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“油断”か“あきらめ”か、失い続ける日本
進む英語力の崩壊、国際化と逆行
2017年7月25日(火)
和田 秀樹
3か月に一度、精神分析の勉強のためにアメリカに行っている。学者主導で旧態依然とした日本の精神分析と比べて、アメリカでは、それで「飯を食っている」人が多いため、患者たちの変化に合わせて、あるいは、認知行動療法の人気に対抗すべく、精神分析の理論や実践がフレキシブルに変わる。それを習いに、尊敬できる先生のもとに勉強に通っているのだ。
余談になるが、その日本の精神分析学会から、学会の方針などを決める運営委員に推薦され、立候補を勧める手紙が来た。多少は現状に危機感を感じて、最近の動向を知る気になったのかと立候補したら、ものの見事に最下位で落選だった。1位と2位の人は私の10倍以上の票を取っていたが、留学経験も英文の論文の実績もない人だった。今回立候補した中で英文の査読論文(編集委員がジャッジして採用を決める論文)の実績がある精神科医(英文の論文のある心理士の人も立候補していたが、その人は当選していた)は、私と京都大学の岡野憲一郎先生(日本で私が信頼できる数少ない精神分析医である)だけだったが、岡野氏の地元の近畿地区で最下位落選(関東地区で落選した私の4倍くらいの票を取ってはいたが)だった。日本というのは学会であっても、新しいものや旧来の理論を否定されるのには相当な抵抗があるようだ。
日本製トイレをしのぐアメリカの公衆トイレ
トイレやカーナビ、自動車。日本が強いとされていた産業分野が失われつつある。(©Puwadol Jaturawutthichai-123RF)
精神分析の勉強のためにアメリカに行くと、その度に発見がある(私が気付くのだって少し遅れるが、日本の多くの人は気付いていないはずだ)。
今回の発見は、トイレとラジオとカーナビだ。
トイレについては、ウォッシュレットが世界中で売れ始めたこともあって、日本は最先端と考えられている。確かにアメリカではかなりいいホテルに泊まってもウォッシュレットになっていないし、色々なところのトイレは日本のほうが格段にきれいだ。そもそも公衆便所がアメリカは少なすぎて、私のように歳を取って尿が近くなった人間にはつらい。
しかし、その公衆便所の男性用トイレが、かなりの割合で「ウォーターフリーテクノロジー」というものになっている。水で流さないのに臭くならないし、汚れもつかないという便器である。水が少ない国が多い中、資源の有効利用という点では高く評価できるし、恐らく小便器の分野では日本製より世界的にずっと売れることだろう。
的確な無駄遣いの対策という点では、以前はペーパータオルが自動で出てくる機械が手洗いに設置されていることが多かったが、今はダイソンの手の乾燥機がかなり入っていた。ダイソンはいろいろな分野で積極経営をやっているようで驚かされた。
自動車向けラジオやカーナビアプリもアメリカで進化
続いてラジオについてだが、私はジャズが好きで、アメリカで車を借りると普段はFM専門局にチューンする。選曲もよく、私のお気に入りの局があるのだが、半径80キロくらいがエリアのようで、ちょっと遠出をすると聞こえなくなってしまうのが難点だった。一方、今回借りた車ではFM局の受信機能がなかったので、仕方がなく「SAT Radio」というのを聞いてみた。SATというのはsatelliteの略のようで、衛星を使った自動車向けのラジオ放送のことなのだが、とても使い勝手がいい。
ジャズだけでも5、6局あり、その中から好きなものを選べる。衛星放送だけあって、今回は500キロくらい遠出をしたのだが、まったく同じ音質でどこでも聞ける(トンネルに入ると聞こえないが)。途中で聞こえなくなって局を変える必要がないのだ。これなら、広大なアメリカのドライバーにも受けるだろう。
最後は、カーナビについてだ。私はいつもHertzでレンタカーを予約しているのだが、今回から電話予約では、カーナビ付きの車を扱わなくなった(私の借りるクラスだけかもしれないが)という話だった(後述の渋滞情報付きのカーナビアプリを使える機器を貸すシステムに変わったようだ)。
実際借りてみると、やはりカーナビはついていない。遠出の予定があったので、目の前が真っ暗になったが、以前に渋滞を避けるのに便利と聞いて入れたスマホ向けの「Waze」というカーナビアプリを使ってみた。これが予想外に優れもので、とんでもない裏道を教えてくれる(渋滞を避けるばかりか、移動時間の短縮になる信号のない道まで教えてくれる)。遠出をした際に教えてくれた思いもよらない道はものすごく殺風景だったが、確かに時間は早かった。
