、誰の身にも起きかねないことを分かっていただきたいからである。善良なる市民として勤労して過ごした末の最晩年に、認知症を患うのは恥でも何でもない。自らの軌跡の公表が、成年後見制度などの改善にたとえ一歩でも寄与するなら、伯母は本望であろうと確信する。
信じられないごみ屋敷
 09年2月12日、再び見舞う。高田が由利子の車いすを押し、その自宅の神戸の某市営住宅を女性民生委員と私を含め4人で赴いた。
 5年ぶりになろうか、3号棟415号室のドアを開けると、部屋の中は衣類、雑貨、ごみが散乱、足の踏み場もなく、土足で上がった。電気は切れている。あの几帳面だった由利子の部屋がこれ!
 倒れる前から認知症が始まっていたのか? 呆然とし「電話しても連絡がつかなくなっていた」とつぶやくと、民生委員が「そうですよ。出歩くのが好きで、家は寝るだけの場になっていた」。
 荒れ果てた部屋に「もう、ここ嫌や」と、車いすの由利子が言う。奮起させようと、ソーシャルワーカーの高田が声を上げた。
 「大切な物を回収しましょう。銀行員の名刺が見つかったら、事情を説明しに来てもらいましょう。私たちが証人になります。伯母さんの入院料などの支払いのため、下ろさないといけないって」
 女性の気丈を感じた。堆積物の中から、定額貯金や定期預金の通帳、さらに外貨建て投資信託に関する郵便物、金融機関職員の数々の名刺などなどを回収した。
 その名刺を頼りに、某メガバンクの支店に電話した。
 「口座番号○○○○、松尾由利子の親族の者ですが、本人が倒れて引き下ろせなくなっているので、事情を確認に来ていただきたい」
 だが、人を寄越すどころか、名刺の主も電話口に出さない。法務担当者が「引き出すなら、戸籍謄本を持って来てください。えっ、ご本人の亡くなられた夫の弟の息子さんですか。血縁関係がなければ駄目です」。
 私は「血族に身元を引き受ける者がいなくて、病院が困っているんです。ここに居る本人が預けた金を、この危急時に、どうすれば利用できるか、教えてください」。何の回答もなかった。

頼りにならない弁護士

(iStock.com/takasuu)
 あの名刺群の行員たちは、80歳を超えた由利子の勧誘にどれほど笑顔を振りまいたことか……。怒りを抑え「お立場は、よく分かりました。当方は、専門家の助力を得て法的手段で解決します」と、私は述べた。
 JR神戸駅近くの法律事務所に駆け込み、皆元静香弁護士(仮名)らに委任したのが09年2月19日。
 ソーシャルワーカーの高田の知人から「金融に強い」との評判を聞き、難題をこなすプロ集団と信じていた。由利子の金を由利子のために使えるようにしたいと、すがる思いだった。
 事前の打ち合わせで、手付金23万円を支払い、代理人活動開始ということになっていた。弁護士事務所まで金を持参したが、何を勘違いしたのか13万円しかなく、残り10万円は振り込みに。私のミスだ。初めての体験の連続に、神経が参っている。
 成年後見制度について初めて知った。プライバシーをすべて皆元らに話し、記録に残す。
 「とにかく早く手続きを進めてほしい」と頼み込んだ。当時の由利子のぐったりした様子を目にした身としては、万一の事態が起きた場合、つまり由利子が死去した時、後見人の身分がなければ、大変複雑な問題に巻き込まれると懸念したからだ。また、後見人になってこそ、私の立替払いは本人の財産から弁済されるのである。
 だが弁護士は、選任までの所要時間の見通しを言ってくれない。1カ月半がたっても何も進まない。4月1日には、こんなやり取りがあった。
 私「どの段階まで来ているんですか」
 皆元「不動産登記がないことの確認書類を求めています」
 私「早くしていただかないと立替払いの負担も大変です。交通費とか」
 皆元「交通費は出ませんよ」
 私「この支出は認められる、これは駄目という基準を示してください」
 皆元「はっきりした基準はないんです」
 皆元らが、由利子の血族や病院、施設関係者らへの聞き取り調査に動く気配がないのも、不思議だった。思い余って4月6日、ある革新政党に近いといわれる神戸の法律事務所に山江恵一弁護士(仮名)を訪ねた。
 ここで初めて、後見人に関するマニュアルをもらった。弁護士に対する懲戒制度についても説明を受けた。
 「先生、替わってもらえませんか」と要請したが、専門外のため「弁護士会で後見人専門の人を紹介してもらった方が良い」と勧められた。他人の仕事を引き継ぐのは嫌なのか。皆元たちで続けるしかない。
申立人の法的な保護が必要
 こうして私は09年2月に成年後見人への選任申立てを決意し、生まれて初めて司法の判断を仰ぐ立場となった。裁判所の門をくぐったことの無い読者も多いだろう。そんな人々こそ、「司法は、当事者である市民の声に耳を傾け審判を下す」との私が当初抱いていた素朴な期待を理解してくださると思う。だが事は安易ではなかった。
 私が、神戸家裁に成年後見人への選任を申し立てるに当たり、疑問を抱いたのは、雇った弁護士から準備書類作成のため、由利子が住んでいた市営住宅に行き、書類や書簡などの回収を頼まれた時だ。弁護士が依頼人に作業を求めるというのも考えてみれば変な話だが、それはともかく、何度も部屋に上がり込んで物色したが、これは家宅侵入や窃盗の容疑を抱かれかねない行為だと思い、怖かった。私はこの時点でまだ後見人にもなっておらず、立ち入り権限はあるのだろうか? 隣人が不審に思い110番通報して警官が来でもしたら、一悶着は避けられなかっただろう。
 市民が司法判断を求めようとすると、危なっかしい思いを余儀なくさせられるような現状は、早急に改めねばならない。後見人選任の申立人を保護する制度を設けるべきだ。(つづく)
Wedge3月号 特集「成年後見人のススメ」認知症700万人時代に備える
PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線

Wedge3月号はこちらのリンク先にてお買い求めいただけます。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10156

 
まさか消費者金融に世話になるとは【ある成年後見人の手記(2)】
2017/08/08
松尾康憲 (ジャーナリスト)
 2009年3月14日、松尾由利子は神戸市街の救急病院から六甲山を越え、有馬温泉の奥、神戸市外にある老人保健施設に移り住むことになった。生きて還ることなき旅路である。車いすの由利子と、介護タクシーに乗り込んでいると、ソーシャルワーカーの高田美恵が白衣を着替えて駆け付け、「同行します」と言ってくれた。業務外なのに。

 幼くして両親と生死別していた筆者は、この時55歳だったが、こうした施設とは縁遠かった。徐々に老いていく親を見ている身であれば、心の準備もできようが、私はいきなり当事者となったのだ。ひとり付き添うのが心細くてたまらず、高田の親切がうれしかった。

 一方、施設への入所を強引に進めたのも高田であった。「まだ後見人でも何でもない無資格者ですよ。もうしばらく待ってもらえませんか」と、私は抵抗したのだが、高田に「救急病院という性格上、いつまでも収容できないんです。ふさわしい施設を紹介しますから」と押し切られてしまった。その果ての同道である。


六甲山(iStock.com/paylessimages)
施設へ送る「生還なき旅路」

 由利子が、「姥(うば)捨て山」に連れて行かれるような気分を抱くのではないか、嫌がったらどうしよう、と胸ふさがる。ところが現実の由利子は、車窓から見える街並みや木々の緑を楽しみ、顔に笑みを浮かべる。揺れが快適なのか春眠も味わってくれた。高田ともども安堵した。外出好きな伯母にとっては1万250円のドライブとなった。

 その2日後の夜、施設のケアマネジャーから電話が鳴った。「夜ベッドで無理に立とうとするんです。転倒が怖くて……。うちは身体拘束できません。『ビールが一番やな』とおっしゃっていますが、飲めるんなら睡眠薬より良いので送ってくれませんか」。缶ビール2ダースを送った。

 規則正しい生活と栄養バランスのとれた食事のせいか、車いす頼りだった由利子が立てるようになった。この時期の由利子は、どんどん元気になっていった。歩けるし、トイレも自分で行ける。

