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2017年4月24日 木原洋美 :医療ジャーナリスト
不注意・せかせか・衝動的「ADHD脳」社員の活かし方(上)
写真はイメージです
配属された新入社員もそろそろ職場に慣れる頃だ。なかには、やたらと不注意で気が散りやすい、非常に落ち着きがないなどの「変わった新入社員」がいるかもしれない。こうした人は「脳に癖」を持っている場合が少なくない。「ADHD脳」と呼ばれるもので、ADHD脳の人は、常識に囚われていない分、いい思いつきやアイデアを生む。このため、外資系のIT企業やクリエイティブな業種に多いと言われる。ADHD脳の人は職場ではどんな傾向があるのか、実際にどう接すべきなのか。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した専門医、司馬理英子医師に聞いた。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
「この子ヤバくない?」
新人の言動に不安が募る
新年度が始まって3週間、緊張しまくっていた新入社員たちも職場に慣れ、“その人らしさ”がはっきりと見えてくる今日この頃。
(あれ、この子ヤバくない?)と、心配になる次のようなシーンに心当たりはないだろうか。
◎シーン1
今日は課の勉強会――。新人たちには、仕事を通して発見した会社の課題と改善策について発表してもらうことになっている。中堅社員のAさんが特に期待しているのはB君だ。きびきび動くし、この企画の話があった際には、ヤル気をみなぎらせていたからだ。ところが……。
Aさん「どう、発表の準備はできた?」
B君「え、なんのことですか?」
Aさん「勉強会のことだよ。会社の課題と改善策について、君たちが発表することになっている……」
B君「あ〜っ、今日でしたね。忘れてました。いけない、急いでまとめないと。僕、いい考えが思い浮かんだので、じっくりやろうと思っていたんですよ。うわぁ、間に合うかな〜。あれ、資料がないぞ」
司馬理英子(しば・りえこ)/司馬クリニック院長。岡山大学医学部、同大学院卒業。 1983年渡米。アメリカで4人の子どもを育てるなか、ADHDについての研鑽を深める。 1997年『のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)を刊行。ADHDをはじめて日本に本格的に紹介した同書は、大きな反響を呼び、ベストセラーとなる。同年帰国し、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニックである「司馬クリニック」を開業。子供と大人の女性の治療を行っている。 『新版 ADHD のび太・ジャイアン症候群』(主婦の友社)『「片づけられない!」「間に合わない!」がなくなる本』 『「発達障害のわが子」と向き合う本』『「ADHD脳」と上手につき合う本』『どうして、他人とうまくやれないの?』(以上大和出版) など著書多数。
PCのデータや、デスクの上、引き出しをひっくり返して何やら探し回っているB君。発表に間に合わせるためにAさんは、その日、本来はB君がやるべきだったアポ取や雑務をすべて代わってやり、無事、発表させてあげることができた。
B君の発表は斬新で光るものがあり、評判は上々だった。ただ、誤字脱字等のケアレスミスの多さが際立っていた。
(慌てていたから仕方ない)とは思うが、それにしてもB君は遅刻が多いし、デスク周辺も乱雑でいつも探し物をしており、ロスタイムが多い。
(ひょっとして、「ヤル気」はポーズなんじゃないか)
Aさんは徐々に不安を募らせるのだった。
◎シーン2
(あの子、いつも忙しそう。頑張ってるな)
Cさんは、隣の課の新人、D子さんを好ましく思っていた。確かにD子さんは多忙で、コマネズミみたいに動き回っている。フットワークがいいと言えば聞こえはいいが、忙しいのは、そのせいだけではない。
実はD子さんは、「自分で自分を忙しくさせてしまうタイプ」だ。
例えば、こんな感じである。
社員1「ちょっとコピー取ってくれる、大至急」
D子さん「はい、ただ今」
社員2「コピー中悪いけど、今朝お願いしたアポイント、取ってくれた?」
D子さん「あ、はい、まだです。すみません。一度電話したんですが席を外されていたので。すぐ電話します」
社員3「お昼、新しくできたお店行ってみない」
D子さん「行きます、行きます。あ、クーポンあるかもしれません。ネットで調べてみますねー(すぐにスマホをいじりはじめる)」
社員1「ね、コピーどうなった。さっきお願いした」
D子さん「すみません、終わってます(コピー機へとバタバタ走る)」
興味が次々と移り変わり、それまでやっていたことを忘れてしまうために、万事中途半端となり、D子さんは必要以上に忙しくなっていることに、Cさんが気づくのも時間の問題だ。
◎シーン3
(もう勘弁してくれないかな。付き合いきれないよ)
新入社員のE男君は、LINEの画面を見ながらつぶやいた。深夜2時。発信者は同期のF君だ。2人はある企画をコンビでやるよう命じられたのだが、F君のハッスルぶりが凄い。誇張じゃなく24時間、思いつきを次々とLINEしてくるのだ。というか垂れ流してくる。「どう思う?ちゃんと読んでる?」と、E男君には熟考と速やかなレスポンスを求めて来るからたまらない。
しかも、ちょっとでも時間を空けようものなら勝手に動き出し、「E男が動かないので僕一人で来ました。これお願いします」と、不要な協力要請までしてしまう。
ついに、E男さんは我慢できなくなった――。
E男さん「F君、LINEはさ、もう少し考えてからしてくれないかな。深夜の思いつきは感情的になりやすいからメールしない方がいい、って言うじゃん。LINEじゃなく、会社で直接会って話そうよ」
F君「何言ってんだよ。そもそもお前がアイデアをなかなか出さないのが悪いんじゃないか。思いついたら即送っておかないと忘れちゃうよ。鉄は熱いうちに打てっていうだろう。どうしてそれがわからないんだい。ヤル気あるの?。もう、お前なんかと組まされて、俺、ほんと運が悪いよ、最悪だよ」
E男「そこまで言う?お前何様のつもりだよ。そっちこそ、全然役に立たないクソみたいな思いつきを次から次と」
F君「クソみたいだって。もういっぺん言ってみろよ」
ここから先は修羅場。コンビの運命は想像にお任せする。
これら3つのシーンには、共通する「脳の癖」が隠れている。「ADHD脳」と呼ばれる発達障害の1つだ。それはどういうものなのか、発達障害専門のクリニックで治療に当たっている司馬理英子医師に教えてもらった。
20人に1人はいる
「ADHD脳」は身近な存在
――「ADHD脳」とはどういうものですか?
