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漂流する日銀物価目標、誰も「もう十分」と言えない事情
http://diamond.jp/articles/-/126283
2017.4.28 ダイヤモンド・オンライン編集部
「インフレ(物価上昇)は陽気な妖怪だが、デフレ(物価下落)は陰気な妖怪」という言葉がある。どちらも度を過ぎればよくないのは同じだが、成長率や賃金がかさ上げされ、債務負担も軽く感じるインフレより、その逆のデフレはいかにも社会の空気が重い。物価を上げようと、あの手この手で金融緩和を続けてきた日本銀行だが、4月27日の金融政策決定会合で、物価見通しをまた下方修正した。金融政策頼みの「デフレ脱却」が、ないものねだりだとはっきりしてきた中で、日銀に誰かが”タオル”を投げ入れる時なのではないだろうか。
下方修正続く物価見通し
総裁任期内には達成困難
4月27日、日銀は「展望レポート」(経済・物価情勢の展望)を発表し、2017年度の物価上昇率見通しを前回(今年1月)の1.5%から1.4%に引き下げた。18年度の見通しは前回と同じく1.7%、今回初めて発表した19年度の見通しも、消費増税の影響を除くと1.9%(影響を含めると2.4%)となっており、日銀の黒田東彦総裁が掲げる「物価上昇率2%」の目標達成は、自身の任期が終わる来年4月までにはいかにも厳しい情勢だ。
日銀が、銀行から国債を買い取るなどで市中に出回るお金の「量」を増やすとともに、物価目標達成までは金融緩和を続けるとコミットメント(約束)すれば、物価が上がるという「期待」が醸成されるという理屈で導入されたのが、2%という「インフレ目標政策」だった。
当初は、物価が安定したと考えられる「理解」程度の扱いだった。それが、「効果が出ないのはコミットメントが弱いからだ」との声に押されるがまま、いつしか物価安定実現の「目途」となり、さらに「目標」へと”格上げ”されていった。達成時期も13年4月に黒田総裁が就任するや「2年程度」とされ、経済の実体とは関係なく期限が区切られた。
だが、もともと「2%」という数字に確たる根拠があったわけではない。他の主要先進国が2%をインフレ目標にしている中で、日本だけがゼロインフレを目指す行動をとれば、円高基調を払拭できない。また、消費者物価指数は実態よりインフレ率が高めに出る傾向があるから、1%を目標にすれば実際はゼロ%となり、デフレから抜け出せていない可能性がある──。そんな程度の理由だった。
「2%」に縛られる日銀
異次元緩和でも「期待」生まれず
しかし、安定した物価水準といっても、その国の経済的事情によって違う。移民などによって新しい労働力が常に供給され、景気がよければ雇用の増加や賃金上昇といったものにすぐさま反映される国と、労働人口が急速に減っているにもかかわらず、企業が安定雇用を重視して賃金を抑制させる日本のような国とでは物価の上がり方も違う。また、株や債券といった資本市場の存在が大きい国と、日本のように銀行借り入れによる間接金融中心の国とでは、これまた政策の効果に差がある。
米国に次いで、欧州も超金融緩和政策からの「出口」を模索し始める中、「景気拡大局面が戦後3番目の長さ」となっているにもかかわらず、「2%」を金科玉条のように掲げてきたがために、日銀は身動きがとれなくなっているのだ。
物価は、投資や消費が活発になって需要が供給を上回れば上がり、逆に需要が落ち込み供給されたモノやサービスが余れば下がる。デフレは「不況の結果」というのが一般的な考え方だ。だが、低成長が定着する中で、いつしか逆にデフレが「不況の原因である」と、物価を貨幣現象と考えるマネタリストらの声が強まった。
「物価が上がらないのは、市中に供給されるお金の量が少ないからだ」。「日銀がいくらでも資金を供給するとなれば、将来、物価が上がるという『期待』が生まれ、政策金利はゼロでも実質金利は下げられ、企業の投資が増える」といった声だ。
しかしながら、モノやサービスがあふれる成熟経済に入った日本で、お金の供給量が増えたからといって、企業や家計は、投資や消費に資金を振り向けようとはしない。企業は国内に投資先が少なくなり、資金をたんまり貯め込んでしまっている。団塊世代がリタイアした高齢社会では、年金や退職金で暮らす人も多く、預貯金などが目減りするインフレよりも、実質購買力が高まるデフレの方が都合がよくなっている。
