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インフレ率2%の目標は死守すべきなのか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10176
2017年7月24日 WEDGE Infinity
■インフレ率2%達成には時間が必要
日銀は、20日発表の「展望レポート」の中で、インフレ率の予想(政策委員の平均)を公表していますが、それによれば、2019年度頃にはインフレ率が2%の目標に達することになっています。
しかし、民間エコノミストの予想は、それとは大きく異なっています。ESPフォーキャスト(著名なエコノミスト42名・機関による予測の集計)によれば、2018年度のインフレ率は0.9%程度、2019年度のインフレ率も、消費税増税の影響を除くと1%程度にとどまるというのが平均となっているのです。
日銀の審議委員も民間エコノミストも、優秀な人々ですから、ここまで大きく見解が異なるのは不思議な気がします。もしかすると、日銀側にメンツがあり、正直に回答していないのかもしれませんね。そうだとすると、当分の間、インフレ率2%の目標は達成されないかもしれません。
ちなみに筆者は少数説で、ヤマト運輸の値上げなどを見ていると、インフレが来そうな気がしていますので、日銀と民間の中間あたりをイメージしています。氷を熱していくと、ある時突然温度が上がり始めます。そんな可能性も感じる今日この頃です。そのあたりについては、拙稿『ついにインフレ時代の到来か? 地震や国債暴落などのリスクも…』をご覧下さい。
しかし、仮に物価が上がらないとして、何か問題でしょうか? 物価が下落しているデフレであれば、問題でしょうが、すでにデフレは脱却しており、物価は安定しています。「インフレも失業も無い、理想的な経済状況」が続いているのです。素晴らしいことだと思いませんか?
■2%を目指すのは、インフレ率は「ピンポイントの操作が困難だから」
日銀は物価の番人として、インフレもデフレもない経済を目指しています。しかし、金融政策で物価を誘導することは容易ではありません。金融を緩和すると何時、どれくらい景気が良くなり、それによって何時、どれくらい物価が上がるのか、予想するのは極めて難しいことなのです。従って、ピンポイントに「物価上昇率をゼロにしよう」と考えるのは非現実的です。そこで、「物価上昇率の目標を定め、目標プラスマイナス2%に収まればマズマズ」といった目標の定め方をします。
ここで重要なことは、金融政策にとって、インフレを止めるよりもデフレを止める方が遥かに難しい、ということです。インフレ率が10%の時、これをゼロにするためには、金利を20%にすれば良いのです。借金をして家や工場を建てる人が激減し、景気が悪化し、物価は安定するでしょう。
しかし、インフレ率がマイナス10%の時、これをゼロにするのは大変です。来年まで待てば値段が10%下がると思えば、人々は買い控えをするでしょうから、物が売れず、景気が悪化して一層物価が下がるでしょう。
これを「名目金利はマイナスにできないから、実質金利が高止まりして景気を抑制してしまう」などと表現する場合もあります。実質金利とは、金利マイナス物価上昇率のことです。金利が10%でも物価が20%上がっている国では、人々が借金をして物を買い急ぐので、金融引き締めではなく金融緩和になっている、という考え方です。実質金利がマイナス10%だから、というわけですね。
そこで、インフレ目標を0%に定めると、困ったことになりかねません。インフレ率がプラス2%になってしまった場合には、ゼロに引き下げることは容易ですが、マイナス2%になってしまった場合、これをゼロに引き上げるのは容易ではないのです。
それならば、インフレ率目標を2%に設定しておけば良いでしょう。4%になってしまっても引き下げるのは簡単です。0%になってしまっても、特に困りませんし、2%に引き上げることもそれほど難しくはありません。先進各国の中央銀行の多くがインフレ率目標を2%としているのは、こうした理由からなのです。
■将来の不況に備えた「のりしろ」という議論も
インフレ目標を定める際には、通常時のことだけではなく、次回の景気後退のことも考えておく必要があります。インフレ率が小幅なプラス程度だと、景気悪化に伴って物価に下押し圧力がかかるため、次回の景気後退時にインフレ率がマイナスに陥ってしまうかもしれません。そうならないためには、通常時にはある程度のインフレ率を保っておくことが必要だ、ということになります。
