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東芝の危機は経営者への過度の権限集中が招いた
http://diamond.jp/articles/-/123309
2017.4.4 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
日本を代表する大手名門企業、東芝の経営が危機に瀕している。2015年に発覚した「利益水増し」の不正会計問題に続き、2016年12月以降は米原子力事業での損失発生が経営の屋台骨を揺るがしてきた。来年3月末の時点で債務超過が解消されていないと、東芝は上場廃止になる。それまでに東芝は事業の切り売りをしながら資金繰りをつなぎ、同時に、再建の柱となる成長事業を育てなければならない。名門企業が泥沼にはまりこんだ理由を考えると、多くの日本企業にとっても、とても対岸の火事では済まされない。
■目先の成長追った経営者
コーポレートガバナンスの不全
何が東芝の経営危機につながったかに関しては、様々な指摘がある。主なものに、巨額の投資資金がかかる割には商品として収益を稼げるサイクルが比較的短い半導体に経営資源をつぎ込み過ぎた、米国での原子力事業のリスクを見落としたといったものがある。それに加え、東芝の経営者が目先の収益拡大に心血を注ぎ過ぎたことも忘れるべきではない。
2008年度から2014年度期中までに、パソコン事業などで行われていた1500億円超の利益水増し操作では、経営者が直接、過大な収益目標の達成などの無理難題を現場に押し付け、それが現場での不正な会計処理につながった。こうした近視眼的な経営の暴走を食い止めるためには、企業統治=コーポレートガバナンスの整備と機能の発揮が欠かせない。その役割は、過剰な収益追求、リスクがないかを第3者の視点で評価し、経営者の目線を長期重視のものに促すことだ。
日本の大手企業の中でも、東芝は積極的に社外取締役を登用し、米国流の企業統治制度である“委員会設置会社”にもいち早く移行し、経営の透明性や監督強化に取り組んできた。それだけにガバナンス先進企業の経営危機は、制度を整えてもそれだけではガバナンスが機能しないことを示す教訓だ。多くの企業がガバナンスの強化に勤しむ中、何が東芝のガバナンスの機能不全を招いたか、冷静に考える必要がある。
■米原子力事業で巨額損失
経営の“暴走”止められず
東芝にとって原子力発電事業は半導体事業とともに、不正会計問題が表面化した後の経営再建を進めるために重要な戦略的分野だった。しかし、今回の損失発生を見る限りその経営管理はずさんだったといわざるを得ない。東芝の経営者がWH社に対する債務保証のリスクを十分に理解しないまま事業拡大、収益基盤の強化路線を推し進めたからだ。
東芝がWH社を買収したのは2006年。当時は地球温暖化やエネルギー需給のひっ迫で、原子力が再評価されたこともあった。「世界トップクラスの原子力グループを作る」という当時の西田厚聡社長の号令のもとで、事業拡大に突き進んだ。その後、福島第一原発の事故を契機にした規制強化などで、原発建設コストが膨らむなかでも、この旗は降ろさず、のちに、数千億の損失を計上することになる米原発建設工事会社の買収でも、コストや財務面などのチェックが十分に行われたとは思えない。
一言でいえば、経営者の暴走を誰も止めることができなかった。特に、今回の損失発生は、不正会計問題のほとぼりがさめやらぬうちに発覚した。それだけに、その他の事業にも隠れ損失があるのではないかなど、東芝の経営体質への不安は高まっている。その点で、経営再建のためには、経営の役割が決定的に重要になる。今後、経営者が、株主だけでなく、取引先や従業員といったステークホルダーからの信頼を取り戻すためには、これを同社がどう考えるかが重要だ。
東芝としては、米WHを破産処理して損失発生の原因である米国の原子力事業を、東芝本体と切り離すことで、大手行などからの支援をいち早く取り付けたい。そうすれば、帳簿上は、海外の原子力事業に起因する損失のリスクを抑えることはできる。金融機関から資金支援を受けるにも、追加損失の恐れがある事業が切り離されることが最低条件だ。東芝には、経営再建につながる事業展開のための資金繰りにめどをつけ、投資家の安心を支えるためにもこうしたリストラは重要だ。
だがそれはあくまでも表層的な問題に過ぎない。海外の原子力事業からの撤退だけで、東芝が投資家などの信頼をとり戻すことにつながるとは考えづらい。
■いち早く委員会設置会社に移行したが
制度作っても、魂入れず
なぜ東芝がここまで追い詰められたのか。
再建を考えるにあたって、大事なのは、不正会計問題を含めなぜ、こうした経営の暴走が見過ごされてしまったか、を根本から考えることだ。一言でいえば、東芝の企業統治=コーポレポートガバナンスは十分に機能していなかった。