 すると新たな問題が起きる。4月18日、ケアマネジャーより電話が鳴った。「徘徊がひどくエレベーターで降りて外出しようとするんです。仕方ないので閉鎖棟に移ってもらいます。酒類は禁止です」。かわいそう、楽しみがなくなる。私は、目まぐるしい推移に携帯電話が鳴るのが怖くなってしまった。ジャーナリストでありながら……。

 新たな住まいとなった閉鎖棟は、2階の厚い鉄扉で仕切られた空間で、中に入ったら健常者も職員に頼んで鍵を開けてもらわないと外に出られない。約30人の高齢者男女が、ピンクのジャージーを着せられ2人部屋に寝起きする。ビールが飲めなくなっただけではない。私物の持ち込みは一切禁止。タオルまで廃棄させられた。「重症者には、何でも食べてしまう方がいるので」と寺田弘子看護師(仮名)。

募る不信感、ついに弁護士解任


神戸家庭裁判所
 皆元静香弁護士らに委任して約4カ月を経た09年6月15日、やっと神戸家庭裁判所での調査官面談にこぎ着け「神戸家裁50774号(後見開始申し立て)」という事件名を得た。この場で皆元らを事実上解任した。

 由利子には計14人の血族がいることは後に判明する。彼ら彼女らから、私が成年後見人となることへの同意を得なければならないのに、皆元らは1人も取っていなかった。

 調査官の前で、私が詰問すると、「要らないと思った」と皆元。「『思った』って、法律家の言葉ですか」。もはや依頼者と弁護人の対話ではない。4カ月が空費された。書類不備もあった。由利子の名を「百合子」と誤記していた。

 皆元が、別れ際「辞任届でいいですか? 手付金の全額は返せません」と言うので、「了解。費消分は差し引いてください。ただし法外な金を取ったら懲戒申し立てしますよ」と釘を刺した。20万円余りが戻ってきた。

 4日後、兵庫県弁護士会に駆け込み、6月26日付で広末毅弁護士(仮名)に委任。メールで進展状況を知らせてくれ、信頼関係が築けた。

 ただ、それまで弁護士という職種に抱いていた畏敬は壊れてしまった。弁護士会に駆け込んだ時も60〜70歳くらいの年配弁護士に聴取を受けたが、名乗らない。敬語を使わない。

 私が説明し始めると「法律相談の場じゃあない。手短に」。由利子が倒れた経緯に及ぶと「認知かあ?」。「認知症です。正確に記録してください」。病名を端折れば差別的ニュアンスを帯びかねないことすらわきまえていない。

経済負担重く消費者金融へ

 09年6月15日の神戸家庭裁判所での初回調査官面談から、筆者は由利子の成年後見人の候補に。ところが後見人になるまでは重い経済負担ばかりで権利保障は無い。メモを繰ると、私の立替払いは09年9月7日時点で81万5129円。

 由利子を入所させた有馬の奥の老人保健施設から4月17日付で5万5908円の請求書が届き、以後は毎月約10万円。これを滞りなく払う。この外に、差し引き二十数万円の弁護士料、由利子が滞納してきた後期高齢者医療保険料なども負担した。

 9月7日午前、新任の広末弁護士と臨んだ神戸家裁2回目の調査官面談。家裁から請求されたのは鑑定費はじめ計7万7950円。

 由利子について、「要介護5」との証明書と、診断書は提出済みだったが、偽証罪を視野に入れた「鑑定書」を、診断書を書いたのと同じ医師から求めるというのだ。せめて後見人になるまで支払いを待ってほしい。

 私の当時の年収は1000万円を超えていた。だが住宅ローン返済、息子の学費といった既定支出があり、家計は想定外の出費にもろい。定期預金を崩し、ボーナス期の谷間、顔をこわばらせて消費者金融へ。生まれて初めての体験だった。しかしながら担当者の対応は、銀行や家裁、弁護士よりよほど親切だった。

 由利子をほぼ月1回見舞ってきた。単身暮らす大阪府吹田市から有馬の奥の施設までの片道は、地下鉄とJRを乗り継ぎ710円。施設最寄りへのバス便は少なくタクシーに乗り換え2500円。手土産も含め諸経費は1回1万円超。

 さらに2カ月にほぼ1度、妻、容子を東京から呼び3人で“デート”。息苦しいであろう施設での生活に、せめて“社交”の機会を与えようと思ったからだった。09年5月30日が第1回で、東京から妻を呼び寄せ、タクシーでドライブした。


温泉街を流れる有馬川(iStock.com/paylessimages)
 由利子を妻が持参した思い切り若めの服に着替えさせ、定番となったコースは、まず美容院で身づくろいし口紅を引く。有馬温泉の足湯につかり、両脇を支えカフェバーへ。ビールとワインを少しだけたしなませ、近くの和菓子店で土産を選ばせる。

 美容院で「どんな具合に?」と尋ねられたから「とにかくお客さん気分を味わわせてください」と頼んだ。

 タクシーに乗った由利子は、「六甲はあっちやな。ここ有馬かいな」。道路表示の漢字を読み取る。2時間余りを過ごすと「ありがとう。長生きして良かった」。

 以上のような、後見人になるまでの「見舞い」経費は、先に挙げた80万円余りの立替払いから外した。

 事実上解任した皆元弁護士からは「お見舞いは自由意志です」と言われ、広末も「多額請求では後見人になれません」と釘を刺されていたからだ。

 だが、老いはての人にとり最も必要なのはケアではないか。後見人となる身も、金計算よりもケアにこそ意を用いたい、と思ったものだ。

9カ月も経ってやっと後見人に

 神戸家庭裁判所の家事審判官(一般裁判での裁判官に相当)は09年10月6日、私を由利子の成年後見人とする審判(判決に相当)を下した。

 審判書の主文は、1.「本人」由利子について後見を開始、2.成年後見人として申立人(筆者)を選任、3.手続費用のうち申立手数料800円、後見登記手数料4000円、送達・送付費3150円、鑑定費約8万円は由利子の負担。

 これが全内容、一般の裁判での判決理由に相当する文言はない。成年後見開始の審判において、申立人自身は異議申し立てできない。この薄い文章の読み方を広末弁護士が教えてくれた。「弁護士料は、伯母さんでなく、松尾さんの負担ということです」。

 私が払ってきた弁護士料は通算24万3600円。どの弁護士も、後見人に選任されれば戻ってくる前提で話をしていた。それは私の聞き間違いだったのだろうか。いずれにせよ戻ってこない支出となった。

 その結果、09年9月時点での立替払いを80万円余りと先述したが、立替分として戻ってきたのは約49万円にとどまった。

 後日、家裁で書記官に尋ねた。「この申し立ては、私の利益になるものではない。すべて伯母由利子のためなのですよ」。答えは「弁護士なしで後見人になる人もいます」。

 二の句が継げなかった。書記官の想定にあるのは、親子や兄弟、夫婦などの間での後見人選任であり、家族会議で円満に同意を得るケースだろう。

 姻族三親等の私は、血族の誰一人面識もなかった。そもそも血族が何人いるかさえもわからなかった。弁護士に頼り相手方を探すことから始めなければならない。それには戸籍謄本の取得が必要だが、弁護士や司法書士など抜きでは不可能だ。

 一般の裁判と異なり、審判官は申立人と対面しない。こんな環境を訴える場は、私にはなかった。

見捨てる血族たち

 由利子の血族との面会を一度だけセットしたことがある。だが、その再会は荒涼たるもので、血縁とは何かを考えさせられた。

 広末弁護士が由利子の血族の割り出しを進め、姉妹2人と甥や姪ら計14人がいることが判明。この中で、神戸に住む実妹の田宮悦子(当時79歳、仮名)が私と連絡を取りたがっているという。

 考えた末に電話した。「どんな経緯があったか知らないし、知るつもりもないが、一度見舞っていただけませんか」。

 曲折を経た末に09年9月7日午後、悦子と息子の次郎(当時47歳、仮名)が施設を訪ね、私も広末弁護士と同道することになった。

 施設に着くと、悦子母子を先に進ませ対面させた。由利子の口から飛び出した第一声は「あんた誰?」、そして私に気づき「ああ、やっちゃん」。

 悦子は当惑し「なんで分かるん?」。頬を流れる涙も見られない。由利子が実妹に「奥はん」とも呼び掛ける場面もあり、懐旧談も長くは続かない。

 皆が由利子の部屋に集まり、医師の説明を聞いた。すると次郎が「預貯金が1000万円あるそうだが、母は妹だから下ろせるはず」と言いだす。広末が「法律上そうはいかないんです。本人の前で、金の話はやめてください」。

