http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/506.html
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家で仕事ができる時代、職場に来る理由は何か?
これからの働き方と仕事の視点
ヤフー・宮坂学氏 × グライダーアソシエイツ・杉本哲哉氏
2017年3月28日(火)
楠本 修二郎
「一億総活躍社会」の実現に向け、日本の企業や暮らし方の文化を変えるものと政府が位置づける「働き方改革」。昨今、この言葉を新聞や雑誌で目にする機会も増えた。しかし、政府がこの言葉を使い始める前から、従来の会社組織や形骸化した制度に捉われず、多様な働き方を模索し、新たな社内制度や体制づくりにチャレンジしている民間企業もあった。
本企画は、2001年にカフェ・カンパニーを創業して現在、国内外で100店舗以上を展開、他社とのコラボレーションによる商業施設の企画や地域創生、政府主導の「クールジャパン戦略事業」にも携わる楠本修二郎が、いま“気になる人”たちと一緒に毎回、未来の企業、働き方、生き方などのテーマについて語る鼎談企画(全6回)だ。
第1回の今回の鼎談のきっかけは、かつてヤフーの宮坂学社長から、「会社をカフェにしたいんですよね」という話を聞いたことから始まる。ヤフーは日本を代表するインターネット企業であり、約6000人の従業員を擁する一大企業。
なにゆえにカフェ? 会社組織とカフェに接点があるのか?
これをテーマに話をするのも面白そう。ならばネットビジネスの社長にもう1人参戦してもらいたいと考え、ご招待したのがグライダーアソシエイツの杉本哲哉氏。現在、キュレーションアプリ「antenna*」の開発と運営を手がけ、同社では社長を務めている。連載第一回は、この3人でいまの「会社」の在り方や「働き方」について語る。
左から、グライダーアソシエイツ社長の杉本哲哉氏、ヤフー社長の宮坂学氏、筆者(楠本修二郎)。(写真:的野弘路)
「カフェ的な会社をつくろう」
杉本:今回の鼎談のテーマは「カフェと会社」。そもそも楠本さんの考える「カフェの良さ」って、どういうものなんですか?
楠本:僕は常々「カフェ的な会社をつくろう」という考えをもって経営に携わっているのですが、まずカフェの良さって「多様性」だと思っているんです。いろいろな人たちが、それぞれ自分の価値観を持って、いろいろなスタイルで、いろいろな生き方を持って来る場。会話もしやすいから、フラットにつながることができる。
杉本:カフェのエネルギーとか活力みたいなものを職場に持ち込めたら、それは理想なんだと思います。実際、カフェで仕事すると新しい発想が生まれる時もあるし、カフェに行ったからこういうアイデアが出たという経験は、確かにあります。
だけど、それは最初からそこがカフェだからであって、会社をいくらカフェっぽく設(しつら)えたとしても、そうなるとは思えない(笑)。だから僕は、それがうまく成立するためには、そこに集う人、1人ひとりが相当優秀じゃないとムリだと思っているんですが…。
杉本哲哉(すぎもと・てつや)氏
グライダーアソシエイツ社長
1967年8月神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、リクルートへ入社。2000年にインターネットを活用した市場調査を行なうマクロミルを設立し、2005年東証一部上場。2012年に設立したグライダーアソシエイツからキュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」をリリース、好評を得ている。表参道にあるコミュニティ型空間の「COMMUNE246」で期間限定店舗「antenna*<>Wired Cafe」をカフェ・カンパニーと共同運営(〜2016年12月)。
楠本:確かにデザインがカフェだったらカフェになるかというと、僕もそうではないと思っています。だから「カフェのような会社」というのは、会話やアイデアなどが生まれるきっかけをつくる環境であり組織づくりだと思っているんです。
例えば、カフェ・カンパニーではスタッフの個性を伸ばすために「スジコ組織」というのを提唱しています。組織の上長への報告、相談という縦ラインだけでなく、横ラインと斜めラインをつくっている。斜めのラインとは、近所にいる世話好きのおじさん、おばさんみたいな存在。メンターというか擬似家族にしちゃうんです。そうした組織を作ることによって、スタッフ各々の個性を、1人の上長だけの判断ではなく、みんなで伸ばせるような仕組みを敷いています。
「スジコ組織」は、社員はパズルのピースではないという発想から生まれている。パズルの場合、ピースが全部そろって会社の組織が完成する。もしひとつの部品が欠けたら、同じスペックを調達して当てはめるだけ。しかし、スジコ型なら一つひとつのイクラの形も大きさもどうとでもなる。新しい個性の粒が入ってきたら、全体の形も変わることになる。つまり、社員一人ひとりの個性を活かした形に組織全体が変わっていく。
そのうえで、店舗のマニュアルはあえて作っていません。100店舗あってもマニュアルがない会社って大変なんですが…。マニュアルを作ると虎の巻になり過ぎてしまい、そこだけに答えを求めてしまう状況を避けるためです。マニュアルは、安心は担保できるけど、逆に人の感性や組織が硬直化してしまう可能性があるから。そういう組織になりすぎると、会話も減ってしまいます。できる限り「会話する会社」にしたいですし、「会話がはずむような組織」をデザインすることがカフェ的な会社なのだと思いますね。
6000人でも「カフェ的企業」は成り立つのでしょうか?
