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G7の中間層が20年間全く豊かにならなかったことが世界を変えた
http://diamond.jp/articles/-/130289
2017.6.2 週刊ダイヤモンド 特別セミナー開催レポート 週刊ダイヤモンド編集部
5月12日、『週刊ダイヤモンド』主催で定期購読者向けの特別セミナーが東京・青山で行なわれた。この日のセミナー講師は、ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクターの御立尚資氏。今回、「変化の時代とその源流」をテーマに、政治、経済ともに予測不能なこの激動の世界をどう捉えていくべきかを語っていただいた。
御立尚資・ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター
「こんばんは。御立です。よろしくお願いします。
最近、世界の政治や経済がめまぐるしく動いています。米国ではトランプ大統領が就任し、ヨーロッパもワサワサしていて、日本の周辺も落ち着かない。そんな今、我々が生きている21世紀の前半というのは、『並存の時代』なのではないかと思っています。
『平家物語』が書かれた平安時代の最後、平家が栄華を誇っていた時代がありました。平安時代は貴族の時代でしたが、実際はそのあとやってくる武家時代が実は始まっていて、それまでずっと権力を持っていた天皇家と貴族がだんだんその役割を終えていったけれども、まだまだ権威だけはあって、でも、現実には武家の台頭を抑えることができなくなってきていた。この時代は、貴族の時代とその後に来る武家の時代が並存していた、ちょうど変わり目の時代だったのではないか、と思います。
同じように今は、まさに変わり目、そうした併存の時代です。20世紀は工業化社会を作ってそれを資本主義で支えるというモデルで人類が豊かになってきましたし、我々も恩恵を十分に味わってきました。まだそこに我々はいるけれども、どうも、今までの工業化モデル、それを支える高度資本主義モデルのメリットとデメリットが逆転し始めているように感じます。
ただ、これから来る時代のことは、将来のことですから全部はわかりません。でも、今現在起こっていることに“将来の兆し”があることがわかるし、“大きな変化を起こすような原動力”を感じます。私たちは、それを理解して将来を作っていくことが非常に重要です」
その兆しの読み方について、御立氏は「エレファントカーブ」に注目して解説した。エレファントカーブとは、世界銀行のエコノミストだったミラノビック氏が発表したもので、1988年から2008年までの間に「世界で誰が豊かになったか」を示しているもの。グローバリゼーションの進んだこの約20年間に、先進国の富裕層はますます豊かになり、新興国の中間層も豊かになったが、一方で先進国の中間層の所得が最も伸び悩み、ないしは下がっていることを示したデータとして注目された。
「エレファントカーブからわかるのは、2008年までは、リーマンショックまで先進国の富裕層は富を6割以上増やしていたこと。そして新興国の中間層、これは工業化が進んだASEANや中国で中流階層に入れるようになった人たちですが、ここがすごく豊かになっています。
ところが、英、独、仏を中心とする西ヨーロッパとアメリカとカナダと日本、いわゆるG7の先進国の中間層は20年間、富を全然増やしていない。ここが根本的な話なのです。ここが、先ほど申し上げた"大きな変化を起こしそうな原動力"の根本です。
20年間全く豊かにならなかった、しかも自分の親世代までは豊かになってきた今の先進国中間層が、自分の国の金持ちだけがさらに金持ちになり、特に工場で働いている人たちは、自分の仕事がどんどん新興国に奪われていった。そして不満だらけになったのですね。この不満が原動力となって実際に起きた変化が、トランプ政権の誕生です」
米国大統領選挙、あるいは先日のフランス大統領選について、注目すべきは「誰が勝った、負けた」ではなく、その結果を招いた源流がどこにあったか、ということ。それに気が付くと、今、世界で起こっていることの輪郭がはっきり見えてくる。それは先進国において『工業化して豊かになればそれでみんなが満足』という法則が終わりに近づきつつある」ということだと御立氏は続けた。