 次郎が、何度も金の話をぶり返す。私も感極まり「あなた方は私より縁が濃い。あなた方が後見人を引き受けてもいいんですよ」。「いえ、ありがとうございます」と母子。


(iStock.com/Halfpoint)
 由利子がうつむく。空気が分かるのだ。「伯母さん、面倒を見るよ。そのために弁護士先生に来てもらったの。また有馬温泉に行こうね」。私はこう言って、気を紛らわせるしかなかった。

 帰り際、母子と早く別れようと思っていたら、「こんな所で放り出されても」と悦子。仕方なくタクシーで駅まで送った。「こんな所」って、実の姉の終の住み処なのに……。

 その後、由利子が亡くなる14年10月まで、血族の誰一人として由利子を見舞っていない。
(つづく)※8月9日公開予定
血縁に見捨てられた認知症の伯母【ある成年後見人の手記(1)】←            

Wedge3月号 特集「成年後見人のススメ」認知症700万人時代に備える
PART1:東京23区の成年後見格差、認知症への支援を急げ
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・前編:品川モデル
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・中編:「品川モデル」構築のキーマン・インタビュー
PART2:先進地域に学ぶ成年後見の拠点作り・後編:大阪モデル
PART3:過熱する高齢者見守りビジネス最前線

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10163


 


定年女子より真っ暗、「役職定年女子」の未来

残れず、生めず、決心も付かず…

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学


2017年8月8日(火)
河合 薫

 2020年まで、あと3年。いや、もう3年? 
 いずれにせよ、3年後は「アッ」という間にくる。

 といっても、東京オリンピックの話をしているわけではない。

 なんと「日本人の女性の過半数が50歳以上」になってしまう……というのだ。

 『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』の著者、河合雅司氏が、合計特殊出生率を計算する際に「母親になり得る」とカウントされている49歳までの女性人口と、50歳以上の女性人口を比較した結果、

 「2020年には、50歳以上の人口(3248万8000人)が、0〜49歳人口(3193万7000人)を追い抜き、日本女性の過半数が出産期を終えた年齢になる」

 ことがわかった(国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づき算出)。

 「出産期を終えた年齢」……ですか。
 ふむ。グサッとくる言葉だ(苦笑)。

 今までも「産めや、増やせや、でもって、働けや!」と、戦時中並みの圧力をかけられている若い女性たちが気の毒で、「戦力外でホント、ごめんなさいね。いつの間にやらこんな年齢になってしまって…、個人的には“まだ”イケるかもと思っているのですが…(冷汗)」なんてことを冗談混じりに言っていたのだが、遂に「50歳以上」で一括りにされてしまうとは……。

 兄と私を育てあげた77歳の母親と一緒のグループ。なんてこった。

この数字が胸にズシッと来た理由

 河合雅司氏が日本人の女性を「母親になり得る年齢」と「もうムリ!!」という年齢とに分け、比較した背景には、

 「半数以上が50歳以上になって、どうやって少子化を解消するというんだ? ひとりで5人も6人も生んでくれってことなのか?」

 といった、「政府の少子化対策の夢物語ぶり」を指弾する狙いがあった。

 この数字を突きつけられた世間はおののき、“未来の日本”を案じたわけだが、リアル「50歳以上」の働く女性たちの心配は、ちょっとばかり異なる。

 “自分の未来”に、戦戦恐恐としたのである。

 私自身も「3年後の2020年に大人(20歳以上)の“10人に8人”が40代以上。50代以上に絞っても“10人に6人”」と各所で公言してきたのだが、「女性」と限定されたことで、数字の持つ重さにズッシリとヤラレている。

 「女性には役職定年なんてない。アレはドラマの世界」――。

 こう嘆くのは、某大手企業に勤める、夫なし、子なし、介護の母ありの“マンネン課長”。51歳の女性である。

 というわけで、今回は「定年女子」ならぬ「役職定年女子」について、アレコレ考えてみようと思う。

 と、その前に簡単に補足しておきますと、「ドラマの世界」とは、今話題になっている「定年女子」のこと。大手商社に勤める53歳の主人公が(南果歩さん)、突然、役職定年を言い渡され、邪魔者扱いされ居場所を失い、会社を辞め、セカンドライフを模索するドラマだ。

 プライベートでは、浮気が原因で離婚した夫の母親の介護まで“なぜか”任され、出産を控えた娘が浮気で出戻りとやらで、てんやわんや。
 50代以上の女性たちに、人気を得ている、らしい。

 では「役職定年はリアルではありえない」とする、“マンネン課長女子”のお話からお聞きください。

 「うちの会社では、55歳になると“3つ”から選ばなくてはなりません。

 早期退職するか、給料半額で現場に戻るか、給料そのままで地方でも関連会社でもなんでもやります宣言するか……です。でも、現実的には“早期退職”するしかないんです」

 「御社は女性の多い会社としても有名ですよね?」(河合)

 「はい。先輩たちの中には、現場に戻った人もいますし、関連会社に転籍した人もいます。

 私たちより上の世代は、採用も少なかったし、辞めた人も多いので、残っている女性は少ない。だから3択が可能なんです。

 でも、私たちの世代はそうはいかない。女性も多く採用してるので、どう考えてもポストが足りません。もともとうちの会社は、男性と女性とではキャリアパスが違います。

 男性は、いろいろな部署を経験しますが、女性は接客のある現場をずっと担当させられ、リーダーから課長になるというコースが一般的です。部長に昇進する人は滅多にいませんから、“マンネン課長”が最高地点なんです。

 取締役に先輩女性2人が抜擢されていますが、男性との割合から考えるとこれ以上増える見込みもない。

 関連会社でも、女性を受け入れるポストは少ないし、転籍した先輩女子が65歳まで在籍したら私たちの受け入れ先は激減します」

少数のおばさんならいい会社でも、おばさんだらけだと…

 「でも、役職定年して現場に戻るという選択肢は残るんじゃないんですか?」(河合)

 「ドラマでは、女性の“役職定年”が話題になっていますけど、実際はそんなかっこいいものではないですよ(苦笑)。部長になった一部の女性と、マンネン課長の私たちとでは、役職を退いたあとの待遇が全く違いますから。

 そもそも……現場は歓迎しませんしね。
 オバさんが数名なら『女性を長期雇用するいい会社』というイメージアップになるかもしれませんが、オバさんだらけになったら『なんだよ、ババアかよ。こないだの若い人の方がいいな』とか、お客さんに言われてしまうのがオチ。

 会社もできることなら、オバさんは奥に押し込めておきたいというのがホンネだと思いますよ」

 「ということは、早期退職という名のリストラを、暗黙裡に強要される確率が高いってことですね」(河合)

 「ええ、そうです。たぶん会社もこんなに女性社員が残るとは、考えていなかったんじゃないでしょうか。まぁ、自分自身、こんなことになるだなんて、想像もしていませんでしたから……」

 「早期退職しても、それなりにもらえるならアレですけど、もともとうちの会社は女性の基本給が低いんです。

 50歳過ぎた女性を雇ってくれる会社なんてないし、家のローンも残ってる……。
 先のこと考えると、不安だらけです。ホント、どうしたらいいんでしょう。

 ただ、困った事に、あと数年で選択をしなければならないというリアリティが持てない自分もいて……。情けない話ですけど、不安から逃れるために先送りしている自分がいます。

