http://www.asyura2.com/17/hasan121/msg/285.html
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日本型「正社員」改革こそが本丸だ
働き方の未来
専門化うながす「業務の標準化」
2017年4月21日(金)
磯山 友幸
新入社員が直面する社会の壁とは(写真:TADAO KIMURA/アフロ)
「新卒一括採用」のデメリット
この4月に大学を出て企業で働き始めた若者の中で、思い描いていた会社人生と現実とのギャップに動揺している人が少なからずいるに違いない。とくに大企業の場合、入社式を終えるまで配属先が分からず、具体的にどんな仕事をするのか、まったく知らされていないケースがほとんどだ。
「営業を希望していたのに経理に配属された」「東京で働けると思っていたら、いきなり地方支店に行けと言われた」「まったく別の職種の子会社に回された」
そんな不満の声が聞こえる。
仕事の中味を明示せずに採用することができるのは、「新卒一括採用」の「正社員」だからだ。企業に採用された以上、あとは企業の裁量次第。どんな仕事に就かせようと、どこで働かせようと、本人の希望は二の次にされる。要は特定の職種に就く「就職」ではなく、その企業に入る「就社」であったことを、入社から数週間の間に思い知らされる。
欧米企業での就職はこれとまったく異なる。特定の職務やポストを明示して、「適材」を募る。日本でも外資系企業などはこうしたスタイルの採用を行っており、ホームページなどをみれば、現在いくつのポストを募集しているかが示されていたりする。
こうした欧米企業型の採用形態は「ジョブ型」、日本企業のような一括採用は「メンバーシップ型」などと呼ばれる。世界全体をみると、日本のような採用形態はまれ。日本企業の「正社員」採用は、きわめて日本型ということができる。
政府の「働き方改革実現会議」が3月28日にまとめた「働き方改革実行計画」は、まっ先に「同一労働同一賃金」を掲げ、有期の契約社員やパートタイマーなどの非正規社員と、正社員の待遇格差の解消を目指すとしている。さらに、長時間労働の是正も重視し、罰則付き時間外労働の上限規制の導入なども盛り込んだ。改革が掛け声倒れにならないよう、今後の法改正など「工程表」も作っている。
日本企業が求める「白地のキャンバス」
長年の懸案だった労働問題の課題に、本腰を入れて取り組む姿勢を示したのは評価に値する。だが、今回の実行計画だけで十分なのかといえば、そうではない。日本型の「正社員」雇用に、ほとんどメスが入っていないからだ。
「正社員」という言葉が示しているように、新卒者を一括で採用し、後は企業の裁量で仕事をあてがう方法こそが、「正しい」採用形態だという観念が根付いている。正社員としていったんその会社に入れば、めったなことではクビにならない。仮に初めに配属された部署がなくなっても、他の部署に移動するだけ。定年まで雇用が守られるという暗黙の了解が存在する。
また、配属部署についての専門知識がまったくなくても、企業はオン・ザ・ジョブで一から仕事を教えてくれる。入社前に中途半端な専門知識を持っているより、どんなカラーにでも染められる「白地のキャンバス」の方が企業にとってはありがたい、というのが長年の日本企業のスタンスだった。つまり、日本型雇用の特色とされる「終身雇用」「年功序列」と「正社員」はセットで成り立っていたと言える。
だが、今の若者世代は「終身雇用」を信じていない。バブル崩壊以降、会社が潰れたり、リストラされたりして苦労した親をみて育ってきた世代だ。会社に入る時こそ、「この会社で定年まで働きたいと思います」と発言するが、それは入社を許されるための方便だ。大半の若者は、いずれ転職したり、自分で起業したりすることを考えている。そんな若者が増えているだけに、突然、想定もしていなかった職場への配属に、面食らうわけだ。
安定的な雇用をある意味保証している「正社員」制度は、労働者にとってよい制度だというのが、政府や労働組合の発想である。非正規雇用を問題視し、正社員化を促すというのも、それに裏打ちされている。だが、本当に「正社員」は働き手にとって素晴らしい制度なのだろうか。
よく考えてみれば、辞令一枚でどこへでも社員を異動させることができる仕組みは、会社にとっては好都合だ。人材採用が難しい地域で支店の職員を雇うよりも、大都市圏で採用した正社員を転勤させる方が簡単だ。一方で、辞令一枚で日本国内はおろか、世界中に転勤させられる社員の生活には、大きなしわ寄せがくる。とくに最近は夫婦共働き世帯が増え、転勤となると単身赴任せざるを得ない例も多い。生活を犠牲にせざるを得ないわけだ。
「ジョブ型採用」への転換が不可欠
非正規社員がこれまで大きく増えてきた背景には、そうした正社員型の雇用ではなく、より自由に働きたいという女性や高齢者のニーズがあった。正社員になりたいが、なれないので非正規雇用に甘んじているという人もいないわけではないが、少数である。つまり、日本型の「正社員」システムに違和感を持つ人たちが増えてきているわけだ。
「実行計画」には随所に「生産性向上」という言葉が出て来る。だが、働き方改革によって、どうやって生産性を向上させるのか、具体的な記述は乏しい。実際は、生産性を向上させる働き方に変えようとした場合、これまでの日本型正社員システムの見直しが不可欠になるのは明らかだ。「白紙」の新卒者を雇って一から育てるよりも、一定の知識・技能を持った「即戦力」を雇う方が生産性が上がるはずだ。
だが、大きな問題がある。新卒者を一から育てる仕組みを取り続けてきた大企業ほど、仕事のやり方が「その会社流」なのだ。たとえば、全世界共通のように思われる経理処理なども、会社によってやり方が違う。隣の会社の経理のプロをスカウトしても、仕事ができないのだ。つまり仕事の「標準化」ができていないのである。
そうした仕事の標準化が進めば、日本企業の生産性は大きく向上するに違いない。事務処理のアウトソーシングなどが容易になるし、人材教育にかける時間が少なくて済む。
