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30分前の召集にもかかわらず超満員の会見場 ©大西康之
東芝「WH破産申請」で露呈した再生計画のウソ
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170329-00001957-bunshun-bus_all
文春オンライン 3/29(水) 22:00配信
3月29日、16時11分
一通のメールが届いた。
【東芝】記者会見のご案内
日時 3月29日(水)17:45〜18:30 受付開始 16:45)
30分で来い、というわけだ。
16時50分に会見場(東芝本社)に到着。すでに会場は、報道陣で埋め尽くされていた。前方から10列目までの席には大手メディアの名刺が敷き詰められている。「花見の席取り」である。新人がいち早く会場に駆けつけ、名刺を置く。先輩記者たちは直前に悠然と現れ、最前列にどっかと陣取る。組織力のないフリーランスの悲哀を感じる場面である。
机の上にはすでにニュースリリースが配られている。
「当社海外連結子会社ウエスチングハウス社等の再生手続きの申立について」
東芝の原発子会社ウエスチングハウス(WH)が、米連邦破産法第11条(通称チャプター11)の適用をニューヨーク州連邦破産裁判所に申請したのだ。事実上の倒産である。
WHのチャプター11申請は日本のメディアで既定路線になっており、一部の新聞は「現地時間の28日に申請」と書いた。このため28日の夜、東芝担当記者たちは東芝からのメールを待っていた。だが待てど暮らせどメールはこない。
夜があけた。まだ米国は28日だ。担当記者たちは早朝からメールを待ち続けた。
それでも、やはり来ない。
前述の通り、メールが来たのは29日の午後16時。申請は24時間受け付けられるため、手続き上は問題ないが、ニューヨーク州も日付は29日になっていた。東芝、WHのドタバタぶりがわかる。
「WHを連結から外した」というレトリック
まず断っておきたいのは、現時点で東芝はチャプター11の適用を申請しただけであり、裁判所に再生計画が認められたわけではないということだ。
東芝が3月中のチャプター11申請にこだわったのは、今期中にWHを連結対象から外し「これ以上損失は拡大しない」と金融機関にアピールしたかったからだろう。しかし米国の裁判所はそんなことは知ったことではない。申請を受理するかしないかは、今後の裁判所の判断にかかっている。WHが提出する再生計画を裁判所が認めなければ、話は振り出しに戻る。あたかも既にWHを連結から外したかのような東芝のアピールは、紳士的とは言えない。
淡々と話す綱川智社長 ©大西康之
製造業過去最悪の赤字額
記者会見の出席者は綱川智社長、平田政善専務、畠澤守原発担当常務の3人。
綱川社長は淡々とした表情でこう説明した。
「WHに対する親会社保証などを求められた場合、東芝の2017年3月期の最終損益は1兆100億円の赤字になる」
そうなれば、09年に日立製作所が発表した赤字額7873億円を抜き、製造業として過去最悪の赤字となる。
「WH買収から10年。東芝はどこで間違えたのか」と問われると、綱川社長は寂しそうな顔で言った。
「私にはわかりません」
原発事業の暴走が引き起こした巨額損失の穴埋めに、自分が育てたメディカル事業を売却せざるを得なかった綱川氏の本音だろう。
空を見つめる平田政善専務 ©大西康之
「インペア」の予兆
このタイミングでWHのチャプター11申請に踏み切ったことについて「金融機関から圧力があったのでは」と聞かれると、平田CFOの血相が変わった。
「絶対にありません」
しかし平田氏の言葉を簡単に信じるわけにはいかない。粉飾決算騒動の最中に、東芝テックから呼び戻され、2015年9月にCFOに就任した平田氏は、この場所(東芝本社39階会議室)で、何度も嘘をついているからだ。
2015年11月、平田氏はここで、こう言い切った。
「原子力発電関連などの社会インフラは当然、黒字にならないとおかしい。電力向けは送変電・配電のシステムなどの受注が増加している。ウエスチングハウスも減損の兆候はありません」
1年半前に健全だった会社で、何が起きるといきなり倒産するのか。予兆は何年も前からあった。
「インペア、あるらしいぞ」
東芝の原子力事業部門でそう囁かれ始めたのは2009年。「インペア」は「impairment(減損)」を指す。東芝がWHを買収したのは2006年のこと。3年後にはすでに社内で減損を意識していた。
それから8年の長きに渡り、東芝は外部の目を欺き続ける。
2012年4月にはWHのCEO(最高経営責任者)に内定していたジム・ファーランドが突然、辞任する。ファーランドは直前の3月まで、約1ヶ月かけて「次期CEOです」と、米国の電力会社で挨拶回りをしていただけに、業界にショックが走った。
「WHの内情はそれほどひどいのか」
ファーランドの辞任は「一身上の都合」とされ、会長の志賀重範が急遽CEOを兼務することになった。
半年後の2012年10月、ダン・ロデリックがWHのCEOに就任する。ロデリックはゼネラル・エレクトリック(GE)で長く原発事業に携わった男で、業界では「やり手」と言われた。
東芝はWHを買収した後、志賀ら数名の役員を送り込んでWHの立て直しと一体化を進めようとした。だが「自分たちは世界で最初の商用原発を動かした会社だ」というプライドに凝り固まったWHは、東芝を格下に見て言うことを聞かない。
おそらく買収から6年以上、東芝はWHの実態を把握できていなかった。
「これでようやくまともになるかも」
東芝社内に安堵の空気が流れた。しかし“ミイラ取り”のロデリック氏は、自らがミイラになってしまう。CEOに就任してしばらく経って、メディアに露出し始めたロデリック氏は「WHは米国、中国だけでなく、インドでもトルコでも順調に受注を獲得している」と言い始める。
「嘘つけ」
事情を知る東芝社員たちは落胆した。「やり手」と期待されたロデリック氏も、実のところは原発事業からフェードアウトを始めたGEの「窓際族」であり、原発にしがみついて生きていくしかない男だった。
「やり手」と期待されていたWHロデリック会長 ©getty
スポンサーありきの「再生計画」
「海外原発事業のリスクは遮断した」
綱川、平田、畠澤の3氏は1時間半の記者会見でそう繰り返した。
だが真に受けることはできない。
裁判所に駆け込むだけで、10年間の失敗のツケを払いきれるとは思えない。世界各国で建設中の原発を放り出し「あとは知りません」という無責任が通るほど世界は甘くないはずだ。
「もしスポンサーが見つからなかったら再生計画はどうなるのか」
記者会見の終盤で本質を突く質問が出た。
「今回、減損対象になった米国で建設中の原発以外の事業は順調なので(スポンサーの登場は)十分、見込みがあると考えています」
そう答えた畠澤氏の顔は「燃料とメンテナンス事業は堅調で、減損の兆候はありません」と1年半ものあいだ言い続けた平田氏の顔に重なって見えた。二人とも、サラリーマンの役目に徹する「能面」のような顔をしていた。
大西 康之
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