 この先、女性の活用ってどうなるんでしょうか? 他の企業とかどうなっているんですか? 河合さん、知ってたら教えてください」

 ……以上です。

 「今さら何を言ってるんだ。オレたち、みんなそうやって悩みながら生きてんだよ!」

 と、男性たちは呆れているかもしれませんね。
 はい、そのとおりなんですよ。

「いまさら何を」って、その通りなのですが

 でも……、そのなんといいますか、“男女雇用均等法世代”より下の私たち世代は、

 「私には若い頃から描いてきたキャリアデザインがあります。将来はこの会社を背負っていきます。その思いだけでキャリアを重ねてきました!」

 と胸を張るような女性は極めて稀。

 世間的には“バリキャリ”と思われている女性であっても、周囲が思っているほどにはキャリア志向は高くないのです。

 気がつけば、この年齢。気がつけば、オヤジ並みに働き、子なし夫なしの「親になり得ない群」のメンバーのひとりにカウントされ……。

 かくいう私も「3年働いたら辞めて結婚し、双子を育てる予定」だったので、彼女の気持ちが痛いほどわかる。

 仕事では、ロールモデルがいなくても困らなかったけど、人生は別。
 「自業自得」と思いつつも、子なし、夫なし、仕事なしの未来像が描けず、足がすくむ。“孤独死”なんて文字まで、頭を過る。

 ひたすら時間だけが過ぎ、鏡に写る自分の顔の衰えに気が滅入り……、不安が募る一方で、「ひょっとしたらどうにかなるかも」という淡い期待が交錯し、金縛りになる。

 人生とはありえぬことの連続だが、「今、ここで未来を案じている自分」も、想定外中の想定外で。ありえない、のである。

 「あのさ〜、そんなの男だって一緒。すべてが想定外でしょ? だいたい男の方が大変だよ。家族もいるんだからさ」

 はい、そのとおりです。
 なのでこの先のことは、彼女自身がどうにかしなきゃいけなない問題であり、婚活するもよし、セカンドキャリアに向けて勉強するもよし、50歳以上の女性を雇ってくれる会社で必死で働くもよし、それこそ「背負うもの」が少ない分、踏ん張るしかない。

 と、このように、“役職定年女子問題”は、社会的な共感・理解を得ることが極めて難しいことは重々承知している。

 が、その一方で、私は別の思いを持ったのもまた事実。
 「女性活躍って、何なのだろう?」と。

 「女性活躍」=リーダーを増やす 管理職を増やす という凝り固まった考え方にこれまでにも異論を唱えてきたけど、「リーダーになり得ない(=会社に残り得ない)&親にもなり得ない)群のリアル」を理解し、解決していくことが真の女性活躍につながっていくのではないだろうか。

 だって彼女のあとには、さらに大量採用された、50歳以上の働く女性は確実に増えるわけで。雇う側も「こんなに残るとは想定外」などと言っている場合ではないのである。

 男女差に関する、興味深い「数字」がある。

 経済協力開発機構(OECD)の「国際成人力調査(Program for the International Assessment of Adult Competencies : PIAAC)」の結果で、日本の「労働者の質」は世界トップレベルであることは、以前書いた(“東京の夜景”の被害者を二度と出さないために)。

 この調査は、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3分野のスキルの調査に加え、「学歴ミスマッチ」なるものの分析も行っている。

 学歴ミスマッチには、「オーバー・クオリフィケーション(オーバー・エデュケーション)」と、「アンダー・クオリフィケーション(アンダー・エデュケーション)」があり、前者は「現在の仕事に必要な学歴(学歴要件)よりも高い学歴を取得している場合」で、後者はその逆のこと。

 PIAACの分析では、日本のオーバー・クオリフィケーションの割合は31%、アンダー・クオリフィケーションは8%で、OECD加盟国の中でオーバー・クオリフィケーションの割合がもっとも高い国であることがわかっているのだ。

ギャップが持続する日本

 とりわけ大卒労働者が、大卒から想定されるよりも低いレべルの能力が求められる仕事に従事している割合が日本は高く、就職6カ月後と5年後の追跡調査でも、その状態が解消されないことが示されている。

 他の先進国の場合、たとえ入社時にオーバー・クオリフィケーションであっても、その後の社内異動などで解消されるケースが多いにも関わらず、だ(D.Varhaest and R. der Velden .“Cross-country differences in graduate evereducation and its persistence ”)。

 例えば、就職時のオーバー・クオリフィケーションが、日本の次に高いオーストラリアと比較すると……

就職時―― 日本(31%) オーストラリア(27.8%)
就職半年後―― 日本(30%) オーストラリア(24%)
就職5年後―― 日本(25%) オーストラリア(14%)
持続率―― 日本(66%) オーストラリア(39%)
 ※持続率とは半年後のオーバー・クオリフィケーションが解消されない人の割合

 ちなみに、持続率が7割近いのは、先進国では日本特有の現象である。

 つまり、「日本って、せっかく大学とか大学院まで行っても、意味ないじゃん。だって、企業はさ〜、大卒者の能力を活かしきれてないし〜、労働力の質の高さを生産性に反映できてないのかもね〜」ってこと。

 しかも、学歴ミスマッチを男女に分けて比較した国内外のいくつかの調査からは、

日本の女性は就職時にマッチした職を得ても、その後、オーバー・クオリフィケーションに陥りやすい。
オーバー・クオリフィケーションはマッチした人に比べ低賃金になるが、その差は若年層よりも中高年層で、男性よりも女性で大きい。
オーバー・クオリフィケーションの解消には、日本では転職よりも内部異動の効果が大きいが、内部異動で効果があるのは男性のみ。
女性は転職でオーバー・クオリフィケーションの解消が期待できるが、無期雇用の場合、転職でオーバー・クオリフィケーションに陥りやすい。
 などなど、日本の女性の教育レベルは世界的に誇る高さにも関わらず、その潜在能力を活かされていない可能性が示されているのである。

 ……さて、これらの結果をアナタは、どう受け止めますか?

上を伸ばすだけでは活躍意識は高まらない

 「じゃあ、女性のキャリア意識をあげろ!」
 「じゃあ、転勤とか出張とか文句言うなよ!」
 「じゃあ、リーダーになりたいってもっと主張しろよ!」
 といった、厳しい意見をいう人も多いかもしれない。

 しかしながら、「内部異動で効果があるのは男性のみ」という結果を踏まえると、問題は女性が置かれる環境、すなわち「人事」にあるという解釈もできる。

 「女性の方が優秀なんだよね〜」
 という意見を耳にすることは度々あるけど、その“優秀さ”は適性配置されているのだろうか。

 だいたい“デキる女性”のお決まりのコースといえば、「広報部長」や「ダイバーシティ部長」というのも、妙だ。

 「企業の生産性を高めよ!」を合い言葉に、AIやらなんやらに躍起になるのもいいけど、男性であれ女性であれ、50過ぎであれ、組織内のありとあらゆる階層・階級で、潜在能力を引き出す人材の配置を模索しないと、企業は膨大な「割増退職金」を払い続けることになる。

 だって、あと3年で「大人(20歳以上)の“10人に8人”が40代以上」、「女性の過半数が“出産期を終えた年齢”」になるという現実は“ありえる事実”として存在しているのだ。

 会社内の階層・階級の“上”の方ばかりを「活躍」の場と意識してしまうと、女性の「活躍したい」という意識はむしろ下がるかもしれない。それはもちろん、男性を対象にしても言えることなんですけどね。

 ……最後に……。あの〜「女性は若いほどいい」という価値観もどうにかなりませんかね? 

