http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/669.html
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不幸の連鎖、男性の3人に1人「生涯未婚」時代
「親が死んだら天涯孤独」と少子化問題のゆくえ
パラシュート無き落下の日本学 首都圏の今後
2017年4月4日(火)
山本 一郎
日本の少子化の原因は、未婚割合の増加が第一にある。国内で行われるすべての調査や少子化関連の研究が指し示す結論はひとつだ。結婚をした夫婦が子供を産むことがマジョリティである日本においては、子供を増やすにあたって求められることは国民が結婚をすること、同時になるだけ早く結婚し初産を若い年齢で行うこと、夫婦の間で子供を持つ人数をできるだけ増やすことがすべてである。
ひとりぼっちリスクは、死亡リスク
生涯未婚となってしまう独身男女の人生の一番の特徴は、ただただ早死にが避けられないことだ。未婚者と既婚者を比較した死亡率の差異で見ると、本来死亡率が低いはずの45歳から64歳の未婚男性は同じ年齢層の既婚男性より2.0倍から2.4倍程度高くなる[1]。同じく、伴侶に先立たれた男性も、生活リズムの変化や食事内容の劣化、家庭内での話し合える人の喪失など、女性に比べて高い「ひとりぼっちリスク」を抱えることになる[2]。とりわけ、有意に死亡率が高くなるのは糖尿病や心疾患、肝疾患といった、生活習慣に起因する割合の高い疾病が重症化することだ。それも、独身であるというだけで、25歳以降のすべての年齢層で死亡率が高くなる傾向は特筆してしかるべきだろう。男性ばかりを強調するようだが、女性も男性ほど死亡率が高いというわけではないというだけで、リスク自体は既婚女性よりも高くなっている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/022700044/032900003/g2.png
また、生活習慣病とは別に、同居する人がいない場合の肺炎による死亡リスクが高くなることは考慮に入れておいたほうが良い。肺炎による死亡リスクは45歳から64歳で独身男性が5.1倍、女性が5.9倍とみられる[1]。また、どの年代層も一人暮らしは肺炎の死亡リスクが常に高い。重症化する肺炎による死者の増加は、一重に看病してくれたり通院に付き添ってくれる人物の有無に関係するものと考えられる。突然死や、死後日数が経ってから発見される特殊死亡例も、本人が頭や胸の痛みに気付いて気を失うまでの間に救急車を呼ぶなどの行動がとれなかったからこそ起きることである。生活を安全かつ健康に送っていくうえで「共に暮らす」結婚の重要性は間違いなくあるといえよう。結婚かどうかに限らず、人生において長く同居してくれる人、何かあったときに助けてくれる人がいるかどうかで、全年齢での死亡リスクに大きな変化があることはもっと広く知られても良いことである。
どちらにせよ、人間は結婚も含め同居人のいる生活を送ることで生活のリズムを整えるだけでなく、発作など不慮のリスクや経済的、心理的不安を緩衝することができるのだろう。日々の語らいや談笑を通じて、将来に対する不安からくるストレスを解消する側面もあるだろう。
340万人が未婚のまま暮らす、2030年の東京
本連載の前項でも触れたが、高齢社会において未婚のリスクは死亡率に留まらない。もっとも大きいのは認知症や犯罪傾向であり、日々の話し相手が家庭内にいないことで高齢になってから社会から切り離された存在になっていく。若いころに自由で気ままな暮らしを求めて独身生活を謳歌する代わりに、高齢になってから孤独や生きることへの意義を喪失することに繋がる。現代社会は個人の選択を重視する以上、結婚や何らかの同居を強いることはできないものの、両親が死んだら天涯孤独になってしまう日本人が今後激増するとしたらどうだろうか。