「1950年にこの地球上には大体30億人くらい人がいました。これが50年後の2000年には倍の60億人になったのです。今は75億人以上。地上始まって以来の人口爆発です。ここで注目すべきことは、1950年代の識字率、読み書きそろばんの初等中等教育を受けた人の人口全体に占める割合は50%だったことです。30億人×50%だから15億人。この人たちはどこにいたか? ほとんどすべてがG7、つまり日、英、仏、独、アメリカにいたのです。これ、何が大事かというと、基礎教育を受けた人が大量にいる国が工業化社会を支えられるということなのです。
ところが2000年になって人口は60億人にもなりましたが、2000年の世界中の識字率は85%。増えた分は、ほとんど全て新興国にいます。そして、そういう国が今急速に工業化しつつある。工業化は一人当たりGDPでいうとものすごいインパクトがあります。
産業革命が起こる前、工業社会以前の農業社会では一人あたりGDPはおおよそ400ドル程度でした。それが、産業革命がいち早く起こった欧米の先進国、遅れて参画した日本は1人あたりGDPが3万ドル超に。その後に工業化が進んだ新興国でも、1人あたりGDPは1万ドルに達しています。農業社会では400ドルだったものが1万ドルになっただけでも25倍。富のレベルが全く違う社会になったということです。
ちなみに、人口の急増の要因は、乳幼児の死亡率が下がったことです。新興国で衛生環境が改善されて乳幼児の死亡率が下がった。ですから、20世紀後半に、新興国で人口が急増して、世界の人口が爆発した。
こうして人口が爆発してグローバルに工業社会化したことで、何が起こったか。本当の意味で分配の仕組みがしっかりできていなかったために、お金持ちだけがどんどん豊かになっていったのです。
そして、ヨーロッパでは、新興国の移民が入ってきて中間層の職がどんどん失われていく。『自分たちが苦しいのはあいつらのせいだ』という思いを募らせる人が増えていった。昨日より今日の方が悪い、今日より明日が悪いかもしれない、と恐れを抱いたとき『目の前にあるパイから獲ろう』と思うようになったわけです。
最近の先進国の大統領選で見えたのはそうした変化。だから、先進国においては、選挙で誰が勝った、負けたが重要ではなく、『工業化して豊かになればみんながそれで満足だ』という法則が終わりに近づいてきている、というのが本質です」
先進国のみが豊かさを享受する時代が終わり、新たに富を得始めた新興国は、手に入れた豊かさを守り、高めようとする意識が強まる。すると、エネルギーの確保と安全保障に注力することが政府の当然の目標となり、軍備を増強し、周辺諸国と緊張関係が高まる構造が生まれてくる。そもそも、今、新興国と言われて工業化が進んでいる国は、歴史的に見れば文明が起こり、大国であった国も多い。そうした根底にある意識が複雑に絡み合い、先進国だけが豊かさを享受している時代にはなかった「地政学リスク」が今後の時代では存在感を増してくると御立氏は予想した。
「『経済統計で見る世界経済2000年史』を記したOECDのエコノミストで人口経済学者のアンガス・マディソンという人がいます。この人は紀元0年から今に至るまでの国別の一人当たりGDPを全部算出した人です。これが面白い。世界全体のGDPを100としたとき、紀元1000年の中国のGDPは23、インドが29、合わせて52なのです。地球上の5割のGDPをインドと中国が占めていた。ところが1950年になると、中国が5、インドが14、2000年になると中国が12、インド5。今は足して2割程度ということです。
これは中国、インドが植民地時代に徹底的に収奪されたからなのですが、最大の収奪は工業化を許されなかったことなのですね。だから中国やインドの要人からすると、自分たちは大国だったのに植民地時代にひどい目にあわされた。今の経済発展は昔に戻しているだけだ、というものすごい『ルサンチマン』が心の中にあるのです。
これはイスラムの世界に行っても同じです。そもそも自分たちは文明大国なのだ、と。ルネッサンス時代にメディチ家がどこから文明を輸入したかといえばイスラムからなのですよ。数学も天文学も。もっと言うとギリシャ、ローマにあった哲学もイスラムが継承した。だから自分たちは文明大国なのだという意識がある。
ところが、たまたま工業化に遅れてしまったせいで、第一次大戦、第二次大戦の時にイギリスとフランスとその後アメリカ、ソ連が勝手に線を引いて、部族も宗教も無視して国境を決めてしまった。極論すると、IS(イスラム国)という狂信的なものにサポーターがいるというのは、そういう背景があるからなのです。