数年前は、アメリカのカーナビには渋滞情報がなかった(今でもレンタカーのカーナビは渋滞情報がついていない)ので、都市部では不便だった。高速道路はタダとは言え混むことが多いのだが、カーナビでは早く着ける一般道も教えてくれない。アメリカはダメだなと思っていたら、ITの時代になるとGPSによる位置情報の精度の良さを活かし、SNSと連携してリアルタイムの投稿を渋滞情報に反映する機能を持つアプリが登場した。そのため、交通取り締まりや何らかの突発的な渋滞まですぐに表示され、予想到着時間に反映される。このシステムが提供されたことで、最も早く到着するルートの割り出しや到着予想時刻の計算も恐ろしく正確になっている。日本の官製の渋滞情報は主要道路しか使えないので、裏道も混んでいるときには役に立たないが、アメリカ企業はその問題もクリアした。
日本ではGoogleが似たような機能を提供するアプリを提供しているが、まだ情報提供者が少ないのか、普及が遅れているのか、日本では既存のカーナビを使う人が多いように見える。私の経験では、Googleのアプリの到着予測時刻はそんなにあてにならないと感じるが、それでも日本の旧来のカーナビよりはるかに使い勝手がいい。日本のカーナビは世界一とされていたが、地元の日本でも、アメリカの会社に駆逐されるのは時間の問題だろう。
日本が勝っていると思って油断していると、いろいろな分野で知らないうちに抜かれていることが多いことをまさに痛感した。
国際競争から脱落しつつある日本
実は、この出国の直前に元経産省の官僚の古賀茂明氏が書いた、安倍政権の戦略ミスで日本が世界で唯一と言っていいくらいEV化で出遅れている、という記事を読んでいた。
トヨタ自動車ですら水素自動車にこだわったために、本格的なEV発売は2020年くらいになる見通しで、世界の大手メーカーで最後尾の状況になってしまったというのに、EVの技術提携のために買っていたテスラ株を全部売ってしまうことになったというのだ。
これを古賀氏は安倍政権と経産省の戦略ミスだとしているが、その可能性は十分ある。通産省であれば、日本の産業の方向性を官僚が引っ張っていったとされる(実はそうでもなく民間が優秀だったという説もあるが)が、今は内閣人事局が人事権を握るため、政権に気に入られるような無難な政策しか打ち出せない。そもそも、マスコミの官僚たたきで待遇が悪くなっている上、政治家(政権)に忖度しないと出世できないので、優秀な人材はバカバカしくて外資系企業などに流れているという話も聞く。
ただ、私の見るところ、アベノミクスの最大の欠点は未来志向でないことだ。
円安は旧態依然とした輸出産業を助けたが、逆に円高でも勝負できる産業の創生には邪魔になった。テスラにしても、当初は10万ドルもする車を出していた。新しいものなら高くても買うはずだという気概を何よりも評価する。円安歓迎というのは、逆にいうと高いと売れない、安くしないと買ってもらえないというマインドの裏返しだからだ。日本だって、ゲームやアニメ、医療なら1ドル50円でも勝負できる。円安でないと生き残れない産業を切って、円高でも勝てる産業を育成すれば、日本のGDPはドル建てで倍になり得たと私は信じている。
というのは、円安で儲かった輸出産業はろくに設備投資をせずに、内部留保ばかりを増やしている。こんな会社に未来があるとは思えない。金融政策にしても、いくら低金利にしても相変わらず銀行の審査が厳しいので、なかなかベンチャー産業が出てこない。お札を刷って、低金利にすること以上に、政府が保証してベンチャーに金が回るようにしなければ未来志向の金融政策とは言えないだろう。
今の日本では「あきらめ」が蔓延し、人々の上昇志向もかなり低下している印象だ。そのため、なかなか新産業が生まれてこないし、消費マインドも冷え込んでいるから内需もなかなか伸びない。そのうえ、肝心の国際競争力までこの体たらくでは、日本の先行きが本当に不安になる。少なくとも「あきらめ」ていない人への積極支援は必須だろう。
英語力の低下も深刻
諸行無常とはよくいったもので、今、圧倒的に勝っているものでも油断しているとすぐにボロボロになるというのは、平安時代(鎌倉時代というほうが正確かもしれないが)からの戒めである。そのマインドが日本人に欠落してきたのではないだろうか?