杉本:いまの話、ヤフーさんのような大きな組織でも成り立つと思いますか?
宮坂:うちも今わりと、楠本さんに近い方向を目指しています。多様な人たちの集まる場所づくりを、試行錯誤中です。もちろん、できているとは言い切れない。大きな組織ゆえのジレンマもあります。もっともっと権限委譲をしていこうと考えています。うちの場合、サービス分野が幅広い。ゲームを作っている部門がある一方で、金融(フィンテック)をやっている部門もあるわけです。だから、これを同じ1つの組織文化でどうつくっていくかというのが、凄くチャレンジングなことだと思っているんです。
杉本:そもそも、ヤフーさんの場合、文化を1つにする意味がないかもしれないですしね。
宮坂:極力、分けていく方向にしたいとは思っています…。あとは、楠本さんと同じく、できるだけマニュアルも減らしたい。会議より会話。僕が「カフェ的な会社」にしたいと考えている理由の1つは、いつも同じ人としかしゃべらない生活が嫌だからなんです。
会社に来て、半径約10メートル中の人間関係だけで、お昼ご飯は毎回同じ人と行ったり、同じ人としゃべる…。下手すると晩飯も一緒で、会っているお客さんも一緒になってしまう状況を避けたい。そういう状況を続けていくと、オペレーションの効率が一時的には上昇し、作業的にも楽なのかもしれませんが、果たしてクリエイティブなのだろうか?と思ってしまいます。
違う人と会うことが、無駄になることもたまにはありますが、でもやはり半径10メートル外の人との会話がある会社にしたいと考えていたら、行き着いた答えがカフェのイメージだったんです。
楠本:制度や組織の側面で、カフェと共通するものってありますか。
宮坂:カフェには会話があるけど会議はないですよね。会社に会話を増やしたいです。カフェみたいに会話がいっぱいあって、会議が少ない会社にしたいです。あと、横のつながりをどう維持するか、というのが課題になってくると考えています。楠本さんは、横のつながりをどうやって活性化させているのでしょう?
宮坂 学(みやさか・まなぶ)氏
ヤフー社長
1967年11月生まれ、山口県出身。1991年同志社大学経済学部卒。編集プロダクションを経て、1997年に53番目の社員としてヤフーに入社。2002年メディア事業部長、2009年執行役員コンシューマ事業統括本部長。2012年4月に最高経営責任者、6月に社長就任。バックカントリースキー、ロードバイクなど自然と向き合うアウトドアスポーツ全般が趣味。
マニュアルは状況が変化した時にリスクにもなる
楠本:横の関係や斜めの関係をつなげるためには、キーワードというか、共通の理念が必要だと思うんです。
杉本:ただ、大企業の場合はやはり大きな方針なり、逆にこれはやらないというタブーのようなものも、ある程度決めておかないと大変なことになるでしょう。
マニュアルなしでもできるのは、例えば「ワイアードカフェ」という1つのアイコンがあるじゃないですか。既に「ワイアードカフェはこういうものである」ということを理解しているお客さんがいて、通い詰めた人がアルバイトに入ってきたりしているからマニュアルがなくともできるのでは、と思うのですが。
楠本:確かに。ただ、マニュアルはないんだけど、僕は会社の存在意義は社員にはしつこいぐらい言っていますよ。
宮坂:文化ですよね。マニュアルは形骸化しますし、状況が変化した時に逆にリスクにもなってしまいます。手っ取り早いのはマニュアルですが、より強力なのは文化によって、みんなの行動規範が決まっていくことだと思います。
僕が飲食業が羨ましいと思うのは、目の前にお客さんがいるということです。僕らネットの会社では、お客さんのことを知ろうとデータを見るんですが、お客さんが喜んでタップしているのか、怒ってタップしたのか、お客さんの表情が分からないんです。ページビューが20%増えれば2割喜んでいるだろうみたいなことは考えるのですが、それでは何か抜けているんですよね。お客さんの素直な反応って、素直に共有できるテーマだと思うんです。
楠本:ネットビジネスの方々の話をしていて羨ましいと思う部分もありますよ。僕ら飲食業の場合は、1週間、2週間で飽きられるメニューを作っていたら商売にならないんです。なので、新しいお店をオープンしたその日から既に、メニューの見直しが始まる。時間との戦いです。