発達障害の1種で、脳の癖のようなものです。例えば脳には、たくさんの機能を請け負う場所があるのですが、ADHD脳の場合は、毎日決まったことをコツコツやるための場所や、日常生活を確実にこなしていくための場所が上手く機能しません。
そうしたADHD脳の人には、3つの特徴があります。1つ目は『不注意』。注意力や集中力を持続できず、気が散りやすい。忘れものや失くしものがすごく多い。これらは、忘れてはいけないという意識を持続できないために起こります。同様に、遅刻、ケアレスミスなど、不注意が原因で起こるトラブルは少なくありません。
2つ目は『多動性』。落ち着きがない。大人なのにいつも慌てている印象です。あっちを考えたり、こっちに気をとられたり、せわしなく動いています。よく物にぶつかったり、部屋やデスクの中が散らかって収集がつかなくなるのもこのタイプです。フットワークが軽いとも言えますが、そそっかしさが重なると大変です。単純作業も苦手です。
>>(下)に続く
http://diamond.jp/articles/-/125772
不注意・せかせか・衝動的「ADHD脳」社員の活かし方(下)
>>(上)より続く
そして3つ目は『衝動性』。自分の感情や周りの刺激に反応しやすい。パッと思いついたことはすぐやらないと気が済まない。今はこれをやっている場合じゃない、といったストッパーが効かない傾向があります。相手の話をさえぎってしまったり、並んで順番を待つのが苦手なのもこのタイプです。失言が多いのも特徴です
――シーン1は『不注意』、2は『多動性』、3は『衝動性』にフォーカスした事例ですが、どこにでもいる人にも思えます。
そうですね、すごく身近だと思います。日本人の子どもを対象にした調査では、全体の5%がADHD脳でした。小さな頃は、ものすごくおしゃべりだったり、ちょこちょこ動き回ってものすごく落ち着きのない子どもっていますよね。
大人になると、だいたい3分の1はよくなり、3分の1は表だっては判らなくなる。いわゆる『片づけられない症候群』で、外ではなんとかなっているものの家に帰るとゴミの山で、人知れず悩んでいるといった程度に改善し、残りの3分の1は大人になっても改善しないで周囲を困らせていると言われています
――脳に原因があるとしても、病気ではないのですか?
病気ではなく、発達がゆっくりしている、あるいは『脳の癖』と考えてください。子どもの場合だと、ADHD脳の子は、実年齢×3分の2ぐらいといわれています。
関係しているのは、脳の『前頭前野』と『側坐核』という領域です。ここは感情のコントロールタワーみたいな場所なのですが、ADHD脳の人は、ここで働くべきドーパミンなどの神経伝達物質が上手く働かないため、特徴的な症状が出てしまうと考えられています。単調な仕事が苦手で。ワクワクするような仕事を追い求めるなどの傾向があります
――育て方も影響していますか?
影響しますね。片付けが苦手な家庭で場当たり的に育てられると、お子さんが片づけられない大人になっても不思議ではありません。成長過程でのしつけや、社会でのトレーニングによって、改善される可能性は多々あります。ただし、トレーニングにもコツがあります。
ADHD脳の人は、日常において、さまざまな『困り感』を持っています。学校や職場で『ダメな人』と思われて過小評価されていたり、自信を失い、能力を十分に発揮できなかったり、叱られて委縮して、ますますできなくなっていく悪循環に陥り、うつ状態になっている人がたくさんいます。その一方で、必要なしつけやトレーニングがなされないまま、社会に出てきてしまう人も結構いますね
締め切りは早めに
フォローとチェックは必須
――そのような人が職場に入って来た場合、上司や同僚はどうしたらいいのでしょう?
