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神社本庁で不可解な不動産取引、刑事告訴も飛び出す大騒動勃発
http://diamond.jp/articles/-/132516
2017.6.21 週刊ダイヤモンド編集部
大半の国民にとって神社と言えば、初詣や七五三、結婚式など人生の節目、節目で神に祈りを捧げる場だ。ところが、そんな明鏡止水の場の裏側で今、ある不可解な不動産取引をめぐって大騒動が起きている。(週刊ダイヤモンド編集部・ダイヤモンドオンライン編集部 『瓦解する神社』取材班)
「神社界の “中枢”にいる全員が疑心暗鬼に陥っている。誰が敵で、誰が味方なのか分からない」──。
日本最大の信者数を誇る宗教である「神道」。その中で全国約8万社の神社を“包括”する組織が、宗教法人「神社本庁」(東京都渋谷区。以下、本庁)だ。安倍政権の伸長に絡んで昨今、注目が集まっている政治団体「神道政治連盟(神政連)」の実質的な母体組織でもある。
そんな本庁で、目下、ある疑惑をめぐり「全国の神職を巻き込んだ騒動が勃発している」と本庁関係者は明かす。
というのも、本庁の一部幹部たちが「怪文書」や「名誉毀損文書」と呼ぶ、複数の匿名文書が、全国の神職関係者の間で飛び交っているからだ。さらに今月、業を煮やした本庁首脳がこれら匿名文書に対し、被疑者不明のまま名誉毀損で刑事告訴に踏み切るというから穏やかでない。
争い事、ましてや法廷闘争とは無縁に思える神社界で、一体、何が起きているのか。
「事情を知る本庁職員や有力神社の神職は、神社界における『森友学園問題』と呼んでいる」と自嘲するのは、本庁の役員会関係者だ。
本庁は、週刊ダイヤモンド編集部の取材に対し、騒動のあらましこそ認めたものの、「顧問弁護士に一任している」と口をつぐむ。その顧問弁護士は、「宗教法人内部の財産処分の話なので外部に話すことはない」とだけ答え、受話器を置いた。
だが、複数の本庁関係者や、神職などに対する取材を進めると、「本庁の実権を握る一部の幹部が、特定の不動産業者と癒着し、貴重な本庁の財産を損なっているのではないか」という疑惑が浮上してきた。
最終的に3億円超になった
不動産を1.84億円で売却
事の発端は、一昨年の2015年10月までさかのぼる。
本庁の議決機関で、全国の神職などから選出される「評議員会」において、本庁が所有し、20世帯以上が入る職員用宿舎「百合丘職舎」(川崎市)を、新宿区の不動産会社「ディンプルインターナショナル」に売却することが承認された。その額は、1億8400万円だった。
ところが、売買契約日の同年11月27日、本庁からディンプルへ売却されるかたわらで、同じ地方銀行の別室において、もう一つの不動産売買契約が交わされる。ディンプルから東村山市の不動産会社A社への“即日転売”だ。「ディンプルに売られる」とだけ説明されていた本庁の役員会は、ふたを開けてびっくりしたという。
その上、A社への売却額は、ディンプルへの売却額1億8400万円よりも高い「2億円を大きく超える金額だった」と別の本庁関係者は明かす。
この取引について、不動産取引に詳しい弁護士や不動産業者は、「経緯を見る限り、『三為(さんため)契約』を使った典型的な“土地転がし”だろう」と指摘する。
三為契約とは、民法の「第三者のためにする契約」の略称で、簡単に言えば、3社の間で不動産を転売する際に、要件を満たせば途中の登記を省略することができるというもの。だが、「買値よりも2〜3割の金額を上乗せして転売するケースが多い」(不動産関係者)ため、合法ではあるが各地で問題となっているスキームだ。
ただ、話がこれで終われば、「不動産取引に疎い宗教法人が、不動産会社に合法的に手玉に取られた」という話。ところがだ。昨年5月、今度は、A社がさらに大手ハウスメーカーB社に不動産を転売、その価格が一気に3億円超に跳ね上がったというからひっくり返る。
原則売却禁止の基本財産を
随意契約でたたき売り
そもそも、今回、対象となった百合丘職舎は、本庁の「基本財産」だ。基本財産とは「本庁永続の基幹となる財産」(神社本庁規)であり、やむを得ない事情がある場合を除いて原則、「処分することはできない」(同)とされている。
“疑惑”の不動産取引の対象となった百合丘職舎
たとえ、事情があって処分が認められたとしても、三者以上の競争入札で行わなければならないと規定されている。ただし、競争入札が「特に不利、または不可能な場合」(神社本庁財務規程)に限って初めて随意契約が可能となるなど、基本財産の処分には幾重もの制限がかけられている。
それもそのはず。基本財産を取得する“原資”の多くは、過疎化にあえぐ地方の神社を含めた全国の神社から吸い上げた、言わば“上納金”だ。
