http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/549.html
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コラム:
米WHの破産法申請で電力2社の前途多難
3月28日、米電力会社2社のために建設が進む2カ所の原子力発電所でのコストが想定を著しく上回ったことを受け、東芝傘下の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)は、米連邦破産法11条の適用を申請する。写真は建設中のボーグル原発。ジョージア州で2月撮影。提供写真(2017年 ロイター/Georgia Power/Handout via
REUTERS )
Lauren Silva Laughlin
[ダラス 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米電力会社、スキャナ(SCG.N)とサザン(SO.N)の2社のために建設が進む2カ所の原子力発電所でのコストが想定を著しく上回ったことを受け、東芝(6502.T)傘下の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)は28日、米連邦破産法11条の適用を申請する。
ただ、債務整理の過程では、契約条件や損失、融資や税金を巡り交渉の長期化が避けられない。たとえ原発が完工したとしても、これらの電力2社には大きな負担がのしかかることが予想される。
サウスカロライナ州とジョージア州で建設が進むこれらの原発は、38年前のスリーマイル島原発事故以降、初の新規建設案件。しかし、一風変わった設計や建設業者のトラブルなどから工期が3年以上延び、費用は制御不能なまでに膨れ上がった。東芝は2月、ウエスチングハウスが63億ドルの減損を計上する見通しを公表し、東芝会長は引責辞任。上場を維持するため傘下の半導体子会社の入札による売却を余儀なくされている。
一方でWHの負債をだれか引き受けてくれるかどうかについての見通しは暗澹としてきた。韓国電力公社(KEPCO)(015760.KS)が先週、WH買収に関心を持っていないと表明したからだ。
もちろんスキャナとサザンは、計画を自ら引き継いで東芝から補償を請求する道もある。しかし、モルガン・スタンレーのアナリストは、今後必要な費用は想定を85億ドル上回る可能性があり、これは両電力会社の株主が織り込んでいる水準の2倍以上の金額だと指摘している。アナリストは、東芝がこの費用の差額分を支払うことができるとは考えていない。ジョージア州にあるサザン傘下の電力子会社はこれまで、資金調達コストだけでも毎月3000万ドルが必要になるとの見方を示している。
計画を中止することにもリスクがある。原発への投資に対するリターンを顧客から回収することが難しくなるからだ。モルガン・スタンレーは、影響額はスキャナの場合、2017年の純利益の38%、サザンでは7%に相当すると分析している。
ゴールドマン・サックスによると、サウスカロライナ州の原発の総事業費のうちスキャナが負担する分は74億ドルと、同社の企業価値の4割を超える規模に上る。この比率はサザンの場合には6%未満にとどまるものの、サザンには別の問題がある。ジョージア州での計画から手を引けば、同社はエネルギー省から借り入れた26億ドルを巡り窮地に立たされることになる。
こうした事情を考えれば、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が先週、両電力会社の社債格付け見通しを「ネガティブ」へと引き下げたのも当然だろう。WHの困窮が両電力会社の問題に直結しており、他の電力会社の目には、原子力というものがより扱いにくいものとして映る結果となっている。
●背景となるニュース
*ロイターは事情に詳しい関係筋の話として、ウエスチングハウスが28日、連邦破産法11条の適用申請を計画していると伝えた。
*連邦破産法11条の適用申請により、東芝とスキャナ、サザンの米電力2社は複雑な交渉を始めることになる。その交渉には日米両国政府が参加する可能性もある。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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http://jp.reuters.com/article/column-westinghouse-bankruptcy-idJPKBN1700AB?sp=true