若い世代にしても、雇用や将来不安から消費を抑え、賃金が増えない中でお金を使わないライフスタイルが主流となってきている。こうした環境下では、日銀がインフレ目標を掲げて、いくら鐘や太鼓を鳴らしたところで、踊る人が少ないのは当然といえる。
生産供給構造変化とIT化によって
金融政策頼みのデフレ脱却は無理
もとはといえば、今のデフレを金融政策だけで解決しようという戦略には無理があった。
90年代後半以降、「戦後最長」を含め3回の景気拡大局面があったにもかかわらず、消費者物価(生鮮食料品など除く)が一時期を除いて前年比マイナスが長く続いてきた背景には、地球規模の「生産供給構造」の変化がある。
グローバル化が本格化する中で、中国や新興国を舞台に、安い労働力を使った生産力が拡大し、世界的な生産の供給過剰の状況が生まれた。さらにはIT化により生産性の上昇と省力化が進み、物価を押し下げることになった。
19世紀後半にも英国などの植民地が拡がり、貿易や資本移動が促進されたことで、主要国では緩やかな物価下落が数十年単位で続いた。今、主要先進国でディスインフレ(低インフレ)の状況が続いているのは、こうした供給構造の地殻変動の過程によるものだ。
国内の人口減少や高齢化による需要面の変化も合わせて考えると、構造的に物価が上がらない時代になったということなのだろう。日本の場合、バブル崩壊後の経済停滞が長く続いたことで、企業は価格を上げられないと考え、消費者や労働者も価格や賃金は上がらないと考える「デフレ期待」が定着してしまったことを理由に挙げる専門家も少なくない。そういう面はあるにしても、それも世界経済の大きな構造変化の中で起きたことだといえるのだ。
誰が日銀に「OK」を出すのは
トランプ大統領しかいないのか
「飛べるかどうかを疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう。大切なのは前向きな姿勢と確信」と、黒田総裁はピーターパンの物語を引き合いにだし、異次元緩和のアクセルを踏み続ける意向を表明していた。「期待」に働きかける政策をやっている以上、鐘や太鼓を鳴らし続けるしかないということだろう。
しかし、このところは、それもあきらめてしまった印象がある。16年9月に、長期金利を操作目標にした量的・質的緩和を打ち出して以降、物価が思うように上がらないにもかかわらず金融政策運営は「現状維持」を続けているからだ。
政策審議委員の中からも、「消費者物価2%という表面的な数字にこだわるのは適当でない」(佐藤健裕審議委員)といった批判も出ているが、市場関係者からは、「そろそろ、(ゴルフの)『OKルール』を適用してもらいたい、というのが日銀の本音では」という声も聞こえてくる。
これは、グリーン上のゴルフボールをピン近くまで寄せれば、スコアに1打追加して入ったことにするゴルフの「OKルール」を適用するかのように、物価上昇率も「2%」に十分近づいたということで、超金融緩和政策を打ち止めにすればいいのはないかということだ。ただ、このルールの問題は、「OK」を自分で言うことはできず、一緒にラウンドする他のメンバーがOKを出さなければやめられないということ。それでは、誰がそれを言うのか。
アベノミクスは「やっている感が大事」と考えている節のある官邸は「とんでもない」と言うだろう。日銀による国債購入で赤字財政を支えてもらっている財務省も、増税をしたくない自民党もOKは出さない。超金融緩和政策による円安により、輸出競争のハンディをもらって収益を上げてきた輸出中心の企業も然り。銀行さえも、最近でこそ「マイナス金利」で収益が圧迫されると不満を口にするが、貸出先が乏しい中で国債をせっせと高値で買ってくれる日銀はありがたい存在だ。つまり、みんなが日銀におんぶに抱っこでやってきたわけで、誰もOKとは言わないだろう。
結局は、日米の金利差拡大で「ドル高」になるのを牽制するトランプ米大統領に、「日本だけが超金融緩和で円安に誘導するのは問題だ」と一喝されるのを機に、旗を降ろすしかないのではないか。いつまでたっても外圧頼みの情けない話といえる。
(ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)
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