円高時代にトヨタが赤字になったことがあるように、日本の自動車産業が世界で勝てているというのも、実は、そろそろ怪しくなっているのかもしれない。それが円安政策で見えなくなっているとしたら、むしろそのほうが危険だ。
勝っていると思って油断していたら、もう世界で勝負できなくなったものはいくらでもある。液晶にしても日本のトップメーカーが台湾の会社に買われるし(その後業績が急回復したのは皮肉だが)、有機ELはアメリカの発明だが、2007年にソニーが世界初の有機ELテレビを発売するなど、日本が圧倒的に強い分野だった。それが今やサムソンに勝てないという。写メールのころは海外の携帯電話は、何の機能もついていないに等しかったが、今はスマホは日本でも日本製のシェアが低い。私は愛国者のつもりで最近日本製のスマホに買い換えたが、タッチパネルのセンサーの性能が悪くて、まともに電話に出られないし、誤作動も前の機種より多い。
勝っているという油断以上に怖いのは、勝っていないのに勝っているという誤解から、もっと負けることだ。
日本人の英語力についての批判は「読み書きはできるが、聴く話すはできない」だったが、そんなことを言っている時代からTOEFLの日本人の平均点は読み書きでもアジアで最低レベルだった。実際、英字新聞を読む大学生は、東大生でもほとんどいなかった。話せないというが、自分の言いたいことを書ける日本人がどれだけいたというのだろうか。
それなのに、読み書きの授業時間を削って、オーラルコミュニケーションなるものの時間を増やした。日本人の英語力崩壊は進み、短期を除く日本からの留学生は減っているのが実情だ。まさに国際化と逆行する結果となったのだ。
日本人は「従来型の学力」は高いが、表現力や創造性に欠けるという理由から、2020年からはすべての国立大学をAO入試化する改革が予定されている。しかし、すでに従来型の学力でも韓国や中国や台湾に抜かれているというデータはいくらでもある。
ノーベル賞の数で、中国や韓国に勝っているつもりになっている人がいるが、それは10〜20年前の日本の研究力が勝っていたという話で、今の勝ちではない。実際に、引用数の多い雑誌に載る論文の数では、中国にはるかに抜かれている。
もうこれ以上の油断をやめないと日本はとんだ後進国になりかねない。少なくとも英語を読む力は負けているという自覚だけはもって、外国の情報に触れ続けるのと、勉強を続けるのが個人でできるサバイバル術と言えるだろう。東大卒であれ、東大教授であれ、油断して大学に入ってから、あるいは教授になってから勉強しなければ、はるかに下の学歴や肩書きの人に負けるのは当然のことなのだから。
このコラムについて
和田秀樹 サバイバルのための思考法
国際化、高齢化が進み、ストレスフルな社会であなたはサバイバルできますか? 厳しい時代を生き抜くアイデアや仕事術、思考法などを幅広く伝授します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/122600095/072100013/?
時間配分を発表、円卓の導入…各社の改革テク
生産性を高め、時短を実現する工夫
2017年7月25日(火)
吉岡 陽、西 雄大
日本企業の多くが実践する働き方改革。残業を禁止し強引に退社させたり、無駄な会議を減らしたりすることに取り組んでいる。だが、生産性が高まる取り組みをせず、勤務時間だけを制限してしまうと、企業の競争力を落としかねない。日経ビジネス7月24日号特集「便乗時短 やってはいけない働き方改革」で、生産性を高めつつ時短の働き方を実現できた事例を紹介したが、まだまだある。
そのひとつが革製品の販売やシェアハウスの運営などを手がけるボーダレス・ジャパン(福岡市)だ。同社のオフィスには大きな机があり、社員はジグザグに座っている。正面に顔を合わせることはないが、すぐに話しかけられる状態を作っている。同社は9時始業で、18時終業が定時。どうしても残業が必要な時は19時まででそれ以降は認めない。
ボーダレス・ジャパンでは朝礼で残業するかどうか決まる。始業時に1人ずつ朝からどの作業に何時間かけるのか発表する。それぞれ「デザイン検討に1時間」「資料作成に1時間30分」といった具合だ。8時間分の業務内容を発表する。
マネージャーがメンバーの発表内容を聞きながら、明日に繰り越したり、時間配分を変えたりする指示を出す。
悩んだらすぐに全員集合
