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合同説明会の様子(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
1人で大手6社内定も…就活が空前の「学生有利」、内定辞退激増で企業がおびえる時代に
http://biz-journal.jp/2017/06/post_19551.html
2017.06.23 構成=長井雄一朗/ライター Business Journal
6月1日、大手企業の面接・選考活動が解禁された。とはいえ、これは日本経済団体連合会(経団連)に加盟する企業の話で、中小企業などの非加盟企業では、すでに学生の選考が進んでいる。また、解禁日に内定を出す大企業も続出しているようだ。
リクルートキャリアによると、2018年春卒業予定の大学生の6月1日時点の就職内定率(速報値)は61%で前年比9.7ポイント増。また、リクルートワークス研究所によると、同じく18年春卒業予定の大学生の求人倍率は1.78倍で09年卒以来の高水準だという。
「空前の売り手市場」といわれる学生有利の就職戦線で、何が起きているのか。キャリアデザイン研究所代表取締役社長で就職コンサルタントの坂本直文氏に話を聞いた。坂本氏は、就職に関する多数の著書を上梓しており、全国80の大学で就職対策の講義を行っている。一方では、企業の面接官研修の講師を務めており、学生側と企業側の両面の事情に精通している人物だ。
■9割の企業が「経団連のルール守られてない」
――経団連の指針による選考活動の開始日である6月1日の時点で、内定率はすでに61%。就職活動の実態について、まずは企業側の事情から教えてください。
坂本直文氏(以下、坂本) 企業は優秀な学生を早く採るために、実質的にインターンシップを利用するかたちで採用活動を行っています。3年生の夏・秋・冬とインターンが続きますが、この時期から選考目的で学生に接触しているのが実態です。
もちろん、建前では「インターンは採用活動とは無関係」ですが、インターンに参加した学生を早くから囲い込むために、経団連に加盟する上場企業でも3〜4月に内々定を出しています。
経団連の新卒採用に関するアンケートでは、経団連が定める採用活動の日程について、9割の企業が「守られていない」と受け止めています。経団連は指針で「3月に会社説明会、6月に採用面接を解禁」と定めていますが、それがすでに形骸化していることは明らかです。逆にいえば、「経団連の指針を守っていては、優秀な学生を採れない」ということを、企業側はよくわかっているといえます。
ちなみに、IT業界では経団連に加盟していない企業が多く、インターン後にすぐ内定を出すなど、早ければ10月から2月にかけて学生の囲い込みを行っています。
そのため、就活が早期化し、同時に長期化しているのが現状です。
――就活の長期化とは、どういうことでしょうか。
坂本 近年のトレンドとして内定辞退者が数多く出るため、企業は夏採用、秋採用だけではなく、場合によっては冬採用も余儀なくされています。優秀な学生は大手企業6社から内定を得たりするのですが、それは同時に5社は辞退するということを意味します。
企業は、ほしい学生にはすぐに内定を出しますが、人事担当者がやきもきするのは6月1日。その日の選考会に学生が来てくれれば“本命企業”というわけですが、来てくれなければ辞退される可能性が高い。そして、辞退された企業は、さらに採用活動を続けざるを得なくなります。
――企業は、内定を出したからといって安心できないというわけですね。
坂本 就活生は多くの内定を得て、そのなかから自分が本当に働きたいと思う企業を“選考”しています。一昔前であれば、「この企業を蹴るなんてあり得ない」と思うような企業も辞退するケースがあります。しかも、昔と違って今の就活生は辞退することに後ろめたさを感じていないのが特徴です。
たとえ大企業でも、「うちが内定を出せば必ず入社するだろう」と油断していると、「辞退」という現実を突き付けられることになります。学生は、別の大手企業からも内定を得ているからです。
「絶対、この会社に入りたい」と志望して試験を受けるのではなく、数社から内定を得て、そのなかから自分にマッチする企業をじっくりと選考する。これが、今の就活生の姿勢です。
内定辞退の増加は昨年からのトレンドですが、今年はさらに増えるでしょう。なぜそのような事態になっているのかといえば、企業側は今後の成長を考えて採用意欲を高めているという事情があります。一方、最盛期は3000万人近くいた子ども(15歳未満)の数は、今は過去最低の1571万人(総務省統計局)。よほどの不景気にならない限り、このトレンドは今後も続くと考えています。
企業へのアンケート調査では、「採用に関して危機感を感じているか」という質問に9割の企業が「危機感を感じている」と答えています。