さらに言えば、将来景気が悪化した時に、金融緩和によって景気を回復させることができると良いですね。そのためには、景気が悪化した際にもインフレ率がプラスでないと困ります。インフレ率がプラスならば、金利をゼロにすることで「借金をして来年使う物を買う、買い急ぎ」を誘発することができるからです。「景気悪化によってインフレ率が押し下げられてもある程度のプラスを維持する」ためには、通常時には2%程度のインフレ率が必要だ、ということも言えそうです。
■今回の金融緩和はコストが高い
従来のインフレ目標は、「高いインフレ率を2%程度まで押し下げることが必要だが、それ以上押し下げる必要はない」といった意味合いでした。「2%まで高めよう」という話は、本当に最近出てきたに過ぎません。せいぜい、「インフレ率がマイナスからプラスになった時点では、インフレ率を押し下げる必要はなく、従って金融を引き締めるべきではない」といった話だったわけです。
本来、インフレ率はゼロが好ましいに決まっています。「すべての物の値段や賃金等々が一律に2%ずつ上昇していく」ならばともかく、そうでない場合には「インフレ率が2%だが金利が低いので預貯金が目減りする」等の歪みが生じますから。つまり、現在のインフレ目標は、「インフレ率を2%にするコストを支払っても、デフレ再発のリスクを減らそう」、ということなのです。
今ひとつ、今回の金融緩和には通常以上のコストがかかっている、ということも重要です。日銀の国債保有額が膨れ上がり、国債市場の機能を歪めている上に、日銀自身の出口戦略を難しくしているのです。金融緩和が長引けば長引くほど、こうしたコストは拡大していくわけです。
■コストとベネフィットの比較が必要
物事を決める時は、コストとベネフィットを比較する必要があります。量的緩和等をやめて単なるゼロ金利政策に戻した場合(もちろん、市場への影響を考えながら時間をかけて少しずつ、ですが)、量的緩和を続けた場合と比べて、どの程度インフレ率に差が出るでしょうか? その認識の差が本稿の議論に決定的に重要でしょう。
筆者は、大したことはないと考えています。量的緩和等は「偽薬効果」で景気を回復させただけであり、これを中止しても景気が悪化したり物価が下がったりすることはないだろう、と考えているからです。偽薬効果だと考える理由については、『アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占ってみた』をご参照ください。
重要な点は、日本経済が既にデフレを脱しているということです。消費者物価指数の上がり方が日銀の目標に達していないだけで、下がっているわけではないのです。つまり、「金融政策による物価のコントロールが難しいから、ゼロより2%を目指す」「次回景気後退に備えたのりしろを持つ」といったことさえ考えなければ、まさに理想的な「失業もインフレもない経済」なわけです。
これを、大きなコストを払ってまで2%インフレに持っていくインセンティブは小さいと思います。次回の景気後退ですが、国内要因で景気が悪化するとは考え難い状況ですから(政府日銀が景気を冷やすことは考えられず、バブル崩壊による景気後退も考え難いでしょう)、あるとしたら海外発ですが、海外経済にも特段のリスクは見当たりません。
一方で、国内の労働力不足は一層深刻化しつつあり、非正規労働者の賃金は上昇しています。中小企業の賃金も、上昇し始めているようです。こうした中、物価が下落していく可能性は大きくないと考えて良いでしょう。
景気が悪化して物価が下落する可能性が大きくないのに、比較的大きなコストをかけて「景気が後退した時への備え」をするのでは、コストとベネフィットの釣り合いが取れないでしょう。インフルエンザが流行する見込みが大きくないのに、通常より高い費用を支払って予防注射を接種するようなものですから。
日銀としては、「メンツ」があるので2%インフレの旗を下ろせない、と考えているかもしれませんが、筆者としては、総裁が交代したタイミングで政策の転換があっても構わないと考えています。
「現在の日本は、インフレも失業もない、望ましい状況にあります。日銀はこれまでインフレ率2%を目標に量的緩和等を行なって来ましたが、それは物価を上昇させて景気を回復させることが主目的でありました。物価が上がらなくても、景気が回復したのですから、主目的が達せられた以上、金融政策の正常化に向けた第一歩を踏み出すことが適当と考えるに至りました」と新総裁が発表したら、筆者は大いに納得すると思います。
金融市場関係者の多くは、これを「テールリスクとして扱う必要もないほど起こり得ないことだ」と思っているでしょうが、皆が起こらないと思っていることが起きかねないのがテールリスクですから(笑)。
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