ネットビジネスはそれよりもレンジが長いのかな。だいたい「失敗してもいいから、新しい企画を上げよう」と言ってから、どのくらいの猶予があるものですか。トライ&エラーを繰り返す時間的な余裕はどれくらいあるのか。もちろん事業規模にもよるでしょうが…。
杉本:僕の場合は、1カ月とか四半期毎に顧客のログを見て判断しています。そこからプロモーションをもう1回入れ直すかどうかとかの議論をしているので、我慢の時間は楠本さんよりも長いかもしれない。でも、先ほど宮坂さんもおっしゃっていたように、楠本さんの商売は直接お客さんの反応が見える。リアルな空間があるから、その時その時の結論が見えると、1週間で何となく分かるじゃないですか。これって全然受けてないなとか。この場所だとダメなんだなとか。
楠本:でも、その場所が仮にダメだったとしても簡単に逃げられない(笑)。ネットだと、「じゃあこのサービスをやめて次はこれやってみよう」とか切り替えはやりやすいように見えますけど。
杉本:いや、実は結構時間が掛かかるんですよ。
宮坂:うん、なかなか簡単にはできない。
人は人間関係を維持するための努力をしない?
楠本:業種は違うけど、誰だって失敗はしたくないですよね。そこで社内での会話の機会を増やすことで、擬似的にトライ&エラーを増やせる、ということはないでしょうか? 会議だと意思決定することが目的になっちゃうので、その前の段階の会話を増やすことが重要だと思うんです。
宮坂:ある経営者のインタビューで「会議というのは、基本的にアイデアを潰すためにあるんだ」と言い切っている人がいて、「これって結構、名言だな」と思ったんです。 “前向きな反応”というのは会社から失われやすいものなので、意図的に、そうならない仕組みをつくらないといけない。その1つとして会話が弾む場づくりなんです。
杉本:ヤフーさんだって、最初は昔の日本企業的な職場でしたよね。デスクが全部フラットでしたし、テーブル4つに電話が1個真ん中にポンと置いてある感じでした。2000年くらいだったと思いますが、パーティションで各デスクを囲う全員「個室タイプ」が主流になり、「最初は凄いなぁ」と思っていたんですが、実際には、あれって社員が自分の世界に入ってしまって…一気に会話がなくなった。そしていまは、パーティションスタイルも流行らなくなった。うちも置いてないです。
宮坂:僕らも撤去しています。
杉本: 300人ぐらいいるフロアだと、パーティションがなくてもコミュニケーションは意外と生まれないんです。ちょっと自分の席と離れた他のメンバーの動向が分からない。歩き回っている人もいなくて…。結局、僕が一番歩き回っていたりとかするんです(笑)。だから、パーティションをなくすとか、フラットなフロアだけでは解決しない。
宮坂:そのために、コミュニティーをつくることも考えています。人間関係って、少しの間、話さないだけですぐに関係性が切れてしまいます。フェイスブックができてもう1回つながって、今度はちゃんと維持しようと努力しているんですが、あっという間に切れてしまいます。やはり人は人間関係やコミュニティーを維持することに対して時間をあまり割かないのだと思います。
もっと意図的に隣の人に声を掛けることや、前の部署で繋がっていた人と月に1回はご飯に行くとか…。そういう努力をすることが大切なんだと思います。
例えば、週に1回お昼ご飯を隣の部署の人と食べると決めてしまえば、1年間に50回は他部署の人と食べられる。週に10人とランチをすれば500人になり、相当豊かな財産になる。別にリターンを求めてやるわけではないんですけど、ある種の習慣化は必要かなと思います。
楠本:会社として、それを制度化するのはどうでしょうか。
宮坂:違う部門間のランチには奨励金を出す、という会社もありますよね。最近は、社員食堂をすごく充実させる会社もある。会社は会社でそこはいろいろと悩んで、ハードや制度でできることを一生懸命やっているんだと思います。ただ、杉本さんの言われたように、社員食堂をつくっても、いつものメンバーと同じテーブルにいることになるのであれば意味がない。もうひとひねり必要なんです。
米国のネット系の会社ってみんなオフィスをつくるのに工夫しています。ある意味、オフィスが最大の企業文化を表す装置であり、最大の社内報的な存在になっている。グーグルやフェイスブックもそれぞれ、「自分たちらしさ」というカラーがすぐに分かる仕掛けを組み込んでいるでしょ。それを形容するとしたら「カフェ」という言葉が浮かんだんですね。
日本なら、一軒家や廃校をオフィスにする?
