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日本経済は本当に「完全雇用」に近づいているのか? 失業率の「レジーム」の推移を考える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51844
2017.05.25 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
前回の当コラムでは、金融政策がインフレ率の「レジーム(簡単にいえば、人々がデフレ脱却を予想して経済活動を営んでいるのか否か)」にどのような影響を与えているかについて、「フィリップス曲線(ここでは、経済全体の需給ギャップを示す指標である「GDPギャップ」とインフレ率との関係を示したもの)」を用い、さらにこれに「平滑推移モデル(「レジーム転換」の様子を示す手法)」を当てはめて考えてみた。
元来、インフレ率は、完全失業率などの雇用関連指標が改善する局面では、上昇基調で推移するのが「常態」であった。特に、日本では、このようなインフレ率と完全失業率の関係は極めて安定していた。だが、表面上の数字をみる限り、最近の両者の動きには乖離がみられる(完全失業率は大きく低下している一方で、インフレ率もむしろ低下気味に推移している)。
今回は、前回用いた「平滑推移モデル(LSTARモデル)」を完全失業率の動きに適用して、失業率の「レジーム」がどのように推移してきたかを考えてみたい(「平滑推移モデル」の概要については、前回の当コラムを参照いただきたい)。
⇒「日本経済は本当にデフレから脱却しつつあるのか?」
完全失業率とGDPギャップの関係
そこで、完全失業率の動きをどのように考えるかであるが、より具体的には、今回は、完全失業率とGDPギャップの関係を表す「オークンの法則」を利用する。
「オークンの法則」は、「失業率ギャップ(完全失業率の実績値と自然失業率の差)」とGDPギャップの関係を示したものであり、ケネディ政権で大統領経済諮問委員を務めたこともある故アーサー・オークン氏が1962年に導き出した経験則である。経験則とはいえ、「経済学者が進んで法則と真顔で呼び数少ないものの1つである(ポール・クルーグマン氏による)」。
ところで、「オークンの法則」を導き出すためには、「自然失業率(景気循環とは独立して長期的に安定的に推移する失業率の均衡値のこと)」という目に見えない数字が必要となる。ここでは、「自然失業率」は、各レジームで一定であると仮定する。
すなわち、今回も前回同様、「インフレ・レジーム」と「デフレ・レジーム」の2つのレジームを想定するが、それぞれのレジーム内では「自然失業率」は一定であると仮定する。ちなみに、この仮定を用いると、「自然失業率」はモデル上で同時に推定可能となる。
さらに、今回、完全失業率のレジーム(「インフレ・レジーム」と「デフレ・レジーム」)を転換させうる要因(変数)として、@金融政策要因、A為替レート、B労働需給(日銀短観の雇用人判断DIの加工値を用いる)、C過去3回の消費税率引き上げ、を考慮する。
また、金融政策要因としては、前回同様、マネタリーベース(前年比)を用いる(ちなみに、金融政策の変数として、マネタリーベースではなく、政策金利を入れた場合、有意な結果にはならなかった)。
消費税率引き上げ要因は、消費税率引き上げダミー(消費税率引き上げ前を0、引き上げ後を1とする)を3つ(1989年、1997年、2014年それぞれにダミー変数を導入する)を用いた。
これも前回同様だが、学術論文ではないので、具体的なテクニカルな説明の部分はかなり捨象する。
黒坂論文とほぼ一致する結果
結果は図表1、2、3の通りであった。
図表1,2は、このLSTARモデルによる完全失業率の推計値と実際の値の比較、図表2は各時点の完全失業率が「インフレ・レジーム」に位置する確率の推移を示したものである。単純に考えると、この確率が50%を下回る局面が「デフレ・レジーム」ということになる。図表3は各要因(変数)の係数(パラメーター)等を表にしたものである。
なお、モデルの説明力はかなり高く(修正済みのR^2で0.92)、各要因(変数)も統計的にはほぼ1%水準で有意であった。ただし、状態推移関数(ロジスティック曲線)の中では、消費税率引き上げ要因はすべて有意ではなかった。すなわち、完全失業率に関する限り、消費税率引き上げは大きな影響を及ぼしていないことになる。
