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「宅配クライシス」の犯人は人手不足ではなく宅配会社自身だった!
http://diamond.jp/articles/-/133605
2017.6.29 松岡真宏:フロンティア・マネジメント代表取締役 ダイヤモンド・オンライン
宅配ビジネスが揺れている。急増するeコマース(EC)に対して現場の体制が追いつかず、業界の“雄”であるヤマト運輸は荷受量の総量規制に踏み切った。同業他社も送料値上げの方針を固めている。こうした「宅配クライシス」の原因は “人手不足”として語られているが、本当にそうなのだろうか。ダイヤモンド・オンラインでは「宅配クライシス」と題した特集を掲載、第1回は、クライシスの“犯人”に迫る。(フロンティア・マネジメント代表取締役 松岡真宏)
学生時代で下宿生活をしていた30年前。宅配便は今よりも価値あるものを運んでいた。実家から宅配便で送られてくる食品や衣服を、下宿先で待ちわびていたものだった。社会人に成り立ての頃も、地方出張の際に各地の名産を実家に宅配便で送っていたが、実家では荷物の到着を心待ちにしていたようだ。
このように、20世紀の宅配便は「送る人」と「受け取る人」の“想い”を繋ぐものであり、金銭的かつ感情的価値のあるモノが運ばれていた。消費者(C:Consumer)が、消費者(C:Consumer)に送るというのが原点であり、宅配便とは「CtoCサポートビジネス」であった。
そのため、ヤマト運輸はじめとする宅配企業にとって、送り手である消費者(C)こそが、宅配送料、つまり価格交渉の相手であった。宅配企業と消費者個人では、前者にバーゲニングパワーが存在していたため、消費者からの送料値下げ要求などは考える必要がなかった。
産業の裾野は拡大してもでも
ラストワンマイルは昔のまま
ところが、21世紀に入ってECが登場したことによって、宅配便の性格が大きく変容する。
アマゾンなどに代表されるECでは、シャンプー1本、本1冊からでも宅配の対象となる。もちろん、シャンプーや本も価値あるものだが、家やオフィスで数時間、じっと待って受け取るほど金銭的・感情的価値のあるモノではないし、代替手法として近くのコンビニや書店で購買することが可能だ。
スマートフォンを使って「スキマ時間」に何でもできるようになったこの10年余り。20世紀と比べると、価値がそれほど高くないモノを家やオフィスで数時間待つという「宅配の受取行為(ラストワンマイル)」は極めて効率の悪い時間の使い方となってしまったのだ。
ただ、価値がそれほど高くないモノが運ばれるようになったということは、決して悪いことではない。ちょっとした買い物をECでするのは控えようなどという言説もあるが、これは大きな誤りだ。価値が低いモノが運ばれるようになったということは、「宅配の裾野が広がった」という意味であり、「産業の発展」とさえ言えるからだ。
ECは、アマゾンなど「事業会社(B:Business)」から「消費者(C)」に商品を送る仕組みであり、宅配企業にとっては「BtoCサポートビジネス」である。したがって、宅配企業が送料の価格交渉をする相手は、従来の消費者ではなく、事業会社へと変わった。当然、宅配企業側には、消費者との交渉のように強いバーゲニングパワーがあるわけではなく、収益性改善のためには従来からのビジネスモデルの改革が必要となる。
ここで大きな問題なのは、ECの拡大で宅配の裾野が広がったにもかかわらず、宅配サービスを提供する側の「ラストワンマイル」の仕組みが、20世紀と基本的に変わっていないことである。
荷物と同様に人を運ぶ産業で言えば、エアライン業界がある。エアライン業界では、乗客の収入や用途、利用シーンに合わせて、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスとサービスが分かれており、近年では格安航空会社としてLCCも登場するなど、バラエティ豊かなサービスが定着してきた。
全世界で、旅行需要が継続的に増大することで、新婚旅行など特別なニーズだけではなく、気軽に海外旅行に行ける時代となり、エアライン業界の裾野が広がった。そして、サービスを提供する側が、LCCといった新業態を開発するなど、それに呼応する形で発展的に進化したのである。
それに比べて日本の宅配業界は、依然としてどんな小さな商品でも、またどんな価値の薄い商品であっても、全く同じサービスで宅配している。宅配員と受取人が対面し、受け渡しをするというラストワンマイルの“非効率な”仕組みが変わっていないのである。エアライン業界でいえば、不必要に全ての乗客をファーストクラスの席に乗せているようなものである。