そのためには、社員を丸ごと抱え込む「正社員」型の採用をやめ、欧米のように仕事のポストで採用する「ジョブ型」に変えていくことが不可欠だ。ジョブ型採用が主流になれば、若者たちも自分の専門性を磨くことに力を注ぐようになるだろう。一方で、専門能力に見合った給料を支払わない会社にはさっさと見切りを付け、隣の会社に転職していくのが当たり前になる。企業からしても、優秀な人材を集めようと思えば、きちんと給料を払い、職場環境などを改善していくことが不可欠になる。
その副作用として考えなければならないのは、若年層の失業率が相対的に上昇する可能性があることだ。まったく「白紙」の新卒者を採用するより即戦力が求められるならば、大学を出ても就職できない人が増えるかもしれない。もっとも日本の場合、少子化の影響で、今後もしばらく新卒者は減り続けるので、その副作用は吸収できる可能性もある。
「実行計画」の中心は、同一労働同一賃金や長時間労働の是正といった「待遇改善」だ。テレワークや副業の推進なども盛り込まれているが、あくまで従来の「正社員」型の雇用形態が前提になっている。企業収益が大きく改善する中で、給与の引き上げで労働分配率を上げるなど待遇改善を進めることは重要だ。だが、「働き方」と「生産性向上」を考える場合、日本人の働き方を規定してきた「正社員」の見直しは不可欠だろう。
このコラムについて
働き方の未来
人口減少社会の中で、新しい働き方の模索が続いている。政官民の識者やジャーナリストが、2035年を見据えた「働き方改革」を提言する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/042000040/
AIが49%の仕事を奪った時、人は何をするか
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
2017年4月21日(金)
田原 総一朗
空前のAI(人工知能)ブームが到来している。政府が6月にまとめる成長戦略の中にも、2020年の東京五輪・パラリンピックまでにAI同時通訳などを実用化する方針が盛り込まれる予定だ。
空前のAIブームである。トヨタ自動車も今年1月、AI搭載車のコンセプトを披露した
今回のAIブームは、3度目だととされている。第1次ブームは1960年代。50年代にコンピュータが生まれ、「あと10年も経てば、コンピューターは人間の能力を抜くだろう」と言われていたが、結局、花開かないまま終わってしまった。
第2次ブームは、1980年代。国や企業が巨額の予算を投じ、「第5世代コンピュータ」を開発した。今度こそ人間の能力を抜くだろうと期待されたが、実を結ばなかった。
今回の第3次ブームの訪れは、爆発的に普及したインターネットとともに、大量のデータを使った「機械学習」が広がり始めたことがきっかけだった。
さらには、大量のデータをもとにコンピュータが自ら特徴を把握する「ディープラーニング」が開発された。これがいよいよ新しい時代を切り開くのではないかと言われている。
AIにおいて、日本企業は米国企業より大幅に遅れている
昨年6月、政府は「名目GDPを2020年までに600兆円まで増やす」という目標を掲げ、成長戦略の基本的な方針を発表した。現在のGDPはおよそ500兆円だから、あと3年で100兆円伸ばすということだ。
具体的に、どうやって100兆円も増やしていくのか。成長戦略の中核となるのは、「第4次産業革命」だ。その柱の一つが、インターネット・オブ・シングス(IoT)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどの分野である。これらを集中的に伸ばすことで、約30兆〜40兆円の付加価値をつくりだすという。
これらの技術が本格的に実用化するのは、2040年代になるだろうと言われている。現在のAIは「特化型人工知能」だ。例えば、昨年、AI囲碁ソフト「アルファ碁」が囲碁棋士である韓国のイ・セドル九段と5連戦し、4勝1敗で勝ち越したことが大いに話題になった。しかし、アルファ碁は囲碁はできるが、将棋やチェスはできない「特化型」のソフトだ。
一方、人間は囲碁のみならず将棋もチェスもできるし、テニスも水泳もできる「汎用型」だ。2040年代に入ると、AIが人間と同じように汎用型になるだろうと言われている。
ところが、ここで重大な問題がある。今、AIと言えば、世界的な主役になっているのはGoogleやApple、IBM、マイクロソフトなどの米国企業だ。日本の代表的な企業が一つもない。
4月16日付の日本経済新聞朝刊の社説「科学技術立国の堅持へ大学改革を」に、非常に重要な指摘があった。
「日本の科学研究はこの10年で失速し、この分野のエリートの地位が揺らいでいる」。英科学誌「ネイチャー」は3月、日本の科学研究の弱体化を厳しい表現で指摘した。
同誌によれば、この10年間に世界で発表された論文数は80%増えたが、日本は14%増にとどまる。日本の世界シェアは2005年の7.4%から、15年には4.7%に低下した。
日本の科学研究が、年々落ち込んでいるというのだ。来たるAI時代に向けて、日本企業はやっていけるのだろうか。
日本企業が米国企業に勝てない理由
日本企業は、なぜAIで遅れをとっているのか。
それは、日本の経営者の多くが60代であり、発想が古いからだ。AIでイノベーションを実現できるのは、やはり20代中頃から後半くらいの柔軟な発想が必要なのだ。米国では、そういった若い技術者が発言権を持っているから、どんどんアイデアや意見を出し合い、AIの開発に成功している。
日本では、若い技術者たちの発言権が全くない。発言権があるのは、50〜60代ばかりだ。その結果、起こってしまったのが東芝の問題だ。なぜ、東芝が倒産寸前にまで追い込まれたかと言えば、経営陣の発想が古すぎたからだろう。
彼らは新しい時代の変化に全く対応できなかった。これは東芝だけの問題ではなく、日本企業全体に言える話だ。ネイチャーは、こういった危機感を示している。