現状では、日本人男性の3人に1人、29%ほどが2030年には独身のまま一生を終える生涯未婚になると予想されている。生涯未婚率は、50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合を指す。同様に、女性は2030年にはおよそ19%ほどになると予想される。2016年は婚姻においてどちらか一方が再婚である割合も26%を占めるまでになった。また、一部の統計ではLGBTを中心として現行の結婚制度には馴染まないが事実上の同居も無視できない割合になっている。これらの現代社会に生きる日本人の生活様式に応じた多様化した結婚・同居像も話題になってきている。結婚だけが人生ではないが、ここまで身寄りのない独身男女が増えてそのまま高齢者になっていくとなると、やはり何らかの社会的な受け皿が必要になっていくであろう。そして、後述するがこれらの独身高齢世帯は2030年には東京都だけで95万人になり、予備軍となる独身世帯は250万人となる。親元に暮らす独身男女を合わせるとおよそ340万人が未婚のまま大都会東京都で暮らすことになり、親世代の死亡とともに相続や"年金パラサイト"で暮らせなくなった独身者が貧困問題を抱えながら家賃の安い埼玉や千葉に転出していく構造が浮き彫りとなる。
結婚できない男女で一番の障害になるのは経済問題だ。所得が少なく仕事が不安定であるために結婚に踏み切れない20代男女は、調査によって数字は異なるが、結婚できない理由上位を「結婚資金がないから」と回答している。20代、30代の正規、非正規を問わず支払われる賃金自体は下げ止まっているが、上昇し続ける社会保障費負担もあって手取りは伸びず、賃金が今後上がる保証もないとなれば、結婚よりもまず自身の生活をきちんと安定させるという志向になるのは致し方のないところともいえる。
2000年代ごろまでの独身像というのは、自由な暮らしをしたいから独身を貫くというスタイルであったが、昨今の独身は後述する通り、追いやられ型が大多数を占める。すなわち、経済的に貧困で稼ぎが悪く貯蓄も少ないので仕方なく独身でいるか、望むような相手を探しても見つからないので異性との交際もしないまま年を重ねて引き返しがつかなくなるケースが多いのだ。
絶望的に高いシングルマザーの貧困率
一方で、未婚問題で避けて通れないのがシングルマザーの貧困率の絶望的な高さである。同居や出生が日本社会においては結婚という制度ありきになっているため、つい最近まで、離婚や婚外子によるシングルマザー問題に光が当たることはなく、貧困の再生産につながってきた側面がある[3][4]。母子世帯となってしまった理由の80.8%は離婚が原因であり、離婚後の母子世帯の年間平均年収は291万円とされる。ただし、これは平均値であり、養育に扶助をしてくれる近親者(子供にとっての母方の祖母など)がいるのといないのとでは雲泥の差がある。2015年の国民生活基礎調査では母子のみの世帯が79万世帯、父子のみの世帯が9万世帯となっており、片親だけで児童を養育している世帯は我が国の全世帯の2%に及ぶ。その2017年の母子世帯あたりの月間支出は279,249円と前年対比でマイナスになっている。ただしこれもあくまで平均値であって、非正規就労を強いられる母子世帯の収入・所得は非正規雇用の場合は125万円に落ち込む[3]。このわずかな収入で育児をするわけであり、貧困に陥らないはずがない。
独身もさることながら、離婚や死別によって子供ごと貧困に陥る事例が事欠かないのが日本の結婚周辺事情である。結局のところ、人生においてもっともリスクの少ない暮らし方をしようとすると、結婚し、子供をはぐくみ、人生の最後まで伴侶と手をつないで生きていくことに他ならない。他国の事例を見ても喫煙や高カロリー食よりも独身のほうが人生を短くする要因と認知されており、独身の短命は我が国だけの現象ではない。少子高齢化を根本から考えるとき、我が国の出生率の低下や、結婚できない(しない)男女が増加していくプロセスは、熟考に値する。結婚制度を前提にする限り男女の同居を前提として、それを守り抜いていく暮らしを目指して夫婦で助け合って生きていくしか社会制度的にも生物としてもレールが無くなっているといえる。そして、人口減少の要因はこの結婚ができない男女の増加がそのままダイレクトに少子化に繋がっていることになる。
生涯未婚率の推移(将来推計を含む)
出所:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2015年版)」、「日本の世帯数の将来推計(全国推計2013年1月推計)」