 今も飛んでいるスッチー時代の同期によれば、

 「最近のお客さんは恐くなった。二言目には『どう責任とってくれるんだ』って、自分の思い通り(お客さんの)にならなかったことの責任を押し付けられるし、……『ババアかよ』って、わざと聞こえるように言われた事も何度もあるよ〜」

 と、顔で笑い、心で泣いておりました。

 これからは50代のオジさんたちを癒すのは、同じ悩みを抱えている「出産期を終えた年齢」の女性じゃないでしょうか。彼女たちは案外、オジさんたちにはかなり優しいと思いますよ。

悩める40代〜50代のためのメルマガ「デキる男は尻がイイ−河合薫の『社会の窓』」(毎週水曜日配信・月額500円初月無料!)を創刊しました!どんな質問でも絶対に回答するQ&A、健康社会学のSOC概念など、知と恥の情報満載です。

このコラムについて

河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/080700117  

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
1. 2017年8月08日 21:38:56 : OO6Zlan35k : ScYwLWGZkzE[717]
あなたが知らない児童労働の過酷すぎる現場
劣悪な環境に置かれる1億6800万人の子供
GARDEN編集部
2017年8月8日

「児童労働の今」について聞きます
児童労働ネットワーク事務局長/認定NPO法人ACE代表である岩附由香さんをお迎えし、堀潤が「児童労働の今」について対談を行いました。
https://www.youtube.com/watch?v=BCltqdxuesU

世界規模で見た、児童労働の定義と現状

本記事はGARDEN Journarism(運営会社:株式会社GARDEN)の提供記事です
堀:断片的に児童労働が各国で問題になっていって、日本も決して関わりがない話ではなくて、日本の産業ともある意味繋がってくる部分もあるぞと。今、分かっているだけで何人くらいの子供たちが児童労働にかかっているんでしょうか?
岩附:今世界には、1億6800万人の子供たちが児童労働員として働いていると言われています。
堀:日本の人口より多いですね。
岩附:そうなんですよ。日本全土が児童労働している子供で埋め尽くされていると考えたら結構ゾッとすると思うんですけど。私たちがたまたま目にしていないだけで、世界の現状としてはそう。農村とかに行った方が多いので、本当に誰の目にも触れられず、問題はそこにあるのに可視化されていない問題の一つなんじゃないかなと思います。
堀:だいたい何歳から何際くらいまでの子供がメインなんですか?

子どもたちが学校にも行けずに働いている
岩附:児童労働というと、子供が働くことなの?と聞かれるんですけど、働くこと自体を禁止しているのではなくて、15歳未満の子供の義務教育を受けないで働いているような仕事と、18歳未満で働いてもいい年齢16歳以上の年齢だけれども危険有害な労働についている場合、この2つが児童労働に当たるんですね。特に途上国で多いんですけど、一番多いのは農業分野で、約6割の子供たちが農業分野で働いています。そういうものの中には実は私たちが使っているようなものの原材料も含まれていて。チョコレートのカカオだったり、Tシャツの原料になるコットンだったり、そういう畑で子供たちが日々汗を流して、学校にも行けずに働いている状況があるというのが現状だと思います。
堀:地域的にはどういう地域が多いんですか?
岩附:最も数が多いのはアジアですね。ただ割合が高いのがアフリカで。世界で見ると5歳から17歳の9人に1人が児童労働者なんですが、アフリカの場合は5人に1人と割合が高くなっています。
堀:そこに従事する子供たち個別個別に見るとどういうバックグラウンドでその労働に従事することになっているんですか。
岩附:その背景に何があるのかなんですけど、貧困の問題もちろんあります。親の収入だけでは食べていけない、あるいは親に仕事がないですとか病気になってしまったりとか。
もう一つは教育の機会自体はあるんだけれどもクオリティが低いとか、遠くていけないとか、あるいは特に女の子の場合は、「女の子だから学校に行かなくていい、何もしないなら働きなさい」という形で働いていたりとか、そういった家庭の事情もあります。
もう一つあるとすると、国の中の子供に対する優先順位がどれだけ高くあるかということですね。途上国の場合、予算が限られていて、どうしても全体に行き渡るような形でプログラムが展開されてないないという課題があります。そういう中でどうしても支援から漏れてしまう子供達がいるというのが現状じゃないでしょうか。
岩附さんが出会ったサディスクマル君の話
堀:実際に児童労働の現場、実態を代表を務めていらっしゃるACEでも色々な現場を見てこられたと思うんですけど、具体的にどのような状況なんですか?
岩附:私が活動を始めた初期に会った男の子の話を紹介します。私が一番初めに参加したグローバルマーチという世界的なマーチのインドで会ったサディスクマルくんという男の子です。元児童労働者で、救出されました。
岩附:「どんなお仕事してたの?」
サディスクマルくん:「糸を作る工場で働いてた」
岩附:「どんな風に働いてたの?」
サディスクマルくん:「6日間働いても5日分しかお給料がもらえなくて。何か失敗するとタバコの火を腕に押し付けられたり。ご飯を食べてても『もう食べるな』とお皿を投げられたり。」
岩附:「そんな辛い状況を親に相談しなかったの?」
サディスクマルくん:「相談しなかった」
岩附:「なんで?」
サディスクマルくん:「同じ場所で働いていた一人の子が、あまりにもその窮状に耐えかねて自分の親に言ったら、親が文句を言いに来た。親が文句を言いに来た次の日にその子がいなくなっちゃって。親が探しに来たけど見つからなくって。あの子は殺されちゃったんだと思う。そういうことがあったから、自分は親には相談しなかったんだ。」
岩附:「将来なりたいものは何?」
サディスクマルくん:「なるものになるよ、来るもの拒まず、だよ。」

児童労働って、その子の「今」「子供時代」を奪っている
岩附:子供って希望や夢を持って生きているものなのかなという風にその時思ってたんですけど。実は児童労働って、その子の「今」「子供時代」を奪うだけじゃなくて、将来どうなりたいとか、こういう夢を持っているんだという夢や希望とかも奪ってしまう、そういうものなんだなというのをその時にすごく感じて。自分自身が価値があって、社会の中で責任がありながらも自分らしく生きていけるんだというようなそういう心持ちを奪ってしまう、そういうものなんだなというのをすごく感じたことがあります。
堀:子供が、選択するための教育も受けられないし、この社会にどういう選択肢があるのかを知らされることもなく、ひたすら目の前の労働に従事させられるわけですよね。
岩附:そうですね。ただ目の前にくるものを受け入れる、「自分にはそれしかないんだ」という諦め感を、まだ本当に小さいのに身についてしまっているということ自体がすごく悲しい。やはり、児童労働というのは、もちろん貧しいから働かなくてはいけないとか、親の事情とかある中でのしょうがない選択肢だけれど、子供にとっては絶対にさせてはいけないことで。子供は教育を受ける権利もあるし、子供として遊ぶ権利もあるし、そういう子供の権利を守れる社会にどうやったらなっていけるのかというのをもっといろんな人が考えるというのが必要だと思います。
混乱に乗じて悪化する児童労働
堀:実はこの間、シリア難民の子供たちの支援をしているNGOの皆さんとお話をして、現場どうですかと聞くと、難民キャンプ入った子、入らない子含めて、児童労働と隣り合わせなんですね。
岩附:そうですよね。そこも本当に児童労働の課題の中で、ちょうどこれから開催される11月の会議の中でも取り上げられると思いますけど、そういう危機が起きた時の反応として難民の子供達ですとか、災害ですとか、そういう時に発生する児童労働にどう対応していくのかというのも重要なテーマだと思います。例えば、自然災害で洪水が起きたりすると、人身売買とか人身取引が増えるんです。その混乱に乗じて、インドの場合だとよく洪水が起きる地域があるので、電車で子供達を連れて行ってしまう。その駅でNGOが待ってそれを止めるということもあったり。本当に何か混乱が生じた時に、それで児童労働に連れて行かれてしまうという子供達もいるので、だんだん最近そういう事案が増えて行っているというのも現状だと思います。
堀:それは親御さんでも本人の意思でもなく、連れ去られて行って労働に従事させられるということですか?
岩附:そうです。あるいは、親御さんが亡くなってしまったとか、離れ離れになってしまったとか、そういう状況の中で「いい仕事があるから」と騙して連れて行くとか、そういう事例がこれまでもあったので。ネパールの地震の時も、人身取引を監視しているNGOがいつも行っているコンタクトポイントで、地震直後の方が介入して救出する子供が増えたそうです。
世代を超えた悪循環を生む、児童労働の現場

