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ヤマト運輸の27年ぶりとなる基本運賃の値上げは、荷物の急増と単価の減少で疲弊する宅配業界にとって苦境を脱するための「解」となるのか。実は、そうとは言い切れない事情がある
ヤマトが宅配運賃の値上げだけでは苦境を脱せない理由
http://diamond.jp/articles/-/126431
2017.4.28 鈴木貴博:百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
取扱量急増の一方、単価は減少
ヤマトは運賃値上げで苦境を脱するか?
最初に断言しておきたいのだが、宅配便の価格はまだ引き下げる余地がある。そして近い将来、荷主の要望によって今よりもさらに低い価格帯に到達するだろう。現在の動きとは逆に、だ。
現在、宅配の現場は悲鳴を上げている。ヤマト運輸は、9月をめどに27年ぶりに基本運賃を5%〜20%引き上げることを発表した。背景には、宅配便の取扱量が急増する一方、荷物1個当たりの単価は相対的に安くなり、かえって収益が悪化していることがある。宅配というインフラがもたなくなってきているのだ。
ただ、ヤマトの経営陣も重々ご承知の話だろうが、基本運賃を20%値上げしてもヤマトの業績はさほど改善しない。なぜなら基本運賃で宅配を依頼するような個人顧客の荷物は全体の1割に過ぎないからだ。
仮に最大に値上げをし、顧客離れが起きなかったと仮定して計算しても、値上げの収益貢献は20%×10%=2%の売上増にしかならない。これではヤマト運輸が抱えるもう1つの問題である未払い給料を支払ってしまえば、相殺されてしまう程度の金額だ。
つまり、基本運賃の値上げはステップにすぎず、本丸は荷物全体の9割を占める大口割引料金の値上げに踏み込めるかどうかなのである。象徴的に言えば、アマゾンの運賃を20%引き上げられるかどうかが試金石になるだろう。
こうしてこの夏、業界の命運をかけた交渉が行われ、おそらく何らかの妥協の下で一定レベルの値上げが認められるだろう。ここまでは広く業界人が予測していることだ。しかし問題は残る。宅配荷物は今後もさらに増え続けるのだ。
原因は、前述のアマゾンをはじめとするインターネット通販のさらなる拡大だ。便利で安いのだ。だから利用は急増している。そしてまだ市場は成長期の入り口である。
経産省によれば、2016年のインターネット通販市場規模は15.1兆円で、5年前と比較して1.8倍に増加した。これが、今後はさらに増えると予測されている。2020年には20兆円を超え、最終的には小売全体の2割を占める60兆円市場にまで成長するという。
そして重要なことは、おそらく必ずそうなるということだ。「宅配インフラがもたないので、宅配便は値上げせざるを得ない。値上げをすることによってインターネット通販の需要は減るだろう」などと予測するエコノミストは1人もいないのだ。
つまり、若干のハレーションを経て、インターネット通販は今後も継続的にその量を増やしていき、宅配現場の仕事量は将来的には今の4倍になると言われている。
さて、今回のヤマトの値上げ提案で、おそらくアマゾンも一定の値上げを飲まざるを得ないだろう。なにしろ、ヤマト以外にアマゾンの荷物を運べるパートナーはいないのだから。
その結果、ヤマトが目論むような20%の値上げになるのか、タフな交渉で5%程度の値上げにしかならないのかはまだわからないが、1つ確実に言えることがある。アマゾンは値上げを受け入れる代わりに、荷主として交換条件をヤマトに突き付けるはずだ。それは、今後も増加する荷物を安定的に受け入れられるように投資をすることである。
ヤマトの歴史は、荷主の要望を受け入れてきたことによる発展の歴史だ。故小倉昌男会長は「サービスが第一で、利益はその後についてくる」という経営哲学だった。荷主が「なんとかしてくれ」と言えば、必死になってなんとかする方法を考えイノベーションを実現するのが、ヤマト運輸という企業なのだ。
同じヤマトでもコンビニが
変わると発送料が違うのはなぜ?
