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『ドキュメント 金融庁vs.地銀 生き残る銀行はどこか』(読売新聞東京本社経済部、光文社)
地方銀行に「稼ぐ力」をつけるよう促す金融庁 『ドキュメント 金融庁vs. 地銀 生き残る銀行はどこか』
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10140
2017年7月21日 段木昇一 (ジャーナリスト) WEDGE Infinity
以前、地方に住んでいたことがあり、ある地方銀行の口座を持っていた。当時は振り込みなどでそれなりに利用していたが、一人の個人ユーザーとしての経験からしても、地方の銀行というのはみな同じような看板を掲げ、同じような店舗の作りをし、変わりばえのしないサービスを提供しているな、という印象は強かった。筆者は事業主として地方銀行からお金を借りたことはないが、おそらく経営者の中にも同じようなイメージを抱いている人は多いのではないだろうか。だが、本書を読んで、自分の中の地方銀行のイメージは大きく変わった。
第一勧信は「とにかく社長に会い、工場や倉庫を見に行く」
登場する地銀や第2地銀などの取り組みを見て、最近は地方銀行もいろいろ工夫して、お金を借りる人のニーズに積極的に応えようとしている姿に気づかされた。もちろん、以前から志ある地域金融機関はそうした努力は続けてきているのだろうが、全国的にようやくそうした動きが目立ってきたようだ。
それはなぜか。銀行を監督する中央官庁の一つ金融庁が地方銀行の改革の旗を振り、「稼ぐ力」をつけるよう促しているからである。その中心人物が森信親長官である。
本書は2015年7月に就任した森長官の地銀改革と銀行側の取り組みをつぶさに取材して新聞で掲載した記事を大幅に加筆して、最近の地域金融機関事情を立体的に描いた力作である。
銀行の取り組みに対するキーワードは「行動力」と「目利き力」といっていいかもしれない。本書にも紹介されている東京の第一勧業信用組合の例はその一つだ。23区を営業エリアに持ち、メガバンクやその他の銀行も数多くひしめく中で、独自のスタイルで顧客の支持を集めている。
本書の中にこうした記述がある。
〈第一勧信の営業マンの信条は、「とにかく社長に会い、工場や倉庫を見に行く」ことだ。職員は社長ひとり1人に向きあってじっくり話し込む。工場を隅々まで見て回る。飲食店だったら料理を食べてみる――〉
ほかの業界ならば、こうしたことは当たり前の動きであり、常に実践を重ねていることなのかもしれないが、銀行の世界ではなかなかそうはなっていなかったらしい。実際、当の第一勧信でも、当初トップダウンで示された方針に職員は戸惑っていたようだ。
しかし「お金を借りませんか」という銀行マンのセールストークにはうんざりだが、「工場を見せてもらえませんか」と言われれば、経営者からの反応が違うのは当たり前である。
〈ある墨田区の部品会社の経営者は、「30年以上経営しているが、工場を見せてくれと言われたのは初めてだ」と驚いた。どの経営者も自らの事業について喜んで説明する様子に、半信半疑だった職員たちは徐々に自信をつかんでいった〉
こうした姿こそが地域金融にも求められている姿勢であろう。
第一勧信にはこのほか、芸者が独立して、小料理屋などを開業する資金を融資する「芸者ローン」や、板前が独立する際に無担保で融資する「のれん分けローン」などもある。担保に乏しくても人物評価や働きぶりを聞いて審査するという。そうした評価が高い場合には、実は融資に対するリスクは低いという。
このほか、倒産経験者の起業を支援する第二地銀や、積極的な地元企業への出向で業界や商流を学ぶ地銀など、本書では全国各地で地域に密着し、実情に応じた工夫の積み重ねが地方経済の活性化につながっていく事例が豊富に紹介されている。
森長官という圧倒的な存在
本書のもう一つの特徴は、金融庁の前身である金融監督庁の設立(1998年)前後からこれまでの歩みや、手数料ビジネスをめぐる金融庁と銀行や保険会社との考え方の違い、さらに地銀の経営統合など最近の再編の動きなども詳細に記されている。
本書に一貫して流れているのは、今夏、就任から3年目に突入した森長官の金融行政に対する思想である。現在の金融庁は良くも悪くも森長官の強いリーダーシップによって動かされている。「森を見ろ 森だけを見ろ 森を見ろ」という金融庁若手職員が作った川柳にも象徴されるように、金融庁の打ち出す様々な政策には森長官の意向が強く反映され、事実上、霞が関を牛耳る菅義偉官房長官の評価も高い。そうした意味でも本書の指摘するように、金融庁は霞が関の最強官庁になりつつある。
森氏が何を考えて、地方銀行を中心とした地域金融の将来像をどう描き、地方創生につなげてゆくのか。深い取材によって、金融行政の背後にある「森イズム」が徹底して分析されている。金融機関の関係者ならずとも、地方行政に携わるすべての人に読んでもらいたい良書である。
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