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「首相官邸 HP」より
安倍政権、正規と非正規社員の格差是正が失敗の公算…非正規の待遇改善が何もされず
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18829.html
2017.04.24 文=溝上憲文/労働ジャーナリスト Business Journal
安倍政権の働き方改革実現会議が「働き方改革実行計画」を発表した。最大の目玉は「残業時間の上限規制」と「同一労働同一賃金原則」の法制化であるが、同一労働同一賃金については、早くも非正規労働者の処遇改善にはつながらないのではないかという懸念も出てきた。
実は昨年末に実現会議が「同一労働同一賃金ガイドライン案」を出したとき、政府の関係者は「このままでは同一労働同一賃金の法制化は当初描いていたものと大きく変わり“馬糞の川流れ”になるかもしれない」と囁いていた。つまり、バラバラにされて雲散霧消してしまう可能性があるということだ。
安倍政権の「働き方改革」を主導しているのは所管の厚生労働省ではなく、内閣府の「働き方改革実現推進室」である。そして同一労働同一賃金導入の理論的支柱として議論をリードしてきたのが、EUの非正規問題に詳しい水町勇一郎東京大学教授(労働法)だった。
「大きく変わる」とはどういうことなのか。当初政府と水町教授は、正規と非正規のヨーロッパ並みの格差是正を図るために、格差に不満を持つ非正規労働者が裁判に訴えやすくするように現行の法律を改正することを検討。同時に裁判の指標となる具体的な賃金などの処遇の基準を政令で示し、企業にそれに応じた格差是正など賃金制度の見直しを促すことを狙っていた。
具体的に説明しよう。非正規には有期契約労働者、パートタイム労働者、派遣労働者が入るが、現行の労働契約法とパートタイム労働法でも不合理な待遇差を禁じる規定がある。労契法20条、パートタイム労働法8条では「労働条件の相違がある場合、その相違は不合理と認められるものであってはならない」と謳い、正規と非正規の差別を禁止している。
ただし、不合理かどうかを裁判官が判断する場合は、(1)職務の内容(責任の程度)、(2)当該職務の内容及び配置の変更の範囲、(3)その他の事情――という3つの考慮要素に照らして合理的かどうかを判断することになっている。つまり、職務内容や責任の程度が違えば格差があるのは合理的、その他の事情があれば合理的になるということだが、いったい具体的に何を指しているのかさっぱりわからない。
簡単にいえば、裁判官の裁量で幅広の解釈が成り立つような建て付けになっているのだ。しかも労働者が「この格差はおかしい」と裁判所に訴える場合は、「どこがどのようにおかしいのか」を立証しなくてはならない。労働者にとって裁判のハードルが高く、しかも3つの考慮要素があるために勝つ見込みも保障されない。
実際にパートタイム労働法を根拠に裁判に訴えた事例はなく、労契法20条を根拠に訴えた裁判では、1審と2審で真逆の判決が下された例もある。
■合理性の立証
では、どのように法律を変えるのか。
まず、ヨーロッパにおける正規と非正規労働者間の待遇格差を禁じたEUの労働指令などを参考に、「待遇の相違は合理的なものでなければならない」とする差別禁止の条文を現行の労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法に入れる。条文を「待遇の相違は合理的なものでなければならない」という書きぶりにすれば、裁判では会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生することになる。
つまり、正社員となぜ違うのかと聞かれたときに会社側に説明責任が発生し、裁判規範としての立証責任が会社側に生じ、会社側はその差について合理性があることを説明しなければいけなくなる。これによって労働者は裁判に訴えやすくなるというわけだ。
実現会議のメンバーでもある水町教授も「待遇の相違は不合理なものであってはならない」と法律で規定すると「労働者が待遇の相違が不合理であること立証」することになり、「待遇の相違は合理的なものでなければならない」と規定することの必要性を実現会議の場でこう説明している。
「ここでより重要なのは、労働者の待遇について制度の設計と運用をしている使用者に、待遇差についての労働者への説明義務を課し、労働者と使用者の間の情報の偏りをなくすことです。これによって、待遇に関する納得性・透明性を高めるとともに。不合理な待遇差がある場合にその裁判での是正を容易にすることができます」(第6回働き方改革会議<議事録>より)
労働裁判に詳しい弁護士も「合理的なものでなければならない」と規定すれば「非正規と正規との賃金格差に違いがある場合、まず同一労働か否かを判断し、同一労働と認められれば不利益取扱いが推定されるために使用者は積極的に合理性の立証が求められる。もし使用者が積極的に合理性を立証できなければ違法になってしまう」と指摘する。
■労働者に立証責任
だが、実際に問題となるのは、どういう場合が合理的であり、合理的でないのかという裁判や企業の指標となる合理的理由の有無の基準である。そこで具体的な処遇の目安として法律の施行前にガイドラインを策定することになったという経緯がある。