近年の宅配業界のイノベーションで、面白い事例がある。ヤフオクを利用する人はよくご存じの「はこBOON」というサービスだ。
たとえば、東京都内から同じ都内に100サイズの荷物を送る場合、コンビニに持ち込んでヤマトの宅急便を頼むと、運賃は1088円になる。ところが、仮にこの100サイズの大きさの荷物が2キログラム以下なら、ファミリーマートに持ち込んで「はこBOON」で頼むと494円で運んでくれる。
そして面白いところは、「はこBOON」で頼んだ荷物はヤマト運輸が宅配してくれることだ。同じヤマトが配達するのになぜ安いのかというと、要は「はこBOON」はファミマの親会社である伊藤忠商事がヤフオクと提携して始めた大口荷主としての新サービスだからなのである。
安くなるポイントとしては、以下のことが挙げられる。
(1)ヤフオクの商品を扱うので、そもそも大量の荷物を集めることができる
(2)ファミリーマートまで発送者が持ち込んでくれるので、集荷コストがかからない
(3)ファミポートで受け付ける関係で、現場での発送伝票の記入が不要
(4)日にち指定をしないので、1日1回のファミリーマートへの集荷時間に合わせて発送できる
ということで、つまりは小口荷物を集めて大口荷主になることによって、その分のコストと価格を下げているわけだ。
イノベーションが起きない限り
宅配業者の苦境は終わらない
さて、では宅配の未来においては、いったいどこにイノベーションの可能性があるのだろうか。
荷主が集荷の部分をまとめて大口にするという部分は、もういけるところまで到達した観はある。今後まとめられるとすれば、可能性としては「配達をまとめて大口化すること」ではないか。
私の事務所はインターネット通販に依存している関係で、とにかく配達される荷物が多い。宅配ボックスを完備していたり、配達時間を統一したりして極力無駄が増えないように気をつけているのだが、それでも再配達の無駄は発生する。
インターネット通販の顧客の立場で言えば、アマゾン、楽天、ヤフーショッピング、ヤフオクに加えて、ヨドバシやアスクルなど個別の通販事業者も利用している。配達員もヤマト、佐川、郵便局、ヨドバシの配達員などが個々にやってくる。
そういう状況なので、「1社に配達をまとめてくれればいいのに」と常々思うのだが、それもあながち夢物語ではない。わが社の配達住所をヤマトの営業所に指定させてもらえるようになれば、アマゾンも楽天もヤフーも全部、荷物はヤマトが配達してくれるようになる。
佐川や日本郵便から届く荷物をいったんそこでまとめて、1回でヤマトの営業所からわが社に運んでくれるのであれば、受け取り荷物は大口になる。わが社だけでなく、日本の個人宅のほとんどが受け取りをヤマトか佐川か日本郵便にまとめるようになれば、3社間の荷物のやりとりも大口になるので、コストは下がる。
話をまとめると、こういうことだ。インターネット通販の増加が現在の宅配現場の破綻を招いている。インターネット通販の増加には功罪があり、いまのところその罪の方が目立っている。しかしインターネット通販の増加には、業界のイノベーションを促してきたという功の部分もある。そして近未来には、インターネット通販の荷物量が今の4倍に到達する。だったら、さらなるイノベーションが追求されなければならないのだ。
受け取りを一本化するというのはあくまで1つのイノベーション・アイディアだ。それ以外にも、宅配ボックスを増やす、再配達にペナルティをつける、逆に再配達がない場合にポイントをつける、自動運転車で配達する、といった様々なイノベーションが検討されている。留守宅の前に荷物を置きっ放しにして事故が起きたら補償で対応するというアイディアだって、立派なイノベーションである。
とにかく、荷物はこれからも増え続けるのだ。だから宅配業界は値上げも検討しつつ、本質的にはイノベーションをどんどん検討して行かざるを得ないだろう。そしてイノベーションは、最終的に宅配コストを下げることになる。つまり近未来の宅配業界は、値下げと大量の配達を両立させる方向へと発展していくべきなのだ。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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