がむしゃらと言っても、8時間無言で働き続けるわけではない。むしろよく話す。業務中に悩みごとができると、周りの人に相談ができる。1回あたり15分ほどで、招集がかかると全員手を止めて一緒に考えなければならない。もし他者からの相談に対応することで、自分の業務が明日へ持ち越しになっても構わないルールになっている。
田口一成社長は「作業スピードはどんなに頑張っても大して上がらない。むしろ、アイデアに行き詰った時に考えている時間と間違えた判断をしてしまい、気づくまでの時間が無駄。短時間でメンバーが集まって話をした方が結果的に時短になる」と話す。
田口社長は新卒でミスミに入社。新規事業の立ち上げなどで毎日深夜まで働いていた。田口社長は「人間は集中できる時間が限られている。長く働いてもダラダラしてしまうだけ」と話す。
2007年の起業時からこうした働き方を取り入れてきた。台湾や韓国など海外事業においても働き方改革を強化していく考えだ。
ボーダレス・ジャパンではジグザグに座って、気軽に話しかけやすい雰囲気を作る(写真撮影:菅敏一)
会議不要の「円卓」職場
ボーダレス・ジャパンのように生産性を高めるにはオフィスレイアウトがカギを握る。人気のフリマアプリを運営するメルカリ(東京都港区)もオフィスレイアウトにこだわっている。2015年に同社のオフィスに取り入れたのが「円卓」だ。
メルカリではフリーアドレス制を採用しており、社員は基本的にオフィスのどの席で仕事をしてもいい。オフィスの2〜3割を、4〜5人が余裕を持って座れる大きめの円卓が占めている。
「円卓には、コミュニケーションを活性化する心理的効果があることが知られている」(心理カウンセラー)。円卓に座る全員の顔が見え、四角い机に比べて丸い形状は気持ちをリラックスさせるという。中華料理が円卓で振る舞われるのもこのためだ。
円卓には、新サービスの開発など、同じプロジェクトに関わるメンバーなどが集まって仕事をする。互いに声がかけやすく、相談したいことがあれば、その場で打ち合わせができる。会議の時間を確保したり、皆でぞろぞろと会議室に移動したりする必要もない。アイデアを思いついたらその場で共有し、問題があればメンバーが互いの知識を持ち寄ってすぐに解決する。
パーティションで区切った個室感覚のオフィスの方が、集中力が高まり仕事の効率が上がると一見思えるが、実際には一人だけで完結する仕事はごく一部。しかも、日々様々な課題やトラブルが発生する。
特に、「『ドッグイヤー』で動いているIT業界では、1つひとつの作業や意思決定のスピードが命だ」(メルカリの掛川紗矢香執行役員)。細かく区切ったオフィスでバラバラに仕事をするよりも、1カ所に集まった方が、仕事の効率は高まる。それがメルカリが出した結論だ。もちろん、静かに1人で集中して作業したい時もある。そういう場合は、周りに人の少ない席やオフィスの端の休憩スペースなど、好きな場所で作業できる。
社員同士のコミュニケーションを重視するメルカリでは、実は在宅勤務も認めていない。IT系の企業では、ITツールを活用して自宅や出先で仕事をする「テレワーク」を認める企業が増えている。それでも同社は、「同じ場所で仕事をする」ことにこだわる。
グループウェアの「Slack」などのITツールを使って効率的に情報共有する工夫をしているが、それではコミュニケーションの「速さ」と「密度」が不十分だという。「何かトラブルが発生した場合、その場で相手の表情や声から緊急性や重要性を判断できたり、アドバイスした内容をどの程度理解しているかも分かる。
在宅ではそうはいかない。育児が忙しい社員もいるが、フレックスタイム制や認可外保育所や病児保育に対する補助を制度を設けて、会社に来やすい環境を整えている」(掛川執行役員)。
生産性向上の手法は各社異なる。ただ共通しているのは、無駄な時間をどう削減するかだ。1人で悩むよりも気軽に話せたり、わざわざ会議を開かずに済んだりすることで残業を抑制している。根本的な残業の原因を断ち切ることで時短となり、成果が出る働き方改革につながっている。
円卓がずらりと並ぶメルカリのオフィス風景(写真撮影:北山宏一)
このコラムについて
便乗時短 やってはいけない働き方改革