きっちりしたいタイプの人にとっては、耐え難い相手かもしれませんが、以下のような対処のコツを掴めば、だいぶ楽になると思います。
◎ADHD脳タイプの対処法
(1)締め切りは早めに設定、中間チェックも忘れずに
期限に余裕を設けても、ぎりぎりまで放置し、結果的に遅れたり、やっつけ仕事になるのがADHD脳です。期限は常に、実際よりも早めの日時を伝えましょう。ただし、「いつも、どうせ早めに言っている」と見抜かれないよう注意が必要です。
そして中間で何度も、「どうなっている」「できているところまで見せて」とチェックしてください。
(2)メンタルサポートも重要
根気に欠けるため、難しいところや分からないことがあると作業が完全にストップする傾向があります。こまめに相談に乗ってあげて、随所でアドバイスを与えましょう。
(3)段取りを立ててあげる
仕事の手順、段取りが苦手なのも、ADHD脳の特徴です。一度に複数のことを頼むのはやめて、1つの仕事を終えたのを確認してから、次の仕事を頼むようにしてください。
(4)ダブルチェックは必須
普通ではありえないような、簡単なところでミスをするのも特徴です。経営陣やクライアントに提出する資料等は、必ず複数の人間で、ダブルチェック、トリプルチェックを忘れずに。忘れ物が多いので、大切なものは持たせないでください。
(5)せっせと「言葉がけ」
気が散りやすいADHD脳の集中力を維持させるには、言葉がけが大切です。もともと悪気があって気が散っているわけではないので、『頑張ってるか』の一言でも効果はあります。気にかけてあげてください。
(6)単調な仕事をさせるのは諦めて
単調な仕事は向いていません。はかどらないばかりか、ミスを連発し、フォローするために余計な労力を傾けなければいけなくなるでしょう。できれば、単調な仕事は、他に引き受けてくれる人を付けた方が皆のためになります。
(7)適性を見極める
苦手を克服させようとか、社会人ならこうあるべし、といった押し付けはだめです。適正を見極めて配属してください。そうでないと、嫌気がさしてすぐに辞めたり、あの上司は何もわかっていないと怒りを募らせます。
ただ、適性がある仕事のなかでも、好きなことばかりやりたがる傾向があるので、『今は、これをやらないとね』と手綱を締めてあげることも重要です。
欠けたところはあっても
きらりと光る人を使いこなすか
――分からないではありませんが、そこまでの気遣いをするのは、甘やかしてしまうことにはなりませんか? 大変過ぎます。
そうですね、確かに大変ですね。でも、ADHD脳の人を活かすには、モチベーションを持続させることが大切です。会社としては、採用したからには魅力があるということですよね。実は、ADHD脳の人は、自由な発想で殻を破れる人が多いのです。
変に矯正して萎縮させたり、辞められてしまうよりは、能力を上手く引き出すほうがいいのではないでしょうか。
司馬理英子さんの『マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(大和出版)が好評発売中。漫画・しおざき忍、151ページ、1404円(税込み)
――言われて見れば、外資系のIT企業やクリエイティブな業種には、ADHD脳の人が多いような気がしますね。
多いと思いますよ(笑)。特に目立つ能力はなくても、常識的で地道にコツコツとやってくれる社員を集めるのか、欠けているところもあるけれど、きらりと光るところのある社員を上手く使いこなしていくのかの選択です。
ADHD脳の人は、常識に囚われていないからこそいい思いつきがでたり、『それって無理でしょう』と誰もが反対するようなことにチャレンジしたりできるのです。どうか上手く、仕事に活かしていただけたらと思います。
◇
本人に悪気がない以上、叱責したり怒ったりするのは良策ではない。「脳の癖を憎んで、人を憎まず」。上手く活用することが、会社の発展につながると、割り切ってみてはいかがだろう。
http://diamond.jp/articles/-/125817
イノベーションの源泉、「有言不実行」の勧め
トレンド・ボックス
「西岡塾」塾長・西岡郁夫 × ユーグレナ社長・出雲充 特別対談
2017年4月24日(月)
日経BP出版局
シャープで「世界最小・最軽量・最薄」のノートパソコン(1990年当時)の開発を指揮し、伝説の経営者アンディ・グローブさん(インテル元CEO)に乞われてインテルジャパンを率いて、圧倒的な情熱で日本のパソコン市場を切り拓いた西岡郁夫さん。ベンチャーキャピタルを経て、現在運営しているビジネス塾、丸の内「西岡塾」で、ミドルマネジャーに向けて熱い授業をしています。
『一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策』
そのエッセンスをまとめた著書『一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策』(小社刊)の出版を機に、一流の経営者をゲストに招き、経営者がこうあってほしいと願うミドルマネジャー像や働き方について対談します。
第一弾のゲストは、ユーグレナの代表取締役社長、出雲充さん。59種類もの豊富な栄養素を含む「ミドリムシ」の大量培養に成功した同社は、健康食品や環境問題の解決などますます業容を広げ、一部上場会社として名実ともに着実な成長をしています。西岡さんも毎朝欠かさずミドリムシ入りの野菜ジュースを飲んでいるとか。ベテラン経営者と若手経営者が熱く語り合います。(文中敬称略)
西岡郁夫(以下西岡): 出雲さんと私の出会いは4年前に遡ります。初めてお話を伺っていた時、「ミドリムシって名前が悪いね」と言ったところ、「西岡さん、アオムシと間違えてません?」と一本取られたことを楽しく思い出します。ミドリムシは100年も前に決められた名前なので、出雲さんがどうこうする訳にはいかないのだそうですね。
西岡 郁夫(にしおか いくお)
株式会社イノベーション研究所 代表取締役社長。丸の内「西岡塾」塾長
1943年、大阪府生まれ。大阪大学工学部通信工学科卒業。同大学院工学研究科通信工学専攻修士課程修了。1969年、シャープ株式会社入社。CADセンター所長、技術本部コンピュータ・システム研究所長、情報システム本部コンピュータ事業部長、同副本部長を歴任。工学博士(大阪大学)。1992年、インテル株式会社に転進。1993年、同代表取締役社長、米国インテル本社営業担当副社長。日本にパソコン、電子メール、インターネットを普及させた立役者。1997年、同代表取締役会長。1999年4月退社。1999年、モバイル・インターネットキャピタル株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2001年、「ベンチャーを支援するベテランとベンチャーの会」を設立。2002年、丸の内「西岡塾」を設立。著書に『パソコンやってますかぁ インテルジャパン社長の痛快電脳生活のすすめ』(ダイヤモンド社)、『ITに関心のない「経営幹部」は今すぐ辞めなさい 情報利用戦略のすすめ』(かんき出版)。丸の内「西岡塾」ウェブサイトこちら
今日は、私の著書『一流マネジャーの仕事の哲学』の出版を機に、いつ見ても明るく楽しそうに軽々と激務をこなしておられる出雲さんに、その仕事の哲学を教えてもらおうと思っています。
いま、働き方の改革が叫ばれています。日本人はいまだに「長時間働くことが、仕事をしていること」と思っているように見えます。どう思われますか?