僕は1984年に「マイコン・ウォーズ」(文春文庫)という本を書いた。マイクロソフトの副社長・西和彦さんに取材するために米国を訪れた時、西さんはこんなエピソードを話してくれた。
1978年のこと、西さんは大学の図書館で目にした記事でビル・ゲイツ氏を知り、ぜひとも会ってみたいと思ってコンタクトを取ったそうだ。ビル・ゲイツ氏は23歳という若さで、すでにその分野で頭角を現していたのだ。
僕は先日、Googleで上級科学研究員を務めるグレッグ・コラド氏に会った。40代前半だと思うが、非常に若いという印象を持った。彼は「Googleは“AIファースト”だ。これから自動翻訳や画像認識などのAI中心に開発を進める」と言った。
こういった中で、日本の技術は米国に追いつくことができるのだろうか。
僕はまだ希望を持っている。
別の日に、東京大学の松尾豊准教授と会って話を聞いた。彼は日本のAI研究のリーダーの一人だ。僕は彼に、「なぜ、日本はAI技術の開発がこんなに遅れているのか」と聞いたら、「日本企業で権限を持っているのは50〜60代で、若い世代に発言権がないからだ」と答えた。僕のそれまでの認識と同じだった。つまり、組織構造の問題だということだ。
AIの発達で仕事の49%が失われる
AIが普及すると、たくさんの仕事が取って代わられてしまうという懸念もある。悲観論ではあるが、2040年代には、世界人類の90%が仕事を失うという話もある。
そういった事態に備え、ヨーロッパでは、所得保障制度の一つであるベーシックインカムが必要だという意見がかなり出ているという。
具体的に、どんなことか。AIが発達すれば、従業員の仕事は全てAIがやり、企業には経営者しか要らなくなってしまう。すると、人件費を削減できるから、企業は相当な利益を稼ぐことができる。国はそこから税金を取り、全国民に一定額のベーシックインカムを支給するというのだ。オランダなどでは、かなり真剣に検討されているという。
さらには、こんな話もある。2年ほど前、イギリスのオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授と、カール・ベネディクト・フレイ博士が、野村総合研究所との共同研究で驚くべき試算を発表した。
このままAIの開発が進むと、日本で働いている人の約49%の仕事は、10〜20年後にはAIに代替されるというのだ。
確かに多くの仕事が奪われるかもしれないが、同時に新しい仕事も生まれるだろう。例えば1800年前後にイギリスで起こった第一次産業革命では、蒸気機関が発明されて、蒸気船や蒸気機関車、産業用機械などが仕事をするようになった。その一方で、「機械に自分たちの仕事が奪われる」と危惧した職人たちが、工業地帯で機械を破壊する「打ち壊し運動」が起こった。
しかし、その運動は長くは続かなかった。産業革命によって、今までになかった他のやるべき仕事が増えてきたからだ。
このように、AIの普及については悲観論と楽観論がある。先ほどの松尾准教授は、楽観論を唱えている。「どんどん新しい仕事が生まれるだろうから、雇用喪失の心配はそれほどないのではないか」と言う。
AIを扱える人間と扱えない人間の格差が非常に大きくなるのではないかという指摘もある。今、実に様々な意見が飛び交っているのだ。
新しい仕事がどんな仕事なのかは、まだ明確にはなっていない。AIに代替されない仕事にはいくつかの特徴があると言われている。一つは「創造的な仕事」だ。創造する力、想像する力を要する仕事である。
二つ目は、コミュニケーション能力が必要な仕事だ。AIには、相手を理解したり説得したりする仕事はできないとされているからだ。
三つ目は、頻繁に発生しない「非定型の仕事」。データが蓄積できないから、AIでは代替できないのだ。例えば、企業買収などの仕事がこれに含まれる。
若者は権力者を倒すことに興味がない
日本政府も、AI時代の対策として、ベーシックインカムについてはすでに考えているはずだ。AIがどんどん普及していけば、ほとんどの仕事はAIがやり、人間は仕事をしなくてもベーシックインカムで生活できる世の中になる、というシナリオも、可能性の一つとしてはあるだろう。
そうなると、人間は何をすればよいのか。芸術や創作などといった創造力を要する仕事や、地域や社会のために働くNGOやNPOのような活動が盛んになるのではないかと思う。
後者については、もうすでに兆候がある。例えば、僕は数年前に、NPO法人フローレンスで代表を務める駒崎弘樹氏に面白い話を聞いた。
「自分たちの遠い先輩たちは、社会を変えるためには権力者を倒さなければならないと言った。しかし、僕たちはそんなことには興味がない。総理大臣など、隣に住んでいるおじさんのようなものだ。むしろ、僕らはNPOをやることで社会を変える」
今、ベンチャービジネスをやっている経営者、特に若い世代は、金儲けを目的としていない。社会を変えることを目指している。すでにそういう価値観が根付きつつあるのだ。日本の若者の価値観は確実に変化している。僕がまだ日本が米国に追いつけると希望を持っている理由はここにある。
人間の仕事がAIに取って代わられてしまったら、人は何に生き甲斐を求めればいいのか。自由になった時間をどのように過ごせばよいのか。そういったところも問題になるかもしれない。
本格的にAIが普及する時代には、僕は生きていないだろうが、一体どんな社会になるだろうか。非常に興味深く、様々な分野の専門家の話を聞きながら想像を巡らせている。
このコラムについて
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
ジャーナリストの田原総一朗が、首相、政府高官、官僚、財界トップから取材した政財界の情報、裏話をお届けする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/042000018
「登録IT技術者の平均年収は約780万円」
企業研究
フリーランスのIT技術者を企業に紹介する「ギークス」
