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総務省がまとめた「あまりにバラ色」の白書に疑問アリ 驚きの急成長シナリオ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52441
2017.08.01 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■「GDPが725兆円に拡大」
にわかに脚光を浴びる「第4次産業革命」は、はたして日本復活の福音になるのだろうか。
総務省は7月28日に発表した情報通信白書(2017年版)で、第4次産業革命が「経済成長を年率2.4%押し上げ、2030年の実質GDP(国内総生産)は、内閣府が試算した数値を132兆円上回る725兆円に膨らむ」という威勢の良い将来展望を明らかにした。
同白書によると、高成長の原動力となる第4次産業革命は、あらゆる機器がネットワークにつながるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)とAI(人工知能)の普及によってもたらされる。
関連する設備や機器への直接的な投資だけでなく、専門的な人材の雇用を増やしたり、日本企業が積極的にM&A(企業の合併・買収)に乗り出す効果が期待され、企業部門の生産性の向上や、家計部門の収入と消費の拡大が見込まれると、バラ色の未来を描き出している。
本当に、そんなバラ色のシナリオが実現するのだろうか?
人口減少が経済成長を阻害するばかりか、社会保障制度の破たんにもつながりかねないいまの日本にあって、もし本当にそのようなシナリオが実現できるなら、数少ない希望がもてる福音と言っていいだろう。そこで今回は、バラ色のシナリオの実現性と課題を考えてみたい。
■「2030年に6300万人の雇用実現」?
まず、情報通信白書の内容を紹介しよう。第4次産業革命を経て、日本経済がどう成長するかを試算したことが、白書の目玉の一つだ。
内閣府の中長期経済予測は、2025年までの名目値しかないため、2030年まで延長して実質値に置き換え、それを基に、第4次産業革命に向けた日本企業の取り組みがあまり進まないケース(べースシナリオ)と、第4次産業革命に向けた取り組みが進展するケース(経済成長シナリオ)の2つを計算した。
その結果、2016年に522兆円だった日本の実質GDPが、2030年にはベースシナリオで593兆円、経済成長シナリオでは725兆円にそれぞれ達すると試算された。
ここで言う第4次産業革命は、IoTを通じて収集した膨大なデータをAIで分析して、生産性を向上させることを指す。
すでに一部の企業では、スマートフォンや各種のセンサーを使って、利用者動向を予測してタクシーを効率的に配車するとか、熟練工の判断に頼っていた製鉄過程をAIに置き換えるといった試みが始まっている。
海外ではすでにスマートフォンを活用したタクシー配車サービスが広がっている photo by gettyimages
さまざまな企業がそうした活用の範囲を広げれば、生産性が飛躍的に向上するというのが白書の見立てだ。
ベースシナリオでは、第4次産業革命を積極的に取り込む企業が全体の6%(2016年)から18%に増えるだけだが、経済成長シナリオでは過半数(51%)を占めるという前提を置いた。
第4次産業革命は、企業による関連設備や機器への投資だけでなく、利活用に必要なデータ通信のトラフィックの増加、アプリケーション需要の拡大、M&Aの活発化などの波及効果もあり、実質GDPを大きく押し上げるという。
第4次産業革命に積極的に取り組む企業が増えれば、その分野の専門技術を身につけた人材が必要になり、就業者数の減少に歯止めがかかるとしている。そのため、2016年の就業者数は6440万人だが、ベースシナリオでは2030年の就業人口が5561万人と大きく減るのに対し、経済成長シナリオでは2030年に6300万人と高い水準の雇用を確保できるという。
また、第4次産業革命は、生産性の向上によって人手不足を解消する一方で、賃金を増加させたり、消費を拡大して新需要を創出する効果も大きいとされている。
■根拠は、あまりに乏しい
だが、情報通信白書の試算を鵜呑みにすることはできない。
というのは、総務省のアンケート調査によると、第4次産業革命の経営への取り込みに熱心な企業が全体の6%(2016年)に過ぎないのに、15年後の2030年には、そうした企業がべースシナリオで現行の3倍強に、経済成長シナリオでは実に8.5倍に増えるという根拠があまりにも薄弱だからだ。