さらに、そのおおもとをたどれば、地元の氏子や参拝者たちからコツコツ集めた大切な浄財。地方になればなるほど、地域コミュニティに参加するための“税金”の色彩が強くなり、それゆえ、本庁の財産はおいそれと売却してはならない、とされているわけだ。
基本財産目録に記された百合丘職舎は、簿価ベースで土地建物合わせ7億5616万円。もちろん、これは減価償却をしておらず、現在の資産価値ではない。それでも、本庁の基本財産のうち、かなりの部分を占める“虎の子”だった。
実は、本庁は百合丘職舎の売却案が内部で出た当初、当時の財務部長(前任)は競争入札を行うべく大手信託銀行などに相談していた。その過程で、相談先からは「3億円前後の値がつくだろう」という評価を受けており、また、実際に内々に「3億円近い買い取り額を提示する買い手もいた」(当時の事情に詳しい本庁関係者)という。それが、内規で原則禁じられているはずの随意契約により、1億円以上低い金額でたたき売られたことになる。
では、なぜ随意契約による1億8400万円という売却額が、評議員会で承認されたのか。
ディンプルとの随意契約に後ろ向きだった前財務部長が“更迭”され、K氏が財務部長に変わると話は一気に進む。評議員会や役員会で説明を求められたK氏が、売却の経緯や金額の根拠を説明した議事録(神社業界誌掲載)によれば、「入札に至るまでの時間的制約により、随意契約的な内容で契約を取り交わした」。また、「不動産鑑定評価書に示す価格(中略)など総合的に検討した結果、提示価格は適正の範囲内であると判断した」とある。
まず、入札にかけられないほど緊急の時間的制約があったのかだが、「不動産の価格は流動的で、ディンプルに即座に売らなければ、値下がりするかもしれない」などとディンプルとの契約を推し進めた幹部たちは説明したという。「そんな理由がまかり通るなら、不動産売買全てが随意契約でしか行えないことになる」と、さらに別の本庁関係者は呆れる。実際、即日転売で2億円を超え、さらに、わずか半年後には当初の想定していた売価3億円を超える値で買い手がついており、何とも苦しい。
また、売価の根拠として真っ先に挙げられたこの不動産評価鑑定書は、実は、購入者であるディンプル自身が持ち込んだもの。そこには、鑑定時の同行者としてご丁寧にもディンプル社員の名前まで記載され、その評価額は1億7500万円となっていた。
これを本庁側が本当に信用したのか、その真相は分からない。しかし、三為契約の舞台となった地銀は、A社のものになっていた百合丘職舎の土地・建物に計3億円の根抵当権を設定していた。無論、根抵当の額は必ずしも資産価値を担保するものではないが、B社の買い取り額を見ても安すぎることは間違いないといえる。B社担当者は言う。「われわれも不動産のプロ。実勢価格などを精査し、3億円超の価値があると判断したが、常識的に考えてわずか1.84億円という額には『ちょっと待ってくれよ!』と文句を言いたくなる」。
売却益で幹部職舎に高級マンション
危機管理名目にも疑問の声
この話には二つの“オチ”がつく。
まず、神社本庁が百合丘職舎の売却益で購入した“モノ”が問題視されている。
複数の本庁幹部と役員関係者は、異口同音に眉をひそめる。「危機管理用の新たな職舎という名目で、渋谷区代々木の中古の高級マンションを購入。その入居予定者が、なんとディンプルへの早期売却を推し進めた本庁の幹部2人だった」(前出の本庁関係者)からだ。
百合丘職舎の売却益で購入した高級マンション
つまり、職員用宿舎から入居者を追い出して得たカネを使い、一部の幹部が住むための家を買っていたというわけだ。
この「2人の入居予定者」とは、百合丘職舎の売却時、本庁総務部長だった小野崇之氏と、当時は秘書部長で、現在は小野氏の後任の総務部長に“出世”したS氏。本庁人事において、実質的な権力を握る二大ポストがこの総務部長と秘書部長だ。
だが、昨年2月、小野氏が伊勢神宮に次ぐ有力神社の一つで、全国8000社の八幡神社の頂点、宇佐神宮(大分県)の宮司に栄転。それが影響してか、当初は2戸購入する予定だったものが、総務部長(つまりS氏)が入る1戸に減らされた。
これには末端の本庁職員も一様に苦笑いだ。
「緊急時の危機管理対応用と言っておきながら、入居予定者が外部に栄転したら買わないとは、そもそも始めから1戸は必要なかったのではと言われても仕方ない。S氏は秘書部長当時、『秘書部長は役員との連絡係だから緊急時に備えて宿舎が必要だ』と言っていたが、役員には携帯で連絡すればいいし、自分が総務部長になった途端、秘書部長用の宿舎を買わないのはそれまでの説明と矛盾している」
「緊急時に実働する職員たちの大半は、百合丘職舎より遠い郊外に住んでいる。緊急の事態に、総務部長1人だけが駆け付けて、一体何ができるんですかね? ましてや、今回購入したマンションは、それまでの危機管理対応宿舎よりも遠い。本当に危機管理対応が目的なのかと言いたくなる」