2017年4月21日(金)
河野 祥平、山崎 良兵
個人で働くIT技術者と企業の間を取り持ち、手厚いサポートサービスを提供する。国の働き方改革も追い風に、多様な働き方を社会に浸透させることを目指す。
(写真=陶山 勉)
技術者のスキルアップや人脈作りにつながるイベントも積極的に開催(写真=陶山 勉)
最大で約79万人の人材が2030年に不足する──。このような経済産業省の試算が物語るのが、IT(情報技術)業界の現場で深刻化する人手不足の問題だ。国は長期的な視点から小学校でのプログラミング教育などの人材育成に力を入れるが、現状でもIT技術者は足りなくなっている。
そこで注目されているのが「フリーランス」の人材だ。高いスキルを持ち、特定の企業に所属せず、個人事業主としてプロジェクトごとに取引先と契約を結ぶ。業務委託であり、企業と雇用契約を結ぶ派遣社員とは異なる。優秀な技術者にとっては働き方の自由度が高く、実力次第で正社員以上に大きな報酬を得られる。企業にとっても優れた技術者を雇用の義務を負うことなく、効率的に活用できるメリットは大きい。
とはいえ、フリーランスで働く側は得られる収入や実際の業務内容に関して不安がある。企業側には人材のスキルや得意・不得意な業務などを正確に知りたいという悩みがある。こうした不安を解消し、最適なマッチングの実現を支援して成長しているのがギークスだ。登録技術者は2017年3月末までに1万2000人に達する見込みという。
フリーランスの活躍の幅が広がっている
●人材事業の累積登録者数の推移
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/042000120/graph.png
技術者1人を3人でサポート
「これまでにどのような技術を習得されてきましたか?」「どのような業界や分野に関心をお持ちですか?」。東京都渋谷区にあるギークスの本社では、同社の担当者がフリーランスの技術者と日々きめ細かな面談を行っている。
ギークスのサービスの特徴は、1人の技術者に対して3人の担当者が付く手厚い支援体制だ。
技術者が登録すると、ギークスのコンサルティング担当者が個人の技術レベルや希望条件などをヒアリング。「技術者の能力と希望する条件にズレがある場合、厳しく指摘することもある。フリーランス技術者の市場価値を正確に把握することがマッチングに重要だからだ」(小幡千尋・執行役員)。
その上で営業担当者と連携し、適性に応じた案件を紹介する。ここでは発注する企業が求めるスキルや役割、作業環境などを細かく説明し、互いの条件が合致すれば契約となる。取引実績がある企業の数は約3000社に上り、受注までの期間は49%が1週間以内。ギークスはこの発注者側から手数料を受け取るビジネスモデルだ。
受注が決まり、実際に働き始めた後も、サポート担当者が電話や面談を通じて契約中の悩みや今後のキャリアパスなどの相談に乗る。小幡執行役員は「コンサルティング、営業代行、アフターケアという3つの役割を担うことで、技術者の不安を解消し、仕事に集中できるようにしている」と説明する。
また、フリーランスの悩みで多いのが、契約書類の作成など様々な事務作業を自分でやらなければならないということ。ギークスでは専用のシステムを構築し、こうした事務作業を効率的に処理できるようサポートしたり、代行したりするサービスも提供する。さらに、スキルアップ研修会や、技術者同士の交流会などを定期的に開催。登録者の技術力の向上や人脈作りの手助けもしている。会社員向けの福利厚生に代わるものとして、カルチャースクール、レジャーなどの割引・優待サービスもそろえている。
平均年収は780万円
一方、企業の側にとっても、技術者のスキルや希望をギークスが詳細に把握していること、モチベーションを高めるサポート体制を敷いていることが大きなメリットとなる。需給のミスマッチを防ぐことで、プロジェクトごとに最適な技術者に安心して仕事を任せられる上、開発体制やコストのコントロールも柔軟にできるためだ。
「フリーランスに絞って事業展開してきたのが我々の強み。産業構造の変化が追い風になっている」。ギークスの曽根原稔人社長はこう語る。東証ジャスダックに上場するインターネット企業のクルーズを創業した人物だ。IT人材事業は同社の一事業として2002年に開始。2007年にギークスの前身企業を設立し、2009年に独立させた。
「雇用についての根本的な議論を深める必要がある」と指摘する曽根原社長(写真=陶山 勉)
当初はメーカーや金融機関のシステム開発などへの技術者紹介が主力だった。しかし2008年秋のリーマンショックを境に、こうした大手企業からの受注が急減。顧客開拓をネット企業に切り替えるなど転換を図った。その後、ネット業界がフリーランスを積極活用する環境が整い、現在の規模にまで事業を拡大させてきた。
手厚い支援がフリーランスの技術者に支持され、多数の優秀な人材が集まっている。ギークスに登録する技術者の平均年収は約780万円。業界平均(2015年の厚生労働省の調査でプログラマーが408万円、システムエンジニアは592万円)を大きく上回る。フリーランスの技術者がベンチャー企業のCTO(最高技術責任者)として招かれるケースも出てきているという。
2016年秋には経済産業省がフリーランスをはじめとする多様な働き方についての研究会を発足させるなど、国も積極的な活用を推進する構え。ギークスの成功を受け、競合のサービスも続々登場して競争は激化している。
曽根原社長は「フリーランスの支援が産業にとりプラスになるのは確か。ただ、雇用の流動性をどう考えるかとか、雇用に関する法律を時代に合わせてどう変えていくべきかとか、より根本的な議論も深める必要がある」と指摘する。今後も業界の変化を先取りし、先頭を走り続ける考えだ。
このコラムについて
企業研究
『日経ビジネス』に掲載された、企業にフォーカスした記事の中から読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/042000120/