自分たちが本来望んでいなかったことを先進国に勝手にやられたという強い思いが、彼らの根底に存在していることは、我々はわかっていなければならない。
その中で何が起こったか。工業社会になった国は次に、豊かさを守るためにエネルギーと食料の確保を目指すし、それを侵されないための安全保障に金を使います。エネルギーと食料の安全保障が軍備増強につながるということが、すごく大事なのです。
これはかつてG7の国々がやってきたことでもあります。エネルギー、食料、それぞれの安全保障、それに加えて植民地化。原材料を持ってくるために、マーケットとしても使えて、関税ゼロで取引できるような、自分が最も得をする市場を作りたい。それをやった挙句、遅れてきたドイツやイタリア、さらには日本を交えての世界大戦が起こってしまったわけです。
同じことを今、新興国が一生懸命やっている。新興国はこれまで、先進国、G7が作ったルールの中で自分たちが全部言うことを聞かされていた時代がやっと終わったのだと思いながら、安全保障という名の下に軍事力を強化していく。中国が南シナ海でやっていることはまさにこれなのです。4000年の歴史を持つ、陸の大国だった中華帝国が今、海の大国になろうとしている。こういうことが起こると世界的に地政学リスクが高まるのです。
先進国の中で格差が起こってこれまでの仕組みがうまくいかなくなり、民主主義的に運営することが否定され、『ポピュリズム』が台頭してきた。G7という先進国が工業化で豊かになって資本主義で支えるという時代のメリットがどうも終わりに近づいているのが今の時代です。
私の友人の国際政治学者、イアン・ブレマーは『G0の時代』と言っていましたが、『G7』という概念がずいぶん変わっていくでしょう。将来はおそらくG3、アメリカ、中国、インド、あるいは、今後崩壊しなければEUも加えてG4とか。3つか4つの大国グループで、地球をガバナンスするという時代が来ると、私は思っています、しかし、そこに落ち着くまで、これから数十年の間は世界中が地政学リスクにさらされることは間違いありません」
さらに、デジタル化を中心とする新しい時代、第四次産業革命によってもたらされる変化について、御立氏の独自分析が続き「こうした大きな変化が起こる時代に、全ての変化がいつどこでどう起こるか読めなくても、根本的な部分がわかっていれば、落ち着いて対策を考えることができる。その中でビジネスチャンスも必ずあります」という言葉で結び、御立氏の約1時間にわたる講演は終了した。
続いて、『週刊ダイヤモンド』編集長の深澤献が、参加者を代表して御立氏に質問をぶつける形でのディスカッションが行われた。
深澤:興味深いお話ありがとうございました。いくつか質問をさせていただきます。お話に出てきたエレファントカーブですが、詳しく見てみると、一番伸びているのが中国で、一番伸びていないのが日本なのですよね。
御立:そのとおりです。だから、中国と日本のデータを抜くと、ゾウの形はだいぶ崩れて、凹凸がかなりなだらかになります。
深澤献・週刊ダイヤモンド編集長
深澤:1988年からの20年間というのは、日本ではいわゆる「失われた20年」とほぼ重なるわけですが、その間、本当に日本の産業社会というのは足踏みしたのだな、と。日本がエレファントカーブの中でボトムを形成するほどのところに落ちてしまったという要因について、御立さんの考えをお聞きかせいただけますか。
御立:いろいろな人が「電機産業が負けたからだ」などと言っていますが、違うと思いますね。私はもっと本質的な問題に注目しています。実は日本の産業構造は1988年から2000年代にものすごく変わっているのです。この間、雇用がどこで増えたか。全部サービス産業です。
まず増えたのが医療・介護業界。日本は世界で初めての介護保険制度を作り、介護の仕組みはかなり早く整えたのです。そして今は観光業界で増えている。ここで問題は、こうしたサービス産業で生産性が上がらなかったことなのです。例えば観光、宿泊業、飲食業はパート、アルバイト比率が75%ですが、この方たちの年収はだいたい200万円程度です。