「働き方改革は結構だが、会社の活力が落ちている気がしてならない」産業界全体で労働時間の削減が進む中、こんな本音を漏らす経営者が増えている。恐らくその見立ては正しい。残業撲滅のムードに乗じ、やるべき仕事まで減らす“便乗時短”が横行しているからだ。その要因は、多くの企業が進めている働き方改革そのものにある。生産性を上げず、強引に残業を規制するやり方では、社員は仕事を抑制せざるを得ない。まず生産性を上げ、結果として労働時間を減らしていく──。そんな働き方改革を成し遂げるためのタブーなき提言をする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/072000149/072400002/
仕事の無駄は数値でつかむ
サービス業の生産性向上原論
山梨県の健康ランド「クア・アンド・ホテル」の取り組み
2017年7月25日(火)
内藤 耕
山梨県の健康ランドが、4年前から現場改革に取り組んでいる。客数のばらつきに対応するには、どんな働き方ができるか。日々の分析で見つけた無駄を排除し、労働時間を短縮した。
クア・アンド・ホテルが経営する「石和健康ランド」の従業員。働き方を大きく変えた(写真:清水真帆呂、以下同)
人が足りないと思っていたら、実は人が余っていた。人を適正に配置したら、労働時間も削減できた──。クア・アンド・ホテル(甲府市)が運営する「石和健康ランド」(山梨県笛吹市)は今、大きな手応えをつかんでいる。
4年前に人員シフトの見直しをはじめとする現場改革をスタートし、2014年度(14年4月〜15年3月)の総労働時間は前年度比95・0%、15年度(15年4月〜16年3月)は同94・7%に減った。
山梨県の石和温泉駅近くにある施設は中高年に人気
「人が足りません!」
もともと石和健康ランドのシフトは単純だった。
同施設は24時間営業で、風呂・サウナを中心に飲食やカラオケ、マッサージ、散髪、アミューズメント、宿泊など多種多様なサービスを提供する。以前は持ち場ごとに早番、遅番、深夜の3種類のシフトを組んでいた。
例えば、「フロント勤務の早番は、午前○時出社、午後○時退社」「風呂場担当の遅番は午前○時出社、午後○時退社」と固定。団体の予約客があるときに出勤人数をやや多めにするといったことすら、していなかったという。
「お客様が多かろうが少なかろうが、基本的にシフトは同じ。定められた休憩時間になれば、仕事が忙しくても休憩に入る。逆にお客様が少なくて暇を持て余していても、特に何かをしなければいけないとは考えない。そんな職場だった」と、同施設の荒井清隆総支配人は苦笑いする。
一方、現場のあちこちから、人手不足を訴える声が相次いでいた。同施設のお客の中心は、近隣の中高年。周囲には農家も多く、雨が降ると農作業を切り上げ、骨休めに来館してくれる。こうした日は、どの持ち場も忙しい。
「お客様が多い日は、うちの部門は残業しないと回りません。人を増やしてください!」という声が絶えなかった。とはいえ、経営側としてはおいそれと増やせない。
解決策を求め、石和健康ランドでは忙しさを「見える化」することにした。まず、始めたのが、15分単位で1日の仕事内容を全て書き出してもらうことだ。
15分単位で書き出す
例えば、フロント業務の担当者はこう記入する。
「午前8時台
30分はフロント業務
15分は朝礼
15分は大広間の応援」
さまざまな持ち場がある同施設では、他部署の応援をすることがよくある。自部署の仕事内容、他部署の応援内容、それらを退社時に15分単位で手書きする。
この書き出し表の実物が、図1だ。1時間を「1」とし、45分間は「0.75」、30分間は「0.5」、15分間は「0.25」と表記する。1日の作業内容を忘れないように都度、メモを取る社員もいるが、さほどの手間ではない。これにより、正社員41人、パートなどを含めると100人以上いる従業員の働き方が分かるようになった。
図1 フロント従業員の業務書き出し表
※各自がフロント業務に費やした時間を記している。
他部署の応援、ミーティングなどにかけた時間は別表に記入
ただしこの表だけでは、社員の「忙しさ」までは分からない。そこでこれを基礎データとし、あらゆるアプローチから分析する。
図2を見ていただきたい。これは時間帯別で、1日の受付人数とフロントの従業員数を比較したものだ。
受付人数が少ないのに、フロント人数が多かった時間帯はどこか。その逆で、受付人数が多いのにフロント人数が少なかった時間帯はないか。そうしたギャップを見つけるには、もってこいの図だ。
図2 フロントの時間帯別人員数
忙しい時間帯はどこ?
