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「老人」がいきなりIT企業で働くと、いったい何が起こるのか? これは決して「他人事」ではなくなる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52033
2017.06.16 山崎 元 経済評論家 現代ビジネス
老人がスタートアップに転職
世の中には、特定の分野の人を過大評価しがちな人がいる。
特定の分野には、概ね3タイプあって、それぞれ「政治家」、「作家・研究者」、「起業家・経営者」だ。
(1)一人の人間としては妙に体力のある目立ちたがり屋という程度の人物に過ぎないのに、大臣・国会議員といった肩書きを持つ政治家を妙に有り難がる人、
(2)単に働くのが嫌いで凝り性だっただけの変人である作家や大学教授に、深遠な知性や精神性を見ようとする人、
(3)ただ運が良くて我の強い自己承認願望が強いお金持ちを、「成功者」として崇めて社会的にも立派な人であるかのように思い込む人、
などだ。
人の好みは多様であっていいので、いちいちケチをつけるのは余計なお節介なのかも知れないが、それぞれについて時々は、「全面的にたいした人間ではない『変わっているけど、普通の人』なのだな」と思うくらいの見直しをする方が、世間をスッキリ理解できて、誤解による損失(政治家に入れ込むとか、ツマラナイ会社に投資するとか)を避けることができるようになる。
今回は、これらの中でタイプ(3)の「起業家・経営者」、特に、スタートアップの経営者を過剰に尊敬してしまう性癖を解毒できるような、書籍を一冊ご紹介する。
ダン・ライオンズが書いた『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』(長澤あかね訳)だ。
ダン・ライオンズ氏は、『ニューズウィーク』で記者をしていたが、2012年に51歳で解雇される。その後、少々の経緯を経て、ハブスポットという2014年にIPO(株式公開)されたIT企業に職を得て、約2年弱この会社に関わることになるのだが、この会社で彼が体験し見聞きしたことを書いた体験記系の内幕ものがこの本の大筋だ。
タイトルから想像できる通り、外から見たのでは分かりにくいあるスタートアップ企業の中身の薄さと馬鹿馬鹿しさが皮肉たっぷりに描かれているのだが、同時に、リストラされた老人が(筆者は現在59歳なので、リストラされた時点で51歳の彼を「老人」とは書きたくないが、若いIT企業にあって自身が「老人」だったと著者は書いている)、若いスタートアップ企業に勤めると、どのような扱いを受け、それをどう感じたかを、自身の心情として、事細かに書いている点も読み所だ。
日本で言うなら、日本経済新聞でコラムを書いていた編集委員のような人が、いきなりリストラされて、若いベンチャー企業に転職したような感じだと思って頂くといいだろう。
日本経済新聞社の場合、このような解雇はないだろうし、一方、記者クラブに加入して、官庁からも企業からも、情報は主として向こうからやって来る日経と、米国流のジャーナリズムの下にあるニューズウィークとでは、肩書きはジャーナリストでも職業上の感覚は相当に違うだろうが、働くオジサンの実感のギャップは似たようなものだろう。
日本でも、今後、この著者と似たタイプの職業選択は増えて来るだろうから、この本をまったくの「他人事」とは思えない読者が多いはずだ。
一見きらびやかに見えても…
さて、この本には、大きく言って二つの教訓がある。
第一に、特にIPO(株式公開)を目指している、あるいはそこに漕ぎ着けたスタートアップ企業は、一種の「金融商品」であるという認識の重要性だ。
彼の理解の下でだが、大人の話が通じるニューヨークタイムズ編集部から、若い人が多いハブスポットに移ってみると、著者にとって、その会社は、経営者は幼稚で、従業員は画一的で妙にポジティブだが条件的には搾取されていて、出資者(ベンチャーキャピタルを含む)と一部の経営幹部が、ひたすらIPOを目指して会社自身を投資家にマーケティングすることにのみ心を砕く、一部のズルイ人と、彼らに体よく使われているおめでたい(主に)若者社員の集積体だった。
そこでは、利益を出すことよりも、売上を成長させて、投資家に期待を持たせて、より高い株価でIPOを成功させることが主たるゴールとなる。
そのためには、徹底的にマーケティングにコストが使われて、ポジティブな対外イメージだけが異様に重視されて、利益は重視されていない。実際に、ハブスポット社は、2014年にIPOを成功させて、その後に株価が上昇したが、いまだに利益を上げたことがない。
利害関係者が多数居ることでもあり、ハブスポット社のビジネスの将来性と株価の適否について、筆者は今言及しないことにするが、著者は、相当の違和感を感じたようだ。
当初の数年利益を上げていなくても、ビジネスの規模を拡大し続けて、やがて利益が出るようになったアマゾンやフェイスブックのような例外的な大成功の例があるとしても、利益が出る見込みがはっきりしない多くの企業に対してまでそこそこに高い株価が付く現在の状況を、「バブル」だと著者は感じている。
