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過去最高益が視野に入り、復活を印象付けたソニーだが、平井CEOの掲げる目標には不安を感じる。それは、あるビジネスモデルを強化するというものだ Photo by Takahisa Suzuki
ソニー復活に感じる「悪いビジネスモデル」再来の不安
http://diamond.jp/articles/-/129483
2017.5.26 鈴木貴博:百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
ソニーの平井一夫CEOが経営方針説明会で、ソニーの復活を力強く述べた。少し前に行われた決算発表の記者会見でも、今期の営業利益目標5000億円と過去最高益(1998年3月期の5257億円)がいよいよ視野に入ってきたことが話題になったが、この目標達成についてもかなりの自信を持っているようだ。
実際、1998年に最高益だった当時のソニーは、売上の3分の2近くをテレビやウォークマンなどのエレクトロニクス商品が占めていた。現在では、ゲーム、映画、音楽、金融など非エレクトロニクスの売上が過半を占めると同時に、テレビ・オーディオなどかつての中心商品の売上構成は14%に過ぎず、エレクトロニクスでも半導体やCCDなど高収益の部品が占める比率が上がってきている。
その観点で言えば、5年前、ソニーが4566億円の最終赤字を計上した当時とは、ソニーの事業構造は様変わりしたと言える。「ソニーを変える」と宣言した平井CEOの言葉通りの変革が実現したわけだ。
さて、このように好調のソニーだが、継続的に営業利益5000億円を稼ぐ企業になるためのポイントとして平井CEOが挙げたある言葉が、私にはひっかかった。「リカーリング型ビジネスモデルの強化」という言葉だ。
予めスタンスを少しだけはっきりさせておくと、私はソニーブランドは大好きだ。また、私の本業が経営コンサルタントなので、クライアント企業がリカーリング型ビジネスモデルを採用することを支援することも少なくない。しかし個人的には、リカーリング型のビジネスが大嫌いだ。だから今回は、いつもより「話題の交差が多くなる」かもしれないがご容赦願いたい。
リカーリングとは、日本語に直すと「継続的に収益を挙げるビジネス」を指す。継続的にと言っても、パターンは3つ(細かくはそれ以上の数)がある。
たとえば、ソニーミュージックが『乃木坂46』をアーティストとして売り出すと、ファンが継続的に音楽CDを購入してくれる。映画のシリーズ物も継続的コンテンツになる。このような継続購入を生むコンテンツが、リカーリングの1つの形態だ。
次に、So-netやスカパー!(ソニーの資本は2013年に売却されたが)のように、毎月加入料を支払うようなビジネスがリカーリングの2つ目の形態。
そして、家電の消耗品や付属品を継続的に買い続けさせるタイプのビジネスが、3つめの形態。このいずれのタイプのビジネスモデルでも、うまくスケール化すると高収益のビジネスが生まれることになる。
リカーリングビジネスの成功例としてよく知られているのが、キヤノンのインクジェットプリンタで、非常に高性能のプリンタを原価が回収できるかどうかもわからない安い価格で販売し、後からインクカートリッジを高く販売する。
インクカートリッジは1個900円くらいだから気づきにくいが、よく考えてみればインクが入ったプラスチック容器の価格としては異常に高い。私個人の書斎では、15年以上前に2万5000円で購入したプリンタと4万円で購入したプリンタがいまだに現役で使われている。それできちんと記録をとってみたら、月に4色くらいのペースでどちらかの機器で、インクカートリッジのどれかの色の交換が必要になっている。
計算してみると、15年間で68万円のカートリッジ代がかかっている。これがキヤノンが高収益企業である理由であり、これこそがリカーリングビジネスモデルなのである。
買い手から「交渉力」を奪う
悪いリカーリングビジネスモデル
私がリカーリングビジネスモデルが嫌いな理由は、この3つ目のビジネスモデルが人間心理を悪用しているからだ。説明するとこういうことになる。
