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東京オリンピック「経済効果」のウソを暴こう 「7兆〜32兆円」の根拠ってなんだ?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52141
2017.06.30 森田 浩之 ジャーナリスト 現代ビジネス
東京オリンピックまで、あと3年。いまだ諸問題は落ち着かないが、私たちはこのイベントについてどれほど知っているだろうか。 ジャーナリストの森田浩之氏がオリンピックの知られざる重要な側面を追い、「Tokyo 2020」を多角的に考えるための連続リポート。第1回は、繰り返しアピールされる「経済効果」なるものを問う。 |
■予測がバラバラな「経済効果」
経済効果──オリンピックのようなメガスポーツイベントには、このバラ色の言葉がつきものだ。
バラ色の言葉は今、こんなバラ色のイメージを東京と日本にふりまいている。
……2020年東京オリンピックのために競技施設が建設され、インフラが整備される。お金が動き、雇用が生まれ、経済が活性化する。さまざまな関連業界にも、経済波及効果がもたらされる。
大会にやって来る外国人観光客を見込んで、宿泊施設が建設される。さらにお金が動き、雇用が生まれる。大会が幕を開ければ外国から多くの観光客が訪れ、お金をたっぷり落としていく。
東京と日本は17日間にわたり、世界中のテレビに映し出される。この宣伝が大会後にいっそうの効果を発揮する。日本を訪れる外国人はさらに増え、日本製品が売れまくる。オリンピックは日本経済が再び飛躍するきっかけとなる……。
これこそ、まさに景気のいい話だ。東京オリンピックの経済効果については、すでに東京都や民間シンクタンクが試算を発表している。その規模は約7兆〜32兆円と途方もない。
この数字を聞けば、オリンピックが日本の景気を引き上げてくれると期待するのも無理はない。
でも、ちょっと待ってほしい。
経済効果の予測が7兆円から32兆円までバラバラなのはなぜなのか? 前提が変わることで金額が変わっているとすれば、それは経済効果という概念自体があいまいな証拠ではないのか?
それどころか、経済効果なるものは本当にあるのだろうか? 開催国の政治家たちは、経済的な恩恵を約束する。しかし経済学者の見方はほぼ一様に否定的で、オリンピックの経済効果は幻想にすぎないという。
米ミシガン大学のステファン・シマンスキー教授は、スポーツイベントが経済効果を生むことを証明したまともな学術論文はひとつもないと指摘する。
「むしろ、逆のことを証明した素晴らしい論文ならある。大きなスポーツイベントを開催することは経済的な負担になると結論づけたものだ」
『オリンピック経済幻想論』(邦訳・ブックマン社)の著書がある米スミス・カレッジのアンドリュー・ジンバリスト教授は「オリンピックへの投資は、まったく投資としての価値はない」と言う。
米シカゴ大学のアレン・サンダーソン教授は「オリンピック向けに完璧な施設を建てても、大会が終われば邪魔ものでしかなくなる」と語る。
経済学者は口をそろえて、オリンピックの経済効果を否定する。では、発表されている2020年大会の経済効果予測は、何を根拠にしているのだろう?
■「3兆円→32兆円」のカラクリ
まず、開催都市である東京都の予測を見てみよう。東京都では今年3月、2020年大会が約32兆円の経済効果を生むという試算を発表した。
東京都はまだ大会招致段階だった2012年に、2020年大会の経済効果を約3兆円とする試算を発表していた。今年の試算は、その10倍以上に膨らんでいる。いったいなぜ?