著者の認識によると、現在のIT企業の株価に対するバブルは、1999年から2000年にかけて崩壊した前回の「ネット・バブル」を上回る規模だ。そして、かつてのネット・バブルの状況に加えて、2008年の世界金融危機以後のFRBの金融緩和政策に後押しされて進行中だという。
スタートアップ企業が、そこに出資した人達にとって「金融商品」だというのは現実だろう。また、著者が観察するように、スタートアップは、それを実際に始める人やそこで働く人たちよりも、その投資者に対してこそ、大きな富をもたらしている。
ともあれ、金融商品としてのスタートアップ企業を成功させるためには、企業自身が本業で利益を稼ぐことよりも、「成長イメージ」と「(株式での)投資のリターン」だけが強調する傾向があることに、投資家の方も気づくべきだろう。
日本だって同じ
日本にも、この本に書かれたハブスポット社を小さくしたようなIT企業風ののベンチャー企業はあり、筆者は、その会社で働く知人を通じて内情を知らなくもない。
その会社は現在、複数の出資者からの資金を集めて当座を凌ぎつつ、本業が収益化する見通しが立たない中で、出資者と経営者は、何とかIPOだけは成功させたいと思っているようだ。
近い将来に、この会社のIPOが上手く行くのかどうか筆者には分からないが、仮にIPOまで漕ぎ着けたとして、この会社の株をIPOで買うのは「気の進まない投資」であると言わざるを得ない。
ただし、その時の株式市場の雰囲気によっては、こうしたダメ会社(だと筆者が思う会社)のIPOでも上手く行くことがあるので、「投資するな」とも言い難い。いずれにせよ、「会社自身が金融商品だ」という視点は忘れずにいる方がいい。ハブスポット社も、IPOの後に株価が上昇したのだ。
ただし、2000年に終わったネットバブルを含めて、多くのバブルが終わる時には、「一瞬で」と言いたくなるような短期間で市場の潮目は変化した。
金融政策の節目を考えると、2005年のライブドア・ショック以来盛り上がりに欠けていた日本のIPO市場も、今後しばらく賑わう可能性がある。
しかし、ベンチャー投資・IPO投資にあっては、「いきなり終わりの笛が鳴る」展開となるリスクは、常に認識しておくべきだ。
それにしても、本の帯に「キラキラの内側は、ぐちゃぐちゃ。」とあるように、一見きらびやかに見えても、スタートアップ企業の内幕が、そう立派なものではない場合が多いことは、十分想像の範囲に置いておくべき事柄だ。
オジサンはプライドを持て余す
「スタートアップ・バブル」を読んでみて、著者は、コンテンツの制作者として十分有能な人なのだろうと思う。口調は辛辣だが、友達として付き合ったとして十分楽しそうなインテリだ。それは、この本の各場面がリアルかつ率直に書かれていることから十分分かる。
しかし、著者は、若者が多いハブスポット社に十分溶け込めずに、自分が「浮いている」ような感覚を覚えた。詳しくは本書を読んでいただきたいが、やや失礼な「年寄り扱い」を受けることもあった。各種のストレスを受けたケースについて、著者は、自分の心情を率直に書いている。
今後、日本でも、著者のように「生活が掛かっている」状況で、若者の多い会社に再就職する中高年者が増えるはずだと思うが、そうした中高年者本人にとって、あるいは中高年者を使う側にとっても、厄介でもあり、重要でもあるのは、中高年者の「プライド」であることが本書を読むとよく分かる。
中高年者のプライドは、若者の中に溶け込む上で邪魔になることがあるし、仕事へのモチベーションを減退させることもある厄介な代物だが、同時に、環境を変えてなお働く中高年者の心の支えでもある。
今後、「私は、若者にこのように上手く使われた」という中高年者の体験記や、さらに「私は、高齢者をこのように上手く使っている」という若い経営者の自慢話をぜひ多数読めるようになりたいと思うのだが、再就職した中高年者が自分を、どのような「年寄り」として認識するといいのかは、労使双方にとってつくづく難しい問題だ。
強烈なエピローグ
「ネタバレ」として、読書の楽しみを削ぐことになるといけないので詳しくは書かないが、この本のエピローグで展開される著者の周辺で起きたことに関わるエピソードは強烈だ。おそらく現在進行形でもあって、著者にとっていまだスッキリとは解決していない。
我々は、日常的にインターネットを利用していることに伴って、自分自身の情報が、誰によって・どの程度、知られていて、利用されているのかについて自覚的ではない。
著者が本書を書くことによって遭遇した事実の気持ちの悪さは、多くのインターネット・ユーザーが、本来は、事前にもっと意識的に心配すべき問題なのだろうと思わずにはいられない。
日本にいる我々にあっても、「自分は、不用意なのかも知れない」と思うべきシステムやサービスとの付き合いは少なくない。自分の消費や金融行動に関するデータを、誰にどこまで持たせていいものなのかに関しては、一度、あらためて見直しする機会を持つべきなのではないかと筆者も思った。
読者に対して、様々な「考える材料」を与える書籍だと思う。軽く読み流せる本ではないが、高齢者の再就職や、IPO投資に興味のある方には、ぜひご一読をお勧めする次第だ。
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