要するに、雇用は増えたし、産業構造も変わったし、需要も結構ある。海外から見ても注目度が高い。でも、伸びている産業の生産性が上がらなかった。そういう産業の賃金も伸び悩む。バブルが弾けるちょうど1年前の1988年、当時の為替次第ですけども、日本の一人当たりGDPはだいたい4万ドルくらいでしたが、それが今になっても4万ドルです。当時、4万ドルで同じ水準だった国がいくつかあって、その一つがスイスですが、スイスは今、7万ドルです。ではスイスはこの間、何かすごく工業化したかといえば、それは違う。ただ、サービス産業の生産性を上げただけなのです。
日本は良くも悪くも、工業化時代に過剰にフィットしましたが、そのときは、生産性が上がって利益が出たら、組合員が半分、会社と資本家が半分、という原理で、生産性が上がったらみんなの取り分を平等に増やす、ということをしたのです。ところがサービス産業に関しては、生産性が低いまま。それに加え、急に需要が増えて事業が儲かっても、働き手にお金がいくような仕組みになっていない。この点を変えるだけで、まず短期的には相当違ってくると思います。そうした産業構造の変化と、サービス産業の生産性の問題が、伸び悩みの原因だという感覚です。
深澤:なるほど。それは確かにそうですね。もう一つ興味深かったのが、中国のようにかつての大国で今は新興国とされている国の人々のルサンチマンのお話です。アジア大陸の“辺境”に位置する日本は、おかげで中国とは違った発展の仕方をしたわけですし、そういった歴史を振り返りながら、それぞれの国の立ち位置や世界との関わりを理解していくことは大事ですね。
御立:これまで、世界にはいろいろな帝国がありました。大帝国と呼ばれるもののほとんどはユーラシア大陸で、インド、中華、イスラム、トルコ、ローマなど、それは入れ替わり立ち替わりありました。実はその端っこにあった、帝国から外れたところにある田舎のイギリスで第一次産業革命が起こったのです。
帝国というのは辛さがあって、帝国化するとその中でものすごくガチっとした階級構造が出来てしまう。帝国はそうじゃないともたないからです。すると、イノベーションが起こらない。しかも帝国の中の覇権争いで疲弊します。一方で帝国の辺境にある国は、そういう争いの中から出てきたものを、どんどん取り込んでイノベーションを起こして平気で新しい社会を作っていく。
日本も文明の端っこにいたので、室町時代あたりで大国だった中国が揺れたとき、密教とか禅、茶道、華道が入ってきて、これ、もう全て中国には残っていないのですけれども、日本独自の文化としてどんどん磨いて新しいものを作ったんですね。仏教も、当時、世界 最先端の大乗仏教の中でも知的レベルの一番高いものを日本は持ってきて、世界に冠たる仏教思想を作り上げました。だから、端っこで切り離されて、辺境の国であることは悪いことではない。帝国にならないことを選ぶことで、日本はこれから面白い生き方ができるかもしれないということです。
深澤:歴史的、地理的な背景、まさに地政学を理解した上で物事やビジネスを考えるということですね。その点では、歴史を振り返れば、その時代時代の「支配勢力」と「新興勢力」の間ではかなりの高い確率で戦争が起きています。現代に置き換えればアメリカと中国の間で戦争が起こる可能性が識者の間でも指摘されているわけですが、御立さんは、こうしたリスクに対し、ビジネスパーソンはどう準備すべきと考えていますか。例えば、企業経営者なら通常、現実に起こる確率が5割以上の事象には、中期計画に盛り込んで準備するのだと思いますが。
御立:私は3割ですね。最近のわかりやすい例で、まさにブレグジットがそうでした。3割くらいあるかもしれないけれど、まあ7割は何も起こらないだろう、と思っていて寝て、翌朝起きたらびっくりしました。そして為替が一気に10%くらい動いてしまっているわけですよ。輸出企業はえらい目に遭ったはずです。だから、3割くらいの可能性を感じたら、しっかり準備をしておく。これからはそういう時代だと思います。
この後、深澤編集長が「ものを見る力」の鍛え方などについて質問し、約30分間の2人の対談が終了。
最後に、参加者から御立氏への質疑応答の時間が設けられた。熱心な参加者から幅広い内容の質問が次々に飛び出し、御立氏の一つひとつの質問に対する丁寧な回答がさらに会場を盛り上げ、熱気を帯びたまま時間切れとなった。
* * *
この日は平日19時からの開催で来場者は約100名。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
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