(注)生涯未婚率とは、50歳時点で1度も結婚をしたことのない人の割合。2010年までは「人口統計資料集(2015年版)」、2015年以降は「日本の世帯数の将来推計」より、45〜49歳の未婚率と50〜54歳の未婚率の平均である。
独身にとどまっている理由
(出所:国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査 独身者調査」)
交際経験なしでも結婚できる男性の条件は「年収」
では、未婚男女において「結婚しない」人生を主体的に選択しているのだろうか。この手の調査で定番になっている国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」では、17歳から34歳の独身男女5,276人で「いずれ結婚するつもり」と回答したのは男性85.7%、女性89.3%である[7]。あくまで、これは被験者の希望・意志にすぎないが、それだけ結婚したいと思ってはいることの証左でもある。ある程度の年齢までに結婚しようと考える未婚者は過半数であって、基本的には多くの日本人は良い相手がいれば結婚したいという「希望は持っている」ということは分かる。逆に若いころから「一生結婚するつもりはない」と回答する割合はおおむね1割以下にとどまっており、日本社会における結婚制度の存在の大きさが見て取れる。
しかしながら、実際には30代未婚男性のおよそ3割が「女性との交際経験なし」である[8]。女性との交際経験がなくとも、お見合いや、地域の補助などで結婚に漕ぎ着ける男性も30代以降では毎年合計4%弱ほどいるが、交際経験がなくとも結婚できる男性のただ一つの条件は年収にある。逆に言えば、所得の低い非正規雇用に喘ぐ男性は、たとえ若かったとしても、民間サービスによっては婚活マッチングに自分を登録することすら断られるぐらい、成婚率が低くなってしまう。30代後半で年収200万円以下の層が民間サービスで登録して結婚相手を見つけられる確率は絶望的な数字となる。安定した生活を実現できる年収のある男性を選びたいという女性からの求婚ニーズに遠すぎて、登録しても相手を紹介されないのだ。統計的に見ると、30代未婚男性でそれまで女性と交際経験がない人は、年代によっても異なるが概ね20人に1人以下しか結婚することができない。
実際に、女性が結婚相手の男性に求める年収で400万円以上と答える割合は20代で61.7%、30代で65.8%になる[8]。一方で、25歳から29歳男性の最頻値を中心とした50%の収入は290万円〜350万円であり、30歳から34歳は平均こそ438万円となるが400万円以下で区切ると63%から69%程度になる[10][11][12]。つまり、男性の所得は20代では極端に大きな差はつかないものの、学歴、正規雇用、都市部か地方かなどによって大きな差がつき始めるのが30代ということになる。そして、ここで年収が一定のラインに満たない30代は、結果として結婚願望はあったとしても求婚女性の求めるハードルをクリアできず、結婚や交際には至らない。
一方で、経済状態が改善に向かう男性は結婚意欲に良い変化をもたらす。生活の安定や収入の増加が具体的にみられる非正規雇用から正規雇用への進展が実現すると、おおむね5割程度であった結婚意欲が80%弱にまで向上することが分かっている[13][14]。実際に、追跡調査において年収の増加が見込める環境の変化が男性の結婚意欲に大きな影響を与えることは、結婚相談所など民間サービスにおいても著明な事実として把握されており、実際に転職後に結婚サービスを申し込み、交際相手を見つけて結婚に漕ぎ着けるケースは少なくない割合存在するとみられる。正社員になれたので、結婚にも前向きになるという男性像は年齢を問わず普遍的にみられる現象だ。
20代前半女性は共働き志向が強まるが…
逆に、離婚理由の上位には毎年必ず夫の失職などの経済事情が入っており、結婚生活における経済の安定は重要な要件となっていることが理解できよう。当たり前のことだが、夫婦間の情愛と経済状況については常にリンクしており、現代社会においてはそのような諸条件をクリアして初めて子供を夫婦間で儲ける、子供を2人ではなく3人養うといった要因になる。そうなると、現代社会においては女性が男性に高い年収を求めることが一般的であり続ける限り、ある程度年を経た男性が厳しい雇用状況に直面すると、これらの低所得の30代以上男性層はごっそり結婚の検討相手から外れることになってしまうことになる。30代中盤までで有利な経済基盤を築ける転職ができる男性は一握りで、年収600万円以上の20代30代男性は5%程度であることを考えると年収以外の何かで女性が妥協できなければ結婚できないのが日本社会の状況になっていると言えるだろう。