商品を購入するときには、買い手の方が交渉力が高い。買い手はキヤノンでもエプソンでもブラザーでも、どのプリンタを買っても構わないからだ。家電製品が量販店で安く買えるのは、主にこうした理由からである。
しかしプリンタの場合、一度買ってしまうと交渉力は売り手に移転する。インクがなくなれば「高いけど仕方ないな」と思いながらカートリッジを購入するようになる。巧妙なのは、4〜6本のカートリッジのどれかがなくなることだ。一斉にインクがなくなれば、消費者はこの機に「本体を買い替えようか」と思うが、毎回900円分しかなくならないので、結局15年間、同じプリンタを使い続けている。
さて、ソニーだけでなくパナソニックもシャープも東芝も、家電メーカーは皆、ハードウェアの販売が伝統的に売り切りモデルであることに起因する低収益に悩んでいる。プリンタと違って家電の販売では、常に買い手の交渉力の方が大きい。ソニーのテレビが高ければ、消費者はシャープのテレビを買えばいいのだ。
だから家電メーカーのコンサルティングをすると、必ずと言っていいほど「リカーリングビジネスモデルに移行するにはどうしたらいいか?」が議論になる。ハードを売った後に継続的に売上をあげるにはどうしたらいいのか、たとえばアップルがiCloudで毎月お金をもらっているような「新しいビジネスの方法はないのか」と一生懸命頭をひねるのだ。
私はリカーリングビジネスモデルには、いいものと悪いものがあると思っている。
悪名高いAKB商法は、私は「よいリカーリングモデル」だと思う。なぜなら、ファンが「推しメン」のために何枚もCDを買うという、双方納得ずくの上で成立しているモデルだからだ。いくら「心理を悪用する」と言っても、ファンの恋愛感情を云々するのは野暮というものだ。
同様に、PS(プレイステーション)のユーザーが新作ゲームをプレイしたくて購入するというのも、問題のないリカーリングモデルだと思っている。iCloudだって、それが便利だし、データを保管するのに自宅よりも安全だと思うユーザーが有料モデルに移行するわけなので、それも構わない話だと私は思う。
一方で、「一見、安い商品であるかのごとく誤認させて販売し、後から儲けを引き出そうとする」というタイプのリカーリングモデルはいただけない。
ソニー凋落のきっかけは
「またお金をとるの?」と思わせたこと
ソニーの平井CEOが目指しているリカーリングモデルがどんなものなのかは、これから見えてくると思うが、思い出してほしいことは、ソニーが凋落を始めた当時、ソニーは「悪いリカーリングモデル」に力を入れていたということだ。
たとえば、USBケーブルが世の中のデファクトになりかけている当時、ソニーは同じようなコンセプトながらiLINKケーブルという独自スタンダード商品を拡販しようとしていた。SDカードで間に合う場合でも、ソニー製品ではメモリースティックという独自規格しか入口がないといったことがあった。
ウォークマンにCDを読みこませる際には、チェックインやチェックアウトという独自動作を行わないとダメだったし、そもそも音楽CDにも独自セキュリティキーが附属していた。
少しずつ独自規格で、少しずつユーザーから余計にお金をとることができたけれども、少しずつ不便で、その不便さが重なってきたことで、ウォークマンもVAIOもソニーの家電からはユーザーが徐々に離れていったのだ。
ソニー商品の大ファンだった私の記憶には、間違いがない。1990年代まではソニー製品を使うのが楽しかったが、2000年代に入ってからはソニー製品を使うのは正直つらかった。「またお金取る気なの?」といつも思っていたものだ。
ソニーは過去5年間で大々的にリストラを行った。その成果が出て「かつて悪いリカーリングモデルに手を染めた文化は社内にもうない」という状態ならいいのだが、元の木阿弥になってほしくないと、かつてのソニーファンだった私は思うのだ。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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