こうした声があちらこちらから上がっているが、現総務部長のS氏が入居したマンションの購入価格は、中古ながら都心の一等地に建っているだけあって、なんと7260万円にも上る“超高級物件”だ。
そして、もう1つの“オチ”が、3億円超を出して“ババを引いた”格好の大手ハウスメーカーB社が今年2月までに、「百合丘職舎の躯体(柱など構造的部分)に購入後、大きな瑕疵があった」(B社担当者)と指摘したことだ。
B社は元々、リノベーション物件として再販するために百合丘職舎を購入したが、この瑕疵により、いまだ着工できない状態にあるという。B社は現在、「買い戻してもらうか、損害賠償を請求するか検討しており、売主(つまりA社)にクレームを入れている最中だ」(同じ担当者)。
ここで更なる疑惑が浮上する。さらに別の本庁関係者は言う。
「神社本庁の一部やディンプル社が、実は瑕疵を隠して売ったのではないかという疑惑が出ている。もしそうなら、1億8400万円という売価は腑に落ちる。だがそうなると詐欺に該当し、刑事事件に発展する可能性もある」
こうした疑惑の根拠となっているのが、先の議事録。財政部長のK氏は売価が安くなった理由の1つに、問われてもいないのに「売却後の瑕疵による経費発生の有無」を挙げているのだ。不動産評価鑑定書に「瑕疵」についての記載は一つも見当たらないにもかかわらず、である。
ディンプルの社長と
神社界“大物”の浅からぬ関係
では、なぜディンプルが「随意契約的な内容」で、百合丘職舎を手中に収めることができたのか。
「ディンプル社長のT氏は、小野氏と懇意な関係にある神社界の“大物”とかねて繋がりがある」と、複数の本庁関係者はため息を漏らす。
ある本庁関係者は「本庁の人間なら誰でも知っていることだが…」と前置きした上で言う。
「ディンプル社長のT氏は、実は『日本メディアミックス』という会社の社長も務めており、その取締役に、日本レスリング協会長を務める福田富昭氏が就いている。その福田氏は、本庁の元幹部である神政連会長の打田文博氏と懇意にしている。そして打田氏は、本庁の総長である田中恆清氏と盟友という関係。こうした流れで、ディンプルは本庁との関係を深めていた。また、小野氏は打田氏の腹心で、その後継者が現在の総務部長S氏だ。小野氏は、本庁の関係財団の過去の土地取引でディンプルと密接な関係があった」
ちなみに日本メディアミックスは、「日本で唯一の『皇室』専門誌」と謳って「全国の神社が半ば強制的に買わされている」(ある神職)という季刊誌『皇室』(扶桑社)の販売会社だ。
実際、ディンプルと本庁との関係は古い。
2000年に本庁の関係財団が、神職養成機関である國學院大学に土地を売ったことに端を発する。この売却益を元手に関係財団が、本庁に隣接するビルを購入。そのビルを3カ月前から所有していたのがディンプルだ。当時、本庁の財政部長で、この関係財団の事務局長を兼務していたのが、小野氏である。そして、12年には、本庁の所有する中野職舎(中野区)と、南青山のマンションもディンプルに売却されるなど、同社は本庁の不動産取引に深くコミットするようになった。なお、この2物件とも百合丘職舎と同じく、即日転売されている。
百合丘職舎をめぐる一連の取引について、小野氏は弁護士を通じ、書面で「神社本庁の問題であり、現在、神社本庁においてしかるべき調査が進行中と聞く。(小野氏が宮司を務める)宇佐神宮の問題ではないため回答すべき事項ではない」とした。
また、ディンプルから百合丘職舎を三為契約で購入した不動産会社A社担当者は、「(瑕疵の存在は)知らなかった」とする一方、「何も話すことはない。社長もそう言っている」とした。
そしてディンプルのT社長は、期限までに取材に応じることはなかった。だが、本庁関係者によれば、瑕疵が発覚した今年2月以降、T氏は数度にわたって本庁を訪れ、「百合丘職舎が解体されていれば問題はなかった」とし、「『随意契約ではない』『3億円の価値はなかった』と言うよう約束してほしい」などと、本庁幹部に迫ったという。
不動産取引をきっかけに、揺れる神社界の中枢である神社本庁。田中総長は今月、「司法の場での判断に委ねられるような問題」として、名誉毀損による刑事告訴に向けて動き始めた。片や、百合丘職舎の契約に疑問を抱く小串和夫・本庁副総長は、調査委員会を立ち上げ、今月から真相解明に乗り出している。つまり、「本庁首脳間でねじれ現象が起き、分裂状態にある」(前出の本庁関係者)わけだ。
「一連の出来事をおかしいと感じていた人たちも一部にはいたが、ほとんどの神職は性善説に立ち、争いを好まないため、事務方の決定を踏襲するだけだった。それが今回の問題を生んでいる」(本庁役員会関係者)
神社界の疑惑はどこまで白日の下にさらされるのか、関係者は固唾を飲んで見守っている。
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