東芝は、2003年に商法改正で、独立した社外取締役などで構成される委員会が、企業の取締役会をチェックする「委員会設置会社」制度が導入されると、いち早く、委員会設置会社に移行。それ以前からも、社外取締役らが取締役候補を指名する委員会や役員の報酬を決める委員会を独自に設けるなど、経営陣に対する「監督機能の強化」や「経営の透明性の向上」に、いち早く取り組んできた企業といわれてきた。しかし、制度は整え得ても行き過ぎた経営者のリスクテイクを諌めるなど、本来、社外取締役に求められる役割は十分に果たされてこなかった。
企業が利益の獲得を目指す以上、経営者には目先の業績拡大を達成し、株主などのステークホルダーの期待に応えようとするインセンティブが生まれる。アニマルスピリッツともいわれる成功を求め、利益を追求する本能的な動機、血気、野心は、企業の成長には不可欠だ。問題は、そうした短期の利益を重視する考えが時として行き過ぎてしまうことだ。コーポレートガバナンスの役割は、そのエネルギーを、より長い目線での利益獲得に仕向けていくことだ。そのために、社内の考えとは違う視点、感覚を持つ社外の専門家を登用し、経営執行を客観的にモニタリングすることが重要なポイントだ。
■強すぎる社長の権限
社外取締役の目、どう生かすか
だが東芝の場合、まず、組織における経営者の位置づけが高すぎ、権限が強すぎたことがある。歴代の社長(代表執行役)に対する取締役会による監督機能が働かなかったのに加え、社外取締役らによる委員会の、社長や取締役会に対するチェック機能が十分に働かなかった。そのため、経営の行き過ぎに諫言を呈する人がいなくなってしまった。
本来は、社外取締役がこの役割を果たさなければならないが、日本では東芝にかかわらず、歴代の経営者からの要請などに応じて社外取締役に就任することが多い。そのため、経営者の決定を諌めることなく追認することが常態化したのだろう。また財務や会計をチェックする監査委員会の委員長も、歴代の財務執行責任者(CFO)が横滑りでなっていた。
結果的に、東芝のガバナンスは、制度は整えたが、魂は宿っていなかった。
そもそも日本の企業では、終身雇用制が長く続いてきたこともあって、同じ企業の中でずっとやってきた人が経営者に選任される慣行がある。外国企業のように、指名委員会などが、社外からプロの経営者を選任するといったことは少ない。
東芝の場合も、制度の上でだけ、そうした社外取締役らによる委員会を設置したというのが実態だった。組織のプロパーの人間が社長になった場合は、各部署に経営者子飼いの部下がいるケースもあるだろう。そうなると、社外取締役が微に入り細に入り経営執行をモニターすることは難しく、社外取締役の本来の役割は果たせなくなってしまう。
だが東芝の再生を考えるなら、この問題をおざなりにせず、真正面から向き合うことが再建の第一歩だ。
再生には、まず、社内、社外を問わず経営に適した人材が社内にいるかどうかから見直すべきだろう。その上で、社外取締役に何を求め、その役割が適切に発揮できる環境を整備しなければならない。それができないと、経営者への権限集中は解消されず、再建の先行きもおぼつかないだろう。
今後、東芝は主要行などからの資金支援を受けつつ、事業のリストラを進めて財務内容の改善と経営再建を進めることになる。事業の切り売りが続くと、人材、技術は社外に流出し、東芝という企業が解体され、なくなってしまうことを意味する。そうした中で東芝が信頼を回復し、再建を進めるためには、経営者への過度な権限の集中を分散し、近視眼的な収益重視姿勢を是正するしかない。より中長期の目線でバランスのとれたリスクテイクを進めるためには、やはり、ガバナンスを強化し、求められる役割が発揮される環境が欠かせない。
表面上はガバナンス体制を整えたが、それが理論通りに機能せず、経営破たんに陥った企業は、、例えば、巨額損失を粉飾して破綻した米エンロン社など、外国でもある。コーポレートガバナンスというのは、制度の設計や整備以上に、いかにそれがワークするかが重要だ。特に日本の場合は、グローバル競争が加速する中で、従来の「日本的経営」から、とにもかくにもグローバルスタンダードに合わせる必要があるということで、大手企業に一気に広がった。十分にその本質を消化してというよりは、仏を作って魂入れずの面がなくはない。その点で、東芝の教訓は、他の日本企業にとって対岸の火事ではない。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
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