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地銀大再編時代に銀行が活かすべき「本当の強み」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52011
2017.06.16 宿輪 純一博士(経済学)・帝京大学経済学部教授 慶應義塾大学経済学部非常勤講師 現代ビジネス
6月の初め、金融庁が、メガバンクに導入予定であった「債券保有規制」を2019年3月から地方銀行以下の銀行にも導入することを決めた。保有する国債や外債の金利変動リスクを自己資本の20%以内にしなければならないというもの。これは、国際決済銀行(BIS)の新基準であるが、金融関係者の間では、「いよいよ」という緊張感が走っている。
この基準導入をきっかけに、噂されていた地方銀行の大再編が本格的に始まるという見通しが高まっている。四国の地銀の1行に集約するレベルともいわれている。
実際、最近「銀行業」というビジネスは苦境に陥っている。構造不況業種と言っても過言ではない。つまり、当局が動き出そうが出すまいが、今後、大変動は必至となっている。一体、何が起きようとしているのか。(ここでは、銀行とは、メガバンク3つ含む都市銀行〈都銀〉、106行〈上場グループでは82〉ある地方銀行〈地銀〉、400以上ある信用金庫〈信金〉と信用組合〈信組〉を指す)。
「預金を集めて貸出す」はもう成り立たない
銀行の収益の基本は、預金者から預かった預金を貸出すことによって得られる収益である。いうまでもなく、これは預金者に支払う金利などのコストより借り手から払われる金利収入の方が高いことになって成り立つ。わかりやすく言えば、貸出金利と預金金利の差が利益となる。それが逆であれば、いわゆる逆ザヤである。
筆者が都銀に入った1987年には、バブル経済下ということもあり、貸出が預金額を上回っていた。いわゆるオーバーローンの状態であった。そのため預金集めも重要な業務であった。
ところが現在は、その逆で、そもそも預金が余っている。近年、日本経済、特に産業が活力を失っていき、貸出が伸びてない。足元では、銀行預金のうち貸出に回るのには、預金全体で約7割しかない。その残った約3割の資金は国債と外債を中心とした証券で運用している。その証券運用は、近年、銀行の収益の柱になっていた。
しかし、現在、預貸の部分では逆ザヤの状態になっている銀行も結構あるといわれているだけでなく、証券運用も同様に利益を生まないものになっているのだ。
銀行の証券運用は日本国債を中心としておこなわれている。しかし、昨年、2016年1月に日本銀行が当座預金に「マイナス金利」政策を導入したところ、国債までもマイナス金利に沈み込み、銀行の証券運用の収益もマイナスとなり全体的な収益も赤字となった。さらに、マイナス金利の導入により、日銀の予想に反して貸出金額すらも縮小した。このような状況下、日本の銀行株は暴落し、世界株価全体の下落を先導した。
それに対応し、日本銀行は昨年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、長期金利の指標となる10年物国債利回りを0%近辺に誘導した。イールドカーブ(期間を横軸にとったグラフ上の金利曲線)は上がり、銀行の国債投資では20年物を中心に購入するので、証券運用の部分はかろうじて収益が得られるようになった。
お上が目指す銀行整理の道筋
この市場環境の激変に、金融庁は銀行の方に思い切った対応を強いる方針を示した。昨年度下期に、出した「金融機関改革方針」、いわゆる「森ドクトリン」である。
このドクトリンにおけるポイントは2つある。1つ目は「地元回帰と活性化」で、企業への、それも創業時からの貸出などの支援が求められている。地域、産業育成に軸足を移させ、地方経済の成長、活性化を促すことが目的である。それにあわせ、バブル後の金融危機の後、不良債権を早期に処理させることを目的に作られ、企業向け貸し出しを縛っていると批判を受けている、「金融検査マニュアル」の見直しも行われる。
企業への出資でも可、といわれているが、銀行にとってみると出資は貸出しよりさらに困難なものである。これに対しては、筆者は、企業への起業時の融資や出資は、現在の銀行業ではまず無理で、別会社を設立して対応させるしかないと考える。そもそも、地方公共団体の行っている「創業」を支援する制度融資が元々あり、それとの兼ね合いも難しい。日本銀行にも成長基盤強化の貸出支援制度もある。