ルネサスの自動運転を実現する2つの「箱」
記者の眼
2017年4月21日(金)
庄司 容子
4月から日経ビジネス編集部に加わって早々、着任初日。担当することになったルネサスエレクトロニクスから早速、自動運転車のデモを行うとのお知らせをもらう。ここ1、2年、よく耳にするようになった「自動運転」だが、これまで全く別の業界を担当しており、実物を見たことも乗ったこともなかった。二つ返事で会場の都内のホテルの駐車場に向かった。
東京タワーとほぼ満開の桜をバックにした駐車場には、「RENESAS」のロゴが入った青いリンカーンが止まっている。自動運転のアルゴリズムを開発するカナダのウオータールー大学(オンタリオ州)の協力を得て、ルネサスが試作した自動運転車だ。公道での実験はできないため、国内初公開となったこの日、駐車場内を2〜3周することになっていた。
1台50個の半導体が自動運転で2倍に
ルネサスは「マイコン」と呼ばれる半導体の車載向けのシェア35%を握る世界最大手だ。東日本大震災で工場が被災し、「マイコンがない」と自動車業界が大混乱したのは記憶に新しい。自動車に搭載されているマイコンは、運転手がハンドルを切ったりブレーキを踏んだりしたときに、それに従って車の操作を制御する役割を担う。普通の車には1台あたり50個ほど搭載されている。
自動運転システムが搭載されれば、電子化はさらに進む。搭載される半導体はさらに増え、現在の2倍になる。
そんな「自動車の電子化」や、その加速についての話は、業界を担当する以前から見聞きしていた。しかし記者は、自動運転を経験したこともなければ、一体どんな半導体が増えるのか、なぜ増えるのかについて明確な答えも持ち合わせていなかった。
この日、その答えの一端をこの眼で見ることができた。それが、これだ。
ルネサスのデモ車のトランクにのせられた2つの箱。冷却のためのファンが取り付けられ、ケーブルで繋げられている。
それぞれの箱に積まれているのは上記のマイコンと、自動運転には欠かせない「判断」を司る「SoC」と呼ばれる種類の半導体だ。
今回ルネサスが試作した自動運転車は、車の前面や車体の上部のレーダー、バックミラー部分のカメラなど計6個のセンサーを搭載している。これらのセンサーから信号や標識、ほかの車との距離など周辺の情報を収集。それらの情報を受け取り、「止まるべき」「曲がるべき」などと判断するのが、ひと箱に2つ、計4つ積まれたSoCなのだという。
人間が運転する自動車では、人間が視覚や聴覚で周囲の環境を把握し、それらの情報に基づいて判断してハンドルを切ったりブレーキを踏んだりする。そのハンドルの切り具合やブレーキの踏み具合によって自動車の動きを正しく「制御」する半導体が従来のマイコンだ。それに対して今回お披露目されたSoCは、人間が担っていた「判断」をそっくり代行し、人間の操作を経由せずに「制御」の半導体に指示を伝えてしまう。
極論すれば、このSoCが入った箱が追加されたことで、この実験車は自動運転車に生まれ変わったのだ。
一通り仕組みを頭に入れたところで、デモが始まる。
「カメラで赤いレーンを検知してコースを走行します」。運転席と助手席はルネサス側の担当者が座り、記者は後部座席へ。リンカーンのどっしりとした座席に座り、ドアを閉めると車がそろりと動き出す。
駐車場内のため、スピードは時速10キロメートル程度だが、いきなりカーブへ。自動運転のデモゆえ、もちろん運転席に座った担当者は指一本ハンドルに触れていないが、こまめに動いて曲がり少し感動する。
車は車線を模した2本の赤いレーンの間を外さず、そろそろと走行。前に走っているバンとの距離も一定に保ち、乗って30秒ほどで「きっとぶつからないだろう」という安心感を持てた。「STOP」の標識もきちんと認識し一時停止。最後に信号と通信して赤であることを認識して止まり、1周目が終了した。
SoCとマイコンの関係を思い起こしてほしい。実験車に搭載されたカメラは、レーンの際を描く赤いラインを認識する。その情報に基づいて、「カーブだから曲がるべき」という「判断」をSoCが下し、「制御」系のマイコンに伝達する。これにより、自動車はカーブを曲がる。
「箱」を見てからデモ走行を経験すると、なるほど自動運転の肝を握るのが「センサー」と「半導体」だということが実感できる。
「車がサイバー攻撃を受けたと仮定します」。
おもむろに助手席の担当者が社内のモニターを操作した。
マイコンやSoCはカメラやレーダーから届いた情報を処理して、何をすべきか判断し一瞬のうちに車を操作している。そのシステムが何者かにハッキングされ、半導体に送られる情報が恣意的に操作されたら――。想像するだけでも恐ろしいこの事態を、ルネサスの半導体は「ゲートを設けて想定外の情報が来たら遮断する」(大村隆司常務)仕組みだという。マイコンに搭載されたフラッシュメモリーに書き込まれたプログラムを書き換えられないようにするなど、既存の車載ビジネスで培ったセキュリティー技術を使っている。
なるほど「判断」と「制御」が直結して自動車を動かす以上、「判断」の権限が奪われれば自動車は制御不能になる。
サイバー攻撃を受けたと仮定した自動運転車は、路肩に見立てた空間に寄せて止まった。次の周回では搭載している半導体が故障したと想定。SoCのうち一つが故障すると、システムが異常を認識する仕組みが働き、やはり車は路肩に止まった。利便性の副作用として生まれてくるリスクに対して、自動車業界は総力を挙げてその対策に取り組むことになるだろう。
日本では東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に高速道路での自動運転の普及が見込まれる。海外では2021〜2022年ごろにはタクシーなどで完全自動運転が実現するともいわれる。この巨大な市場で勝ち残るため、ルネサスは昨年秋、SoCを搭載した開発キットを2種類、それぞれ499ドル、799ドルで発売した。すでに大学や企業など100団体ほどに販売したという。