つまり、宅配サービスにおいても、エアライン業界でいうところのLCCを創造することが喫緊の課題といえるのだ。
エアライン業界におけるLCCが行ったことは、徹底したローコスト戦略に加えて、様々なサービスの「セルフサービス化」である。チケット予約やチェックインの自動化だけでなく、搭乗口に積まれたランチボックスを乗客が自分で手に取って飛行機の座席に着くなど、サービスを提供する側と受ける側とが、宅配受取のように対面して時間を共有することを徹底的に排除したことが奏功した。
第三者と同じ時間、同じ場所(電話などバーチャルも含む)を共有することを「同時性」と呼ぶ。換言すれば、LCCは、乗客とサービスする側の「同時性」を解消し、セルフサービス化をすることで、損益計算書上の費用削減を行っただけでなく、乗客・サービスする側双方の時間効率を大幅に改善したのである。
宅配業界に求められる
受け取りのセルフサービス化
となれば、今、宅配業界に求められているのは、エアライン業界同様の同時性解消であり、宅配受取におけるセルフサービス化だ。
具体的に言えば、ミネラルウォーターなどの重量があって自分で運ぶのが面倒な特殊なモノを除き、日本中に張り巡らせた「宅配ボックスネットワーク」で対応するということが考えられる。消費者は、家で宅配便がやってくるのを数時間も待つような無駄なことは、もうやめた方が良い。
例えば、ECで頼んだ商品を家の周りに設置された宅配ボックスに送り、会社や学校の帰り、散歩の途中など自分が都合の良い時間にピックアップする仕組みが有効である。こうすれば、再配達問題もなくなるし、配送の時間帯も大きく変わる。各宅配ボックスへの配送を夜間にすれば、昼間の渋滞解消にも大きく貢献する。
最近、コンビニエンスストアや駅などに宅配ボックスが設置され始めているが、それでは十分に対応できないほど宅配便は多いし、今後は更に増えていく。現在の宅配個数は年間40億個と言われているが、『宅配がなくなる日 同時性解消の社会論』の共著者である山手剛人氏の試算によれば、コンビニなどでの宅配ボックスが対応できる宅配個数はわずか2億個である。
そう考えると、現在の自動販売機(日本に250万台)同様に細かなメッシュでの宅配ボックスの設置が必要となる。仮に100万ヵ所設置し、1ヵ所あたり10個のボックスがあるとすると、1日ボックス1個当たり荷物1個を配送すれば、年間36.5億個の宅配をこなせることとなる。
こうしたネットワークは、宅配企業数社同士が共同設置・利用するような「独占・寡占的アプローチ」ではなく、個人事業主や各地の地場有力企業・中小企業が参入し、活躍できる仕組みの方が競争的で好ましいといえる。
人手不足が元凶ではない
緩和してもビジネスモデルは破綻する
今後、ECが更に消費者に浸透して行けば、年間の宅配個数は現在の40億個から100億個になってもおかしくない。人手不足が宅配問題の“元凶”と言われているが、筆者はそうは思わない。宅配個数が現在の倍以上となれば、多少人手不足が緩和したからといって、現在のビジネスモデルの破綻は逃れないからである。
宅配企業各社の動きを見ていると、宅配個数の総量を制限したり、値上げしたりして現在の“宅配クライシス”に対応しようとしている。しかし、こうした手法は産業としては後退のベクトルであるし、今後本格的に急増するであろうECに対応できるとは思えない。現在のビジネスモデルを温存しながらの、現場での漸進的な改善に終始すれば、本質的な解決には至らない。
もはや、日本の宅配システムが「世界最高」などと自負していられる時代ではない。中国では、前述した宅配ボックスネットワークの構築が始まっており、すでに数万ヵ所の設置が行われている。CtoCで消費者が第三者にモノを販売したり、レンタルしたりする際に、送る側の仕組みとして使える宅配ボックスも増えていると聞く。
そう考えると、日本の宅配の仕組みは、もはや世界で最も便利なものとは言えなくなった。世界最高であるという前提を捨て、新しい仕組みを構築する局面に来ている。宅配のLCCの確立、つまり「宅配受取のセルフ化」こそが、宅配クライシスの「答え」ではないだろうか。
松岡真宏(まつおか・まさひろ)/フロンティア・マネジメント代表取締役。東京大学経済学部卒業。外資系証券などで10年以上にわたり流通業界の証券アナリストとして活動。2003年に産業再生機構に入社し、カネボウとダイエーの再生計画を担当し、両社の取締役に就任。2007 年より現職。『流通業の常識を疑え』(共著、日本経済新聞出版社)、『「時間消費」で勝つ!』(共著、日本経済新聞出版社)等、著書多数。近著に『宅配がなくなる日 同時性解消の社会論』(共著、日本経済新聞出版社)がある。
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