コラム:
高圧経済のバトン、FRBから日銀へ
木野内栄治大和証券 チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト
[東京 29日] - 日銀は3月21日、『「長期停滞」論を巡る最近の議論:「履歴効果」を中心に』と題したレポート(日銀レビュー)を公表した。一般的にはあまり話題とならなかったが、イールドカーブ・コントロール政策の行く末を考える上で重要な示唆があったと思う。なぜなら、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が昨年触れた高圧経済(High pressure economy)政策に言及があったからだ。
高圧経済政策とは、供給能力を上回る需要の維持を推進する政策で、景気が良くても財政刺激策や金融緩和を継続する政策を指す。需給ギャップがプラスとなるような過熱気味な経済運営は、いずれインフレにつながるはずだ。
しかし、金融危機後や長期デフレなどの低圧経済下では、正規雇用が失われ、設備投資や研究開発投資が停滞した。こうした負の履歴効果(hysteresis effect)が残っている間は、見かけ上の需給ギャップがプラスに転じたとしても、ただちに深刻なインフレにはなりにくい。
なぜなら、就労を諦めた人が労働市場に復帰するので賃金インフレにはなりにくく、先送りされてきた企業の設備投資や研究開発投資が回復し供給能力は増加するので物不足にもなりにくいからだ。つまり、負の履歴効果が残っている間は、イールドカーブ・コントロール政策を継続することが正当化されると言える。
<イエレン議長も昨秋までは高圧経済政策に傾斜>
イエレンFRB議長は、昨年10月の講演で高圧経済政策に触れた際、こう指摘した。「負の履歴効果が存在するならば、政策によって総需要を長期間刺激し続ける高圧経済を維持していけば、逆に、正の履歴効果が起きる可能性もある」(翻訳は前出の日銀レビュー)。
思い起こせば、昨年8月下旬に開催されたカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)では、シムズ米プリンストン大学教授の講演で取り上げられた「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」が脚光を浴びた。
当時、民主党のクリントン大統領候補はオバマ大統領がサインした5年間で3050億ドルもの陸上交通修繕法(FAST法)に上乗せして、5年間で2750億ドルのインフラ支出を公約していた。同時に、財務長官にはブレイナードFRB理事が就任すると取り沙汰されていた。ブレイナード氏はイエレン議長に近いハト派の筆頭だ。高圧経済政策を開始する布陣の準備が整ったように感じた。
しかし、イエレン議長は11月の米大統領選挙で共和党のトランプ候補が勝利すると、「過熱気味の経済運営を実験的に行うことを推奨しない」と語り、手のひらを返すように高圧経済政策から距離を置いた(2016年12月14日)。
高圧経済には「政策によって総需要を長期間刺激し続ける」必要があるが、トランプ氏の公約はオバマ・クリントン財政のように安定的で予見可能とも思えなかったのだろう。ましてや、イエレンFRBに批判的だったトランプ大統領誕生でFRB議長の座を失う恐れがあり、くぎを刺そうとしたのかもしれない。
結果、FRBの政策は、見かけ上の需給ギャップを前提とする金融政策ルール(テイラールール)に則った方向に舵を切ったのだと思う。ジャクソンホール会議から続いていた財政・金融政策の協調路線の盛り上がりは米国ではしぼんでしまった。
<日銀が引き継いだイエレン議長の問題意識>
ただし、その間、日銀はイールドカーブ・コントロール政策に踏み出し、FRBから高圧経済政策推進のバトンを受け取ったかたちとなった。そうした中での、日銀による高圧経済に触れた前出のレポート(日銀レビュー)には注目せざるを得ない。
履歴効果が残っているということは、本来の潜在供給能力と、現在計測される見かけ上の供給能力にはギャップがあるとの概念を受け入れることになる。本来の供給能力とは、雇用のスラック(余剰)や、研究開発、設備投資の余力を加味した供給能力だ。そして、需要次第で見かけ上の供給能力は変化するとの概念も受け入れることになる。