出雲充(以下出雲): 日本人にはそうした働き方を良しとする意識が刷り込まれていて、発想を切り替えるのはなかなか難しいのでしょうね。
西岡: グループウエアで会議を招集することが便利になって、全員のスケジュールが共有されているので、部下から部長に会議の招集が簡単にできてしまいます。結果、部長は部下が要請したスケジュールで会議を渡り歩くのです。
会議は、経営に関する決断やアクションプランなど決定的に重要なことを議論する場ですから、明確な目的と方向性を持ち、参加者を厳選して招集すべきです。部下が招集したスケジュールで会議を渡り歩くことが部長の仕事といえるでしょうか。こんな会議で上司も部下も丁々発止の議論もせずに、時間だけが経過して長時間労働につながっている場合も多いのが、いまの働き方の実態です。
ダメな人のために、優秀な人の能力を抑えてはダメだ
出雲 充(いずも みつる)
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
1980年、広島県生まれ。東京大学に入学した1998年、バングラデシュを訪れ深刻な貧困に衝撃を受ける。2002年、東京大学農学部農業構造経営学専修卒業。同年、東京三菱銀行に入行。2005年、株式会社ユーグレナを設立し、東大発バイオベンチャーとして注目を集める。同年、世界初のミドリムシ屋外大量培養に成功。ミドリムシ食品を事業化し、化粧品やバイオ燃料など幅広い分野での展開を目指す。2012年、世界経済フォーラム(ダボス会議)で「ヤング・グローバル・リーダー」に選出される。著書に『東大に入るということ 東大を出るということ』(共著、プレジデント社)、『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。 東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦』(ダイヤモンド社)。
出雲: その通りだと思います。仕事ができる人は自分のタイムマネジメントをきっちりして、時間を上手に使い、社外の仲間をつくって、上手にストレスを解消して、どんどん成果を上げていきます。
会議を渡り歩いている部長は逆のパターンで、頭をうまく使っていないのでなかなか成果が上がらず、そうなると、仕事をしているというアリバイ作りのために、”テトリス”のようにスケジュールを入れられることに満足してどんどんダメになっていく、まさに二極化なのです。そのようなダメになってしまう人がもう一度浮上するには、どうしたらよいのでしょうか。
西岡: まず大切なことは、「ダメな人を浮上させるために、優秀な人の能力を抑えてはダメだ」ということです。日本は平均値教育なので、それが会社でも影響しています。ダメな人は生き方を考え直すべきなのでしょうね。
人間の生き様はいろいろで、職業も自分の適性で決めるべきなのに、学校の延長線上で安易に一生の仕事を選択してしまった人が多いのではないでしょうか。農家などはスマートファーミングといって大きく伸びるチャンスですし、漁業、建設業などいろんな選択肢があります。良い学校を出て大会社に入ることが幸福への方程式ではなくなったのです。一人ひとりの多様性を生かすべきですね。
今回の本のタイトルに「仕事の哲学」という言葉を使ったのですが、出雲さんの仕事の哲学を教えてください。これだけは譲れないというようことはありますか?
