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東芝半導体入札で日本企業の腰が引けているワケ
http://diamond.jp/articles/-/129833
2017.5.30 ダイヤモンド・オンライン編集部
東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の2次入札が5月19日に締め切られ、米国や韓国、台湾のメーカーが応札した。これに対し日本勢は、経済産業省が旗振り役となって、産業革新機構や米投資ファンドなどを中心とする「日米連合」への参加を呼び掛けてきたが、名乗りを上げる企業はまだない。かつて、「日の丸半導体」として世界を席巻した日本メーカーが、買収に腰が引けているのはなぜなのだろうか。(ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)
買収金額も詰められず
入札した日米連合
5月19日の「2次入札」の締め切り日になっても、産業革新機構と政策投資銀行、米投資ファンドのKKRが組む「日米連合」には遅れが目立った。
それは、1次入札から候補で残ってきた台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)、米半導体大手ブロードコム、韓国の半導体大手SKハイニックスがそれぞれ中心になった3陣営が予定通り応札した一方で、「日米連合」は買収金額さえ固められないままの入札だったことを見ても明らかだった。
関係者は内情をこう話す。
「日米連合といっても、将来は株を売却して値上がり益で儲ける投資ビジネスと割り切るKKRと、半導体技術の海外流出防止を名目に経産省が後ろで糸を引く日本側では思惑が異なる。また機構内部でも、意思決定機関の産業革新委員会の委員を務める大手企業のトップ間で温度差があり、詳細を詰め切れなかった」
もともと、「日米連合」の構想が動き出したのは、1次入札の締め切り間近の3月末。日本企業に応札の動きがないことに対し、危機感を持った経産省が主導したものだった。革新機構を軸に、東芝メモリの一定比率の株式を保有することで、技術や人材の流出に歯止めをかけようという思惑もあった。
とはいえ、巨額の債務超過解消を迫られている東芝が見込む売却額は2兆円以上。革新機構や政投銀、KKRともに単独で出せる資金に限界があるため、“官主導”で企業から出資を募り、買収資金を工面しようというものだ。
途中からは菅義偉官房長官も根回しに入ったこともあり、大手企業には経産省幹部や経団連から出資を求める話があったという。
投資競争についていけず
敗れたトラウマに縛られる
なぜ、日本企業は日米連合への参加を躊躇するのか。
80年代半ば、コンピューターなどの記憶素子で使われるDRAMの生産で世界一に踊り出た日本の半導体メーカーは、日本製品の輸入急増に音を上げた米国との「日米半導体協定」によって“高値”が維持されたことで、我が世の春を謳歌する。
だが、96年の協定切れ後に市況が急落。この間に、集中投資で最新鋭の製造ラインを整えた韓国勢や、設計に特化した米国勢、そして低コストで製造だけを請け負う新しいビジネスモデルを作り上げた台湾勢などにシェアを奪われていった。
それでも日本のメーカー各社は、数年ごとに価格が変動する「シリコンサイクル」の山をにらんで、製造技術の開発に凌ぎを削り、最新鋭の装置を揃えた生産ラインを整備し続ける。その結果、1社当たりの投資額は数千億円規模に膨れあがった。
一方で、半導体製造装置の技術革新が進むと、後発企業でも資金さえ投じて最新鋭の装置を揃えれば競争に参入できるようになった。そのため、投資ファンドからリスクマネーをかき集めて集中投資し荒稼ぎするプレーヤーが跋扈。 “マネーゲーム”の様相を呈した市場で、日本メーカーは完全に置いてきぼりを食らった。
日立製作所で半導体事業部に所属していた元幹部からこんな話を聞いた。