ルネサスの車載半導体の現在の取引先は、デンソーや独ボッシュなど「Tier1(1次部品メーカー)」だ。勝手知ったるTier1の顧客だけで自動運転車を作れるならば、これまで通り半導体だけを提供すればよい。しかし自動運転は完成車メーカーやソフトウエア開発企業など、「様々な人の叡智を集める必要がある」(大村常務)。米エヌビディアやインテルが買収を発表したモービルアイなど強力なライバルに勝つためにも、大学生らにも手の届きやすい価格にして、広く多くの開発者にルネサスの半導体を前提としたソフトウエア開発を手がけてもらうのが狙いだ。
夢の自動運転。その背後で、静かな主導権争いが繰り広げられている。2つの箱が搭載されたリンカーンに乗りながら、その未来像を実感できた。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/041900446/
究極のリスク管理は、手元のお金の管理
経営計画書は魔法の書
大災害に耐えられる現金があるか
2017年4月21日(金)
古田土 満
口コミで年間150社以上の新規顧客が集まる、人気抜群の会計事務所が東京・江戸川区にある。その代表社員、古田土満氏が勧めるのが、経営計画書の作成だ。特に財務面では、損益計算書ではなく、貸借対照表中心の経営計画の立案を強く勧めている。連載最終回は、なぜ著者が貸借対照表中心の経営を勧めるか、それが会社と社員を守ることにどうつながるかを説く。
中小企業においても、多くの経営者は損益計算書中心の経営をしています。経営者の能力は増収増益を何期連続しているかによって評価されることが多くなっているように思います。
こだと・みつる 法政大学卒業後、公認会計士試験に合格。監査法人にて会計監査を経験し1983年に古田土公認会計士・税理士事務所を設立。企業の財務分析、市場分析、資金繰りに至るまで徹底した分析ツールを武器に様々な企業の体質改善を実現。中でも年商50億円、従業員100名以下の中小企業オーナーに絶大なる信頼を得ている。著書に、『社員100人までの会社の「社長の仕事」』(かんき出版)など
会社は赤字だから倒産するのではない
確かに、増益(税引前利益の増加)はよいことですが、増収(売り上げの増加)のみで増益にならない場合はどうでしょうか。貸借対照表で見ると、自己資本額が増えないのに、売上債権(受取手形・売掛金)や棚卸資産が増えます。さらに売り上げアップのために設備投資まですれば総資産はさらに増加し、自己資本比率は下落します。
総資産が増えて自己資本が増えないということは、借入金が間違いなく増えているということです。借入金依存度は高まります。
次に増益の場合でも、利益以上に売上仕入資金(売掛債権と買掛債務の差)のマイナスが増えたり、棚卸資産が増えたりすると、儲かっているのに資金不足になり、黒字倒産となります。
多くの上場会社が、倒産する直前の決算書は黒字です。会社は赤字だから倒産するのではなく、手元にお金がないから倒産するわけです。
だからこそ、私は貸借対照表中心の経営をしようと訴え続けています。
1人当たり自己資本額の目標は1000万円
会社が増収・増益にこだわる理由の1つに、銀行の格付けがあります。
銀行の格付けは営業利益・経常利益を多くして流動資産を多くし、流動負債を少なくすればよくなるようになっています。銀行が一番重視している債務償還年数は、借入金を償却前利益で割って計算するからです。
しかし、借入金の返済は償却前利益ではできません。損益計算書の科目で貸借対照表の科目である借入金は返せないからです。借入金の返済は同じ貸借対照表の科目であるお金(預金)でしかできません。簿記の仕訳をしてみれば納得できると思います。
借入金を返済するためにも、預金を増やす経営、キャッシュフロー経営をしながら、自己資本額を高めることを念頭に、企業を発展させなければなりません。
貸借対照表中心の経営のポイントは、絶対的な額ではなく、比率や、従業員1人当たりの額で見ていくことです。私ども中小企業の経営で目標とする1人当たり自己資本額は、1000万円くらいだと考えています。
30人の会社なら自己資本額3億円、100人なら10億円です。古田土会計グループは自己資本16億円でスタッフ181人ですから、今のところ1人当たり884万円です。
中小企業では、自己資本比率40%を目安にしながら、金額としてはまず1億円を目指してはいかがでしょうか。その次のステップとして、1人当たり1000万円を目指すべきと思っています。
次に、いくら自己資本額が多くても、手元にお金が残っていなかったなら会社は簡単に倒産します。留保しておきたい資金の目安は、社員とその家族を守るために、できたら給料の1年分。少なくとも6カ月分は必要です。
理想的な貸借対照表は結果としてできるものでなく、経営者の強い意志で作り上げるものです。
(1)仮払金、貸付金、投機などに無駄な資金が流れていないか
(2)土地・建物等の固定資産は本当に必要なのか、賃借ではダメなのか
(3)売り上げ・仕入れ資金が大きくサイト負け(資金の回収サイクルより支払いサイクルが速い)状態なのをどう改善するか
(4)棚卸資産はどのくらい減らせるか
などの項目を長期的に改善しながら、足りない分を利益で埋めていくのです。
大災害時に、あなたの会社は生き残れるか
究極のリスク管理の意味でも、手元資金があることが大切になります。
最近、一般的にリスク管理というと、個人情報の漏洩など情報セキュリティーの管理のことが言われています。しかし、我々中小企業にとっての一番のリスク管理は財務体質、特に手元資金の有無であると確信しています。
もし、東日本大震災クラスの大地震があっても、我々の会社はつぶれないと自信を持って言える経営者がどのくらいいるでしょうか。
イメージしてください。
商品は全て売れない。震災で建物は全壊しました。取引先は営業不能に陥り、売掛金の回収ができません。手形の不渡りも起きてきます。こんな状態でも、社員を守ることができるだけの蓄積が会社にあるでしょうか?
