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東芝が監査法人から「意見不表明」の状態で2017年3月期の巨額赤字見通しを発表するという、前代未聞の事態が起きた。東芝や日本郵政を窮地に追い込んだ「のれん代の減損」とは何か Photo by Ryosuke Shimizu
東芝・日本郵政の巨額損失を招いた「のれん代減損」とは何か
http://diamond.jp/articles/-/128626
2017.5.19 鈴木貴博:百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
5月15日、東芝が監査法人から「意見不表明」の状態で2017年3月期の最終赤字が9500億円になるという見通しを発表した。ちなみに監査法人が「意見不表明」というのは監査の世界では異常事態で、その意味するところは「監査法人は“赤字が9500億円で済む”と東芝が主張する裏付けを確認するための十分な資料と協力を経営陣から得られなかった」ということを意味している。
さて、今回の記事の本題は東芝の迷走の話ではなく、大きな損失の原因である「のれん代の減損」とは何かについて取り上げたい。というのは、後述するように時価総額上位の優良企業の多くが、減損リスクと無関係ではないからだ。
実際、4月には日本郵政が3200億円の黒字決算の見込みから一転して、マイナス400億円の赤字決算に見通しを変更した。オーストラリアで買収した物流子会社に、4000億円規模の減損が発生したのだ。
また今年1月には、ソニーが映画事業に関して1121億円の減損を発表している。これは現在のソニーピクチャーズに相当する旧コロンビア映画の営業権(筆者注:のれん代の古い呼び名だが、ソニーの発表通りに記述しておく)の減損を織り込んだものだ。
何千億円もの利益が一瞬で消滅
最近よく聞く「のれん代の減損」とは?
このように、東芝以外の好調な企業の決算でも、利益が減損によって1000億円単位で吹き飛ぶのはなぜか。以前は、こうした事態をあまり聞くことがなかったのはなぜか。そもそも、この「のれん代の減損」とは何なのか。「最近、ニュースで『のれん代』という言葉をよく耳にしながらも、よく意味がわからない」と疑問を持っている読者も多いだろう。
足もとの現象を読み解くポイントは3つある。
(1)今世紀に入って、日本企業が頻繁に巨額の企業買収をするようになった。それに伴なうリスクが「のれん代の減損」である。
(2)これまでの日本の会計基準では、巨額ののれん代の減損は発生しなかったのだが、米会計基準ないしは国際会計基準を採用すると巨額の減損が発生するようになる。
(3)日本の大企業が資金調達のグローバル化に伴って、国際会計基準を採用せざるを得なくなくなってきた。
つまり、企業買収もしないし海外からの資金調達もしない昔の経営の常識では、こんなことは起きなかった。日本の会計基準のままであれば、やはりこんなことは起きなかった。
しかし時代が変わってしまったのである。ソニーがバブル期にコロンビア映画を買収したときには日本中が驚天動地になるくらいのサプライズだったが、今や日本企業が海外の大企業を巨額の資金で買収するのは日常茶飯事になってしまった。
実体を上回る巨額のプレミアム
「海外企業M&A」の危うさ
さて、ここから「のれん代」の説明に入る。海外企業の巨額買収において、戦略上欲しい企業をM&A(吸収・合併)する際には、ほぼ必ず買収価格が高くなる。たとえば8000億円の価値の米国企業があって、それを日本企業が「買いたい」と言うと、アメリカの株主は「8000億円だったら売らないよ」と返事をする。それはそうだ。8000億円のものを8000億円で売るのであれば、売り手は自社の資産価値以上の儲けを得られないので、無理に売らなくてもいい。
そこで、どうしてもその企業を欲しい場合、買い手はプレミアムを提示し、「では、1兆円で買います」と打診することになる。しかし、M&Aに名乗りを上げる企業が複数いて、さらに価格をつり上げられそうな状況ならば、株主はその程度のプレミアムでは売らない。最終的に「1兆2000億円なら売りますがどうですか?」という話を提示し、それに応じる買い手と合意することになる。