昨今の20代男女の結婚事情でみると、20代後半女性が10年以上前からずっと男性に対し厳しい年収ハードルを掲げ続けているのに対し、最近の20代前半女性は共働き志向が強まり、夫婦が一体となって家庭を築き子育てに励もうとする意識の変化も垣間見える。結婚した後も仕事を続けると回答する独身女性は2002年から2012年にかけて41.8%から44.6%へ増、また出産した後も仕事を続けると回答する独身女性も51.3%から65.1%に増えたのに対し、出産後は仕事をやめると回答した独身女性は24.5%から6.9%に減少している[14]。実際に、出産前有職であった第一子出産女性が出産後も働く割合は、2001年出産の32.2%から2010年出産の45.8%と13ポイントも跳ね上がっている[15]。結婚願望の強い男女において、結婚の障害となっている経済事情を解決するために、共働きを積極的に選択し、出産後も両親で働きに出る社会環境が結婚を後押しする可能性は存在する。ただ、これらの積極的共働き派は、社会環境、とりわけ都市部の待機児童問題や貧困問題と密接に関係すると同時に、所得は低いけれどどうしてもこの人と結婚したいという20代前半特有の行動様式によるものであって、残念ながら30代男女の結婚願望に対する救済にはなかなかならないのが現状でもある。経済的に厳しいのは承知で結婚する、夫婦共働きは当たり前という社会環境を実現するためには、女性が求める結婚相手像の希望年収を大きく引き下げてでも結婚してこの人と暮らしたいという志向を、社会が前向きに受け止める必要がある。
意識変化の胎動としては、強い地元志向、共働きの是認と、結婚・出産後も働き続けると回答する女性の有意な増加は、人口減少局面にある日本にとって大きな意識変化をもたらす可能性が高いとみられる。その代わり、出産・育児と女性のキャリア上課題となる問題をクリアしてなお雇用される職場は、平均賃金が低い。女性が働きたいと思っても、それに見合う所得が得られる職場が少なく、また子供を預けて働きに出ようにも受け入れてくれる保育園や学童施設が乏しければ、せっかく回復の兆しを見せる若者の結婚志向にも水を差すことになりかねない。
性差による年齢志向は依然として根強い
婚活女性における男性の判断基準が年収にあるとするならば、長らく婚活男性の女性の価値は「年齢」にあった。男性の結婚願望に対するハードルである「自分よりも若い女性と結婚したい」という基本的な価値観念から逃れられず、希望する女性に巡り合えないまま30代後半まで独身で来てしまう傾向が強いことだ。結婚相手に求める内容は概して女性が男性に求める傾向が強いが、男性は唯一「容姿」に関しては女性よりも多くを求める[7][13]ことからも、全年齢の男性求婚者の傾向は見て取れよう。ただし昨今の調査では男性の求める結婚相手で同じ年を求める回答が41.9%と10年前の29.4%から激増しているところから現実的な判断になりつつあることが確認できる。逆に、子供を儲けたいと望む男性は半数以上が35歳以下の女性と結婚したいと考えており、これは40歳以上を含むどの年代でもおおむね変わらないことから性差による年齢志向は依然として根強いと言える。
そして、結婚市場において女性側から年収で足切りをされることになる男性にとって、同級生との結婚や親せき、友人からの紹介が得られない場合、低所得者ほど30代後半以降の結婚は絶望的になっていく。結婚したくてもできない理由は30代後半では過半数が「適当な結婚相手に巡り合わない」であり、男性にとっての結婚資金などの経済問題とあわせて年齢を重ねるごとに「結婚しない理由」から「結婚できない理由」へと変遷していくことになる[13]。
交際経験のない30代後半や40代の男性求婚者は、20代の若い女性との結婚を望む傾向が強く、同様に30代後半で所得の高い女性は所得の高い男性を求める傾向が顕著になる。交際経験がないがゆえに、自分の商品価値を客観視できないか、長らく求婚活動をしてしまっているので安易にハードルを下げられないまま年を重ねてしまい、結果として結婚できないという事例に陥るのだ。
