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「同一労働同一賃金」は正社員の給与引き下げ圧力になる
http://diamond.jp/articles/-/131003
2017.6.8 野口悠紀雄:早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 ダイヤモンド・オンライン
政府の働き方改革政策は、「同一労働、同一賃金」を目標として掲げている。
正規労働者と非正規労働者の給与にきわめて大きな差があるのは事実だ。
ただし、これは正規・非正規という雇用形態の差だけに起因するというよりは、仕事の内容の差に起因すると思われる。
これだけ大きな格差を、正規・非正規という区別をなくすだけで解消するのは困難だ。強行すれば、正規労働者の給与引き下げ圧力になりかねない。
労働者の側でも、1つの企業に頼り切るのでなく、複数の企業で兼業したり、フリーランサーを目指したりするなどの対応が必要だ。
非正規の比率は4割弱に
女性では大半の年齢層で5割超える
「同一労働、同一賃金」とは、「職務内容が同一または同等の労働者に対し、同一の賃金を支払うべきだ」という考え方だ。
2016年12月に公表された「働き方改革」に関する政府のガイドライン案では、「基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職業経験・能力を蓄積している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない」としている。
そして、正社員と非正規社員で待遇差をつけるのが不合理か否かについて、基本給や賞与、各種手当など、対象を細かく分類したうえで、具体的な例を示している。
正規・非正規雇用の定義と現状はこうだ。
労働力調査によると、2017年2月において、「役員を除く雇用者」5402万人のうち、「正規の職員・従業員」は3397万人(62.9%)、「非正規の職員・従業員」は2005万人(37.1%)だ。
非正規の内訳はパート(985万人)、アルバイト(422万人)、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員、嘱託などとなっている。
年齢階層で非正規の比率が高いのは、15〜24歳と65歳以上である。
非正規の比率は、男性では21.3%、女性では56.1%だ。男性では35〜54歳では10%未満となるが、女性では25〜34歳を除くすべての年齢で50%を超える。
パートタイム労働者の賃金が安いのは
時間当たり賃金で大きな差
正規と非正規の給与の実態はどうなっているだろうか?
まず賃金を見ると、図表1に見るように、一般労働者とパートタイム労働者の間に、大きな差がある。
同じ労働力調査の調査産業計での、「きまって支給する給与」の月額で見ると、一般労働者は33万4547円である。これは、パートタイム労働者の9万4701円の3.53倍になる(調査産業計、事業所規模5人以上、2017年3月)。
前回見たように、総労働時間では、一般労働者はパートタイム労働者の約2倍でしかなかったのだから、時間当たり賃金に大きな差があることがわかる。
総労働時間1時間あたりの「きまって支給する給与」を計算すると、一般労働者は1959.9円である。これは、パートタイム労働者の1105.0円の1.77倍だ。
この差は、きわめて大きなものと言わざるをえない。この差を埋めようというのが、政府の目的だ。
しかし、以下に述べるように、この考えには、いくつかの問題がある。
◆図表1:一般労働者とパートタイム労働者の月間給与
正規と非正規の間の賃金の差は
仕事の内容に差があるから
第1に、これだけ大きな差は、正規・非正規という雇用形態の差だけのために生じているのでなく、仕事の内容に差があるために生じていると考えざるをえない。
仮に、正規・非正規で仕事の内容は同じであるとし、正規は長期的な雇用保障をするが、非正規はそれを保障していない、というだけの差であるとしよう。
その場合には、雇用が保障されていないことを補うだけ、非正規の賃金率が高くならなければならないはずである。
実際にそうなっていないということは、正規と非正規の仕事が同じではなく、仕事の内容が異なることを意味すると考えざるをえない。
仕事の内容の差によって、生産性にも差が生じるかもしれない。そうであれば、同じ仕事を同じ時間でやっても、成果が異なるので、賃金に差が出てくるのは当然のことだ。
本来目指すべきことは、「同一の成果に対して同一の賃金を支払う」ということであるべきだ。
もともと、ヨーロッパで同一労働同一賃金が言われたのは、男女間の賃金格差を是正することが主たる目的であった。性別という形式的な差別によって、仕事の内容や生産性が同じであるにもかかわらず賃金が異なるのであれば、確かに問題である。
しかし、それを正規労働者と非正規労働者に当てはめようとするのには、無理がある。
非正規労働者の増加は、
日本経済の長期構造変化の反映
企業は、正規労働者を増やすことができないような経済環境下にあると考えるべきだ。このことは、以下に述べることから確認される。
まず、雇用指数の時系列的な推移を見ると、図表2のように、一般労働者は1990年代には増加したものの、97年がピークで、それ以降、2004年まで、継続的に顕著に減少した。05年からはわずか増加した。リーマンショックの影響はほとんど見られない。
それに対して、パートタイム労働者は、継続的に顕著に増加している。この結果、16年には、1990年の2.5倍になっている。同じ期間に一般労働者が2.1%しか増えなかったのとは対照的だ(なお、上で見たのは正規と非正規の推移だが、労働力調査によると、12年から16年にかけて非正規社員は11%増えたが、正社員は0.7%の伸びにとどまっている)。
このように、非正規労働者の増加は、90年代末からの長期的傾向であり、日本経済の長期的構造変化の反映と見るべきだ。人口構造の変化や産業構造の変化と密接に関係している。スローガンでなくせるようなものではない。
企業は正規雇用の増加を望んでいない
正規の有効求人倍率はまだ1を下回る
企業が正規という形態での雇用増加を望んでいないことは、有効求人倍率の数字にも表れている。
実際、正社員とパートタイムでは、図表3に見られるように、有効求人倍率に大きな差がある。パートタイムの有効求人倍率が1を大きく上回っているのに対して、正社員の有効求人倍率は、依然として1未満なのである。
4月の有効求人倍率(季節調整値)を見ると、有効求人倍率は0.97倍と1に近づき、統計を取り始めた2004年11月以降で最高となった。しかし、依然として1を下回っていることに違いはない。
政府の基本的な考えは、「正規という雇用が本来あるべきものであり、非正規雇用はなくすべきだ」というものだ。
これは、高度成長期の日本の雇用形態を理想的なものとし、これに戻そうという考えだ。しかし、日本経済の現在の状況は、そうした考えが成立しえないものになっているのである。
「同一労働同一賃金」にこだわるな
労働者は副業や兼業で所得を増やせ
以上で見たように、正規と非正規の差を「同一労働、同一賃金」というスローガンだけで埋めることは到底不可能だし、強行すれば、さまざまな歪み0を生むだろう。
例えば、非正規労働者の賃金を引き上げるのではなく、正規労働者の賃金水準に引き下げ圧力がかかる可能性もある。
本当に必要なのは、生産性の向上だ。それが実現されれば、非正規労働の賃金も上がる。それなくして、表面的現象のみを捉えて強制的に賃金の同一化を求めれば、全体の賃金を下げる結果になってしまう。
労働者の側からしても、1つの企業での非正規労働の賃金引き上げを求めるだけでなく、副業や兼業を積極的に行ない、所得全体を引き上げることで対処すべきではないだろうか? 企業が非正規を求めているのであれば、労働者の側も、積極的にそれを利用すべきだ。
それによって、全体の所得が上がればよい。政府の働き方改革には、そうした視点が欠落している。
(早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 野口悠紀雄)
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