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グロアシス・ウォーターボックス(「Wikipedia」より/Ingeev)
空気だけで走る車、普及本格化で日本自動車メーカーの脅威に…空気から水生成も普及
http://biz-journal.jp/2017/03/post_18480.html
2017.03.28 文=浜田和幸/国際政治経済学者 Business Journal
数年前のことだが、資源エネルギー外交の一環として中東諸国を訪問した。なかでもサウジアラビアでの体験は強烈であった。同国の外務省で日本人初の講演を行った後、砂漠の民ベドウィンの族長のもとを訪ねた時のことだ。
それまで何カ月も雨が降らず、ラクダの乳で喉を潤していたとの話を聞いていると、突然、あたりが薄暗くなり、無数のトンボが出現。その直後、雨が降りだしたのである。ベドウィンたちからは「恵みの雨をもたらしてくれた日本人」ということで、大歓迎されることになった。乾燥地での生活において「水一滴は血一滴より貴重」という。あらためて水の重要性を噛みしめたものである。
いうまでもなく、世界的な水不足が深刻な問題をもたらし始めている。水源をめぐる紛争や対立も激化しつつある。2025年までに、世界人口の3分の2は水不足の生活を余儀なくされるようになるという。シリアで続く紛争も、元をたどれば水問題が引き金であった。
■「ウォーターボックス」
しかし、「ピンチはチャンス」との発想でこの水不足を新たなビジネスと受け止め、技術の力で乗り越えようとする動きも各地で見られるようになってきた。国連や世界銀行でも水問題の深刻さを訴えると同時に対策に向けての資金提供も進めている。もちろん、民間サイドにおける研究開発や商品化の動きも活発化している。
たとえば、すでに08年の時点で、オランダで開かれた科学技術サミットにおいてオランダ人の発明家ピーター・ホッフ氏は「ウォーターボックス」と銘打った新商品を展示し、栄えあるベーター・ドラゴン賞を獲得している。欧州を代表する電機機器メーカーであるフィリップスCEO(最高経営責任者)のジェラルド・クライスターリー氏から「最も将来が期待される革命的な発明」と認定する賞状と賞金を受け取ったものだ。
その後、この新商品は「グロアシス」という名称で知られるようになった。このアクアプロ社製商品は砂漠地帯において木を育てる上で欠かせない技術になるとの期待が高まっている。すでにサハラ砂漠での実験を通じて、その性能が立証されつつあるからだ。砂地とか岩場という劣悪な環境のもとでも、この装置を使えば大気中から必要な水分を吸収し貯蔵することで、そのボックスに植えられた木が大きく育つようになる。
ウォーターボックス自体はプラスチック製の長方形の箱で、真中に穴が開けられている。その穴に木を植えるのだが、箱の中には土が詰められている。この発明品の特徴は夜間、水蒸気を吸収し箱の中にためておくことができること。もちろん、雨が降れば、その水をためておき、必要な水分を埋め込まれた木に与えることができる。しかも、強い太陽光線や風、あるいは雑草、害虫などから樹木の根を完全に保護してくれる。1年間そうしたウォーターボックスの中で育てられた苗木は、その後ウォーターボックスを取り除かれた後も自力で逞しく成長できるようになる。
サハラ砂漠での実験では、2つのグループに分かれて、この技術の有効性が試された。ひとつのグループはこのウォーターボックスを利用し、もうひとつのグループは自然のままに放置され、毎日人が水を与えるという条件に置かれた。その結果、3カ月ほど経った時点で2つのグループの成育状況を比べたところ、ウォーターボックスに植えられた木は90%ほどが順調に育ち、緑の葉を増やしていた。極めて強い太陽の下に置かれていたにもかかわらず、すくすくと育っていたのである。
もうひとつのグループは毎日水を与えたにもかかわらず、残念ながら90%以上が枯れ果ててしまった。発明者のホッフ氏に言わせると「このウォーターボックスを使えば、そして植えるべき樹木の種類を選べば、地球上の砂漠を緑地に変え農地に生まれ変わらせることも可能になるだろう」とのこと。中東やアフリカ、インドなど厳しい自然環境の土地にはこのウォーターボックスが強い味方になりそうだ。