要するに、実現性の乏しい前提を置いて行った試算としか評価できないのである。
実際に第4次産業革命を進めるには、既存のビジネスモデルをキレイさっぱり捨てないと、既存のビジネスモデルと新たなビジネスモデルが併存して二重投資になるため、肝心の生産性が向上しない――というのが、専門家のあいだで半ば定説になっている見方である。
JR東海は対人サービス中心の「みどりの窓口」(写真)の廃止を視野に入れているという photo by gettyimages
たとえば、JR東海は、スマートフォンなどを活用した東海道新幹線チケットのネット販売システムの普及に熱心に取り組んでいるが、各駅に置く「みどりの窓口」という既存システムの廃止を視野に入れているとされているからこそ、専門家のあいだで第4次産業革命の先駆けとして評価が高いのである。
一方、多くの企業は既存のシステムを捨てる決断ができず、人手不足のなかで第4次産業革命に取り組めないでいる。情報通信白書は、そうした事実を無視した試算、つまり“絵に描いた餅”のようなものだ。
さらに、情報通信白書が試算に使った産業連関表を用いる計算法は、既存の産業がそのまま温存されることを前提にしており、産業構造そのものが大きく変わるとされる第4次産業革命の経済予測に用いるのが適当な手法とは思えない。
■内閣府と経産省は「危機感」があるのに
そもそも「白書」とは、中央省庁が広く国民に周知するために編集するものだ。
その主な目的は、時々の政治や社会、経済の実態のほか、省庁の施策の現状を分析・報告することにある。それゆえ、実際のケースでは、各省庁がプロパガンダに走り、我田引水の記述が含まれることもある。
そのあたりを踏まえて今年の白書を読むと、見えてくるものがある。
第4次産業革命を取り上げたのは、総務省の情報通信白書だけではない。まるで競うかのように、各省庁が第4次産業革命を取り上げている。たとえば、内閣府は「経済財政白書」で、経済産業省は「通商白書」で、それぞれ第4次産業革命に大きく紙幅を割いている。
しかし面白いことに、この3つの白書は同じテーマを扱いながら、第4次産業革命の取り上げ方に大きな違いがある。
内閣府と経済産業省の白書は、第4次産業革命に秘められた可能性を指摘する一方で、海外の企業に比べて日本企業の取り組みが消極的なこと、特に長い歴史を誇る大企業ほどその傾向が強いことなどに危機感を持ち、日本での実現に向けて両省庁がそれぞれ果たすべき役割や、講ずべき施策に主眼を置いたものとなっている。
たとえば、内閣府の経済財政白書は「少子高齢化・人口減少が進行するなかで、我が国がこうした技術革新に迅速かつ適切に対応できれば、人手不足を克服し、生産性を向上することで、豊かな国民政策を実現できる」としつつ、1990年代と比べて「アメリカやスウェーデンとの生産性格差は拡大」していることを指摘。「官民を挙げて技術革新への対応を充実させていくことが重要である」としている。
また、経済産業省の通商白書は、第4次産業革命について「我が国がこの世界的潮流に乗り遅れれば、グローバル経済における競争力を失うだけでなく、社会的・構造的課題の解決のチャンスを失い、我が国社会の持続可能性自体も危うくする可能性がある」と強い危機感を示したうえで、あるべき政策の方向を検証するという書きぶりだ。
■そろそろ現実と向き合おう
これに対して、総務省の白書は、前述のように第4次産業革命の実現の困難さを直視せず、実現したらバラ色の未来が開けるという描写に終始した感が強い。
筆者は1990年代前半に、新聞記者として旧郵政省クラブに常駐して以来、毎年、情報通信白書を丹念にフォローしてきた。その経験から言えるのは、バラ色の夢の描写に偏りがちなのは当時から変わらぬ特色、ということだ。
当時の郵政省幹部は、「郵政3事業の現業官庁から、通信・放送分野の政策官庁に脱皮するには、バラ色の夢を掲げて産業界との関係作りから始める以外に手はない」と内幕を明かしていた。
あれからもう20数年の月日が流れた。そろそろ編集方針を抜本的に見直して、他の主要な白書並みに、我が国が抱える課題と真摯に向かい合うような白書作りに転換してもよいのではないだろうか。それが、これから第4次産業革命を取り込もうとする企業にとっても、大きな支えになっていくことだろう。
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