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記者会見で質問に答える「てるみくらぶ」の山田千賀子社長(読売新聞/アフロ)
破産のてるみくらぶ、危険な「ドンブリ勘定」…「たくさん金がある」という勘違い
http://biz-journal.jp/2017/04/post_18591.html
2017.04.05 文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表 Business Journal
旅行会社のてるみくらぶが3月27日、東京地裁に自己破産を申請し破産手続きを開始した。いわゆる倒産だ。負債額は約151億円にのぼる。私の娘の友人など近しいところでも被害が出ており、まったく他人事ではない。
同社の山田千賀子社長は、「新聞広告を打ち出したことによる媒体コストの増加」が原因と語っている。原因を探るうえで手掛かりとなるのは、今のところ社長のこの発言くらいしかないが、想像を膨らませると、「前金ビジネス」の典型的な落とし穴が見えてくる。
それは「時間的ドンブリ勘定」と「使い道のドンブリ勘定」という2つのドンブリ勘定に陥るリスクだ。
■時間的ドンブリ勘定
物品を販売する小売業や製造業の場合、お金は先に出て行って後から入ってくるというのが普通の順番だ。ところが、サービス業のなかには、先に代金の一部または全部を顧客から先にいただくものもある。
旅行会社はその典型例のひとつだ。私自身、先日利用した旅行会社も、申し込み直後に代金の一部を手付金として支払い、残金も旅行前に支払った。
旅行会社は先に代金をもらってしまうと、時間的な勘違いを起こす。たとえば、先月販売した旅行の販売価格が100万円で、すでに代金は受け取っているとする。一方で、旅行会社が航空会社やホテルに支払う費用(旅行会社にとっては素材の仕入)は120万円で、その支払い期限は今月末だとする。
いうまでもなく、この旅行商品は赤字だ。格安を謳っている旅行会社の場合、他社との激しい価格競争もあって、このようなことは十分に起こり得る。このような場合、今月新たに150万円の旅行商品を販売し、その代金が今月入ってくれば、それを今月末の120万円の支払いに充てることができる。これで今月の資金繰りはなんとかしのげる。
しかし、150万円で販売した旅行商品の仕入(航空会社やホテルに支払う費用)が180万円だとすれば、今度は180万円以上の契約を取って、それを180万円の支払いに充てようとするだろう。採算度外視の安売りをしていると、この繰り返しになるのである。これを称して“自転車操業”というわけである。当然のことながら、このようなことはいつまでも続かない。いつかは支払い不能になる。
根本的な誤りは、これからの支払いに充当しなければならない顧客からの入金を、過去の別の旅行費用に充当してしまっている点だ。これは先にお金が入ってくる「前金ビジネス」において起こりやすい。
これが「時間的ドンブリ勘定」だ。このようなことをやっていると、売上と仕入の対応関係もいい加減になり、儲かっているのかどうかもわからなくなってくる。
■使い道のドンブリ勘定
支払いの前に先にお金が入ってくると、一時的に手元資金が潤沢な状態になるので、そこでもうひとつの勘違いを起こす。「使えるお金がたくさんある」という勘違いだ。
あとから売上代金が入ってくる“普通の順番”の場合は、この勘違いは起こしにくい。この場合は仕入に対する支払いはすでに終わっているので、手元にあるお金は実際に「使えるお金」だからだ。
しかし、お金が先に入ってくる場合は、これから航空会社やホテルに費用の代金を支払わなければならない。それを忘れて、すべてが「使えるお金」と勘違いしてしまうのだ。この勘違いを起こすと、広告宣伝費などに過剰なお金を使ってしまう。場合によっては、夜な夜な高級レストランやクラブで交際費という名の飲食代に消えていくなどということもある。
広告宣伝費や交際費などのいわゆる間接費は、旅行代金からそれに直接かかる航空運賃や宿泊費などの直接費を引いた残りから使うものだ。しかし、お金が先に入ってくると、一時的に潤沢になる手元資金を勘違いして、広告宣伝費などの間接費を必要以上に使ってしまうのだ。これが「使い道のドンブリ勘定」だ。
■まっとうな“会計感覚”があれば防げた
キャッシュだけで考えると、上記のような勘違いを起こしやすい。
この点、会計はうまくできている。会計とは「お金の動きを記録する手段」ではない。会計は「企業活動全般を記録する手段」だ。だから、お金の動きとともに、それに伴う債権・債務(権利と義務)も記録する。そこに会計のミソがあるのである。お金の動きを記録すればいいだけなら、お小遣い帳で十分だ。
会計上は、顧客から先に代金を受け取った時点では売上として計上しない。売上として計上するのは、旅行というサービスの提供義務を履行したときだ。「お金をもらう=売上高」と思っている人が少なくないが、そうではない。代金をもらった時点では会計上は前受金として計上する。この前受金は負債に計上される。先に代金をもらった以上、それに対するサービスを提供する義務を負うので、会計上は負債として認識するのだ。もらったお金は、まだ自社のものとして確定していないということも意味している。
このような“会計感覚”があれば、てるみくらぶもこんなことにならずに済んだのかもしれない。やはり、経営者はもっと会計を学ぶべきなのである。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)
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