http://www.asyura2.com/17/hasan122/msg/284.html
Tweet |
米FRBが秋から「ドル余り」解消へ、金融市場混乱と円高の懸念
http://diamond.jp/articles/-/132349
2017.6.20 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
6月14日、昨年12月と今年3月に続いて、米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)が0.25ポイントの利上げを実施した。2015年以来4回目の利上げに加え、FRBは3回にわたる量的緩和策(QE)を通して買い入れた債券残高を、年内に削減し始める方針を示した。これは、FRBが金融政策を正常化し、金融市場でだぶつくドル資金を吸い上げ始めることを意味する。FRBは金融政策の正常化に向けて大きく舵を切ったことになるが、米国の政治・経済には先行きに不安材料が残る。一方で世界経済にも新たなリスクを抱えた。
FRBのバランスシート圧縮
「過剰なドル」に守られた世界経済も転機
今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)のポイントは、今年2回目の金利引き上げを実施したことに加えて、FRBがバランスシートに計上してきた資産(米国債や住宅ローンを裏付けとする証券など)の段階的な削減に向けて行動指針と計画を公表したことだ。
このバランスシートの圧縮は、まず、FRBが保有してきた債券の償還期限が到来した分については、再投資を減らすことから始める。イエレン議長は、14日の会見で比較的早い時期に、この取り組みを始める意向を示した。
2008年9月15日のリーマンショックの発生後、米国経済は崖から突き落とされたかのような経済危機に陥った。2008年12月にFRBは事実上のゼロ金利政策を導入し、その後、3度にわたる量的緩和策=QEを実施した。
この結果、FRBのバランスシートの資産総額は、危機前の8000億ドル程度から約4.5兆ドルに膨れ上がった。大規模な資金供給によって金利は低下し、米国の金融機関や家計の資金繰りが改善した。米景気は2009年6月には底を打ち、そこから8年間の景気拡張が続いている。
3度のQEの結果、米国内外に供給されてきたドル資金の全体量は、リーマンショック直後の3.5兆ドル程度から、2013年下旬には7兆ドル程度に増加した。その後も、FRBは満期がきて償還された債券の元本を再投資してバランスシートの規模を維持してきたため、基本的にドル資金は潤沢だ。
一方で、世界経済の潜在的な成長率(需要)は、先進国を中心に低下基調を辿っている。多くの企業は設備投資に慎重だ。そのため、資金が金融市場に還流しやすい状況が続いてきた。
これが、カネ余り=過剰流動性だ。
そこに先行きへの強気な見方が加わると、金融資産の価格が理論的に説明できないほどに上昇する“バブル”のリスクが高まる。実際、米国の株式市場でバブルが発生していると考えるエコノミストは多い。
その他にもカネ余りが、中国経済の先行きが不透明な中で、新興国の株価上昇などにつながっていると考えられる。米国でもジャンク債の価格が上昇し、株価も、投資家の強気心理を反映して高値水準を維持している。それに影響されたビットコインをはじめとする仮想通貨の急騰など、カネ余りは金融市場・経済に“歪み”を蓄積させていると考えられる。
過剰流動性の吸収を急ぐ
バブルのリスク、一方で景気腰折れのリスク
当初、FRBはバランスシートの圧縮を開始するタイミングを、今年の後半としてきた。それが5月には年内の開始に修正された。その上で今回、FRBは金融政策の正常化を優先し、段階的に償還金の再投資を削減する方針を示した。どちらかというとFRBは政策の正常化を急ごうとしているとの印象さえ受ける。
FRBが急いでいると仮定すると、その理由は景気への不安があるからだろう。
中央銀行がカネ余りを放置すると、経済の歪みがピークになりバブルの崩壊などの厳しい状況に直面する恐れがある。