楠本:企業が大きくなると難しいかもしれませんが、職人的な物づくりをしていく場としても、会話が弾むカフェっぽい場としても、どちらでも成立するとしたら…、日本だったら一軒家のようなオフィスがあるかもしれない。
宮坂:日本の場合やはり土地が狭くてオフィスビルが中心になるんですが、オフィスビルでは人は縦に動く必要があります。人は横の移動はできるけど、階段の上下移動って途端に面倒くさくなるのが欠点。横に50メーターは動けますが、上に5メーターは非常に億劫になるんです。そう考えていくと、使われなくなった学校の再利用がいいかな。「キャンパス」と言うじゃないですか。あれだったら、社内を歩き回るかな…(笑)。
楠本:最近、廃校になるところをオフィスにしたいという企業が出てきていますよ。学校に注目する流れはあります。
杉本:ただ、廃校になっている場所はへんぴなところが多いんです。駅前とかには学校を造れませんから。そこが課題ですかねぇ。
会社に行く必要はあるのか?
宮坂:昨年、オフィスの引越しをしたのですが、次はもう移転したくないと思っているんです。
僕自身、「何で会社に行かないといけないんだ?」と思っていました。そう強く思ったのは震災の時。当時、家で仕事をしていいと言われたのですが、全然困りませんでした。リスクさえコントロールすれば問題ない。ただ、そう思う一方で、みんなと会話はしたいんです。会議はスカイプなどでできますが、同じ空間で会話することがしたいとも強く感じました。
杉本:人には会いたいんですよね。
宮坂:そう。会ってワーっと勢いを持ってアクションするのがやはり良い。会社というのはサロンに近くて、みんなが集まってワァワァと話し合う、そういう場だよなと思ったんです。仕事の実作業は別にどこだってできるようになりましたしね。
だから、何で人がオフィスに行かないといけないのかというと、純粋に人と会うため。唯一、社員が会社に来てくれないと困るのは管理職と社長だけです(笑)。
杉本:実際、本当に社員のみんなが会社に来なかったら、ちゃんと所定の業績をおさめられるのでしょうか? やってみないと分かりませんが。
宮坂:いま、月5回の「どこでもオフィス」というのを試験的に実施しています。みんな自宅とかで仕事をやっているんですが、リクルートさんは毎週、無制限にそれを承認しているそうですね。
杉本:仕事はどこでもできるけど、同じ空間、場を共有しているとか、一緒にご飯を食べることがますます大事になってくる。
宮坂:そのためには、オフィスの雰囲気も施設としても、行きたくなる環境をやはり会社側が用意しないといけません。これからは、社員に来ていただくという感覚が必要なんだと思います。街中のカフェの方が近いし、その方が楽だから社員は来なくなってしまいます(笑)。
杉本:楠本さんの会社には、滑り台もありますからね。うちも航空機やカフェカウンターを置きました。
グライダーアソシエイツの社内。エントランスには、航空機のボティが横たわっている。(上段) フリーアドレスのデスクと並んで、フィアットの自動車を模した冷蔵庫も。そのうしろ、木が生えているところがカフェカウンター。(下段)
滑り台で降りると、みんなにっこりしている
楠本:僕もそうなんですけど、眉間にシワが寄っていても滑り台で降りると、みんなにっこりしているんです(笑)。物理的に何かを仕掛けるというのはいいですよ。
カフェ・カンパニ−のオフィス内にある滑り台。
杉本:カフェのコーヒーの香りが普通に漂ってくると、単純に何かちょっとアガる感じもありますね。
宮坂:そう。嗅覚も大切。会社にいると風も感じませんし、パソコンに向かっていると、五感の一部である目だけが妙に疲れ切ってしまいます。第六感も含めて、いろいろなものを開いていない状態。それで、匂いや視覚による居心地の良い刺激が、その感覚を少し開いてくれるのではないでしょうか。
楠本:仕事中というのは交感神経がフル回転している状態。そこにコーヒーの香りのようなもので、副交感神経が動く瞬間を意図的につくれればアイデアが生まれる可能性は高くなると思います。
