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[創論]IoT社会が問うもの
あらゆるものがネットにつながる「IoT」の広がりや人工知能(AI)の進化で、社会が大きな変革を迫られている。大量のデータをどう扱うべきか、働き方をどう変えるべきか。ドイツの産業革新を推進する独ソフト大手、SAPのターニャ・リュッカート上級副社長と、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の生みの親で、英科学者のティム・バーナーズ=リー氏に聞いた。
■製造業の勢力図 激変 独SAP上級副社長 ターニャ・リュッカート氏
――ドイツでは産業革新につながる「インダストリー4.0」が進んでいます。
「ネット技術の進化で、これまで人間が操作していた機械や装置をコンピューターが操れるようになった。様々なセンサーから得られる情報をデータ分析することで、トラブルを事前に予測したり、燃費など機械の性能を高めたりできるようになったからだ。ドイツは日本と同様、ものづくりに強い国だが、それをデジタル化することで競争力を一層高めようとしている」
「提唱したのは、SAPの元社長でドイツ工学アカデミーの会長を務めるヘニング・カガーマン氏ら3人の研究者だ。蒸気機関による18世紀の産業革命、電力による20世紀初頭の大量生産、コンピューターが促した1980年代の自動化などに続き、AIやIoTによって第4の産業革命を起こそうというわけだ」
――具体的にはどんなことを進めているのでしょう。
「様々なデータを即時に収集分析することで、機械同士が直接会話するインテリジェントな製造業を目指している。企業や組織の壁を越えた自動発注なども可能になる。個々の顧客のニーズにきめ細かく対応し、すばやくラインを組み替えて大量生産する『マスカスタマイゼーション』を実現しようとしている」
「例えば、米老舗二輪大手のハーレーダビッドソンは発注書をデジタル管理し、同じ製造ラインで一台一台異なる製品を作ることに成功した。英自動車大手のジャガー・ランドローバーも同様だ。作業現場から紙の文書を排除し、生産性を20%から25%高めることに成功している」
――どんなドイツ企業が推進役なのですか。
「我々は従来の統合基幹業務システム(ERP)にデータの高速分析技術やクラウド環境を加え、1年半前に『レオナルド』というIoT用の情報基盤を作った。データ分析や機械学習、ロボティクスなど様々なことを同時にやるIoTのインフラとして提案している。機械から様々なデータを取り出すのはシーメンスが得意で、互いに補完関係を築いている。部品大手のボッシュも重要な推進役だ」
――米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)が「インダストリアル・インターネット」を唱えています。
「実はSAPはそちらの推進組織にも参画している。GEはビッグデータ分析などソフトやサービス面から事業変革を狙っているが、ドイツは作業現場の自動化などハード寄りの手法をとっている。例えば風力発電機をコンピューター上に3次元の仮想モデルとして再現し、現場に行かなくても状況を確認できる仕掛けだ。『デジタル・ツイン(双生児)』と呼んでいる」
――何でも機械でできると人間の職は奪われませんか。
「危機意識は産業革命の時にも、その後の革命でもあった。しかし人間の仕事がすべて奪われたわけではない。新技術の登場はそれを使う新しい仕事も生んできた。AIやロボティクスは人間の頭脳や労働力をむしろ拡張してくれるものと考えるべきだ。若い『ミレニアル世代』は昔のように何時間も働きたいとは考えていない。機械に労働の一部を代替させることで新しい働き方ができるようになる」
――そうした世界を実現するには何が必要でしょうか。
「まず新技術の登場を恐れないこと。そしてコンピューターや機械と協業できる環境をつくることだ。工場労働者にはIT(情報技術)を理解してもらう再教育を施すべきだ。日本にもドイツにも優秀な職人がいるが、そうした匠の技をデジタルプラットフォームに乗せることが大切だ」
――自動運転車が普及すれば車が売れなくなります。
「だからこそ企業はデジタルトランスフォーメーション(事業変革)が必要だ。ものづくりから一歩進んだ新しい事業を創造しなければならない。その際に一番重要なのはデータだ。企業も自らのデータを積極的に開放し、皆で活用できる環境をつくる必要がある。もちろん個人のデータはしっかり守るべきだ。事業変革と規制のバランスを上手に取っていくことが、今後の重要な課題といえる」
Tanja Rueckert 独ヴュルツブルク大などで博士。97年独SAPに入社。上級副社長としてIoTと「インダストリー4.0」を推進。
◇ ◇
■データの開放、重要に ウェブ考案した英科学者 ティム・バーナーズ=リー氏
――ウェブの考案者として知られています。