答えは「レガシー」だ。
今年発表した試算は、大会開催の直接投資や支出で生じる「直接的効果」に、大会後のレガシー(遺産)から生じる「レガシー効果」を加えている。
「レガシー効果」とは何か。東京都のリポートは、3つの項目に分けて説明している。
1つめは「新規恒久施設・選手村の後利用」や「東京のまちづくり」にからむもの。交通インフラ整備やバリアフリー対策の促進に関係する経済活動も含むほか、「水素社会の実現」も例にあげられている。
2つめは「文化・教育・多様性」に関係するもの。スポーツ人口の増加や障害者スポーツの振興、ボランティアの増加などが、ここに含まれる。
3つめは「経済の活性化・最先端技術の活用」。内容は「観光需要の拡大」から「ロボット産業の拡大」まで幅広い。この項目の経済効果の規模は「レガシー効果」のなかで最も大きく、3項目全体の約75%を占めている。
この3項目の「レガシー効果」を含めて、2013年(招致が決まった年)から2030年(大会10年後)までの経済効果が合計で約32兆3000億円になるという。このうち施設整備費や大会運営費などの「直接的効果」は約5兆2000億円だが、「レガシー効果」はその5倍を超える約27兆1000億円と圧倒的に多い。
しかし「レガシー効果」にあげられているものの多くは、経済波及効果としてはあまりに間接的すぎないか。
たとえば「水素社会の実現」は、オリンピックを開くことがどれだけ後押しするものなのか。「バリアフリー対策」は、オリンピック・パラリンピックを開かなければ進まないものなのか。「ボランティア活動者の増加」も金額に換算されているが、その理屈もよくわからない。
■首を傾げたくなる「付随効果」
民間の予測はどうだろう。たとえば、みずほ総合研究所が今年2月に発表したリポートを見てみる。
この試算では、2020年東京オリンピックによる経済的な「直接効果」を約1.8兆円、「付随効果」を28.4兆円とし、計30.3兆円の経済効果があるとした。
対象としている期間は2014〜2020年であり、東京都の試算のように大会後の「レガシー」は含んでいない。しかし「付随効果」とされる部分には、やはり首を傾げたくなる項目が含まれている。
たとえば、大会開催によって「スポーツ関連支出」が増加するとしている。これは「五輪に触発された支出増加」のことで、人々がスポーツ用品を買ったり、スポーツジムに行くようになるといったものだ。
しかし、いかに「付随的」な効果とはいえ、この項目はあまりに細かくないだろうか。ロンドン大会後の動向を参考に割り出した数字のようだが、実際オリンピックに触発されて、スポーツジムに通いはじめる人が何人いるというのだろう?
■「ドリーム効果」とは何か
もうひとつ、森記念財団都市戦略研究所が2014年1月に発表したリポートを見てみよう。この試算では、東京オリンピックに約19.4兆円の経済波及効果があるとしている。
しかし内訳を見ると、首を傾げる大きな項目がある。「ドリーム効果」だ。
リポートによれば「ドリーム効果」とは、「社会全体で華やかな喜ばしい出来事が起きたとき、だれもが気分が高揚して、つい財布のヒモが緩み、様々な消費行動が拡大する」ことを指すという。例として、1964年の東京オリンピックのときにテレビが爆発的に売れたことをあげている。
この「ドリーム効果」が2020年大会では約7兆5000億円にのぼるという。実に試算額全体の3分の1以上だ。
リポートには、予測の詳細な根拠は書かれていない。だがいずれにせよ、社会の気分やムードの効果を金額に置き換えることは非常にむずかしいはずだ。その金額が試算額の3分の1以上を占めるこの予測は、いささか大胆すぎないだろうか。
■開催年に観光客が減る?