日銀レビューも「こうした問題意識は、標準的なマクロ経済学が採用している総需要と総供給の(長期的な)二分法を前提とした分析枠組みに対しても疑問を投げ掛けているように思われる」と指摘している。
米国における本来の潜在GDPと現在計測される見かけ上の潜在GDPとのギャップに関し、イエレン議長は他者の研究を引用して7%程度存在している可能性を示唆している。日銀レビューでは15%程度あり得ると示唆している。日銀レビューによると見かけ上の供給能力と需要のギャップが1.5%程度と指摘される中において、別途、かなり大きなギャップが米国では存在していることになる。
<需要の長期刺激が肝要、性急な成長は禁物>
ただ、7%あるいは15%ギャップがあるからといって、トランプ大統領が公約したような性急な経済成長は禁物だ。就労をいったん諦めた人が再び職に就くことや、設備投資や研究開発の進展には時間がかかる。摩擦的とでも言うべきインフレが起きない程度の安定性を持って需要を長期間刺激し続けることが肝要だ。
現在は、イールドカーブ・コントロール政策の手仕舞いはインフレ目標達成がトリガーとなり得ると理解されている。FRBにしてもデータ次第と繰り返してきた。プロセスの観測ではなく結果次第との立場だが、それではトランプ大統領のような性急な経済成長を求めた予見可能性の低い財政政策や、見かけ上の需給ギャップの払底に対し、金融政策は振り回されることになる。
日銀レビューでは、高圧経済政策によって、正の履歴効果が起きる可能性もあると考えた場合、「どの程度総需要を刺激し続ければ、どの程度潜在成長率の回復が期待できるのか、検証していく必要がある」とまとめている。
つまり、達成されたインフレの結果次第ではなく、日本の本来の潜在供給能力をどの程度あると見るか、それを達成するのにどの程度の成長速度で、どの程度の期間総需要を刺激するのかといったプロセスの設計が必要との問題意識だと筆者は思う。
<高圧経済政策はいつまで続けるべきか>
プロセスを観測する点では、イノベーションや設備投資が促されている間は、高圧経済政策を続けるべきだと考える。高圧経済状態とは産業レベルで見れば人手不足状態であり、人手不足はイノベーションを引き起こしているからだ。
例えば、アベノミクス前から人手不足に陥った建設業では「i−Construction」と呼ばれる人手不足対策のイノベーションが広がってきた。結果、「建設現場の生産性を、2025年までに20%向上させるよう目指す」と、安倍晋三首相は明言した(2016年9月12日、第1回未来投資会議)。
9年間で20%とは、単純計算で年率2.22%にあたり、建設業のGDPシェア6.1%(2014年)をかけると、日本全体の潜在成長率を9年間にわたり毎年0.135%程度押し上げる計算となる。日本の潜在成長率は、日銀や内閣府によるとゼロ%台半ばとか0.8%と推計されており、0.135%は無視できない好影響だ。
こうした人手不足対策のイノベーションの例としては、最近では宅配業者が駅などに宅配ボックスの設置を進めており、2割程度を占める再配達の削減が期待されている。
このようにイノベーションや設備投資は高圧経済や人手不足に後押しされており、拡大余地が残されている。雇用のスラックや物価だけでなく、こうしたプロセスにも注目して高圧経済政策の一端を担うイールドカーブ・コントロール政策を続けるべきだ。そもそも、日本においては本来の供給能力と見かけ上の供給能力のギャップは米国よりもかなり大きく、高圧経済政策のベネフィットも大きいだろう。高圧経済政策のバトンを引き継ぐのに日本ほど適した国はない。
高圧経済政策に関するさまざまな議論が日銀レビューをきっかけに盛り上がることに期待したい。
*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
コラム:日本経済の「春」はいつまで続くか=竹中正治氏 2017年 03月 04日
コラム:米国よりも深い欧州「反イスラム」の闇 2017年 02月 13日
コラム:韓国政治混迷で日本に降りかかる「火の粉」=西濱徹氏 2017年 03月 21日
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-eiji-kinouchi-idJPKBN16Z1S7?sp=true
コラム:
米GM、株クラス分け提案は拒否が賢明