銀行は、もともと貸出努力を長年続けており、起業、創業といえども資金需要が新たに存在しているか疑問である。これは企業・産業育成の世界で、政府や地方公共団体が主体となるべきものである。
森ドクトリンの2つ目は、「資産運用改革」で、顧客本位、すなわち受託者責任(フィデューシャリー・デューティ)の強化である。銀行の収入の中でも増加中であった手数料収入は振込などの為替手数料だけではなくて、投資信託の販売手数料が柱となっている。
しかし、金融庁が望んでいるのは、トラブルが多い毎月分配型を除き、さらに販売手数料がゼロのものである。結果、約6000ある公募投信のうち金融庁が指定した「適格」はわずか50本しかない
そして、冒頭で述べた債券保有規制の地銀以下の銀行への導入である。その前兆はすでにあった。この3月、4つの地銀の運用部門に限って、金融庁が検査に入った。いわゆる「森ショック」である。地銀は金利が取れるフランス国債までも大量に保有していたが、売却を余儀なくされた。
改革と再編
金融庁はまた銀行業の構造改革の一環として「資金決済法」と「銀行法」を改正し、銀行にはFintechへの努力義務を課した。これも大きな経営負担である。
まもなく銀行の株主総会である。銀行は株主対応としてFintechに前向きな姿勢を示さざるを得ないので、実証実験はやらざるを得ない。しかし、銀行業務と世間で誤解されているブロックチェーンの仕組みは、銀行外からの取引確認が必要であり、従来の銀行業では顧客の守秘義務の観点からそもそも対応困難である。
さらには振込・決済には「決済インフラ」において、清算(差額計算)をしなければならない。ブロックに組んでいたら、そもそもできない。メインの銀行業務では困難なのである。
「改革」の主導者、森金融庁長官も「貸出しが伸びるのはマクロ経済的にありえない」とコメントしている。銀行はまさに八方ふさがりの状況で、構造不況業種ともいえる。
一般に構造不況業種であれば、まずは大幅なコスト削減は言うまでもない。そして「合併」は不可避である。都銀の合併はこれまでに一応終了し3つのメガバンクが誕生した。次は「地銀」の番なのである。今年は多数の地銀の合併が予想される。
銀行が生き残るためには
そして、大幅な構造改革が必要になる。筆者が経営者であれば、その銀行の「強み」の確認をして、それ以外の部分を切り離す方向しかない。選択と集中である。もう、通常の経営改革では対応できないことを認識すべきである。
さらにいうと、現在、日本国内で決済インフラ改革が進行中で、全銀システムのモアタイム。システムで24時間365日決済が可能になる。証券決済の決済期間も短縮される。携帯電話番号振込も可能になる。その結果、拙書に詳しく書いたが「円」の決済インフラについては世界最高レベルになる(拙書『決済インフラ入門』東洋経済新報社、参照)。
問題は、特に大手銀行に必須といわれている「海外・市場」である。海外・市場部門では、全世界的な決済インネットワークであるSWIFT(スイフト)でさえもハッキングされるなどの問題があり、システム負荷も高い。
しかし、システムは自行で対応せざるを得ない。システムやコンプライアンスなど膨大なコストの観点から、良いパートナーを探すことが必要不可欠である。市場・海外、特にシステム・事務部門は、切り離すなと発想の転換が必要不可欠である。メガバンクであっても、もはや、今の形態での銀行業は近未来にはあり得ない。
「金融」は理論(机上)だけでは理解するのは無理で、「現場」を知らなければ分からない。筆者は銀行に27年間勤務し企画部門にも勤務してきた。2003年から大学院や大学において、専門の一つとして企業戦略も教えており、現在もコンサルティングファームを始め、銀行などの相談に乗っている。そのなかで経営のポイントはとにかく自らの「強み」を認識することだと考え、教えている。
筆者が現場で感じる銀行業が持っている「最終的な強み」は「事務の正確性と信頼性と勤勉性」と考えている。つまり、政府や地方公共団体はじめ公的な「事務」を受託していくことこそ、次の本業となるべき、と考えている。
巨額の財政赤字が続いている政府や地方公共団体としても、コスト削減とトラブル防止となるのではないか。そこに日本の銀行業の将来があると考えている。
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