このように経済効果の試算には、突っ込みどころがいくらでも見つかる。
ひとつ言えるのは、東京都の試算にも、民間機関の予測にも「経済効果の試算は金額が大きいほうがいいだろう」という姿勢がすけて見えることだ。だから前にはなかった「レガシー効果」を加えたり、「ドリーム効果」を大きく見積もったりする。
これは正しい判断なのだろうか。へたをすると、試算に見合う効果が実際にもたらされなかったときの失望が大きくなるだけではないのか。
事実、オリンピックの「経済効果モデル」には、注意したほうがいい前提がいくつもある。
まず、オリンピックの開催年には外国から多くの観光客が来るという点。これは正しくない。世界銀行の統計によれば、2012年までの3大会(2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン)の開催年に開催国を訪れた外国人は前年より減っているか、ほぼ横ばいだ。
大会招致が決まった年からのグラフを見ると、3大会の開催国すべてで、外国人観光客の増加傾向に招致決定の効果がうかがえる。開催決定前のトレンドに比べると、外国人観光客数のグラフの上がり方が急になっている。しかし肝心の大会開催年には、外国からの訪問客が前年より減っているのだ。
大会期間中の混雑や厳しい警備を嫌って訪問を避けたビジネスマンもいただろう。オリンピックが新たな訪問客と経済活動を呼び込むのは確かでも、それと引き換えに失う訪問客と経済活動もあるのだ。オリンピックに外国人が殺到するというイメージは、あまり現実的なものではない。
■成長鈍化はなぜ起きたのか
たとえ観光客が思ったほどは来なくても、大会を開くために金を投じるのだから、経済は刺激されると思う人もいるだろう。だが、この前提も相当にあやしい。
慶応大学経済学部の土居丈朗教授のまとめによれば、夏のオリンピックでは1976年モントリオール大会から2012年ロンドン大会までの9大会(1980年モスクワ大会は除く)のうち、開催翌年に開催国の実質経済成長率がアップしたのは1996年のアトランタ大会翌年のアメリカだけだ。
しかも、開催年と開催前年の2年間と、開催翌年と開催翌々年の2年間の実質経済成長率を比較しても、9大会中6大会で成長が鈍化していた。
この成長鈍化はなぜ起こったのか。
大半の国で民間設備投資が鈍っていた点に、土居教授は注目する。さらに民間消費は、オリンピックの前後で必ずしも大きな変化がみられなかったという。言い換えれば、オリンピックを開くことで民間消費が恒常的に増加するわけではないようだ。
前回1964年の東京オリンピックのときには、日本も翌年に「昭和40年不況(証券不況)」と呼ばれる経済危機に見舞われた。発端は、オリンピックによる経済刺激効果がなくなったことだった。
オリンピックが終わると、景気は右肩下がりに推移しはじめた。開催前年の63年に1738件だった倒産件数が、開催年には2倍以上の4212件となり、翌65年には6141件を記録した。
大企業もこの流れには抵抗できず、65年には山陽特殊鋼が500億円という戦後最大級の負債を抱えて倒産。山一證券では経営危機に伴う取り付け騒ぎが起きた。山一の本支店には連日1万人を超える顧客が殺到し、1週間で177億円分の取引口座が解約されたという。
こうした不況が、2020年大会の後に待ちかまえていないとはかぎらない。
■過大な期待は禁物だ
オリンピックに「負の経済効果」があることを最もよく示したのは、2004年アテネ大会だろう。近代オリンピック発祥の地で再び行われる大会のために、ギリシャはインフラ整備にのめり込んだ。
ユーロ加盟で資金調達が楽になったこともあって、ギリシャは国債を発行しまくった。オリンピック関連支出の総額は当初の計画から倍増して89.1億ユーロ(約1兆円)に膨らんだ。
ギリシャは2010年から深刻な経済危機に突入し、今も抜け出せずにいる。その大きな要因は、オリンピックでの大盤振る舞いだと見られている。
アテネ大会のために造られた数々の競技会場は、本当の意味での「レガシー」になった。今ではまったくと言っていいほど利用されず、資金難から放置された状態だ。雑草が腰まで伸び、看板が傾き、座席は壊され、荒れ放題になっている。
アテネ大会は新たな「ギリシャ遺跡」を残したと、皮肉っぽく言われているほどだ。
2020年東京オリンピックが、アテネと同じような結果にならない保証はない。東京都の調査チームは昨年9月、開催費用が総額で3兆円を超える可能性があると報告。現在は1兆3900億円までコストダウンするという試算を示しているが、それでも招致時に掲げた予算の2倍近い。
東京オリンピックの経済効果には、大きな期待がかかっている。アベノミクスの「第4の矢」とも呼ばれ、「アベノリンピクス」なる奇妙な造語まで生まれた。
しかしオリンピックを開いても、経済成長率がそれほど上がるわけではない。外国人をそれほど呼べるわけでもない。
経済効果というものが本当にあるかどうかさえわからないし、大会後に不況を招く可能性もある。
過大な期待は禁物だ。むしろ過去の例から考えれば、せいぜいオリンピックが経済成長を押し下げないことを願ったほうがよさそうだ。
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