貧しさとともに、世代を超えた悪循環が繋がってしまうという現状が生まれている
岩附:児童労働をすることが実は大人になってもdecentな(ちゃんとした)職に就けない、人間らしい働き口を見つけられないでずっと搾取されたまま続いてしまうということもあります。実は、子供たちが働いている親御さんもインタビューをすると、その人たちも子供の時から働いていて。でも40代くらいで体がボロボロになるんです、農作業とかやっていると。腰が痛くて自分はもうできないから子供にやってもらうしかないんだという親御さんもいて。そうするとその児童労働の循環が世代を超えて繋がってしまって。貧しさとともに、世代を超えた悪循環が繋がってしまうという現状が生まれていると思います。
堀:今従事させられている子供たちも、そのまま過酷な低賃金の劣悪な環境での労働がずっと続いていくということですか?
岩附:そうですね。ACEが介入していくと、実は子供を雇うのをやめてきちんと大人を雇うようになったというコットン畑の事例があります。我々ACEとして「インドのコットン畑の児童労働をなくそう」というプロジェクトをやっていて。インタビューすると、やはり子供の方が値段が安いんです。その理由は、子供は交渉をしないで言い値で働いているということ。実は、コットン農場の場合は3ヶ月とか一定期間の間集中的に、タネとタネ、雌しべと雄しべを擦り合わせて人工交配をさせるというのを、遺伝子組み換えのハイブリッド種のコットン畑では行います。その時にはたくさん労働力が必要です。それを雇う側の農場の持ち主もそれほど豊かではないので、なるべく労働コストを抑えたい。子供が雇われる時って、前借りみたいな形で前金を払われている時があって。親に結構大きな金額の前金を払うんです。そうすると、そんな金額を一度に手にすることはなかなか難しいので親は受け入れてしまう。そうすると、働いている間ずっと最後まで働かなければならない契約になってしまうという状況になっていて。そういう借金のかたに働くというのを債務労働というんですけど、そのような形も見受けられるんですね。
ただ、実際にプロジェクトをやっていると子供を雇わないようにしようという習慣が徐々に広まっていって、きちんと大人が正規の値段で働くようになるので、実は児童労働がなくなることは大人にとっても良いことで。子供が働いているのに大人が働けていないという現状もあるわけですよ。なので、子供が働くことで雇用口を奪われることなく賃金がちゃんと上がっていくという構造もあるかなと思います。
命にも関わる問題が潜んだ「危険な」児童労働

農薬の被害もひどい
堀:今聞いていて一つハッと思ったのは、よくニュースでも遺伝子組み換えの話はよく出てきます。特に自由貿易の話では必ず出てくるんですけど、ただ、遺伝子組み換えの作物を作る時ってそういう手作業で?
岩附:コットンの場合はそうなんです。遺伝子組み換えでなければその作業は入らないみたいなんですけど。普通に風に運ばれて花粉が運ばれて普通に受粉するんだと思うんですけど。遺伝子組み換えの場合は、雄しべと雌しべをくっつけるので、雄しべが出るように花の周りをとったり、そこに赤いセロファンをつけて目印をつけて一個ずつやっていくんですね。コットンの木ってそんなに高くないので、骨も折れるし腰も曲げないといけないので結構重労働で。日陰もなくて炎天下なので。もう一つは、農薬の被害も本当にひどくて。
堀:そうなんですか。
岩附:コットンってすごい農薬使うんですよ。口に入れるものじゃないので知らない方多いんですけど、世界の中で多分最も農薬を使う作物なんですね。そうすると、子供たちが摘んでいるすぐ横で農薬をスプレーしてたりするんです。私たちは農薬屋さんに行って実際にどうなるのかなと見た時に、「一応これ危険なので、手袋を配っています」と配ってはいるんですけど、暑くてそんなのしてられないという感じの防具なんですよね。そのために結局蒔く人も使っていなくて、そういう危険有害な農薬を日常茶飯事的に使っている。その中で子供たちも働いている。実際に農薬の被害で皮膚病になってしまったり、白血病みたいな血液のがんになってしまったり、そういう子たちもその地域には実際にいるんです。なので、健康被害も大きくて、水も汚染するし、農薬を間違って飲んでしまって亡くなってしまった子がいたりとかもあるんですね。ACEのプロジェクトで、そういう現状の中で何ができるんだろうと考えて、実は今オーガニックコットンの栽培を企業さんに入ってもらって奨励しています。オーガニックに転向した農家さんが一番言っているのは「健康になった」と言っているんです。自然な形で作る農薬を教えるので、ケミカルではないものを使っていかに作物を育てるかというのをやるんですけど。コットンの場合は、これは人権の問題でもあるし環境の問題でもあるし、本当にいろんな問題が絡んでいる現状がありますね。

健康被害が出た子供たち
堀:その健康被害が出た子供たちっていうのはきちんとした医療的なケアは受けられるんですか?
岩附:受けてはいるんですけど、多分家族にとっては病院に行くというのがすごく負担で。日本みたいにちょっといけば病院があるという地域ではないので、大きな病院行って、お金がかかって、それがまた借金になってみたいな形もあります。ACEで、コットン畑で働いていることが原因で体調が悪くなった子をインタビューしたんですけど、その時は「お父さんを説得してもどうしようもないんだ、働くしかないんだ」と言われて働き続けることになってしまって。結局その子は助けられなかったんです。
堀:というのは?
岩附:亡くなっちゃったんですけど。
堀:何才くらいの子?
岩附:10才、11才くらいの子ですね。
堀:小学生ですね、日本でいうと。
岩附:それはすごく悲しかったことの一つで。そういう意味では、児童労働というのは命に関わる問題でもあって。単に学校に行けないとか遊ぶ時間がないとかだけじゃなくて、本当に命に関わる問題でもあるということですね。
堀:農薬散布の実態以外にも、「危険な」現場って児童労働の場合、他にどんなパターンがあるんですか?
岩附:漁業もありまして。浮きみたいなものを海に置いておいて、そこにずっと何度も潜ったり上がったりしてお魚を取るですとか。
堀:その何回も上がって下がってというのは、圧がかかるということ?
岩附:そうですね。健康的にもよくないですし、そもそも働いちゃいけないですけど、労働環境としても劣悪。あと、インドですと、ガラス細工とかマッチとかの工場とかでも子供が働いていて。ACEが支援しているガーナですと、農作業なんですけど、刃渡り30センチくらいのナタで開墾といって森を切り開いて苗を植えるんですけど。まずその畑まで行くのに結構炎天下を歩いて、開墾して蛇に噛まれたりとか、切り傷があったりとか。切り傷をしてしまっても対応がうまくできていないので、それがすごく悪化して膿んだりとか、そういったこともあります。
堀:他にはどんな例がありますか?
岩附:ガーナで一つ人身売買のケースがあって。遠くから北部から連れてこられて、カカオの農作業と牛追いのような家畜の世話を任されていた二人の子供たちを救出したことがあります。その子達は「学校に行かせてあげる」と連れてこられたけれど、実態はずっと労働で。しかも「仕事をしないとご飯をあげないよ」と言われているので、仕事をしないといけない。体調も悪いけれど、それも聞き入れられない。言葉もちょっと違うし、連れてこられているから自分では帰れないし、どうしようもないという状態で。私たちがインタビューの最後に「何か私たちに聞きたいことある?言いたいことある?」と聞いた時に、「今すぐここを抜け出したい」と言ったんです。それが本当にその時のこの子の気持ちだなと思って、これは何とかしなければならないと、そこからいろんな人に働きかけ、警察も動員し、結局その子達を救出しました。私たちが勝手に連れていくと別の誘拐みたいになってしまうので。そういう風に「誰かに何とかして欲しいんだけど、自分ではどうしようもない」という状況にいる子って多分すごくたくさんいて。そういう声がどこにも届かなくて、だんだんそのうちに本人が「これしかないんだ、しょうがないんだ」と諦めていく、そういう構造なのかなと思います。