出雲: 「これは譲れない」というのはよくありません。生物はフレキシブルで、環境の変化に対応できるものが勝ち残ります。人間も生物です。フレキシブルでなければいけません。例えば、ある時代にはヒットする事業や商品かもしれませんが、時代が変わったら時代遅れになることがあります。ミドリムシのように柔軟に環境の変化に応じて変わることが、生物としての強さの源泉です。変わらないことはリスクになります。
もちろん、その変化は「生物の視点で考えて、無理なことは無理」ですよ。私が目指すのは、変われなかったために絶滅した「恐竜」ではなく、5億年もの長い間柔軟に変わり続けてきて、いまだに健在なミドリムシです。
西岡: それは大事なことですね。塾でも塾生が講師に向かって、「先生は若い頃からいまの名声、社会的地位を得ることを目指して計画的に努力してきましたか」という質問をすることが多いのですが、実は皆、その場その場で柔軟に、最適に流れていった結果である、ということが多いと思います。
「戦略的に」より「柔軟に」、AIも味方に
出雲: そうなのです。柔軟に変わってきた結果が今なのです。ところが、多くの人は「戦略的に方針を決め、それに向かって私はこう努力してきたから、こうなった」というシナリオを聞きたいのです。そんなに戦略的にキャリアプランしている人はいないでしょう。
西岡: では仕事をする上でのモットーは、変化に順応して生きよ、ということでしょうか。
出雲: そうですね。西岡さんのコラムにも書かれていましたが、世界一の囲碁棋士イ・セドルにGoogleのAI、アルファ碁が4勝1敗でボロ勝ちしました。AIはすごいと、世界中の頭脳労働者が脱帽だといいますね。エキスパートシステムのように昔のAIに柔軟性がなかったのに比較して、アルファ碁などは経験から学びを得て、どんどん賢くなっていくといいます。
でも、出雲充は、ミドリムシの方が優秀な先生だと思っています。生物が変化に対応するというのがいちばん信頼できるし、理にかなっているものです。
西岡: 私は、AIは敵にするのではなくうまく利用するべき道具であると思っています。
いまは一人の部長が数人の部下を持って仕事をしていますが、そのうち優秀な部長が持つべきなのはAIだけになるかもしれません。医者がそうであり、弁護士もそうです。弁護士は担当案件の参考になる判例を調べることが弁論の基礎ですが、数多くの判例を調べることはAIの方が優秀です。一つのチームには優秀な弁護士一人とワトソン(IBMの質問応答システム)がいればいいわけです。
いま私がやっている塾の塾生たちに問いかけているのは、「そうなった時にあなたたちはどうするのですか?」です。「AIを敵にするのでなく、AIを上手に利用する立場になりなさい」というのが私のメッセージです。
社長として、社員に常々言っていることはありますか。
出雲: 「あ・た・ま」です。ただし、「勉強しろ」とか「頭を使え」ではなく、「明るく・楽しく・前向きに仕事をせよ」です。その「あ・た・ま」です。
今日も久しぶりに西岡さんと食事をしながら、西岡さんがミドリムシのことを覚えていてくださり、お招きいただき、「うれしいな!」と思って自然と明るくなって、楽しくなって、前向きな話をしているので、二人の話題は「AIと人間」というふうに未来に膨らみます。私が暗くて、声も小さく、背中も丸まり、ネガティブなことばかり言っていたら、二人の会話は囲碁やAIの話に絶対膨らんでいきませんよね。
私は勉強ができるとかできないとかまったく気にしていなくて、明るく、楽しく、前向きであることがいちばん大切だと思います。
例えば、後ろ向きで暗くてネガティブな発想をする人、そんな社員はユーグレナには一人もいません。それでも、徹夜明けの日とか疲れてネガティブになってしまうと、絶対にいいアイデアは浮かびませんから、日ごろ明るく楽しく前向きな社員が暗い時には、「『あ・た・ま』はどうしたの?」と声をかけるようにしています。
妥協なく論争をするという、このハーモニーが大切
西岡: ユーグレナはこれからまだまだ成長をされていくと思いますが、そうなると出雲社長には右腕が必要ですね。出雲さんが持ちたい右腕とはこういう人だ、というのはありますか。
出雲: 取締役で研究開発担当の鈴木健吾というすごい右腕がいます。彼は問題・課題を見た瞬間にパッと本質的な答えが頭に浮かんで、回答をサラサラと書いてしまいます。私は昔から自分より優秀な人と一緒に仕事をしたいと思っていたので、すでに理想がいるのです。
しかし、頭の良い人は答えがすぐに見えてしまうだけでなく、リスクも見えてしまいます。
一方、彼ほど頭の良くない私は、「こういうことをやりたい、こういうものを作りたい、もっとこういうふうに性能を上げたい」から考え出します。理論を無視して「ミドリムシで栄養失調をなくしたい、ミドリムシで飛行機を飛ばしたい」と夢を語ります。妥協なく論争をするというこのハーモニーが大切ですね。
西岡: これはまたいい話を聴きました。私の著書にも書きましたが、私のモットーは「有言不実行」です。“有言不実行”とは、言っておきながら何もしない、ではなく、不可能なことでもやるべきは、やろう!と発言することなのです。出雲さんが仰られたこととまったく同じです。
出雲: それは本当に大切なことです。ミドルマネジャーも、アントレプレナーも一緒で、有言不実行できる人のところに優秀な人が集まると思いますね。
出雲: 西岡さんは今回なぜ『一流マネジャーの仕事の哲学』を書かれたのですか。
西岡: 昨年西岡塾が15周年を迎え、15周年記念パーティを開催しました。そこに大勢の卒塾生が来てくれて、皆の熱い視線を見て、これは何か責任を果たさなくてはと感じ、皆の学びを本にしようと思ったのです。
出雲: 西岡さんのことだから、本を書くことでまた何かを学ばれたのでしょうね。
西岡: 今回の著書には、私がシャープにいた頃の辻晴雄社長とのエピソードと、次に移ったインテルのアンディ・グローブCEOとのエピソードをたくさん書きました。アンディはすでに亡くなっていますが、辻さんはご健勝なので、ご自宅に原稿をお送りして全文をチェックしていただきました。
出雲: 何と言われましたか。
西岡: これ見てください(下の写真)。一瞬「これはあかん! 出版できない!」と思いました。「えーーダメですか?」と聞いたら、「おもろいわ。この本、良くできてる」と言われるのです。うれしかったです。
西岡さんのシャープ時代の上司、辻晴雄元社長が付箋をたっぷり貼った校正紙。これを見た瞬間、西岡さんは「これはあかん! 出版できない!」と思い、ダメかと尋ねたところ、辻さんの答えは「おもろいわ。この本、良くできてる」とのこと。ただし、一箇所だけ修正の提案があった。
出雲: じゃ、「これを直せ、俺を格好よく書け!」じゃなくて、面白いところに付箋を貼ったのですね?!