3月28日、著名投資家のデービッド・アインホーン氏は、米ゼネラル・モーターズ(GM)に普通株のクラス分けを求めているが、この提案は避けるのが賢明なようだ。写真はGMのロゴ。ミシガン州で2015年10月撮影(2017年 ロイター/Rebecca Cook)
Tom Buerkle
[ニューヨーク 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N)は2009年の経営破綻から立ち直り、昨年は北米で過去最高益を記録。株価も昨年はS&P総合500種を上回るペースで上昇した。しかし2017年の予想利益に基づく株価収益率(PER)はわずか5.6倍と、S&P500種構成企業で最も低い。
著名投資家のデービッド・アインホーン氏がGMに普通株のクラス分けを求めたのはこのためだ。アインホーン氏が率いるグリーンライト・キャピタルは、普通株を2クラスに分ければGMの時価総額は現在の540億ドルから最大380億ドル拡大すると主張している。アインホーン氏はこの提案についてGMのバーラ最高経営責任者(CEO)や取締役会と内々に協議したが物別れに終わり、GMの年次総会に諮る見通しだ。
提案によると、2クラスのうち1つは年1.52ドルの配当が恒久的に支払われ、もう1つには成長によって生まれた追加利益が反映される。
アインホーン氏は5年前に潤沢なキャッシュを抱えるアップル(AAPL.O)にも同じような計画を提案し、拒否された。
アインホーン氏のGMへの提案はある意味で筋が通っている。GMの配当利回りは4.4%で10年物米国債の利回りを2%ポイント上回るが、高い評価は得ていない。利回りを求める投資家をもっと引きつければ、バランスシートを過度に広げることなく企業価値を高めることができるだろう。
ただ、アインホーン氏の提案に懐疑的になるのも無理はない。北米の景気回復は既にかなりの期間にわたって続いている。過去2年間の乗用車と軽トラックの販売は年率換算1750万台近辺と過去最高水準で推移。自動車ローン残高は2010年に底を付けた後、59%増加し、中国の成長もかつての勢いを失った。
景気循環と同様に技術面でも困難が待ち構えている。中国の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK)から出資を受けた電気自動車のテスラ(TSLA.O)は、生産台数はGMの1%に達していないにもかかわらず、既に株式時価総額がGMの85%に達している。テスラのイーロン・マスクCEOは自動運転車を開発する方針を示しており、GMが遅れを取らないためには相当の資本が必要になるだろう。
グリーンライトの提案では、GMは業績が悪いときにも配当を支払い続けなければならず、柔軟性が制限される。このためムーディーズは提案に消極的な姿勢だ。これらすべてを考え合わせると、株主は提案を避けるのが賢明なようだ。
●背景となるニュース
*著名投資家デービッド・アインホーン氏が率いるヘッジファンドのグリーンライト・キャピタルは28日、GMに対して普通株を2つにクラス分けして企業価値を上げるよう提案し、GMが拒否したと発表した。
*2クラスのうち1つは既存株主に新たに割り当てられ、配当が支払われる「配当株(dividend shares)」。もう1つは既存の普通株で、全収益と将来の成長分が反映される「資本増価株(capital appreciation shares)」となる。
*グリーンライトは、GMの現在の配当(年1.52ドル)は市場から評価されていないと指摘。配当を狙う投資家向けと成長を重視する投資家向けに株式をクラス分けすることで、両株合わせて43─60ドルの価値を生み出せると主張した。
*GMは、グリーンライトからの提案について取締役会や上級幹部、格付け会社と約7カ月間にわたり協議した結果、「受け入れ不可能なリスクが生じ、株主にとって最良の利益にならない」と判断したと説明した。
*ムーディーズはグリーンライトの提案について、財務面の柔軟性を低下させて信用リスクを高めるとして、GMとその子会社の格付けにとってマイナスの影響があるとの見方を示した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
コラム:「バフェット信仰」はもうたくさん 2017年 03月 03日
コラム:中国の外貨準備高、越えた危険な一線 2017年 02月 08日
コラム:米国の移民制限でカナダに向かう有能な人材 2017年 03月 23日
http://jp.reuters.com/article/column-gm-idJPKBN1700FI