実際、12年にはスペイン、オマーン、エチオピアをはじめ南米チリなどでも効果が確認されている。日本では鳥取砂丘という環境を活かし、鳥取大学の乾燥地研究センターが同様の実証研究で成果を上げ、海外への技術移転にも積極的に取り組んでいる最中である。アフリカや中近東の砂漠地帯を中心に日本からの技術を生かした砂漠の緑化と農業生産が試みられている。
しかも強気のホッフ氏は「このウォーターボックスを使い、20億ヘクタールの森林を育てることができれば、現在人類が放出している二酸化炭素(CO2)を全て吸収することも可能になる」とまで豪語する。地球温暖化対策にも役立つというわけだ。「人類が過去2000年の間に伐採してしまった森林を自然の力を利用して取り戻すことが夢だ」と熱く語る。
■家庭用の造水機
実は、似たような技術はカナダの発明家もすでに商品化している。カナダの「エレメント・フォー」という会社は家庭用の造水機を開発し、すでに市場に投入済みである。この造水機の特色はやはり空気中の水蒸気を吸収し浄化した後に、飲み水として利用することを可能にしたものである。
「ウォーターミル」と呼ばれる造水機で、使用する電力は極めて少ない。一般家庭の壁に装着し、空気中からフィルターを通して不純物を取り除いた後に水を製造する。最近流行しているインフルエンザなどの病原菌も、マイクロ波を照射することで殺菌除去する機能も付いているため、単に水を空気から絞り出すだけではなく、大気中に含まれる雑菌や細菌も除去してくれるというので人気が出ている。
■空気から飲料水をつくる機械
こうした空気から水をつくる機械の開発が盛んになってきた背景には、何があるのだろうか。実に驚くべき事実であるが、「大気中には大量の水分が含まれており、その量たるや地球上のすべての河川に流れる水の量より8倍以上も多い」ということ。そのため、湿度が30%以下でも、このウォーターミルは十分水分を吸収し、飲み水に変えることができるという。全自動の湿度感知器がついているため、夜明けの最も湿度の高い時間に効率的に水分を吸収できるようになっている。
すでにアメリカ、イギリス、イタリア、オーストラリアでは販売が始まっている。日本でもすでに特許申請が認められているという。そこで、気になるお値段であるが、1基1200ドル。約13万円。アメリカでは人気が高いというが、果たしてどこまで日本人の味覚に合った水を提供してくれるものか。日本ではペットボトルが普及しており、こうした造水機の需要はまだそれほど大きくはなさそうだ。
とはいえ、アメリカのサンフランシスコ市ではペットボトルの使用を職員に対して禁止するという条例を可決したほどだ。水不足に対する対策のひとつであるが、今後、日本にも波及しないとは限らないだろう。
そうした傾向を踏まえ、カナダのウォーターミルに負けてはならじと、アメリカのエックス・ジエックス社も空気から飲料水をつくる機械を完成させ、市場に売り出すことになった。1ガロンの水をつくるのに10セントの電気代がかかるが、この機械も空気中の汚れやほこりをフィルターで除去し、浄化処置をした後に飲み水に変えることができるという。
「あらゆる種類の空気から水を作り出し純粋で安全な水を生み出す」というのがうたい文句になっている。このエックス・ジエックスの販売戦略は、一般の水道水が生物化学テロに襲われるといった非常事態を想定したものにほかならない。水道水が安全とはいえ、その水源地に有害物質が投入されたり、地震や災害で水道管が破裂するようなケースを想定し、空気中から必要な飲料水を確保しようという危機管理の発想である。こうした危機管理の観点から「空気中の水蒸気を活用する水製造機」は、将来的には必要な生命維持装置として社会的な認知を受けることになるかもしれない。
一方、アメリカやカナダに対抗するかのように、ドイツの研究機関においても空気中の水蒸気を利用した造水機の実用化が進みつつある。シュツットガルトにある「IGB」と呼ばれるバイオテクノロジーの研究所では、「ラゴス・イノベーション」と呼ばれる民間企業と提携し、自動的に空気中から飲料水を生み出すメカニズムを開発した。
砂漠地帯など乾燥地においても空気中から飲料水を確保することができるため、その実用化が期待されている。湖や川、あるいは地下水や水源地がまったくない場所であっても、この機械は水を生み出すことができる。IGBではすでにイスラエルのネゲブ砂漠で実験を繰り返している。この砂漠地帯では大気中の湿度が年平均して64%であるため、1立方メートルの空間から11.5ミリリットルの水を安定的に確保することができるという。
■新しい技術革新
