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銀行の資本増強は破綻回避に十分か?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170802-00010001-nrin-bus_all
8/2(水) 9:18配信 NRI NRI研究員の時事解説
<要旨>
グローバル金融危機以降の金融規制・監督強化の結果、主要銀行の資本は、量的には明らかに増強された。しかしローレンス・サマーズ(ハーバード大学教授)氏の分析では、主要銀行に関する各種リスク指標は、グローバル金融危機後に逆に悪化しており、規制上の自己資本増強は、銀行の破綻確率の低下、金融システムの頑健性の高まりにかならずしも寄与していないことが示唆されている。その理由として、低金利下での低収益環境などを映して銀行の企業価値に対する市場の評価が低下した結果、資産に対して十分な資本を有していないと市場が認識している可能性があることが指摘されている。さらに同氏は、金融規制の強化こそが、銀行の将来的な収益力の低下を市場に認識させた一因でもあると示唆しているのである。
■自己資本増強と銀行破綻回避
グローバル金融危機以降、国際的に、あるいは各国ごとに進められてきた金融規制・監督強化の結果、主要銀行の資本は、量的には明らかに増強された。特に大手銀行の資本は大幅に増強され、レバレッジ比率も低下した。しかしこれが銀行の破綻リスクを顕著に低下させたのか、銀行危機を回避するのに十分なのか、という点について、改めて疑問が呈されている。
最近では、ローレンス・サマーズ(ハーバード大学教授)氏が2017年5月のアトランタ連銀主催のコンファレンスで行った講演(注1)が、こうした議論に一石を投じるものとなった(この講演は、2016年にブルッキングス研究所で同氏が共著で発表したペーパー(注2)に基づいている)。
■規制上の自己資本比率と破綻確率
主要中央銀行は、グローバル金融危機以降に主要銀行の資本がより増強されたことを、銀行監督の成果であることを強調している。しかし”Haldane and Madouros (2012)” の研究によると、過去の景気後退時に破綻した銀行と生き残った銀行の平均的な規制上の自己資本比率規制はともに8%台であり、自己資本比率と破綻確率との間には、統計上の重要な違いは見出されない、という意外な分析結果が示された。
■市場のリスク指標を検証
以上の議論を踏まえたうえでサマーズ氏は、主要銀行に関する各種リスク指標を検証している。それは、「標準的な金融論に照らすと、グローバル規制上の自己資本比率の大幅上昇が、破綻リスクを低下させているのであれば、それは市場のリスク指標の低下に反映されているはずである」、という問題意識に基づいている。ここで注目された市場のリスク指標とは、(1)株価のボラティリティ、(2)インプライド・ボラティリティ(オプション市場から算出される将来のボラティリティ見通し)、(3)オプションデルタ(原資産の価格変動に対するプレミアムの変動)、(4)ベータ(ボラティリティの市場平均比)、(5)CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)スプレッド、(6)株価収益率(PER)、(7)優先株価の利回り、の7つであり、これを米国の主要6行について調査している。
その検証結果によると、驚くことに、市場のリスク指標の多くは、グローバル金融危機以降に低下するどころか、逆に悪化したのである。
■3つの仮説
このような常識に反する検証結果について、サマーズ氏は3つの仮説を示している。第1は、計測ミスである。金融危機前の各指標は、実際のリスクを過小評価していた一方、グローバル金融危機後は精度が高まったことから、見かけ上のリスクが高まったように見えた可能性が考えられる。
第2は、規制上の自己資本に関する計測上の問題である。規制上十分な自己資本を有していたリーマン・ブラザーズ証券が破綻したように、規制上の自己資本が実際の自己資本の経済価値から乖離している可能性がある。例えば、規制上は低リスクであるソブリン国債を、市場はリスク資産と認識している、等の可能性がある。
第3は、銀行の将来的な収益力の低下見通しが、市場における自己資本の評価を低下させている可能性である。グローバル金融危機以降、銀行のレバレッジは低下したものの、低金利下での低収益環境などを映して銀行の企業価値に対する市場の評価が低下した結果、資産に対して十分な資本を有していないと市場が認識している可能性がある。
サマーズ氏は、このうち第3の考え方が分析結果を最もよく説明しているとの評価を下している。これが正しいとすれば、グローバル金融危機以降の規制上の自己資本増強は、銀行の破綻確率の低下、金融システムの頑健性の高まりに、かならずしも寄与していないことになる。さらに、金融規制の強化こそが、銀行の将来的な収益力の低下を市場に認識させた一因でもあるとしている。
■政策へのインプリケーション
以上の考察を踏まえ、政策へのインプリケーションとしてサマーズ氏は、政策担当者は、資本の価値が経済・金融環境の変化によって常に大きく変化しうるという点を認識する必要があるとしている。また、劣化した資産を抱える銀行は、収益力の低下による資本価値の評価低下によって、流動性の問題がなくても破綻する可能性はあることを、理解する必要があると主張している。
行き過ぎた金融規制が、銀行の将来的な収益力の低下、自己資本の価値を低下させることを通じて、将来的には金融システムをより不安定化させてしまうという皮肉な事態が生じる可能性も、サマーズ氏は強く意識しているのだろう。
(注1)https://www.frbatlanta.org/-/media/documents/news/conferences/2017/0507-financial-markets-conference/presentations/summers.pdf
(注2“Have” big banks gotten safer?”, Natasha Sarin and Lawrence H. SummersFall 2016, (https://www.brookings.edu/bpea-articles/have-big-banks-gotten-safer/)
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト)
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この記事は、NRI金融ITソリューションサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/category/kiuchi.html)に掲載されたものです。
木内 登英
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