オピニオン:英国とEU、円満離婚は望み薄=吉田健一郎氏
吉田健一郎
吉田健一郎みずほ総合研究所 上席主任エコノミスト
[東京 29日] - 英国政府が29日、欧州連合(EU)に対し、EUの基本条約であるリスボン条約50条に基づく脱退通告を行うことで、両者の「離婚協議」が正式にスタートする。
メイ英政権は2年間の協議で脱退協定と新協定を同時にまとめたい意向を示しているが、安易な前例作りを避けたいEU側の意向を考えれば、そのハードルはかなり高いと、みずほ総合研究所・上席主任エコノミストの吉田健一郎氏は指摘する。
現実的には脱退清算金問題など「離婚条件闘争」に時間をとられ、2019年3月末に予定される英国のEU離脱時に、世界貿易機関(WTO)の枠組み以外、両者間に通商協定がない事態もあり得るという。
同氏の見解は以下の通り。
<ボールは英国からEUへ、巨額の「離婚慰謝料」請求も>
英国民投票におけるEU離脱(ブレグジット)選択から9カ月を経て、メイ英首相がトゥスクEU大統領宛てに、リスボン条約50条に基づく正式の脱退意思を通告する。このことは、交渉のボールすなわち主導権が英国側からEU側に移ったことを意味する。
正式の通告がなければ、離脱交渉は始まらないため、これまではEU側もせいぜい口先でけん制することぐらいしかできなかったが、今後は英国めがけて、挑発するような高い内角球をどんどん投げ込むことが可能になる。周知の通り、欧州はフランスやドイツなどの中核国で選挙が相次ぐ政治の年に突入している。EU懐疑政党に対し離脱の道のりがいかに厳しいものかを知らしめるためにも、EUは英国に対して安易な妥協を行わないだろう。
実際、報道から漏れ伝わるEU側の交渉姿勢は、極めて厳しいものだ。例えば、欧州委員会のユンケル委員長は、英BBC放送のインタビューの中で、英国に対し、約600億ユーロもの「離脱請求書(ブレグジット・ビル)」を提示する可能性を示唆している。
根拠は、EU予算の未払い金だ。EUは予算を複数年にわたって組むが、現行予算は2014年から2020年までの7年間をカバーしている。脱退協定が通告から2年後の2019年3月末までにまとまれば、その時点で英国はEUを離脱することになるので、それ以降の予算を拠出する必要はないと英政府は主張するだろうが、EU側は2020年までの分を含めて清算を求める模様だ。
600億ユーロと言えば、英国の国家予算の6―7%に相当し、国防費を上回る。ブレグジットによって浮くEU予算拠出金分を国内投資に充てられるとしていた離脱派のロジックが崩れることになり、到底、満額回答できるものではないだろう。とはいえ、ゼロ回答では、EU側も矛(ほこ)を収めず、いつまでも脱退協定交渉が続き、新協定交渉に進めない可能性がある。
後述するように、EUとの間で新協定がないまま離脱すれば、英国経済の混乱は避けられない。EU側が、新協定をいわば人質にして、巨額の離婚慰謝料のような無理筋の要求をどこまで続けるのか。いずれ双方とも妥協点を探ると思いたいが、EU市民の英国での地位保全問題や、北部アイルライドの国境問題、ジブラルタルの帰属問題など懸案は他にも数多くある。交渉の広さと難しさを考えると脱退協定と新協定をともに2年以内にまとめ上げるという英政府が目指す交渉スケジュールはあまりに短い。新協定がないまま脱退協定のみが締結され、英国とEUがいったん袂(たもと)を分かつ可能性は十分あり得ると考える。
<在英企業が払うブレグジットコストの中身>
では、仮に時間切れになった場合、英国とEUの経済関係はどうなるのか。また、在英企業にはいかなる影響が及ぶのだろうか。
端的に言えば、その頃までに自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などの特別な計らいが未締結ならば、両者は基本的に世界貿易機関(WTO)の枠組みに基づく「普通の関係」に移行することになる。EU域内市場における「ヒト・モノ・カネ・サービス」の4つの完全自由移動というメリットは、英国・EU間では消失する。
その場合、大陸欧州に製品を輸出している在英製造業は、関税などのコスト負担増に直面する可能性が高い。WTOのアゼベド事務局長は英紙のインタビューで、英国がEUを離脱しWTOの枠組みのみとなれば「年間90億ポンドのコスト増になる」と述べている。中でも影響が大きな品目は自動車や航空機部品などの輸送機器関連、あるいは電気機器などだ。英国内に製造拠点を持つ日系メーカーも当然、負の影響を受けることになる。