「インターネットの基本的な技術は1969年に生まれたが、当初は様々なネットが存在し、相互につながっていなかった。欧州合同原子核研究機関(CERN)にいた私は、様々なサーバーに分散していたデータをどうすれば一元的に利用できるかと思い、89年に『ハイパーテキスト』という文書連携技術をネットに持ち込むことを考えた」
――ウェブが世界を大きく変えると思っていましたか。
「その時はネットを使いやすくすることを考えていただけだ。放置していたら恐らく崩壊していただろう。それに私がウェブを提案できたのは、実は同じころアップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が『NeXT(ネクスト)コンピューター』を作ったからだ。音楽や画像、電子メールにも対応した開発環境があったからできたことだ」
――世界のコンピューターがネットにつながることで光と影の側面が生まれました。
「最大の功績は、文化や国境の壁を取り払ったことだ。人口の半数以上がネットを使うようになった今、同じ文化や言語の中で使われる場合が多いが、本当は異なる世界の人とつながることに利用してほしい。一方、サイバー攻撃など新たな問題が登場したことを考えると、ネットの世界には一定のルールが必要だ。悪意のある政府や企業は個人の行動を監視するツールにも使える。そうさせないためには個人のプライバシーを守る法律やルールを作るべきだ」
――ソーシャルメディアの台頭をどう思いますか。
「ネットはもともと分散型の仕組みだが、その上にソーシャルメディアが中央集権的な階層を作ってしまった。ツイッターもフェイスブックもそうだ。それぞれが独立したサービスで、他のサービスとは連携していない。利用者を抱え込むためだろうが、本来のネットの趣旨には合わない。特定の事業者が個人のデータをビジネス目的で使わないように担保する仕組み作りが必要ではないか」
――あらゆるものがネットにつながるIoT時代の到来で、ますます大量のデータが流れる社会になります。
「データが様々なところで使われるようになるのは当然の流れだ。止めるつもりはない。重要なのは、個人が特定されないように十分管理したうえで広く社会に役立つように豊富なデータを開示することだ。現状ではデータが様々なサイロ(格納庫)に収められ、アクセスできない」
――オープンデータを進める英民間組織「ODI」を創設したのはそのためですか。
「そうだ。交通情報など政府が持つデータを開放し、可視化するスマートフォン(スマホ)アプリを作れば、消費者の利便性は高まる。ロンドンには様々な交通情報を閲覧できるアプリがあり、世界で最も効率のいい都市になった。ほかにも病院の診療情報なども他の患者の治療などに役立つ。こうした重要性を米国に示すためにもODIの活動を始めた。情報を出したがらない政府や企業には、国民が声を上げることが必要だ」
――米未来学者のレイ・カーツワイル氏は2045年にコンピューターが人間の脳を上回る「シンギュラリティー(技術的特異点)」がやって来ると指摘しています。AIやIoTが制御する時代には働き方も変わりますか。
「私もいずれAIが人間より勝ると思う。問題はそれがいつかだ。人間の職が機械に奪われることは産業革命以降、何度も経験してきた。大切なことは職を追われた人をどう再教育するかだ。仕事の定義も変わる。農業は生きるための仕事だったが、今後は趣味になるかもしれない。ロボットが仕事を代替してくれれば、人間は芸術や創造性のために働けるようになる」
――IoT時代の到来は日本にはチャンスですか。
「製造業に強い日本には確かにそうだろう。だがIoT時代というと、日本はとかくいいセンサーや関連部品をつくろうとしがちだ。米国はその仕組みを使ってどんな新しいサービスを生むかに知恵を絞っている。日本企業はそこを間違ってはならない」
Tim Berners−Lee 英オックスフォード大卒。欧州合同原子核研究機関(CERN)時代にWWWを考案、91年に世界に発表した。
◇ ◇
〈聞き手から〉アナログ時代の成功体験捨てよ
1968年の米SF映画「2001年宇宙の旅」といえば、宇宙船に乗り込んだ人工知能「HAL」が暴走した話が有名だ。それから約50年たった今、AIが人間を本当に追い抜くと真面目に議論されている。
AIの進化だけではない。あらゆるものがネットにつながるIoTと、大量の情報を分析するビッグデータ技術が加わったことで、産業構造や社会そのものを一変させる可能性が高まった。ドイツや米国が国を挙げて取り組むのはそのためだ。
日本もAIやIoTの推進にようやく動き出した。政府が狙う国内総生産(GDP)600兆円の実現はこの分野の成長抜きには語れない。
だが、こうした戦略を成功させるには従来型の発想では難しい。ものづくりや職人技に頼ったアナログ時代の成功体験にこだわらず、むしろそうした知見をデータとしていかに開放するかが大事になる。AIやロボットに代替される人たちの新分野への配置換えなどにも目配りしなければならない。IoT社会へ向け、日本は意識の転換が問われている。
(編集委員 関口和一)
[日経新聞3月28日朝刊P.6]
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