「オークンの法則」では、「オークン係数」といわれるものが算出できる。「オークン係数」とは、完全失業率ギャップが1%変動した時に、GDPギャップが何%変動するかを示したものである。
筆者が計算したこのモデルでは、「インフレ・レジーム」でのオークン係数は、9.71、「デフレ・レジーム」でのオークン係数は3.36となった。
このオークン係数の値は、アメリカでは、2〜3程度といわれているが、日本は米国と比較して著しく高いというのが、過去の先行研究の結果であった。
そこで、今回、筆者が算出したオークン係数であるが、武蔵大学名誉教授である黒坂佳央氏が2011年5月に発表した「オークン法則と雇用調整(日本労働雑誌 No.610)」によれば、1981〜2000年、及び、2008年〜2010年の期間におけるオーカン係数は10.8、2001〜2007年の期間におけるそれは3.0ということになっている。
この黒坂論文では、あらかじめ期間(レジーム)を分割した上でそれぞれの期間の計算を独立して行っているが、筆者は、どのレジームにどの程度の確率で位置しているかという点も同時に計算している。
そのため、必ずしも結果は一致しないが、黒坂論文の2001〜2007年をデフレ・レジーム、1981〜2000年をインフレ・レジームとすれば、筆者の結果は黒坂論文とほぼ一致すると思われる。従って、筆者の計算結果はそれほどおかしなものではないだろう。
「デフレ脱却」はまだ遠い
ところで、今回の結果にはいくつか興味深い点がある。
まず、第一点は、いくつかの深刻なデフレ局面(1996〜98年、2001〜2003年、2010〜2012年)では、実際の完全失業率は、筆者のモデルの推定値から大きく乖離して上昇している。
この局面では、金融危機やITバブル崩壊、超円高の進行などによる景況観の急激な悪化もあったが、企業が目先の景況観の悪化に過剰反応して、急激なリストラを行った可能性がある(逆にいえば、その反動が、インフレ・レジームへの転換をきっかけに逆に、過剰な人手不足感を演出している可能性も否定できないと考えている)。
第二点は、2012年終盤から2013年前半にかけて、急激な「デフレ・レジーム」から「インフレ・レジーム」への転換が実現した可能性が高いという点である(1999年から2012年までは「デフレ・レジーム」下にあるが、その多くの期間が「就職氷河期」に該当する)。
これは、金融政策の大転換(「QQE政策」とそれにともなう円安転換)が寄与していることは言うまでもない。一方、先週のインフレ率とは異なり、消費税率引き上げは完全失業率のレジームには影響も与えていない(係数も有意ではない)。
また、為替レートは、完全失業率のレジーム転換を引き起こす有力な要因であるが、2016年の円高は、完全失業率のレジームには大きな影響を及ぼさなかった。これはインフレ率のレジームとは大きく異なる点である。ここはさらにリサーチする余地があるが、雇用需給がタイトになったことが円高のマイナスの影響を相殺した可能性があると考える。
第三点は、計算された「自然失業率」だが、デフレ・レジーム下では4.34%であるのに対し、インフレ・レジーム下では2.10%となったという点である。
今年3月時点での日本の完全失業率は2.8%で、長らく自然失業率といわれてきた3.5%を大幅に下回る水準で推移している。筆者の計算によれば、日本の完全失業率はまだ低下余地があることになる。インフレ・レジームに位置する確率も2016年10-12月期時点でまだ63.1%である。
もし、日本経済が今後もデフレ脱却局面を続けるとすれば、この確率もまだ上昇余地があり、それにともない、完全失業率もさらに低下する可能性がある。
* * *
今回の結果は、さらに議論が必要な点も多く存在する(例えば、本来であれば、自然失業率と潜在GDPの間にはある種の関連性があるはずだが、今回の計算で用いたGDPギャップは、日銀が推定したものを用いており、両者の関連性を反映していない)。
だが、直近(2016年10-12月期)におけるインフレ率における「インフレ・レジーム」に位置する確率(前回言及した)が52.8%、完全失業率のそれが63.1%ということは、日本経済は、ようやくデフレから抜け出しつつあるところで、デフレ脱却が展望できるところまでは至っていないのではないかということである。
やはり、金融政策の「出口論」や各種増税論はまだ時期尚早なのではないかと思ってしまう。
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