■待合室面接の実態…学生に“擦り寄る”企業も
――学生に選ばれる企業には、何か特徴や共通点があるのでしょうか。
坂本 人それぞれですが、ある学生が大手商社に入社を決めたポイントは、ワーク・ライフ・バランスでした。今の学生は総じて「仕事とプライベートの両方が充実した人生を送りたい」と考えています。この大手商社は、ホームページでもワーク・ライフ・バランスについて説明しており、「居心地のいい会社」「働きやすい職場」であることをアピールしています。
ちなみに、この学生はメガバンクの内定も得ていましたが、最終的には辞退しました。給与の高さなども勘案したのかもしれませんが、学生はさまざまな要素を考慮して1社に絞っています。
そして、もうひとつは学生の承認欲求や自己有用感が満たされるかどうか。そのため、人事担当者は選考の過程で、ほしい学生には丁寧に“お声がけ”をすることが大切です。
――学生を満足させる“お声がけ”とは、どのようなものでしょうか。
坂本 たとえば、学生から質問を受けたときに「いい質問だね。うちに向いているよ」と一言付け加えれば、学生は「この会社は自分のことを大事にしてくれそうだ」と、目に見えない部分で評価を上げるでしょう。
ある企業では、学生には社員が必ず“笑顔で丁寧にあいさつする”ことが社長命令で決められていますが、これも学生の承認欲求や自己有用感を高め、当社を就職先に選んでもらえるようにすることが目的です。
また、今は“待合室面接”を行う企業も増えています。要は待合室から面接が始まっているということなのですが、たとえばある企業では、年が近くて話しやすい社員が面接の前後に学生を励ましたりねぎらったりします。そこでポロッと出る本音も、選考の材料にされているわけです。
これまでの待合室面接は、企業が隠れて学生を観察するという意味合いが強かったのですが、最近は逆に、学生に“擦り寄る”という意味でも利用されています。学生に企業のファンになってもらうために、優しい言葉を投げかけたりアフターフォローをしたりして、少しでも印象をよくするわけです。若手社員が学生につきっきりで対応し、「ぜひ一緒に働きたい」「君の成長をともに実感したい」と語りかけるようなケースもあります。
ちなみに、ある大手航空会社はOB・OG訪問をした学生に手紙を渡しています。「一緒に働こう」などといった応援メッセージが書かれているのですが、その手紙をもらった学生は、誰もが羨むような大企業の内定を辞退し、その企業に客室乗務員として入社することを決めました。この大手航空会社の場合は、企業全体の方針として学生を大事にしています。
バブル時代と違って、今の企業は採用にお金をかけることはできません。そのため、いかにお金をかけずに戦略的な採用を行うことができるか。これが、命題となっています。
■学生に「入りたい」と思わせる企業は何が違う?
――大企業が、そのような戦略的採用活動を行っているとは驚きました。しかし、一方で中小企業は買い手市場だった昭和の感覚を引きずっている企業も多く、採用活動はかなり厳しいのではないでしょうか。
坂本 私は企業の面接官研修の講師も務めていますが、若手の面接官は意識を切り替えることができています。問題は、中高年の面接官。「なぜ学生に媚びなければならないのか」と反発されることもあります。
今は企業は面接試験で学生の承認欲求や自己有用感を高めることに力を入れている状況ですから、いわゆる圧迫面接など、とんでもありません。そんな企業は、すぐに学生から見限られるでしょう。昭和の感覚のままでは、たとえ内定を出しても8割は辞退されるのではないでしょうか。そのため、中小企業も意識を変えて戦略的採用に乗り出さなければ、優秀な学生を確保することは困難です。
今も、学生の大手志向は変わっていません。では、中小企業が採用活動で大手企業に勝つにはどうすればいいか。そのヒントは、やはり学生の心をくすぐり、「この会社は特別だ」と思わせることに尽きます。
ある学生は、大手製薬会社から内定を得ていましたが、結局は中堅の医薬品卸会社に入社を決めました。その理由は「私の考え方を尊重してくれたから」というものです。
また、ある学生はローカル局の面接官から「ほかを寄せつけないダントツでした」と言われたことが決め手となり、入社を決めました。放送業界の志望者は、ローカル局は小手調べで、あくまでキー局入社を目指すというのが王道です。しかし、その学生は、その後のキー局の入社試験は受けずに最初からローカル局を選びました。
とにかく、一生忘れないくらいのホスピタリティで「この会社に入りたい」と思わせる。大手だけではなく、中小にも戦略的採用が求められる時代になっています。
――ありがとうございました。
後編では、学生の企業選びのポイントやほかの就活生との差別化について、さらに坂本氏の話をお伝えする。
(構成=長井雄一朗/ライター)
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