「必要は発明の母」というが、今や世界各国で水不足を克服するための新たな発明の競争が始まっている。インドシナ半島やサブサハラなどアフリカ大陸においても水資源をめぐる争いは激化の一途をたどっている。海水を淡水化する、あるいは汚染された水を浄化し再利用するといったこれまでの造水技術とはまったく発想が異なるアプローチが注目を集めている。地球上のあらゆる場所に公平かつ潤沢に存在する空気。この無限の資源から水を造りだすという開発レースが始まったのである。水の豊かな日本においては、これまで思いつかなかったアイディアといえるかもしれない。
しかし、考えようによっては、これほど確実な水源地の確保につながる技術もないだろう。日本は海水の淡水化を可能にする膜技術では世界をリードしているものの、既存の技術の上に胡坐をかいていれば、こうした新しい技術革新の波に乗り遅れることにもなりかねない。
イザヤ・ベンダサン氏が「日本人は水と安全はタダで手に入ると思い込んでいる」と50年ほど前に指摘していたが、水をめぐる争奪戦が過熱し始めた今日、我々は水を確保するためにはあらゆる可能性を探り続けねばなるまい。水資源獲得レースに終わりはないのである。水に恵まれている日本だが、地球温暖化の影響は免れない。
これまでの常識にとらわれない瑞々しい発想で、新たな技術開発に取り組む必要がありそうだ。
たとえば、アメリカのエネルギー省では「太陽光を使って水を酸化させ可燃性化学物質を生み出す研究」にも資金提供し、着実な成果を上げている。17年3月の時点で、カリフォルニア工科大学では光電解物質の製造に道筋をつけたと報道された。要は、「水を新たなエネルギー源に転換する」というわけだ。日本も負けてはいられない。
■空気で走る自動車
それとは別に、空気で走る自動車(エアーカー)の登場には、世界が驚かされた。この空気自動車を開発したのは、フランスの自動車メーカー、ルノーにおいてF1レース用のエンジンを研究してきたガイ・ネグロ博士。同博士はルノーを退社した後、私財を投じて、究極のクリーンカーを設計することに情熱を傾けた。15年の試行錯誤を経て、ようやく市場に出せるところまで漕ぎ着けたのである。
5000ドル強という低価格とゼロエミッション(排出ガスゼロ)が売りだ。このところ自動車業界では自動走行車が話題をさらっているようだが、究極のエコカーとしての将来性を秘めたエアーカーは環境保全の観点からいえば、人類社会にとってまたとない財産になるに違いない。
その宣伝もかねて、MDIは08年3月、ニューヨークで開催された自動車ショーに最新型のエアーカーを出展し、多くの来場者の関心を集めた。地球温暖化という深刻さを増す環境問題に対する切り札になる可能性を秘めたエアーカー。冷却圧縮空気を主動力とするため、ラジエーターもウォーターポンプも必要ない。米「タイム」誌が選んだ「世界を変える最新テクノ」にもランクインした。
この技術のお陰で、エンジン全体の8割が超軽量のアルミニウムでできるようになった。従来型のガソリンエンジンと比べれば、その重さは約半分。必然的にボンネットや車内のデザインが極めて柔軟に設計できる。燃料となる圧縮空気を保存するタンクや部品を結ぶカーボンファイバー(炭素繊維)はすべてフランスの航空機メーカー、エアバスが供給している。
いい換えれば、フランスの自動車と航空機メーカーが手を結び、そこにインドの自動車メーカーと投資ファンドが資金を出すという新たな国際的アライアンスが誕生したわけだ。本格的な生産は世界の需要を見極めながらインドの工場で始まる。日本への導入も期待されているが、現時点では日本国内の法律が阻害要因として邪魔しているようだ。
現行の道路交通法によれば、国内の道路を走行できる車種に空気自動車は認められていない。さらにいえば、既存の自動車メーカーからの反対がより大きな障壁となっていると思われる。日本の自動車メーカーにとっては強敵の登場となるからだ。
しかし、欧米では徐々に普及が始まっており、タクシーやバスへの導入も始まっている。アメリカの西海岸では環境意識が高いせいか、このエアーカーの所有者が増えているという。筆者はフランスで試乗してきたが、運転感覚も乗り心地もすこぶる快適であった。日本の市場に究極のエコカーが参入できるのも時間の問題かもしれない。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)
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