当然ですが、払うべき買掛金、手形は支払わなければなりません。そうしないと、仕入れ先が倒産してしまいます。そこの社員と家族をも不幸にします。ただ、銀行の借入金の返済は、猶予してくれるでしょう。
貸借対照表の借方の科目で一番注意しなければならない科目は商品、製品等の在庫です。貸借対照表には資産として価値のあるものとして計上されていますが、売れなければ価値はゼロで、保管費用が余分にかかります。自分の会社の在庫を一度ゼロと評価してみて貸借対照表を見ると、借入金がとてつもなく大変な額に見えます。
商品は売れれば大きな粗利益を稼ぎますが、売れなければ会社の命取りになります。大きく儲けようとするより、体力に見合った在庫にしないと会社はつぶれます。
建物、付属設備などもひとたび大地震があれば、つぶれて何もなくなります。その他に撤去費用がかかるので、マイナスの財産になる可能性があります。
売掛金、受取手形もお客様が特定の地域に集中していると一緒に被害に遭い、価値はゼロになります。その他の科目に潜むリスクも検討してください。
会社は、存続することにより社員と家族を守ります。利益の蓄積はお金で残すべきものと、私は繰り返し言い続けています。
もし大地震や火災などで営業が不可能な状態になった場合に、会社と社員を守るのはお金です。このお金が蓄積されているかどうかが、生きるか死ぬかの分かれ道です。
お金を持つ目安は、前述したように社員の給料(賞与は含まない)を何カ月払い続ける体力が会社にあるかです。最低6カ月、できたら1年です。古田土会計は総額で月々6500万円の給料を払わせていただいているので、7億8000万円の預金が必要です。
中小企業はまずこのレベルのお金を蓄えた後で、ゴルフ会員権や、リゾート施設の会員権を買うべきです。不動産の購入も4割くらいは自己資金を用意し、6割を最も長期の借り入れにして月々の返済額を少なくして手元資金を蓄えるべきです。
経営者は、社員と家族を守ることを何よりも優先すべき目的と考え、常に最悪のリスクに備えていなければならないのです。
(構成:菅野 武、編集:日経トップリーダー)
著者、古田土満氏の新刊を発売しました
著者自身が経営に取り入れている、社長と社員が目標に向かって一丸となる経営計画書の作り方と、その実践方法についてまとめた新刊書『ダントツ人気の会計士が社長に伝えたい 小さな会社の財務 コレだけ!』を発売しました。財務のどこに手を打てばいいのかが分かる未来会計図、利益の出し方とお金の残し方が分かる月次決算書など、著者が長年の経験からつくり上げた小さな会社のための財務ツールについても丁寧に解説しています。詳しくはこちらから。
このコラムについて
経営計画書は魔法の書
口コミで年間150社以上の新規顧客が集まる、人気抜群の会計事務所が東京・江戸川区にある。その代表社員、古田土満氏が勧めるのが、経営計画書の作成だ。といっても売り上げや利益の目標を羅列するだけのものではない。会社と社員の明るい未来像を経営計画書の中に具体的に描き、社長が社員にその実現を約束することによって、社員が高いモチベーションを持って仕事に取り組む、いい社風の会社をつくることができるという。経営計画書を使った会社運営の要点を古田土氏が語る。2017年2月刊行の著書『ダントツ人気の会計士が社長に伝えたい 小さな会社の財務 コレだけ!』(日経BP社)を再構成。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16nv/030900009/041800005/
角を曲がり切れなかった猪は再起できるか
ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」
人は年を重ねても変わるべきか、無理は避けるべきか。
2017年4月21日(金)
山本 直人
対照的な同期コンビ
その2人は同期入社だったが、見た目も性格も対照的だった。ところが、なぜか馬があう。入社して20年が経ち、部署も違うけれど何となくお互いの動静は知っていたし、たまには食事にも行っていた。
Bさんは、大柄で学生時代からスポーツをやっていた。体育会ではないけれど、伝統あるサークルにいて見た目もいかつい。30代になる頃からかつての筋肉が脂肪になって、さすがに体重が気になるようだが今でも早飯の大食いだ。
Mさんは、小柄で見るからにおとなしそうだ。大学時代は「鉄道研究会」にいた。まだインターネットもない時代に、時刻表と首っ引きであちらこちらを旅していた。入社したころから老成した面持ちだったが、その雰囲気は40歳になってもあまり変わらず、むしろ若く見られてしまうほどだ。
この2人は、性格も対照的だった。
一見して豪放磊落なBさんだが、結構気が弱い。大事な商談や会議の前だと、前の晩から眠れなくなる。そして、何を話そうかと入念に準備する、もっとも一度相手と打ち解ければ懐に飛び込んでいくが、それでも宴席があれば早めに店に行き抜かりがないように準備する。見た目とは異なり、「ノミの心臓」なのだ。
一方でMさんは、図太い。いい意味で「鈍い」とも言えるだろう。遠方の得意先に行くのに、1時間も勘違いして遅れたことがあった。実際は、得意の鉄道の知識を活かして30分遅れになったことを得意げに説明したら、かえって先方に気に入られたこともあるくらいだ。
亥年生まれのBさんは、年男を迎えた年賀状には「猪突猛進」と書いてきたが、それを見るMさんは子年生まれだ。干支までも、どこか対照的な2人だった。
猪に訪れた意外な転機
2人が勤務しているのは、飲食品メーカーで、ともに営業に配属された。Mさんは本社部門の経験もあるが、Bさんは営業一筋だった。出世のペースはほぼ同じで、そこそこに早い方だろう。
ところが、Bさんには大きな転機が訪れた。営業を離れて工場の管理部門の課長へと異動になったのだ。
営業一筋のBさんとしては少々不本意だったが、Mさんは「期待されてるな」と思った。仕事の幅を少々広げておくことで、将来に向けての地固めを行わせようという会社の「親心」だと感じたのだ。営業といえども、生産部門の状況を知っておくことは今後のキャリアの上では欠かせない。また労務管理などの気を遣う仕事は案外とBさんに向いていると思った。
ほどなくして、Mさんも営業統括の部門の課長に異動した。お互いに、営業の一線から離れて「次の一手」を考える仕事である。
淡々と仕事をこなすMさんに比べて、Bさんはちょっと燻っているようだった。そんな噂は耳に届くし、本社の会議で会った時もあまり元気がない。心なしか痩せたようにも見える。
久しぶりに2人でランチに行くことになった。