同時に、リーマンショック後の深刻な景気の落ち込みを経験したFRBにとって、急激な金融引き締めで景気の腰を折ることがないように慎重に政策運営をして、どちらかと言えば緩和的な金融市場の環境を支えることも重要だ。
このジレンマの中で、これまでのFRBは利上げを進めつつも、償還される債券を再投資し、どちらかといえば緩和的な金融環境を支えてきた。
しかし、米国の景気回復の動きは、徐々に伸び悩みつつあるように見える。
年初来、米国の新車販売台数は5ヵ月続けて減少している。失業率の低下にもかかわらず時間当たりの賃金は増加していない。個人消費支出の物価指標も伸び悩んでいる。
今すぐにではないものの、米国の景気回復が徐々にペースダウンしていく恐れがあることは排除できない。
もし、市場参加者が、FRBが景気のもたつきを懸念するあまり金融政策の正常化を躊躇していると判断すれば、短期的に米国株式市場の過熱感が追加的に高まるかもしれない。それは、バブルのリスクを一段と上昇させるだろう。
その展開を避けるために、FRBは景気回復のモメンタム(勢い)があるうちに、利上げに加えてバランスシートの圧縮を進めようとしていると考えられる。それが進めば、FRBは将来的な金融緩和の余地を確保することができる。
今後の展開を考えると、7月25〜26日に開催されるFOMCにて、償還金の再投資の削減やバランスシート圧縮プロセスなどに関する詳細が示され、市場への周知徹底が行われるだろう。状況次第ではあるが、9月のFOMCにて保有資産の段階的な削減が決定される可能性はありそうだ。
「過剰なドル」の縮小で
新興国などで金融市場が混乱する懸念
バランスシートの圧縮が進むと、債券市場の需給は緩み、金利には上昇圧力がかかりやすい。それが、世界の金融市場を混乱させないかが今後のポイントだ。
歴史的に、量的緩和策で膨張したバランスシートを望ましい規模にまで圧縮するのは難しい。日銀はそのよい例だ。なお、FRBは2025年にバランスシートの資産規模を3兆ドル程度としたいと考えているようだ。
2013年5月、当時のバーナンキFRB議長がQEの段階的な縮小(テーパリング)に言及した後、ドル資金が流出する不安から新興国を中心に世界の金融市場は混乱した。この教訓から、今回は混乱を避けるために、可能な限りの情報を公開して政策の正常化を進めることが重要だと、複数のFRB関係者が発言している。
それでも、その時々の経済状況によって、投資家の心理は変化する。
先行きの景気動向を考えた時、不安材料は少なくない。不良債権問題が経済の重荷になっている中で、財政支出に支えられてきた中国経済がどこまで小康状態を保てるかはわからない。
米国では、トランプ大統領の指導力や政策手腕への不安が高まり、財政運営やインフラ投資、税制改革が方針通り進むのかどうかへの不透明感も増している。
一方で、米国経済の成長につながると期待される分野もある。ビッグデータの活用はその最たるものだ。そのために、人工知能の開発なども注目されている。そうした取り組みを加速させるためには、トランプ大統領が「米国第一」の考えを改め、外国人労働者などの受け入れを積極的に進める必要がある。高度な技能を持つ外国人労働者の入国審査の厳格化などが改められていないことは、政府が成長の萌芽を摘み取りかねない恐れがあるといえる。
こうした中でFRBが本当に混乱を引き起こすことなくバランスシートの圧縮を進めることができるかは、わからない。
足元の世界経済は、過剰流動性が支えるリスク資産の高騰に浸っている。それは、FRBが供給してきたドル資金が、ベールのように経済を覆い、実体経済への不安を和らげ、期待を支えている状況と言い換えられる。
今、多くの投資家は先行きのリスク要因を軽視している。FRBのバランスシートの圧縮が始まるタイミングで、米国内外の景気の下振れが意識されやすい状況になっていれば、世界の金融市場は動揺しかねない。
その場合には、日本にとっても、リスク回避の資金が円買いを加速させ、円高が進んで景況感が悪化しやすいだろう。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民122掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。