「頑張れ!」と「勝手にせえ!」その違いを考えよ
西岡: 一箇所だけ修正点がありました。ノートパソコン発売の最後の決裁を社長にサシで談判したときの場面です。事業部、本部の利益に加えて、本社の利益までは出ない決裁でした。「商品は魅力的なので絶対売れます。売れれば数が増えて、仕入れ値が下がって利益を出せます。とにかく発売させてください」と能力の限りを尽くして辻社長に頼みました。
必死に粘った結果、辻社長は「勝手にせえ!」と決裁書を投げられました。私はヒラヒラと床に落ちた決裁書を拾って「ありがとうございます! 頑張ります!」と言い、即、社長室を退室しました。ダメなら、「待て!」と呼ばれるはずですから。
その場面について、「西岡、『よし頑張れ!』と『勝手にせえ!』にはギャップがあるで、そのギャップを君は考えたか?」と聞かれるのです。
愕然としました。確かに! そんな大切なことに私は気づいていなかったのです。ミドルとしてこの商品の良さ、これだったら売れるという社長への説得が完璧にはできていなかったのです。
帰宅後に原稿に付け加えました。こうやって、辻さんがさらに本の内容を良くしてくれているのです。上司というものはそういうものです。
出雲: いい話ですね。
西岡: ところで、ダイバーシティというと、日本はいつも女性の話題が出ますが、本来は性別だけではなく、国籍だとか宗教だとか信条だとか、価値観が混ざることをダイバーシティと言います。日本人は、ホモジニアス(同種)ですから、議論をしっかりせずにごまかすところがあると思います。会議でもみんな議論をせず、居眠りしています。
出雲: 私は生き物を研究している身として、やはり混ぜることが重要だ、と思います。
ピュアというのは、変化に対していちばん弱いのです。例えば日本人は「除菌」とかとても上手で、ピュアな状態にするすごい技術はすべて日本発です。でも、皆ピュアがいい、とそんな商品を作って売って、あまりにもそういう社会にいると、ダイバーシティと言われても実は、全然頭に入ってきていないのです。本気でダイバーシティを考えられていないのです。
西岡: 最近は「女性活躍社会」とよく言われますが、どう思われますか。
「離れたところに答えがある」だから「混ぜる」
出雲: いきなり女性管理職3割とか、政治家に数値目標だけを掲げられてもね。そもそも政治家の女性の割合は、先進国で日本が最下位です。そんな男性社会において、極端な舵を切られた現場では、男女共にたくさんの困惑が起きるでしょう。
西岡: 実は、西岡塾の女性版を創りたいと思っています。追っかければ手に届きそうなくらいの現在活躍中、成長中の女性に集まってもらって準備中です。女性が活躍できてこなかった責任の半分、いや半分以上は男性の責任です。女性だけで議論をしていてもおかしなことで、男性も中に入って議論をしたいのです。出雲さんにも議論に加わってほしいものです。
出雲: それは本質的でいいですね。実は私も、女性活躍に対してずっと本気で考えてきました。
私は困った時にはすべて、ミドリムシに例えて考えます。ミドリムシは植物ですが動いて、動物ですが光合成をします。やはり、全然違うものをインテグレートするのがイノベーションだと思うのです。
弊社はスタッフ252人の男女比が55対45なのですが、男性だけでもダメで、女性だけでもダメなのです。ミドリムシも同様で、植物だけでもダメだし、動物だけでもダメなのです。
私は、“離れたところに答えがある”と思っているので、必ず混ぜることが重要だと思います。例えば、全部東京で研究するのはダメで、東京で煮詰まったら石垣島に行ってみるとか。こういったことがベンチャーにはいちばん重要です。
ぜひ肉食系女子の皆さんと草食系男子(ミドリムシ)が一緒に議論したいですね。
西岡: 第1回のミーティングには出雲社長に参加していただけることになりました。みなさんご期待ください。出雲さん、本日は大変ありがとうございました。
このコラムについて
トレンド・ボックス
急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226265/042000114
【第429回】 2017年4月24日 瀧口範子 :ジャーナリスト
日本の大企業も見習うべき?