「規則的な生活になったんで、健康にいいよ」
そう笑うBさんだが、どこか寂し気に見える。ちょっと聞くと、デスクワーク、ことにデータ管理がどうも性に合わないらしい。
何もパソコン作業がしんどいわけではない。そういう仕事は、若手がどんどん進めてくれて、とても助かっているという。ただ、自分が何をすればいいのかわからない。どうやら、そのデータをもとにして改善策などを考えるのがBさんに課せられた仕事のようだが、「よくわからねえんだよ」と言う。
Mさんはちょっと心配になった。Bさんは「わからない」わけではないのだ。何となく「やる気がしない」のだろう。「みんな優秀なんだよね」とBさんはどこか寂しそうだ。工場は東京の近郊にあり、周囲には飲食店も少ない。仕事が終わるとさっさと帰っていく。職場を離れた部下とのコミュニケーションもあまりないらしい。
「この歳になったら、自分の仕事は自分で作らなきゃ」
珍しく説教めいたことを言ったMさんの言葉に、「そうだよな」とBさんは頷いていた。「猪突猛進、だけじゃどうしようもないんだよなあ」
思わぬ暴発でひと騒動に
それから3カ月ほど経った時に、Mさんの元に意外な人物からの内線電話があった。人事部のXさんだ。一期上で人事や総務畑一筋の彼には、Mさんたちも入社以来世話になっている。
何事かと思い、指定された会議室へ行った。どうやらメールに書けない何かがあるのだろう。部屋に入ると、あらためて周りを確かめるようにして「実は」とXさんは切り出した。
どうやら、Bさんがトラブルを起こしたらしい。しかも社外だという。概要はこんな感じだ。
工場の最寄りの駅で、駅員と揉めたらしいのだ。夜の8時過ぎに帰ろうした時に、何かを注意された。何かが気に障ったのかBさんがつかみかかったようで、それが騒ぎになったという。
「飲んでたんですか?」とMさんは思わず聞いた。寂しさを紛らわすために、工場の近くで一人酒でもしたんだろうか。先日の雰囲気からそんな想像をしたのだ。ところが実際は違ったらしい。Bさんはしらふだった。そして、その若い駅員にも問題があったらしい。どうやら他の客とも似たようなことがあったようなのだ。
「あの鉄道会社は、取引があるだろ」とXさんは言う。たしかに系列の外食企業に、いろいろな食材を納品していて結構長い付き合いなのだ。
そんなこともあって、お互いに「迷惑かけました」と言う話になった。もし酔った上での暴力だったら、戒告以上の処分になっただろうが、今回はもっと軽い注意処分で済むという。
「しかし」とXさんは言う。もう今の工場では難しいから、異動させることにする。「で、」と一拍おいて、Mさんの方に向き直って、頭を下げた。
「お前のところで、お願いできないだろうか」
同期が部下になる。しかも、傍から見ても妙な異動だ。嬉しい話ではないが、「嫌です」などと言えるわけがなく異動は決まった。それにしても人事が頭を下げるなんて、ロクな話じゃない。Mさんは、後からそう言っていたという。
遠回りして、もう一度スタートへ
「すまない」
Mさんに会った時、Bさんは絞り出すようにひとこと言うと黙ってしまった。肩書は「部付課長」だが、今回の一件はキャリアとしては致命的だ。落ち込むのも無理はない。
形ばかりの言葉で励ましてもしょうがないので、食事を共にすることにした。面と向かい合うのも気まずくなりそうなので、会社から離れた店のカウンターに並ぶ。やはり気になるのは「その夜の件」だ。
その日、Bさんは一人で残っていた。データを見ながら、「次の一手」を提案するために悶々としていたのだ。一方で、要領よく仕事をこなして帰ってしまう若手に苛立ちもあったという。
そして、駅でホームの端を歩いていた時に駅員に声をかけられた。それが、なんとなく後輩の姿とダブったらしい。
「なんだか、生意気に見えちゃってね」
Mさんは、何も言えなかった。同情はするが、明日からのことを考えなくてはならない。「それでさ」と話題を変えて、Bさんの仕事について話を進めた。
その日から、およそ1年半が経ちMさんは次長になり、Bさんは営業の現場に戻った。地方の営業所だが、本人は晴れ晴れとしている。
送別会も慌ただしく、2人で飲む機会もないまま、異動の日にオフィスの隅で立ち話になった。
「結局、俺は変われなかったし、変わろうとしなかったんだよな」とBさんが言う。「でも、それでいいのかもしれない。猪突猛進でうまく曲がれなかったけど、それが自分の限界なんだろう。でもまだまだ俺にできる仕事もあるはずだし」
Mさんは、一瞬言葉に詰まった。「そうだよな」と励ませばいいのかもしれない。でも、今からでもいいから「変わってみる」ことも大切なんじゃないか。
そう思ったけれど、口には出せなかった。
人は歳を重ねても変わるべきなのか。出世をしたいならそれも必要だろうが、無理して変わろうとするよりは、変わらないままの方が幸せなのか。
答えは、Mさんにもまだわからないままだ。
■今回の棚卸し
どんな人にも仕事の得手不得手がある。不得意な分野を勉強してバランスをとる人もいれば、得意な領域に集中する人もいるだろう。しかし、時間が経つにつれて、気が付いたら「我流」に凝り固まる人もいる。
ビジネスの環境が変われば、ミドル世代には、「仕事の幅」が求められる。自らを変える機会を逸する前に行動を起こすようにしたい。そして、時に同期の仕事ぶりを冷静に見ることもまたヒントになるはずだ。
■ちょっとしたお薦め
男二人を描いたストーリーは多いが、その関係はそれぞれだ。お互いの生きざまを見ながら、自らを省みることもあるだろう。
夏目漱石の「それから」はよく知られた名作であるが、男二人の物語としても読むことができるだろう。一人の女性をめぐる二人の葛藤が、行間からにじみ出てくる。
主人公は若き「高等遊民」だが、歳を重ねてから読んでみると、漱石ならではの奥深さが感じられる。連休中に手に取ってみてはいかがだろうか。
このコラムについて
ここでひと息 ミドル世代の「キャリアのY字路」
50歳前後は「人生のY字路」である。このくらいの歳になれば、会社における自分の将来については、大方見当がついてくる。場合によっては、どこかで自分のキャリアに見切りをつけなければならない。でも、自分なりのプライドはそれなりにあったりする。ややこしい…。Y字路を迎えたミドルのキャリアとの付き合い方に、正解はない。読者の皆さんと、あれやこれやと考えたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/032500025/041900027/
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