ただ、ギャップが現実の忙しさと食い違う部分もある。他部署の応援、あるいは他部署からフロントの応援に来てもらうこともあるからだ。そこでギャップが生じた部分については、実際にどのような働き方だったのかを、先ほどの図1と照合し、確認する。
石和健康ランドでは毎朝これらの図などを使い、前日の働き方を振り返っている。
人手が足りなかった時間帯があり、それが残業につながったのだとすれば、どうすれば改善できるか。例えば、忙しい時間帯に人員を厚めにするシフトが組めないか。他部署から応援を頼めないかなどを検討し、実行に移していく。
逆に人が余っている場合は、受付カウンターを1カ所閉鎖し、浮いた1人が休憩時間や会議資料の作成時間に充てれば、結果的に残業を削減できる。他部署の応援に回り、他部署の労働時間を減らすという働き方もできる。
「私も含め、社員は『とにかく忙しい』という曖昧な言い方をしなくなり、『午後5時から7時の時間帯にあと1人欲しい』と具体的な議論ができるようになった」と、荒井総支配人は変化を語る。
フロントは「2人減」
一方、月ごとの検証もする。それが図3だ。
図3 総入館者数とフロントの実働時間(日次集計)
横軸に総入館者数、縦軸に実働時間を取り、1日ごとに値をプロットする。実働時間とは他部署の応援時間を差し引いた、フロント業務の正味の時間だ。
総入館者数が増えれば、実働時間もそれに比例して増える。ただそれは理論値で、実際にはきれいに分布しない。
空き時間に玄関を掃除する荒井総支配人。お客のために時間を使う
仮に比例していれば、図3で示した赤線の近辺に多くの点が集まるが、外れた点もある。そこに人員余剰の可能性が潜んでいる。
例えば「来館者数が少ないときは人員が多すぎる傾向がある」といったことが分かる。そんなときはシフトの組み方などを根本的に見直すことを検討する。
ここまですれば、どこに人員の無駄があるかが手に取るように分かり、その対策も見えてくる。石和健康ランドではこうした作業を日々進め、予想来館者数(図4)に合わせてシフトを組んでいる。
図4 来館者数とフロント実働時間の想定・実績比較
予想来館者数は、基本的に前年の同週同曜日の実績値。販促イベントの予定があれば、人数を増やすなどの微調整を加える。この予想来館者数を基に、日ごとの想定労働時間を算出する。算出方法は簡単で、分かりやすく言えば図3の赤線上に乗るようにする。
こうして、「○月○日はAさんが午前8時出社で7時間勤務、Bさんは午前9時出社で8時間勤務」というように、できるだけ無駄のないシフトを組む。
以前のフロント担当は「早番4人、遅番4人、深夜2人」の体制だったが、今では「早番3人、遅番3人、深夜2人」と2人分を減らすことができたという。
仕事の成果物は何か
さて、ここまでは主にフロント業務を例に話を進めてきたが、他の部門はどうしているのか。基本的な分析手順はフロントと同じだが、指標だけが少し違う。例えば、食事スペースの大広間はこのようにしている。
フロントは来館者数に対し、人員配置が適正かどうかという視点で見た。しかし、来館した人全員が食事をするわけではないし、食事をしても、軽食で済ますお客もいれば、たくさん食べるお客もいる。そこで大広間では、商品提供数を指標にしている。
フロント業務を見直し、1日10人から8人体制に。残業時間も減らした
商品提供数が多ければ、それに比例して仕事も忙しい。そこでフロントの図3に相当する大広間のグラフは、横軸に商品提供数、縦軸に実働時間を取っている。
「それぞれの仕事の成果物は何か、という観点で指標を決めている」と荒井総支配人。フロントは1人でどれだけの受付業務ができるか、大広間はどれだけ料理を運べるかが成果物というわけだ。
こうした働き方の分析により、石和健康ランドでは、残業を減らしつつ、社員1人当たりの売上高、利益も増加。毎年、賃金のベースアップを続け、賞与も年3回支給する。「経営するほうも、私たち社員にとっても、ハッピーな状態」と、社員たちは皆、満足げだ。
(この記事は「日経トップリーダー」2017年5月号の特集の一部を再編集したものです。記事執筆は日経トップリーダー編集部の北方雅人)
このコラムについて
サービス業の生産性向上原論
日本経済にとって喫緊の課題であるサービス業の生産性向上。長らく議論はされてきたけれど、なかなか有効な方法論が見えてこない。そこで、斯界のプロ、内藤耕氏がサービス業の生産性向上の考え方、進め方を分かりやすく解説します。作業効率化と生産性向上は同じなのか。サービス業と製造業では、生産性を上げる方法は違うのか。目からウロコの「生産性向上原論」をお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/101300010/071200006/p5.png
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