これらの生涯未婚の問題は、時間とともに天涯孤独に、そして独居老人の増加という不可逆的な問題を引き起こす。男女ともに、独身が健康にもたらす悪影響は先に述べたとおりであり、2010年には65万人であった独居老人は、2030年には95万人と5割近く増加し、さらにこの結婚できない男女が増えていく[16]。東京都だけで予備軍は300万人、一都三県では480万人から540万人が2030年までに独居老人世帯となって、社会から切り離された健康リスクを持つ層として一角を占めることになる。
政策レベルで、結婚に踏み出せる支援策を
繰り返し述べることになるが、現代社会においては国民に対して結婚を強いることはできない。本人の意志が如何に結婚をしたかろうが子供を欲しようが、適切な相手と相互に巡り合い、また本人同士の同意があって初めて結婚することになる。その相手が見つからない、相応しいと思う相手から選んでもらえなければ、独身でいるしかない。結婚しないことが本人の選択であり、本人の責任だということは簡単だが、いくら独身を謳歌していても基本的には疾病に罹りやすく死亡リスクが高くて社会保障費を若いころから費消してしまうことは避けられない。また、独身世帯は比較的所得が低く貧困に喘ぐケースも多く、シングルマザーなど母子家庭、父子家庭以外は子供も儲けていないために救済の手段も乏しい。
それでも日本に生まれ、同時代を生きた日本人として、事前(プレ)と事後(アフター)の対処策は考えていかなければならない。まず少子化対策タスクフォースでも重点課題として取り上げられている通り、結婚を考える若者に対して仕事の安定と家庭を築くに足る報酬をどう保障し実現していくのかという主題が事前対応の主眼となる[17]。しかしながら、政府が国民の結婚を実現するために素晴らしい雇用環境が実現してほしいと願ったところで若者がある日突然結婚できるだけの仕事や報酬が降ってくるわけではない。あらゆる政策を総動員して景気を良くしようとしてもそうはならないからこそ政府の経済成長政策は重要なのである。ボトルネックは就業のあり方や生きるにあたっての将来性を明るく感じられるのかの一点にかかっており、重要であると提言する割にはどのように実現するのかについては極めて困難がつきまとう。
その点で、合計特殊出生率が日本最低になっている東京都の打つべき方策として、住宅補助など生きるために必要な助成をピンポイントで打てる政策を打ち出すことが求められる。厚生労働省でも家庭と仕事の「両立支援制度」を利用しやすい仕組みや、男性の育児休暇を取れる仕組みなど出産後においての支援は充実してきているものの、その入り口となっている結婚に対して踏み込める支援策が政策レベルでは少ないのが現状だ[15]。次世代育成支援対策推進法にしても、基本的には結婚し、出産が終わった世帯の育児負担を軽減するところに主眼が置かれざるを得ない。結婚後の生活は多少楽になるかもしれないが、肝心の結婚に踏み切るための経済的余裕を実現できる政策はなかなか打ち出すことができないのだ。
結婚相手の紹介に関する諸政策については、自治体や道府県が主体となって進められている事業が中心である。東京都では都が主催する「TOKYO 縁結日2017」が行われたが、あくまでイベントであって婚活・結婚支援サービスは市区町村レベルでの対応が主になっている。もちろん、政策で奨励し「結婚しなさい」「ハードルを下げなさい」と言い、結婚するカップルに助成金を出す仕組みを取ったところで、人生の一大事である結婚に数十万円程度のお祝い金を動機にするほうがおかしい。数十万もらえるから結婚しようという男女がいるだろうか。必然的に、政策面での後押しよりも、結婚しやすい社会環境を心理的にどのように醸成するかが求められている。そしてそれは、もっとも政策を考える議員や公務員の方々が苦手とする分野であることに相違はなく、必然的に、人生の将来に危機意識を持つような後押しを世論として形成する以外ないのだろう。
都市も老いる…その未来に対する壮絶な絶望
