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Photo:首相官邸HP
米独対立は30年前の悪夢「ブラックマンデー」を想起させる
http://diamond.jp/articles/-/130677
2017.6.6 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
今回のG7会議は予想通りの荒れ模様となり、米国と欧州諸国との対立が浮き彫りになる結果になった。その背景には、米トランプ大統領が掲げる露骨な「自国優先主義」に加えて、国際会議初デビューで見せた振る舞いが、傲慢さをより印象づけることになった。サミット直前に開かれたNATO諸国の首脳会議で、参加国の首脳が揃って歩いている場面でトランプ氏が他の首脳を手で押やって前に進み出る姿は、多くの人から顰蹙を買った。
その姿勢からは主要国との協調性をほとんど感じることができない。世界経済に不測の事態が発生した場合、主要国が足並みを揃えて対応することができるのか。疑問と不安を抱かせた。
「ブラックマンデー」前を彷彿させる
米と欧州の足並みの乱れ
G7の首脳会議では、中でも米国とドイツとの対立が明確になった。米・独間の軋轢は、今から30年前の出来事を思い出させる。
1987年10月19日、ニューヨークでの株価急落を受けて、世界的に株価が大きく下げた。世にいう「ブラックマンデー」だ。
当時、ニューヨークダウ平均株価は約2200ドルだったが、19日一日だけで508ドル、20%を超える下落となった。
東京市場の株価もそれに引っ張られる格好で、約2万6000円だった日経平均株価は約3800円下げた。まさに“暗黒の月曜日”と称されるにふさわしい、大変な金融市場の混乱になった。この引き金となったのが、米と独(西独)との政策協調の乱れだった。
当時の米国を振り返ると、1981年に俳優出身のレーガン大統領が人々の期待を一身に集めて登場した。同氏は、軍事支出の拡大や減税、規制緩和を中心にした経済政策=レーガノミクスによって“強い米国”の復活を目指した。今回のトランプ大統領誕生の風景もよく似ている。
しかし、レーガノミクスは期待された効果よりも、むしろドル高による米国経済へのマイナスが大きくなった。ドル高を是正する為、1985年に主要国の蔵相・中央銀行総裁が集まって、ドルを政策的に減価させる「プラザ合意」が形成された。
プラザ合意による各国の協調介入などで、その後の約一年間でドル円為替レートは1ドル=230円程度から130円まで大きく変化した。日本は、その急速な円高に苦しめられるのだが、米国経済にも急激なドル下落がインフレ懸念の台頭など、劇薬として作用することになる。
そのドル急落に歯止めをかけるため、G7の蔵相・中央銀行総裁会議がパリのルーブル宮殿で開かれ、参加諸国が協力し、過度なドル安に歯止めをかけることが決まった。1987年2月のことだった。
世界の株価急落の要因に
米国の基礎的競争力も劣化
ところが、ルーブル合意からわずか数ヵ月後、当時の西ドイツの中央銀行が、国内のインフレ懸念の台頭を懸念して政策金利の引き上げを断行した。ドイツが金利を高めに誘導すると、当然のことながら、当時のマルクは強含みになり、ドルは売られて弱含みとなる。
当時の米国の財務長官だったベーカー氏は、ドイツの金融政策の変更をルーブル合意に反するとして激しく非難した。そうした米・独の対立を見た金融市場の参加者は、主要国の協調体制が崩れたと見て不安を増幅させることになる。
投資家の不安要因が高まると、どうしても金融市場は不安定化する。1987年10月になると、米国株式市場の動きは一段と下押し圧力がかかり、ついに、19日のブラックマンデーに至ってしまった。
ちなみに日本はこの時、不動産価格の急騰などインフレ懸念が強まっていたにもかかわらず、政策協調による低利政策を維持し、これがその後の「バブル経済」を生む主因になった。
株価の急落は、米・独の対立、主要国の政策協調のほころびが表面化したからというだけではなかった。米国自体の財政収支と貿易収支の「双子の赤字」が予想以上に拡大、金利高やドル高が輸出産業などの競争力をさらに弱めるなど、「レーガノミクス」の“ツケ”が米国経済を低迷させた。米国経済のファンダメンタルズ、基礎的な競争条件の劣化という要因もあったのだ。
「トランポノミクス」は
「レーガノミクス」と酷似
ニューヨークの市場関係者とメールのやり取りをすると、彼らのトランプ政権に対する、当初の期待はほぼすべて剥落していると言ってもよいだろう。むしろ、「トランプ大統領が余計なことをしないで平穏に過ごしてほしい」という思いが強い。
トランプの掲げる経済政策、いわゆる「トランポノミクス」と、1980年代初頭にレーガン大統領が唱えた「レーガノミクス」には共通項が多いのは事実だ。特に、国防費の増大を容認し、減税を行って国民からの支持を取り付ける方向性はよく似ている。
また、「強い米国を復活させる」という謳い文句も全く同じだ。当時レーガン政権では、通商政策でも「不公正貿易是正」と称して、表向きは自由貿易を掲げながら、保護主義的な政策が打ち出された。
ただ、だからと言ってトランプ政権の経済政策がワークしないと指摘するつもりはない。しかし、トランプ政権の重要な政策目標の一つとして、重厚長大型の産業=オールドエコノミーを再興し、雇用を増やすことを掲げていることには不安を感じる。
現在、米国経済の成長を牽引している中心はIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの先端産業=ニューエコノミーだ。これらの分野は世界市場での競争力が強い。そうした状況を考えると、米国としては、得意の先端分野をさらに強くするため、オールドエコノミーからニューエコノミーへと、人・モノ・金の経営資源をスムーズに移動させることが有利な戦略になるはずだ。トランプ政権が主張するように、オールドエコノミーを再興して雇用を維持するだけでは、長い目で見て米国経済を強くすることは難しい。
社会資本の強化を図るため、必要な公共投資を行うことに異論はない。しかし、それは雇用を維持するためではなく、 社会全体の効率を上げるために必要な否かが重要なメルクマールになるべきだ。
米国は日本と同様に財政赤字を抱えている。公共投資を実施するために、恐らく、国債発行に依存せざるを得ない。その結果、国債の発行残高が膨らみ長期金利が上昇すると、経済成長を阻害する要因になりかねない。高金利を背景に、ドル高が進む可能性も高い。それでは、まさに1980年代のレーガノミクスと同じ結果を辿ることになる。
それに加えて、ドイツを中心とした欧州諸国との対立が鮮明化して、国際的な協調体制ができにくくなると、主要国の景気が減速局面に入った時やそれに伴う金融市場の不安定な動きを制御することが難しくなる。
今回のG7でそのリスクが顕在化した気がする。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
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