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スマホ決済が急速に普及する中国において、新聞の1面に掲載された支付宝(アリペイ)の全面広告 Photo by Izuru Kato
IT企業になれない銀行は淘汰 フィンテックが破壊する金融業
http://diamond.jp/articles/-/122508
2017.3.30 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン
既存の金融業とフィンテック(金融とITを組み合わせた技術・サービス)が「ウィンウィン」の関係になることはない。今年1月、スイスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の場で、ビットコインを取り扱うフィンテック企業ブロックチェーンのピーター・スミス最高経営責任者(CEO)は、そう警告した。
IT企業が既存の金融機関の役割を奪う可能性が高いため、金融機関がIT企業になれなければ生き残りは難しい。そういった趣旨の指摘を彼はしていた。
フィンテックの普及が世界最速レベルで進んでいる中国と北欧に行くと、その発言のリアリティーが理解できる。
この原稿は出張中の中国・上海で書いているのだが、数日前に大型ショッピングモールのフードコートで人気の焼き小籠包(4個で8元=約210円)を食べようと思ったところ、現金での支払いを拒絶されてしまった。
周りの客の大半は、電子商取引大手アリババ集団傘下企業の「支付宝(アリペイ)」か、インターネットサービス大手テンセント・ホールディングスの「微信支付(ウィーチャットペイ)」でスマートフォン決済をしていた。VISAカードも断られたので、結局この店で食べることは諦めた。
知人によれば、最近別の店で紙幣を出したときに「釣りはないが、いいか」と言われたという。スマホ決済ができない人は今や中国では「決済難民」になりつつある。
中国紙「新聞晨報(Shanghai Morning Post)」(3月21日)は、「現金やクレジットカードは急速に過去の遺物となった」と報じた。中国のインターネット調査会社アイリサーチによると、中国でのスマホ決済額は、2012年では0.2兆元だったが、昨年は38.5兆元となり、18年には72.1兆元になると推測されている。
中国では、旧正月のお年玉は紅包(赤い封筒)に入れて手渡される。しかし、今年は微信支付の「デジタル紅包」で460億件のお年玉が送金された。都市部だけでなく、地方(非都市部)でもスマホ決済は普及している。銀行やATM(現金自動預払機)まで遠いからだ。中国人民銀行によると、地方における昨年のスマホ決済額は前年比71%増だった(前掲紙、2月6日、3月18日)。
ただし、お年寄りの中にはスマホ決済に不慣れな人がまだ多い。支付宝は3月20日の「新聞晨報」の1面に、親から多くのことを教わってきたのだから親に支付宝の使い方を教えよう、との全面広告を載せた。
金融業界にとって深刻なのは、スマホ決済が、アリババやテンセントといったIT企業に支配されてしまった点だ。中国の銀行では、営業店の人員を減らす動きが出始めているとのうわさもあり、先行きの雇用を心配する声が金融業界から聞こえている。
一方、北欧では銀行が早くから積極的にスマホ決済への移行を推し進めてきたが、彼らは同時にビジネスモデルも大幅に変革している。現金を扱う店舗をごく少数に限定して警備費用を大幅に削減し、店舗や行員も大胆に減らし始めている。
コストカットの推進によって、デンマーク最大手のダンスク銀行は昨年のROE(自己資本利益率)をなんと13%台に押し上げた。北欧の銀行はIT企業になりつつあるといえる。既存の金融業の体制や人員を維持したままでフィンテックと共存を図ることは、やはり難しいのかもしれない。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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