カネの面でも、国境をまたぐ子会社間の配当送金に源泉徴収税が課される可能性もある。またサービスの面では、EU域内に適用されるシングルパスポート(単一免許)を英銀や第三国金融機関が喪失した場合の影響が懸念される。ここでも特別な計らいがないとすれば、大陸欧州において新たに現地法人を設立し、シングルパスポートを取得し直す金融機関が続出するかもしれない。英国内でユーロ決済業務を不自由なく行えるかという点にも注意が必要だ。EU離脱により、決済機能の一部が大陸欧州に移ってしまう可能性は否定できないからだ。
なお、EUとの間でFTAが結ばれたとしても、EU側に輸出する際には英国製品であるという原産地証明が必要になり、企業は部品・原材料調達を含むサプライチェーン全体の再考を強いられることになりそうだ(ちなみに、EU・カナダの経済協定では、域内原産割合は50―60%)。こうした取り組みも企業側にコスト負担増として重くのしかかってくる。
このように考えると、企業の英国離れはやはり今後進むとみられ、ブレグジットはボディーブローのように英経済に効いてくる可能性が高い。確かに、ポンド安の支えもあり、ブレグジット決定後の英経済は景気拡大を維持しているが、足元で企業の景況感(PMI)は低下傾向が続いている。
また、ポンド安を背景にインフレが進む一方で、名目賃金が伸び悩んでいる現状は心配だ。実際、個人消費には減速の兆しがある。ブレグジットに伴う経済困難はまだほんの序の口だと考えたほうが良いだろう。
<EUの正念場は次の選挙イヤー「2021―22年」か>
むろん、EU側にとっても、英国との「ヒト・モノ・カネ・サービス」の自由移動を失うことは身を切る選択だ。二重コストを強いられるのはEU側の企業も同じである。
足元でユーロ圏は景気回復が続いているものの、内需主導の自律的な回復とは言えず、米中など域外需要の回復による面が大きい。この局面でのブレグジットは負の影響が大きく、本来ならば、喧嘩(けんか)別れのようなハードブレグジットを避ける経済的インセンティブがEU側にも強く働いておかしくない状況だ。
ただ、EUは政治的な求心力確保を優先し、恐らく自ら譲る姿勢を見せないだろう。前述した通り欧州は政治の季節に投入しており、4月下旬から6月にかけてフランス大統領選・議会選、秋にはドイツ連邦議会選が控えている。イタリア議会選も来年5月までには実施される予定だ。
3月15日のオランダ議会選は既存政党が勝利したが、フランスでは極右政党「国民戦線(FN)」のルペン党首がマクロン元経済相に次ぐ支持を集めている。ドイツでは右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が党内分裂で勢いを失っているものの、イタリアでは反体制派の「五つ星運動」が与党・民主党の分裂を横目に、党勢を盛り返しており、安心は禁物だ。
私は、EUの真の正念場は、次の選挙イヤーである2021―22年に訪れる(今回は辛うじて既存政党が踏みとどまる)とみているが、目前のポピュリズムの嵐を乗り切るためにも、ここで英国に甘い顔を見せるわけにはいかないとEUのリーダーたちは意を決しているのではないだろうか。
(聞き手:麻生祐司)
*本稿は、吉田健一郎氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*吉田健一郎氏は、みずほ総合研究所・欧米調査部の上席主任エコノミスト。1996年一橋大学商学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。対顧客為替ディーラーを経て、04年より、みずほ総合研究所に出向。エコノミストとして08年―14年にロンドン駐在。ロンドン大学修士(経済学)。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
森永製菓と森永乳業の株式売買を一時停止=東証 2017年 02月 24日
コラム:仏経済事情に見るルペン人気の正体=山口曜一郎氏 2017年 03月 28日
〔マーケットアイ〕外為:中国貿易収支は600億元の赤字、輸出伸び悩み 2017年 03月 08日
http://jp.reuters.com/article/opinion-brexit-kenichiro-yoshida-idJPKBN1700CH
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