一方、事後(アフター)の問題は切実なものになる。今後、2030年に向けて1,800万人の未婚男女が社会的に孤立し、首都圏だけで500万人前後が独居老人になっていく予測となるならば、大きな社会変動の受け皿として公共や地域が受け持たなければならない役割は重大になっていく。つまり、人間と同じように都市も「老いる」。老い対策のために、若い人の活力をといっても、増え続ける高齢者の社会保障費を若い世代に担わせておきながら、さらに活力を持て、夫婦共働きで頑張れ、子供はたくさん生めといってもなかなか上手くはいかないだろう。
必然的に、独居かどうかは別として高齢者は高齢者同士集住し、お互いを支えあう形での政策的アプローチを採用していくしか方法はないが、基本的に高齢者の意向を聞くとどの調査でも過半は「いま住んでいる居宅に住み続けたい」という傾向が大多数を占める。他方、東京都の場合は持ち家比率は50%前後と全国平均よりも低く借家住まいが多いうえに、今後10年ほどで30万人ほど増えるであろう現在40代から50代の独身男女は、徐々に親世代の死去とともに独居世帯になって、60代を迎え始める。その過半は引き続き働き続けるものの、すでに所得のピークは過ぎており、現状の地価水準では暮らせなくなる低所得者から順に家賃の安い郊外へと転居をしていく可能性がある。2030年に向けての日本人の独身の理由は「結婚資金が乏しく経済的に不安」「相応しい相手が見つからない」である以上、形を変えた貧困問題であるだけでなく、未来に対する壮絶な不安感、絶望が横たわっているといっても過言ではないのだ。
積極的な都市開発ではなく、縮小前提の政策を
そうなると、東京都では湾岸地域を中心に都内のファミリー世帯が流入し激増する一方、低所得の独身世帯が郊外へとシフトしていくことになる。東京都は、これから稼ぐ若者世帯の集積化に対応しなければならない一方、充分に暮らせない高齢者対策を同時に行うという難易度の高い都市開発を行っていかなければならないことを意味する。また、埼玉、神奈川、千葉の三県は、東京都をドーナツの中心としたベッドタウン、郊外型経済が縮小すると、過疎化し猛烈に地価の下落に見舞われる外縁部の再編を余儀なくされるであろう。
今後増えていく独身世帯を抑えきれなければ、独身世帯の高齢化がもたらす社会事情に対して政策的に解決していかなければならない。そうなると、むしろ必要となるのは積極的な都市開発ではなく、この地域には居住すると不利になるという地域を指定して、住むことに適した地域に安定した縮小前提の政策を考えるほかない。
この人口の急激な減少と日本の社会システムの抜本的な見直しが必要な件については、首都圏が抱える構造的な問題と、それに伴う「東京一極集中批判」が論議の中心となっている。未来の首都圏を見据えるうえで重要なこの議論について、次回は首都圏の人口未来図から読み解く政策論を考えたい。
<参考リンク>
[1] 厚生労働省人口動態統計(2016年度)
[2] 国立社会保障・人口問題研究所 日本の将来推計人口(平成24年1月推計)
[3] ひとり親家庭等の現状について(厚生労働省 2015年)
[4] ひとり親家庭の支援について(厚生労働省 2014年)
[5] 国民生活基礎調査(2015年 厚生労働省)
[6] 家計調査(二人以上の世帯)平成29年(2017年)1月分速報 (2017年3月3日公表)(総務省)
[7] 国立社会保障・人口問題研究所 第15回出生動向基本調査
[8] 明治安田生命 結婚に関する調査 結果概要(2013年)
[9] 平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)
[10] 年齢別平均年収ランキング(DODA)
[11] 賃金構造基本統計調査(厚生労働省 2015年)
[12] 民間給与実態統計調査(国税庁 2013年)
[13] 30代後半を含めた近年の出産・結婚意向 (鎌田 健司 2013年)
[14] 第4回 21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)及び 第14回 21世紀成年者縦断調査(平成14年成年者)の概況(厚生労働省 2015年)
[15] 仕事と家庭の両立支援対策について(厚生労働省)
[16] 東京都の高齢社会について(東京都政策企画局 2015年)