そして問題のガイドラインである。当初は早ければ今年春にも一定の効力を持つ「政令」として出し、企業労使の格差是正を促す“露払い役”を期待し、その後に法律を改正するというシナリオを描いていた。
ところが出てきたのは「ガイドライン」ではなく「ガイドライン案」だった。しかも「案」からガイドラインになるのは法改正の施行時(19年4月を予定)と先延ばしされてしまった。
そこまでならまだよい。「ガイドライン案」そのものも曖昧なものとなっている。ガイドライン案の中身はヨーロッパの基準を参考に、基本給、ボーナス、各種手当などについて、正社員と主に有期契約社員、パートタイム社員の間でどのような格差が問題になるかを具体的な事例を挙げて書いている。
たとえば社員食堂を利用する際の食事補助が正社員には出るが、非正規には出していない会社も多い。これについてガイドライン案では、勤務時間内に食事時間が挟まれている労働者に対する食費の負担補助として支給する食事手当について、「有期雇用労働者又はパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない」と明確に規定している。
また、正社員に支給されるボーナスについても、会社の業績等の貢献に応じて支給している場合は、正社員と同一の貢献であれば「貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない」と規定している。つまり、正社員に比べて貢献度が低くても、正社員との見合いに応じて支給しなさいと言っている。
こうした規定が実際に履行されれば、非正規労働者の待遇は多少改善されるかもしれない。しかし、それは大本となる法律で労働者が容易に裁判に訴えられる保障が前提になる。つまり、処遇格差の合理的理由の立証責任を使用者側に持たせることである。
ところが「ガイドライン案」の前文には「本ガイドライン案は、いわゆる正規雇用労働者と非正規労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差が不合理なものでないのかを示したものである。この際、典型的な事例として整理できるものについては、問題とならない例・問題となる例という形で具体例を付した」と書いている。
「不合理なものでないか」という表現は現行法の「労働条件の相違がある場合、その相違は不合理と認められるものであってはならない」という条文と似ており、一見すると、労働者に立証責任を持たせようという疑いを抱かせる。なぜこういう表現なったのか。
■調整の産物
実は経団連など経済界は、使用者側に待遇格差の説明責任と立証責任が移ることを警戒し、現行法の規定をそのまま残すことを主張してきた経緯があるからだ。実際に「ガイドライン案」の策定までに内閣官房を通じて原案が事前に経団連など関係者に示され、内容をめぐって秘かに調整が続けられた。ガイドライン案はその“調整の産物”なのである。
では、具体的にどのように法律を改正しようとするのか。注目された冒頭の実現会議の「働き方改革実行計画」ではこう書いている。
「裁判上の立証責任を労使のどちらが負うかという議論もあるが、訴訟においては、訴える側・訴えられる側がそれぞれの主張を立証していくことになることは当然である。不合理な待遇差の是正を求める労働者が、最終的には、実際に裁判で争えるような実効性ある法制度となっているか否かが重要である。企業側しか持っていない情報のために、労働者が訴訟を起こせないといったことがないようにしなければならない」
法改正の最大の肝である立証責任の所在が労使のどちらにあるかを示すことのない曖昧な表現に終始している。
これではどんな法律・条文になるのか、さっぱりわからなくなったといえる。
通常の労働法制の改正などは、首相や厚生労働大臣が公労使3者で構成する労働政策審議会に検討を指示する。そこでまとめた法案を閣議決定した後に国会に提出し、成立させるという流れを踏む。
だが、労働者代表と使用者代表同数で構成する審議会では利害が絡むテーマは議論が紛糾し、なかなか結論を得にくいと問題があった。そのため、安倍首相は同一労働同一賃金については官邸主導で推進することを国会で宣言し、実際に実現会議で一定の結論を出した上で労働政策審議会を通過させるシナリオだった。
その象徴的事例が時間外労働の上限規制だ。事前に労使の協議を促し、「1カ月の上限は100時間未満」とする裁定を安倍首相自ら行い、労働政策審議会で議論する前に法案の具体的骨格まで決めている。
それとは正反対に同一労働同一賃金に関しては労働政策審議会にほぼ丸投げということになってしまった。審議会の議論は4月以降に始まるが、労使の利害が絡む最大のテーマであり、その帰趨は労使の当事者にもわからない状態になっている。
審議会を所管する厚生労働省の幹部も「法案内容がどうなるのか我々にもまったくわからないし、議論次第では法律の施行時期も予定通りにいくかもわからない。できれば実現会議で決めてくれていたほうがスムーズに運んだかもしれない」と語る。
審議会の議論が紛糾すれば法律だけではなく、ガイドラインの施行時期も遅れるかもしれない。そうなれば格差に苦しむ非正規労働者の処遇の改善が遠のくことになりかねない。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)
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