買収におけるプレミアムは通常30〜40%と言われているが、競争になると前述の例のように、8000億円の企業を1兆2000億円で買うといった50%のプレミアムがつく場合も少なくはない。
さて、簡単に言えばこの差額の4000億円が「のれん代」である(厳密には「買収コスト−買収企業の純資産」)。なぜ「のれん代」と呼ぶのかというと、これは「企業のブランドに対して実体以上のお金を払った」とみなされるからだ。
「とらや」「高島屋」「なだ万」のような価値のある「のれん」が欲しければ、実体以上の価格を支払わなければならない。のれんだけでも数千億円の価値はある。それと同じ考え方が会計上の「のれん代」ということだ。
日本の会計基準では、こののれん代は20年以内の期間で均等に償却すればよかった。この例で言えば、毎年「のれん代償却」として20分の1の200億円を均等に経費として計上する。これが日本のやり方だった。
だから日本会計基準を採用している限りは、たとえ無理な買収をしても、毎年の決算において均等に負担が生じるだけで、サプライズで巨額な損失が発生することはなかった。
この前提が、米国会計基準ないしは国際会計基準の導入で変わったのが、毎年のように上場企業が巨額の赤字を発表する現象が起きるようになった原因だ。これらグローバルな会計基準では、のれん代の償却を認めていないからだ。そもそも毎年の経費として認められないのだ。そうした状態で、過去に自社が買収した企業の資産価値が大きく下がった場合、問題が起きる。
日本郵政の例では、買収を「急ぎすぎて高値になった」(日本郵便・横山邦男社長)と言うように、6200億円で買収したオーストラリアの子会社はそもそも価格が高すぎたようだ。しかしその段階では高すぎた買収も費用化はできない。
しかるに、その後のオーストラリア経済の低迷に伴い、子会社は業績を落としてしまった。その段階で、今度は「実際には2200億円の価値しかない子会社になりました」と再評価しなければならなくなった。そうなって初めて4000億円を「のれん代の減損」として発表することになる。これが国際的な会計基準なのである。
M&Aに熱心で国際会計基準、
あの大手企業も抱える爆弾
さて、ここまでの解説でおわかりの通り、数千億円規模のM&Aを行い成長を目指す大企業で、かつ米国ないし国際会計基準を採用している場合は、東芝や日本郵政でなくても同様の「のれん代の減損リスク」を抱えていることになる。では、それがどのような会社かというと、実は時価総額上位の会社の多くが当てはまるのだ。
のれん代が高い上場企業と言えば、NTT、ソフトバンク、日本たばこ産業が1兆円規模ののれん代を持つ御三家で、これはトヨタの次に時価総額が高い企業のリストとほぼ同じである。さらに、のれん代が数千億円規模となると、電通、日立製作所、富士フイルム、武田薬品、キヤノン、楽天など、名だたるグローバル企業がこの条件に当てはまる。
これらの会社が海外の子会社を適正にマネジメントし、堅調な利益を上げられれば何も問題はないのだが、そもそも日本企業は、海外の経営者をガバナンスすることが苦手である。だからこれらの会社の中から突然、「数千億円の減損が発生しました」と言いだす企業がこれからも出てくる可能性は十分にあるのだ。
一方で、自社による海外進出が多いトヨタ自動車、ホンダなどの自動車メーカーや巨額買収を嫌う日本の金融機関の場合は、のれん代は比較的小さい。だが、そういったのれん代の減損リスクとは無縁な巨大企業の方が、数は少ないかもしれない。
なにしろ、買収で海外に成長の源泉を求めなければならないというのが、わが日本企業の共通課題なのだ。とすれば株主は、突然の減益発表をある程度覚悟しながら投資をしなければならないことになる。今は、そんな時代なのかもしれない。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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