[17] 少子化社会対策白書 第2節 結婚・出産の希望が実現できる環境を整備する。 (内閣府 2016年)
このコラムについて
パラシュート無き落下の日本学 首都圏の今後
少子高齢化が進み、人口減少時代を迎えた日本。課題は多く、即効薬はない。しかし、手をこまぬいているわけにはいかない。パラシュートを付けずに落ちるに任せるわけにはいかない。まずはリアルなデータを基に現状を見つめ直すところから始めよう。例えば、声高に叫ばれる「地方の衰退」だけでなく、「首都圏の老朽化」も深刻だ。貧困、孤立がもたらす「高齢者犯罪」などもまた、暗い影を落とす。もう、浮かび上がってきた難題から目を背け、やり過ごそうとするのはやめよう。打つべき手を、打つために。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/022700044/032900003/
日経ビジネスオンライン
難点が多すぎる「教育国債」というアイデア
上野泰也のエコノミック・ソナー
財政事情の悪化、世代間の不公平などの懸念も
2017年4月4日(火)
上野 泰也
安倍首相は1月20日の施政方針演説で、「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」と訴えた(写真:Motoo Naka/アフロ)
「教育国債」構想が自民党内で浮上
使途を教育に限定した「教育国債」構想が自民党内で文教族を中心に浮上しており、プロジェクトチーム(PT)が5月の大型連休明けをめどに提言をまとめるという。公明党もPT設置を決定。野党である民進党にも「子ども国債」という同様のアイデアがある。
ことの発端は、安倍首相が1月20日の施政方針演説で、「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません」と述べたことだとされている。日本維新の会が憲法改正による教育の無償化を主張していることをにらみ、憲法改正論議を加速させようとする狙いも、自民党内のそうした動きには含まれているという。
「教育国債」は赤字国債の一類型にすぎない
だが、財政法第4条が規定しているのは、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」ということ。これに当てはまらない(建設国債ではない)以上、「教育国債」という名前の新しい国債は結局のところ、赤字国債の一類型にすぎないことになる。大規模な長期国債買い入れによって日銀が長期金利を需給面から低位に押さえ込んでいるため、債券市場の健全な価格形成機能が損なわれており、「悪い金利上昇」という財政への警告シグナルが出てこない。そうした中で財政規律が緩んでいることが、こうした構想の浮上によって、間接的に示されていると言えるだろう。
この「教育国債」という構想に内在している主要な問題点は、以下の通りである。
問題点1 財政事情がさらに悪化
(1)国の借金がさらに増えて、すでにきわめて悪くなっている財政事情がさらに悪化する。文部科学省の試算によると、大学など高等教育の無償化に約3兆1000億円、現在は所得制限がある高校無償化の完全実施に約3000億円、幼稚園・保育園など幼児教育の無償化に約7000億円、合計で4兆円を超える財源が必要になる。
問題点2 大学などに進学するか否かで不公平が発生
(2)「教育国債」の償還財源(税金)は広く国民が負担することになるので、子どもが大学などに進学する(している)世帯とそうでない世帯の間に不公平が発生する。ちなみに、高等教育機関への進学率(就学率)(過年度卒を含む)、すなわち18歳人口(3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者)に占める大学・短期大学入学者、高等専門学校4年在学者及び専門学校入学者の割合は、80.0%。うち大学が52.0%である(2016年度学校基本調査)<■図1>。時代の流れとともにずいぶん高くなってきたものの100%というわけではない。保険料を徴収する方式をとる場合にも、こうした不公平が生じてしまう。
■図1:高等教育機関への入学状況(進学率)
(出所)文部科学省
問題点3 子の世代へ教育費負担を「ツケ回し」