「とにかく意志決定に時間がかかった。経営陣は、安定した需要や価格を前提にした電力向けなどのビジネスである『重電部門』出身者が占めていたから、半導体事業の本質がわからない。不況の時でも投資を続けないといけないし、全社の設備投資額の大半をかけることになるから、もう“鬼っ子”扱い。しかも、銀行は融資のリスクをとりたがらない。技術では勝っていたが資金が追い付かず、投資競争に遅れをとった」
サムスンやホンハイのような、権限を一手に握って果敢にリスクをとる創業経営者を相手に、総合電機メーカーのサラリーマン経営者では太刀打ちできない事業になっていったわけだ。
99年、日立とNECがDRAM事業部門を「外出し」して、統合したのを皮切りに、大手は相次いでDRAM事業から撤退。その後、DRAMの生産は、経産省が主導して「エルピーダメモリー」に再編・集約された。
そうした中、唯一、半導体事業を本体に残すという決断をしたのが東芝だったのだが、大手メーカー側からすれば、半導体で会社がつぶれかけたという苦い経験がトラウマとなっていまだ記憶に残っており、とても出資に踏み出せないというわけだ。一方で、これまで半導体事業を手掛けたことがない企業にしてみれば、単なる出資で百億円単位の資金を拠出するのは簡単ではない。
こうした事情によって、日本企業は日米連合への出資に腰が引けてしまったのだ。
政治案件になるリスクと
官主導の寄合世帯に対する不安
「政府の狙いが、技術流出を防ぎたいのか、東芝の債務超過を解消したいのか、それとも日本の半導体産業を再生させたいのか、どこに重点があるのかはっきりしない」(大手メーカー幹部)
そうした声を受けて、経産省幹部が口にするのは、「技術を盗むような国や、そういう国に生産ラインを持っている企業には(売却を)認めないし、(東芝メモリの主力工場がある)四日市の雇用は守る」ことだ。
盗むような国とは、中国を念頭に置いていると見られる。また、生産ラインを持っている企業とは、台湾企業であるものの主力工場を中国国内に置き、郭台銘会長が中国首脳とも密接な関係にあるといわれるホンハイ。もしホンハイに売却が決まりそうな場合には、外国為替法を適用して中止や見直しを「勧告」しストップをかける構えだ。
東芝としては、2018年3月期までに債務超過を解消しなければ上場廃止になるため、6月の株主総会までに売却先を決めて、売却資金を得るメドをつけておきたいというのが本音だ。
しかし、日本企業からは「政治案件になって動きがとれなくなるリスク」を警戒する声が強い。ホンハイ以外の陣営に売却する流れになれば、中国政府が独占禁止法の審査に時間をかけるという嫌がらせに出て、買収が進まなくなるとのではないかとの懸念だ。
それでなくても、すでに四日市工場で東芝と共同生産をしてきた米ウェスタンデジタルが、独占交渉権を求めて売却中止を訴えており、この紛争も長引く可能性がある。
かつて、公的資金の投入を受けて再生に取り組んだエルピーダメモリの坂本幸雄・元社長は、次のように指摘する。
「ビジネスの論理でいえば、資金力や経営手腕もあって、製品ラインナップも補完関係にある中国や台湾メーカーと組んだ方がうまくいく。役所が主導して、日本の半導体産業が再生できるかは疑問だ」
日米連合に参加しても、拠出した資金は東芝本体に入るだけだから、買収後の新会社は、事業資金を別枠で調達する必要がある。革新機構、政投銀、KKRの“寄り合い世帯”のもとで、新会社がどのようにして生き残るのか、そのビジョンも見えないままだ。
「産業のコメ」としてだけでなく、軍事技術としても重要な半導体は、多くの国で戦略産業と位置付けられ、政府が補助金や低利融資で支援する一方で、「ダンピング課税」や「協定」などによって民間の取引を管理したり、再編を主導することによって介入したりして、「競争力」を維持しようとしてきた。だがこうした政府の介入がすべて、うまくいったとは言い難い。
「ハイリスクの巨額投資競争」と「政府の介入」という、相容れない要素をどうバランスさせるのか。過去の失敗の経験からも「妙案」は出てこない。ここは様子見しかないというのが、日本企業の悲しい“そろばん勘定”のようだ。
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