産業構造の上に私たちの生活があると思うと、全く無意識でいてはいけません
堀:そういう産業構造の上に私たちの生活が、豊かさを享受する生活があると思うと、全く無意識でいてはいけませんよね。
岩附:そうですね。普段目にしないので、そこまで深く考えられないと思うんですけど、ものをたどって行くとそういう現場があるということは知って欲しいです。しょうがないではなくて、やっぱりそこに何かできることがあると思っていて。今企業も自分たちのサプライチェーンの中にそういう課題があるということに気づいて行動を起こそうとしているので、そういう風に行動を起こしている企業を消費者も評価するということもできますし、そういう商品を選ぶということもできます。全部はできなくても、企業が何か変化を起こしたいと思っても支援がないとなかなか踏み切れないので。みんなが消費者なので、その一人一人ができることっていうのが必ずあると思います。一人一人が現地に行って助けることはできなくても、ACEや児童労働ネットワークに加盟している団体もそれぞれいろんな支援をやっていますから、そういった団体を応援してもらうというのも一つの方法だと思います。
堀:児童労働という言葉が少しずつ社会に認知はされるようになって。フェアトレードとかエシカルとか、ああいう言葉もたびたびメディアで登場するようになりましたけども、実際にそういう中で子供たちが健康被害にも晒されて、人権の問題ももちろんあってということがまだまだ伝わっていないというのも、変えていかなければいけないですよね。
岩附:そうですね。自分の子供にそれをさせたいかどうかを考えたらいいんだと思うんです。自分の子供にさせたくないことは他の子供にもさせたくないと思うんですよね。児童労働の話をするとたまに、「貧しいんだからしょうがないじゃないか、働かなきゃいけないんだから」という風におっしゃる方がいるんですけど、そう言ってしまうと何も解決しなくて。働かされている親御さん自身も働かせたくているわけではなくて他に選択肢がない、もうこれしかないからしょうがないんだという状態なんですよね。
そこをなんとかうまくやっていけるように考えていこうよと話しかけるのが、私たちが現地でやっているプロジェクトです。そういう社会の雰囲気というのが必要だろうなと思っていて。児童労働を他人事ではなくてもう少し身近に感じてもらえるように私たちも努力が必要ですし、自分の子供にさせたくないことは他の世界の子供たちもしてたら「あれなんでかな、どうしてこうなっちゃうんだろな、どうしたらいいんだろな」というのを一緒に考えていってもらえたらいいなと思います。
身近に存在する児童労働が関わっている製品
堀:チョコレートや繊維の話がありましたけど、私たちは知らない間に、児童労働が大本になったものを使っていたりするということでしょうか?
岩附:そうですね。実は今、児童労働によるものが何かっていうのが一つ一つは特定が難しいという状況がありまして。全部は追跡はできないと。アメリカ政府が出しているレポートがあって、「どの国のどういう製品は児童労働とか強制労働がありますよ」というレポートはあるんですね。どの国にどういう課題が大きいのかというのはある程度特定されていて。

なかなか特定しづらいというのが現状です
「この国のどこどこのバナナは児童労働や強制労働があります」といのは公開情報としてあります。ただ、個別の企業のこの商品の原料がどうなのかということまで言われると、なかなかそこまでは特定しづらいというのが現状です。
でも、特定しづらいということは「みんなが関係者」ということなんですね。それは、企業も関係者だし消費者も関係者だし、みんな児童労働があるビジネスのサイクルの中に入っているので。そこに入っているということは、みんなの意識が変われば、その原料を作っている現場にもアプローチしていけるんじゃないかなと思っていて。ACEでは、その消費者や企業へのアプローチというのも重視して、サプライチェーン(供給連鎖)の児童労働がなくなって行くように企業がきちんと取り組むこと、そして消費者が児童労働や強制労働がないと言われる商品、フェアトレードだったり、そういうものを好んで買って行くようになることも活動の中で進めています。
堀:全体の規模感としては、私たちが普段いろんなものを買う時に児童労働が関わっているだろうなというものはどれくらいの規模感になるんでしょうか?
岩附:それは難しいですね。国内で完全に初めから終わりまで作られたものは、その可能性は極端に少ないと言えるとは思うんですが。やはり可能性が高いのは、原料が主に途上国で作られているもの。原料といっても、例えばパーム油とかですと、スナック菓子にも入っているし、洗剤にも入っているし、チョコレートにも入っているし。いろんなものに入っているんですね。そういう意味ではすごく特定はしづらいんですけど。多分1人の人が1日、朝食を食べてタオルで顔を拭いて、コーヒーを飲んでと考えると、1日の中で児童労働が関わっているかもしれないものを使わない日って逆にないんじゃないかって思うような気がします。
堀:先進的な、そういう問題に前向きな企業というのはどのような企業があるんですか?グローバル、国内含めて。
岩附:ACEは森永製菓さんとの連携をやっていて。カカオ産業というのは2000年くらいから問題が指摘されて、世界の名だたるチョコレートを作っているブランドはかなり積極的にいろんな取り組みを始めてはいます。ただそれだけやっても解決ができていないという現状もあるんですけど、意識は持っているなと思います。先ほどいくつか言及したものでいうと、パーム油も認証制度があって、そこから買っている企業も結構多いんですけど、認証制度自体の精度にちょっと問題があったりして、なかなかそれも難しいなあという感じですね。
堀:問題というのは?
岩附:認証を受けている現場で強制労働がありましたというレポートが上がってきたりとか。仕組みを作るだけじゃなくて、その仕組みをいかにきちんと機能させるかというのもすごく問われていると思います。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」ができたので、SDGsに沿った形で企業さんも取り組みを始めているところもあります。
2025年までに児童労働ゼロを目指して
堀:今度のその会議は具体的にどういう話し合いが行われて、何がポイントになって、重要な点は何なのか?

第4回児童労働世界会議
岩附:(今年)11月に開催される第4回児童労働世界会議なんですけど、これは「2025年までに児童労働をなくす」という目標が、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の「8.7」に入ってから初めての会議になるんです。2025年という目標が決まってしまっているので、「そこまでにどうやってこれから取り組んでいくのか」、「何が今必要なのか」というのが話し合われる会議だと思っています。児童労働の現状というのも、4年に1度国際的な統計が発表になりますので、9月に新しい数字が発表になり、11月にその会議が行われて。
世界で企業なNGOや政府や労働組合や国際機関、そういう人たちがどのように連携して取り組んでいくといいのか」、「世界でうまくいっていることは何なのか」ということを共有してさらに児童労働がなくなるようにスピードを加速化させていくのがその会議なんですね。
堀:岩附さんは前回も参加されたそうですが、どのような様子でしたか?
岩附:4年前の第3回会議にも参加したんですけど、その時には世界150カ国以上から1300人が参加していたんです。凄い会議で。中でも印象的だったのは、ブラジルが主催国だったんですけど、児童労働をなくすのにすごく積極的な政府だったんです。「キャッシュトランスファープログラム」と言うもので、貧困家庭に現金を支給して、その条件が、「子供が学校に行くこと」と「ワクチンを打つこと」ということ。それで児童労働がかなり減ったという実績があったんです。そのこと自体は知ってはいたんですけど、その会議でルーラ元大統領が来ていて。スピーチで、ルーラ元大統領も児童労働者だったんだというんです。「僕はそれで怪我をして小指がないんです。」と言って見せて、本当に小指がないんです。子供の時に働いていた時に指をなくしたと。「兄弟が多くてみんなでテーブルを囲んでもテーブルの上に食べるものが何もないというのがすごく悲しかったので、大統領になった日に決意したのは飢餓をなくすということです」とおっしゃっていて。ブラジルがそういうことができたのは、もちろんその時に経済発展していて新たな税を課税できたというのもあるんですけど、強い誰かの思い、政治家の大統領のコミットメントがあって、政府としても全力で取り組んでいったというのがあるんだなと思って。そういうことってなかなか報告書を読んでいるだけではわからないんですよね。そういうのを考えると、やっぱりこういう課題を進めて行く上で、政治を司る人たちの中でそういう風にコミットしてくれる人が必要なんだなと思いました。
堀:政府との連携は重要ですよね。
岩附:他のアルゼンチンとかの事例が発表された時も、アルゼンチンは国内の児童労働委員会というのを作って、そこにマルチセクターで参加をしていて、企業もNGOも政府も。しかも企業の人たちだけが入っている児童労働撤廃のためのグループもできていて。その企業の方がプレゼンしていたんですけど、その方が「児童労働がなくなるように政策を推進することで一番恩恵を受けるのは企業です」とおっしゃったんです。それもまた目から鱗で。企業の人は利益が大事なので、安い方がいいみたいなマインドがあるのかなと思うかもしれないですけど、「いや、これは企業にとってもメリットなんです」という風におっしゃっていて。企業として児童労働が自分たちの産業内にあること自体がその産業の持続可能性にも大きな影響を与えるという認識があるのと、やっぱり買う側の人たちの意識が人権とか労働の意識が高まって来たという背景もあるんですね。世界の会議に行くと、こういう取り組み方でこういう風に連携して取り組みが進んでいるんだなというのがよくわかって。
堀:連携でいうと、日本の状況はどうでしょう?
岩附:日本ってまだそれがすごく少ないんですね。「児童労働ネットワーク」も、もともと児童労働は複雑な問題で一つのセクターだけでは解決できないから、企業も政府もみんなで解決でいるような協業を促すことが必要だという認識から始まっているんですけど。なかなかみんなで揃ってというのは難しくて、ただ児童労働ネットワークでの働きかけによって、前回、世界会議が終わった後に日本で外務省と厚生労働省主催で意見交換会というのが開かれて。そこに関係省庁とJICAと国際機関とNGOの代表が集まって、私からも会議の報告をさせていただけて。「世界にそういう動きがあるんだ」ということ自体を政府側の方々も知る機会が少ないので。すごく熱心な政府というのもあるんですけど、例えばオランダ政府とかイギリスとか、比較的熱心なんですけど。なかなか日本はそういう国際会議の場にも、児童労働の分野ではなかなかコミットメント自体がなかなか高くないというのがあって。
でも他の国のNGOと政府の連携の仕方とかを見てみると、本当に協力しあってやっているんですよね。だからもっと協力していけるように日本でもやっていかなくちゃいけないな、オールジャパンで日本としてもやっていきましょうみたいな形を作っていけると本当はいいんだけどなというのはすごく思いますね。
日本企業にも求められるビジネスでの人権意識
堀:日本の国としてそのあたりのコミットメントが弱いというのは、日本の企業が「児童労働には関係がないよ」ということなのか、何が要因なんでしょうか?関係がないことは無いですよね。