(3)突き詰めて言えば現役世代(親の世代)から将来世代(子の世代)への教育費負担の「ツケ回し」だという強い批判を浴びやすい。将来不安ゆえに若年層では支出抑制・貯蓄積み増し意欲が根強いとされているが、そうした傾向が強まることにもなりかねない。
問題点4 大学の淘汰が進みにくくなる
(4)本来であれば進むはずの少子化時代における大学の淘汰が進みにくくなる可能性がある。「そもそも、大学などの授業料無償化は、学生の支援だけでなく、学生の確保に苦労している私立大学などへの『補助金』的要素がある。このため、自民党内でも『大学の淘汰を進める方が先』との声も出ている」という(3月10日 毎日新聞)。
人口減少トレンドを放置したままでは、メリットに限界
筆者の持論に沿ってさらに踏み込んで言うと、日本経済(特に地方経済)の長期見通しが悲観に傾斜せざるを得ない最大の要因は人口(特に生産年齢人口)の減少という「数」の問題であって、「質」の問題ではない。人口の減少トレンドを放置したまま、若年層の「質」を学力の面で高めようといくらサポートしても、経済全体にもたらされるメリットの総量には限界があるだろう。
また、国の支援によって高等教育機関への進学率をさらに高めることが労働生産性の向上に着実につながり、それが日本経済の潜在成長力を底上げするという保証はどこにもない。大学教育の現場から聞こえてくるのは、数十年前と比べた場合の学生の「質」の低下である。数学の基礎ができていないため高校の学習内容を大学であらためて教える必要があった、講義ノートをしっかりとる能力が欠けている、課題を出すと「コピペ」だらけで文体も統一されていないものが多数提出されたなど、クォリティーが下がったことを示すエピソードは枚挙にいとまがない。進学率をどうこうするよりも、そうした現実をまず是正するのが先決ではないか。
「あれも必要」「これも必要」では、借金が膨らむだけ
むろん、経済的理由から進学をやむなく断念する若者をできるだけ少なくするための支援措置を拡充することに、筆者は賛成である。やる気のある学生を増やすことは、大学教育のレベルアップに間違いなく貢献するだろう。だが、奨学金制度の拡充を含め、そうした措置はすでにいくつかとられている。それでも足りないようなら、実情を把握しやすい地方自治体の判断などで、ケースバイケースで対応すべきだろう。
また、教育関連費用の比率が日本は他国より低いという指摘がある。これに対しては、「だから借金をしてでも予算全体の規模が膨らむことはやむを得ない」といった結論に安易に飛びつくのではなく、「予算全体を原則として同規模に据え置いた上で、政策の優先度に応じた予算配分(付け替え)で対処する」のが望ましいと、筆者は考えている。家計のやりくりに引き付けて考えればわかりやすい。「あれも必要」「これも必要」という家族の声に押されて借金をしまくりながら支出を増やすよりも、借金を返済する原資でもある所得の制約を念頭に置いたうえで、何を買うかの取捨選択を行うというのが、普通で妥当なありようだろう。
消費税率引き上げ、予定通り実施と見る者は多くない
日本の財政規律は、明らかに緩んできている。2019年10月に再延期された消費税率の8%から10%への引き上げが予定通り実施されるとみている市場関係者は、さほど多くないように見受けられる。東京オリンピック・パラリンピックが終わった後に日本の景気は勢いを弱める可能性が高く、株価がそれを見越して開催前にも下落を始めると予想される中、景気をさらに下押ししかねない選択を安倍首相がするとは考えにくい。それまで国会で説明してきた消費税引き上げ再延期の条件をあっさり捨て去り、再延期を決めたのは「新しい判断」によるものだと説明した首相発言のインパクトは、少なくとも筆者には、かなり強かった。
むろん、財政規律が緩んでいるという見方に債券市場参加者が傾いても、すでに述べたように、値動きの中から「警告シグナル」が発信されることはまず考えられない情勢である。「教育国債」や消費税の問題について、マーケットに身を置いているエコノミストである筆者が考えを巡らせる際には、一種の空しさがどうしても漂ってしまう。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
日経BP社
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