インテルのなりふり構わぬ自己変革
相次ぐ買収で
大胆に進める二度目の業態変更
インテルが開発者向けに毎年開催してきた「インテル・ディベロッパー・フォーラム(IDF)」 を取りやめるという。すでに今年も8月半ばにサンフランシスコ市内のモスコーニ・センターでの開催が予定されていたが、これもキャンセルになる。
夏から秋にかけて、シリコンバレーはテクノロジー関連のカンファレンスが続くが、その中でもIDFはある意味その核になるようなイベントだった。いつも同社のチップ開発の現状が共有される場になっており、コンピュータ業界関係者全体にとって「勉強」にもなる機会だったと言っていいだろう。
ただ、最近はその規模がかなり縮小されていた。同時に、メインのキーノートで語られる内容も、核心のチップ開発の進捗報告よりは一般消費者の関心に近いIoT、VR、AIといった内容にシフトしていた。そうした先端テクノロジーのためのソリューション企業に変わるというメッセージを、どんどん強くするようになっていたのだ。
このシフトは、インテルにとっては必須のものだったと言える。同社はかつて半導体メモリからCPUの会社へと業態を変えたことがあった。そのCPUにおいて同社は、パーソナルコンピュータの盛り上がりと共に売り上げを大きく伸ばしたのだが、すでにテクノロジーの主舞台は、パーソナルコンピュータを離れて、スマートフォンやタブレットなどのモバイルやクラウドに移行している。
「IDF2016」の基調講演のようす。これがIDFのラストステージとなった
しかし、今回のインテルは早期にそうした変化を捉えることができなかった。同社は、マイクロソフトと共に、パーソナルコンピュータ時代の巨人が次のモバイルの波に乗り遅れた例として取りざたされることになってしまったのだ。
今回、約20年来続けてきたIDF開催を中止する理由について、インテルは「わが社はPC中心的な企業からデータ中心的な企業へ変貌を遂げている」と述べている。そして、AI 、FPGA(プログラムの書き換えが可能なIC)、IoT、ワイヤレス通信、自動車などの新しい領域へ重心を移していると説明する。
実際、自動車は自動走行車の時代になると、設計のためにもサービスのためにもデータがキーとなる。「自動走行車は車輪に載ったデータセンター」というのは、同社ブライアン・クルザニッチCEOの表現だ。この領域への進出を強化するために、インテルは先ごろ、イスラエルの「モバイルアイ」という会社を150億ドル近い価格で買収した。モバイルアイは、現在各社で実験が進む自動走行車の「目」にも相当する技術を提供している会社だ。
AI技術の取り込みにも躍起
AI領域への進出のためにも、買収を行った。ディープラーニングのためのキーとなるFPGAを開発する大手企業「アルテラ」を160億ドルで、またAIスタートアップの「ネルヴァナ・システムズ」を4億ドルで買収。社内では、CEO直属のAIグループを組織化している。
データで言えば、スポーツ関連のテクノロジーにも投資を行い、新型の撮影用カメラや画像の3次元処理技術開発会社などを傘下に収めている。今後スポーツも、データによって楽しむ時代が来ることを先取りしようとしているのだ。
こうした新たな動きを開始したインテルにとって、異なった領域の人々が一堂に会するIDFのようなイベントは、焦点を絞りにくいと考えたのだろう。今後は、巨大イベントの代わりに、小規模なイベントを複数開催する予定とのことで、すでに昨年末にAI関連の会議『AI Day』をサンフランシスコで行ったほか、ヨーロッパでも同様のイベントを開催している。また、3月末には同じくサンフランシスコで『Technology and Manufacturing Day』を開催、チップ設計と製造に関するブリーフィングを行った。
これまで何となく変化が感じられてきたが、インテルはいよいよ本格的に新たな方向へ向けて舵取りをする段階になった。「シリコンバレーの巨人」が、時代に合わせてどう自己改造をするか。これは、不透明な未来を目前にした日本の大企業にとっても参考になるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/125791
【145回】 2017年4月24日 末岡洋子
企業の情報管理が破たんする前に打つべき手は?
――情報管理システム大手「オープンテキスト」CEOに聞く
データ量の爆発的増加――中でも増えているのはメール、ドキュメント、画像などの非構造化データであり、これをいかに活用するかが企業の死活問題となっている。これを解決するのが「エンタープライズ情報管理」(EIM)と呼ばれるツールで、情報やコンテンツなどの資産を管理する技術となる。IT業界のトレンドである“コグニティブ”や“AI”は情報活用の究極とも言えるものだが、EIMを代表する「オープンテキスト」(OpenText)のCEO、Mark Barrenechea氏は、コグニティブはあらゆる業界に大きなインパクトを与えると予言する。
情報管理からコグニティブへ
OpenTextのCEO、Mark Barrenechea氏。プログラマーとしてキャリアをスタート、30年間この世界にいるが「今が最もエキサイティングな時代」と語る
「どの業界を見ても市場は激動を迎えている。ある日突然、ベンチャーや新規参入企業に完全にルールを塗り替えられるという時代だ。OpenTextは主要なビジネスプロセスをデジタル化して、顧客がこのような市場で生き残り、競争優位につなげるように支援する」とBarrenechea氏は言う。
同社の主力ソリューションであるEIMは、企業にある情報を管理することで資産の管理と活用、生産性の改善につなげる技術だ。OpenTextは非構造化データを含む情報、人、システムをつなげる情報グリッドを構築するソリューションを持ち、SAPなどの業務アプリケーションと連携することでプロセスの効率化を図ることができる。