日本の国としてそのあたりのコミットメントが弱いのはなぜか
岩附:すごくあると思います。企業の方の方がそういう危機感というのが強いですね。政府の方の方が、まだ日本の企業のビジネスという中での人権分野についてはまだ取り組もうと始めたばかりという感じだと思います。国連の「ビジネスと人権指導原則」というがありまして、2011年にできたんですけど。「国は人権を保護する義務がある、企業は人権を尊重する義務がある、そしてその救済メカニズムが必要」という3本柱になっていて。その人権をビジネスセクターでどういう風に保証していくかということの国内行動計画というのを各国が作ることになっているんですけど、日本はまだできていなくて。昨年の11月に「作ります」という宣言を国際会議でされたので、今取り組みが始まっていて。関係省庁が集まって会議をするということが始まっているみたいなんですけど。そういう会議を経て、(海外では)実はいろんな法律ができていっているんですね。
堀:例えばどんな法律ができたんですか?
岩附:「ビジネスと人権の指導原則」から、「英国現代奴隷法」という法律ができていて。英国現代奴隷法の中の一つに、「企業がサプライチェーン(供給連鎖)の中に人権問題があるかどうかのdue diligence(精査)を行なって、その情報公開をしなければならない」という情報公開が義務付けられている法律があるんです。それを監視するのは誰かというと、「それはNGOセクターがやってくれたらいい」と。政府は情報公開だけを義務付けしますという法律なんですけど、すごくいいなと思っていて。due diligence(精査)をしたかどうかを報告するので、「やってません」という報告をしようと思えばできるんです。でもそしたらNGOから必ず何か言われるので、そういう緊張感をうまく使ったバランスのとれた法律だなと思っていて。そういう仕組みが、実はイギリスだけじゃなくて、今アメリカでもフランスでもオランダでもどんどんできているんですよ。いわゆる先進国の中で。日本はまだそういうのが全くなくて。そういう意味では一つの省庁だけで取り扱える課題じゃないというのも課題で、前に進めづらいのかなと思います。
堀:それはある種、人権をどうするかという話もさることながら、産業としても持続可能な開発、発展を維持するためにもこういう改革が必要なんだという風に目が向いているからですよね。
岩附:そうだと思います。Sustainability(持続可能性)をそういう風に考えていると思いますし、逆にそういうルールをどんどん作っていっているのが欧州だと思いますね。
堀:それに(日本は)無警戒というか。
岩附:そうなんです。困るのは日本の中小企業さんで。なぜかというと、欧州の取引先から日本の大企業に来て、日本の大企業からサプライチェーン(供給連鎖)である日本の中小企業のところに来て、「あなたのところ児童労働ないですよね」と急に言われるという現象が今起きていて。
堀:もう起きている?
岩附:そうなんです。そういう意味では日本もサプライヤー(部品製造業者)でもあるんですよね。買うだけじゃなくて、サプライヤー(部品製造業者)でもあるので、人権を守るということが実はすごくビジネスの中で重要になっていること自体に無自覚、あまりにもというのがありますね。それで今どうしていいかわからなくて困っているというのが現状だと思いますね。
堀:実際、きちんと調査した結果、証拠としてうちは関わっていませんということを出せないと取引というのはできなくなるんですか?
岩附:契約の中にそれを入れているところもあります。それは契約次第だともいますが、契約によってはそれを入れているというのもあると思います。
若者とアルゼンチンでの国際会議へ
堀:今回資金として一番必要としているのは?
岩附:今回アルゼンチンで国際会議があるので、そこへ4人で行きたいと思っています。その渡航費というのが一番クラウドファンディングを必要としている理由です。児童労働ネットワークは実は本当に小さな組織で。
それぞれの団体さんが会員になってくださって運営しているというネットワークなので、もともと財源がなくて。4人も地球の裏側のアルゼンチンに派遣するというお金がないということ。また、これまで1回、2回、3回と一人だけずっと行っていたんですけど、一人だと分科会に別れた時に同時並行で行われるので全部のお話聞けないんです。なので複数人でいきたいということ。さらに、今回行く予定をしているのが、私と児童労働ネットワークの代表の堀内さんと、ACEで児童労働ネットワークの事務局をしている杉山と、もう一人若者。
堀:若者も連れていくんですね。
岩附:こういう国際会議に一緒に若い人を連れて行きたいという気持ちがあって。振り返ってみると、自分自身も20代の若い時にアジア開発銀行の総会でスピーチをすることになって、冷や汗かきながらだったんですけど、機会があったことで、「そういう会議が何なのか」とか、「何が決まるのか」とか、「そこでどういう風に動くことが大切なのか」とか、だんだんとわかってくるんですよね。機会がないと本当にわからないので。今から若い人たちにそういう機会を作らせてもらって、世界の動きに遅れがちな日本をもうちょっと一緒についていけるようにしたいという思いがあります。元児童労働者の子供達とか若い子たちが活躍しているんですよ。
堀:世界で?
岩附:そうなんです、私たち自身も、学生の時に始まって今年で20年で。うちの事務局長の白木とか、「あなたは児童労働者なの?」と間違われながら活動していたので、同じ世代の人たちが今どんな風に頑張っているのかっていうのを見てもらうのもいいんじゃないかな、そしてそういう人たちとつながれるといいなと思っていて。若い人たちと一緒に行って、会議でいろんな人の話を聞いて繋がって、今後の連携を模索していくということと、若い人たちと一緒にその場を体感しながらいろんなものを日本に持ち帰って、日本の会員団体さんを含め共有して行きたいなと思っています。

若者にも広い世界を見てもらえたらいいなと思います
堀:ちなみに、その若者というのはもう決まっているんですか?
岩附:若者は、フリー・ザ・チルドレンジャパンさんから選出していただくんですけど、これからフリー・ザ・チルドレンジャパンさんが合宿をされるのでその中で決まっていくと思います。
堀:何才くらいの子でしょうか?
岩附:中高生かな。10代の子だと思います。
堀:次の世代も育成しながら。
岩附:そうですね、日本にいると若干世界が狭くなってしまうので、広い世界を見てもらえたらいいなと思います。
児童労働ネットワーク(CL-Net)については「GARDEN」当該記事へ
GARDEN Journarismの関連記事
【社会課題解決支援】余命2ヶ月と宣告されたデザイナーと、仲間たちがつくる未来 リディラバが新たなメディアを立ち上げへ
【子ども支援】子どもが途上国を取材し伝える「友情のレポーター」で子どもの成長のチャンスを手助けしたい
【子どもの貧困支援】ふるさと納税を活用した『こども宅食』がスタート 自治体・NPO・企業が子どもの貧困解決に向けて協働
http://toyokeizai.net/articles/-/182965


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法

▲上へ      ★阿修羅♪ > 経世済民122掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
経世済民122掲示板  
次へ