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積立王子が一喝 「みんなの危機感は甘すぎるぞ!」 積立王子のヤング投資入門(1)
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2017/4/13 NIKKEI STYLE
長期コツコツ投資の意義を訴えて日本全国を飛び歩き、ルックスから「積立王子」の名も持つセゾン投信の中野社長。マネー研究所ではこれから月1回、第2木曜に中野さんにご寄稿いただき、まさに今から資産形成を考えていく若い世代に向け、熱いメッセージを送っていただきます。コーナー名の「ヤング」はもちろん想定読者層を表したものですが、同時に「ヤングなんて、死語だよなあ」とニヤッとするような昭和のヤング世代にも読んでほしいという願いも込められています。さて第1回、積立王子は「みんなの危機感は甘すぎるぞ!」といきなり刺激的に走り出します。
これから先の人生を長く生き抜かなければならないヤング世代の皆さん。皆さんにとって、今の日本はそこはかとなき「不安な社会」に映っているのではないでしょうか。それはひとつには、20〜30代のヤング世代と親世代(50〜60代)との間に、社会体験上の大きなギャップがあるからでしょう。
人は子供から大人になるまでの間、ひたすら親の背中を見て育ちます。ところが今の親世代の生き方に倣おうとしても、それが通用しないことをヤング世代は本能的に感じ取っているはずです。筆者も「王子」とは言われつつも実際は親世代にあたる50代で、我が国の高度成長時代の末期、すなわちバブル期に社会へデビューしました。
当時の日本は戦後の奇跡の経済成長を遂げ、世界から「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛を浴びる中で、世界の覇権を握ったかのごとき高揚感に国民全体が浸っていました。そうした有頂天がバブル経済を引き起こしたわけですが、当時の僕らヤング世代はこの国の将来に何ら不安を感じることはありませんでした。理由は明確で、人は現在を見て感じて、それを前提に未来を想定する生き物だからです。
■親世代の生き方はもう参考にならない
30年前の日本は高度成長期をとっくに終えたものの、まだそこそこの安定成長時代。企業に就職すれば終身雇用が前提であり、年齢とともに係長→課長→部長へと肩書も上がっていく年功序列が当たり前でしたから、自分の親が歩んできたエスカレーター人生を自らの将来にも容易に投影できたのです。
ところが1990年代のバブル崩壊を経て、21世紀に入ってからの日本経済は一気に成長段階から成熟段階に突入しました。国の名目GDP(国内総生産)は97年をピークにじわりじわりと減少を続けるデフレ病に冒されて久しく、今のヤング世代はそうした社会環境を受容しながら大人になったわけです。
この間、すなわち「成長しない経済」の中で進んだ変化は、終身雇用・年功序列に代表される日本的経営の崩壊であり、永久不滅と思われていた有名大企業が次々と消えて行く光景でしたが、それも今では日常茶飯事になりました。それでも親世代、とりわけ団塊の世代と呼ばれる人たちの多くは、20世紀の余韻で何とか無事定年を迎え退職金を手にすることもできましたが、こうした社会通念はいよいよ終焉(しゅうえん)間近です。
デフレが20年も続いてしまった社会に生きていれば、人は誰しも成長を前提にした未来を想定することができなくなります。ですからヤング世代が自分たちの将来に不安を覚えるのは、親世代の常識との乖離(かいり)が甚だしく、かつ急速に進行したため当然のことと言えるでしょう。
……と素直な論調で筆を進めたいところですが、やはりあえて申し上げたい。「ヤング世代の不安感は極めてぬるい」と。それは前述のごとく、人は現在を見て感じて未来を想定しがちなため、皆さんの不安感は「成長はしなくとも経済の横ばいは継続する」というイメージに基づいた、現状維持を前提にした程度の不安にすぎないということです。
なぜそんなことが言えるのか。なぜならこの国には、いまだ顕在化せずにあるもっと深刻な社会構造上の課題が山積していて、現在の一見安定しているような社会は決して継続的ではあり得ないと断言できるからです。
少子高齢化の進行、社会保障コストの増大、そして累積する政府債務問題などの事象を知らない人はいないでしょう。それでも今の日本社会全体に世代を問わず欠落しているのは、近未来に顕在化せざるを得ない、国家の根幹を揺るがすほどの問題に対する「危機意識」なのです。
■経済的不安の克服には「経済的自立」しかない
改めて申し上げます。今を前提に未来予想図を描いているなら、それは単なる希望的観測にすぎません。むしろあらゆる社会システムが今より劣化していくことを想定して、自らの将来における外部環境悪化に対する人生防衛手段としての行動規範を定め、今から行動すべきなのです。
50代以上の親世代までは、よって立つ社会が経済成長を前提としたいわば「上りのエスカレーター」だったため、そこに乗っている人は皆相応に豊かになれたわけですが、ヤング世代がよりどころとするこれからの日本社会は、ともすれば「なだらかな下りエスカレーター」だと覚悟すべきです。より豊かな人生を得るためには、自分自身の足を動かして階段を一段ずつコツコツ上っていくしかない、と認識すべきでありましょう。
親世代がヤングだった頃、20世紀の終盤には日本経済は奇跡の成長を遂げて、生活者みんなが相応に豊かになる「一億総中流社会」を実現しました。そうした環境の中では、人並みに生きることが是とされ、周囲から突出しないことが美徳とさえ考えられていました。しかし、経済成長を前提とできない現在のヤング世代は、さらなる豊かさを得るためには突出して行動することが必須であり、もし行動せず立ち止まったままでいたら、将来の結果は大きく違ってしまうことでしょう。よって立つ社会は下りエスカレーターなのですから。世間はこれを「格差社会」と呼びたがりますが、筆者はこのように行動した人としなかった人の結果が違ってくる今後の世の中をこそ、健全なる「適者生存社会」だと考えています。
今回はわざと厳しいことを書きました。社会全体がより豊かになる未来を思い描けないヤング世代には、漠然たる不安があって当然であり、それは何よりも「経済的不安」であるに違いありません。筆者にもよく分かります。しかしその不安を克服するためには、「経済的自立」を獲得するしかないのです。そして行動すべき手段はひとつ、自らのお金を、将来に向けて大きく育てていくことだと気付いてください。それが「資産育成」です。
これから月1回、誰でも実現可能な資産育成を、「長期・積立・国際分散」という3つの原則でかなえる投資の方法について一緒に学んでいきましょう。この3原則こそが、これからの日本社会を生き抜くヤング世代に必須な行動規範なのです。
中野晴啓
セゾン投信株式会社代表取締役社長。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ、運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。2006年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。NPO法人 元気な日本をつくる会理事。全国各地で年間150回講演やセミナーを行っている。『預金バカ』など著書多数。
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