OpenTextは先にDell Technologiesより競合のDocumentumを買収、EIM分野におけるリーダー的ポジションをさらに固めた格好だ。「市場のファンダメンタルズはとても堅牢だ。デジタル化により第4次産業革命が始まっており、持続可能(サスティナブル)な市場加速要因になっている」とBarrenechea氏は切り出す。
そのOpenTextが、EIMの次として現在進めているのが「コグニティブ」だ。同社は2016年の年次カンファレンスで、コグニティブ技術「OpenText Magellan」を発表、今年後半(7月)に製品化を予定している。まずは、米国、日本を含む10カ国で提供する。
デジタル化は第4次産業革命を起こしているが、コグニティブ技術は今後さらに大きな影響を与える、とBarrenechea氏は言う。それは我々の仕事に直接影響する。「2016年、米国のロースクールの卒業生のうち4割が仕事を見つけられなかった。法務作業の5割程度がすでに自動化されている」とBarrenechea氏。
「弁護士よりもコンピューターの方が正確で高速。専門法の弁護士は今後も需要があるだろうが、これまで絶対に安全と言われていた弁護士すら、テクノロジーの影響を受ける」と続ける。
Barrenechea氏は、General ElectronicトップのJeff Immelt氏の言葉を応用して、「製造業や銀行などとしてスタートした企業も、これからはすべてソフトウェア企業、コグニティブ企業になる必要がある」と述べた。
コグニティブで先行するIBM Watsonに勝負
では、OpenTextのMagellanとはどのようなものか。OpenTextはすでに、EIMを発展させるものとして分析技術を提供しているが、これをさらに進めるのがコグニティブというのが位置付けだ。
基本的には他社が提供するコグニティブ技術と同様に、非構造化データを利用してトレーニングし、関係性を見つけて洞察を得ることができるというものだ。例えば、“この発注量に対して、サプライヤーAを選んだ場合、サプライヤーBと比べて価格、納品はどう違うか”といったことを、迅速に教えてくれる。
コグニティブではIBMがWatsonで先駆けているが、Barrenechea氏はMagellanに自信だ。「Magellanは高性能、低コストのコグニティブプラットフォーム。我々はあらゆる企業がコグニティブを利用できるように、”民主化”を進める」とBarrenechea氏。
IBMとの違いとして、オープンソースツールの利用を挙げる。Magellanはオープンソースのクラスタコンピューティングフレームワーク「Apache Spark」を土台とし、HTML5、Java、SQL、Apache Hadoopなどの技術を利用できる。Apache Sparkは機械学習処理でよく利用されている技術で、「1000以上のオープンソースアルゴリズムが開発されている」とのこと。
これらには、自社のサイトに寄せられた意見やコメントなどが好意的なものかといった感情を分析するエンジン、レコメンデーション(お薦め選定)エンジン、購買トレンド分析エンジンなどがある。オープンソースなので基本的には無料で、活発な開発者コミュニティもある。Barrenechea氏は「IBM Watsonは高価で使いにくい。その上、クローズドだ。我々は6分の1の価格で提供する」と述べた後、「我々はIBM Watsonに戦いを挑む」と宣言する。
今後5-10年で企業のビジネスモデル変化
必要なスキルも変わる
Barrenechea氏は、Magellanは「(コグニティブ技術を)民主化する」と言うが、それは価格の安さだけではない。「IBM Watsonはプロプライエタリ(ソフトウェアの権利が開発者にある)で、理解できる技術者が少ない。我々はオープンなツールを利用するため、Python、R、Hadoopなどの知識があれば良い。この分野は技術者不足だが、(Python、R、Hadoopなどは)技術者の敷居も低い」と言う。
民主化には、使いやすさと適用できる用途の開拓も必要だ。使いやすさについては、ツールキットを利用して簡単に使えるようにすると言う。用途については、いくつかの例をあげた。例えば保険業界。「デジタル化により、加入したい人は面倒なフォーム入力なしにセルフサービスで保険に加入できる。保険企業はユーザーのプロファイルを得ることで、アルゴリズムを利用して最適な保障と価格を割り出すことができる。
自動車保険なら、どのように駐車、運転するかなど運転手のデータを車が集めることで、簡単に最適な保険を作成できる」とBarrenechea氏。「ひょっとすると、保険会社は不要で、自動車メーカーが自動車保険の役割を担うかもしれない」とも言う。
コグニティブの普及については、「非構造化データの増加トレンドに加えてIoTによりさらにデータが増えることで、そこから洞察を得る必要が出てくる」とトレンドと潜在需要を指摘しながら、「数年後」との見通しを出した。
「5年後、10年後、企業のビジネスモデルは大きく変化しているだろう。紙の紙幣はなくなり、財布を持っていないかもしれない。自動運転により免許も不要かもしれない。3Dプリンターで自分の好みの形と色をした靴や服を作る・・・、このようなことが現実になってくる」とBarrenechea氏。「デジタル化によるデジタルトランスフォーメーションはあらゆる業界に起こる波で、どの企業にとっても無関係ではない」と続ける。
だがコグニティブを使うのは人間だ。「マシンはツールに過ぎない。最後の意思決定は人間であり、ツールをどう利用するかを決めるのも人間だ」とBarrenechea氏は楽観した。
ジャーナリストの仕事もAIに置き換わると言われている時代だ。最後に、Barrenechea氏に今後必要なスキルは何かを聞いてみた。
「今後5〜10年でスキルは大きく変わるだろう。これまでは社交性、協調性、交渉力だった。今後求められるトップスキルは、クリエイティビティ(創造)。次に、複雑な問題を解決できる能力、3つ目はクリティカルシンキングだ」と言うのが回答だった。
http://diamond.jp/articles/-/125252
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