宮坂:昨年移転した新しいオフィスをつくる際には、社員の心技体のサポートをして欲しいとプロジェクトチームには依頼していました。ビジネスマンだって世界で戦っているわけですから、オリンピック選手と変わりないんです。アスリートは睡眠から食べ物から完璧に管理して、不注意で風邪なんかひかないようにしているわけです。同じように、ビジネスマンが「前の晩、飲み過ぎて、今日はパフォーマンスが上がらない」なんという言い訳は、もうプロとは言えないわけです。
ですから将来的には、会社へ来たら、自分の体のコンディションを調べて、「今日は悪いから早めに帰れ」とか「今日、お前は絶好調だから、まだまだ頑張れる」とか、データに基づいたサポートができるといいなと思っています。管理じゃなく、サポート。
楠本:次世代のオフィスでの働き方は、「LABOR」から「ACTION」へと変わっていくのだと思います。単純労働ではなく、人としてのミッションを持って「こう生きていきたい」という個人のアクションが増えてくるのが、いい働き方であり、いいオフィスのあり方ですよね。“オフィスのカフェ化”というのは、そういうポジティブなライフスタイルとワークスタイルをつくっていくことなのではないかと思います。
執筆者/楠本 修二郎(くすもと・しゅうじろう)
カフェ・カンパニー社長
1964年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルートコスモス入社。1993年大前研一事務所入社、平成維新の会事務局長に就任。その後、渋谷・キャットストリートの開発などを経て、2001年カフェ・カンパニーを設立、社長に就任。2014年11月、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社と合弁会社スタイル・ディベロップを設立、社長に就任。2016年11月、アダストリアとの合弁会社peoples inc.の設立に伴い、社長に就任。一般社団法人「東の食の会」の代表理事、東京発の収穫祭「東京ハーヴェスト」の実行委員長、一般財団法人「Next Wisdom Foundation」代表理事、一般社団法人「フード&エンターテインメント協会」の代表理事を務める。
日本の文化・伝統の強みを産業化し、それを国際展開するための官民連携による推進方策及び発信力の強化について検討するクールジャパン戦略推進会議に参加している。 著書に『ラブ、ピース&カンパニー これからの仕事50の視点』がある。
このコラムについて
これからの働き方と仕事の視点
カフェを中心に100店舗以上を展開するカフェ・カンパニーの創業者・楠本修二郎氏と各界のキーパーソンとの鼎談連載。食や組織づくり、ビジネス、地域社会など、毎回いくつかのテーマについて話をしていきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/121700019/030200001
MUJIN、産業ロボットに自ら考える知能を付与
企業研究
ロボット自身が考え、動くことを可能に
2017年3月28日(火)
藤村 広平
事前に動作を教え込まなくても動く産業用ロボットの「頭脳」を開発する。様々な製造業や物流の現場で、生産効率を高めるために活躍し始めている。
(記事中の情報は、「日経ビジネス」2017年1月30日号に掲載した時点のものです)
自分で見て、考え、動く
無造作に詰め込まれた物体でも、自ら計算して効率よい拾い上げ方・運び方を割り出す(中央は動作確認に当たる滝野CEO)(写真=藤村 広平)
レトルトカレー、コーヒー、プリンターのインクカートリッジ…。ロボットが、コンテナの商品を発送用のケースへと次々に移し替えていく。通販大手アスクルが2016年末、横浜市の物流センターで稼働させた自動ピッキングラインの様子だ。
対応する商品は約1000種類。商品パッケージは大きさも形もバラバラだ。拾い上げる条件も、商品がコンテナの真ん中に置かれていたり端に寄っていたりと毎回違う。それでもロボットは、1時間に約500アイテムというスピードでケース詰め作業を迅速にこなす。
「ネット通販市場の拡大で、物流センターで働くスタッフの負荷が高まっている。ロボットの活用は、問題解決のイノベーションになる」。アスクルの池田和幸・執行役員はこう期待する。
自分で考えて動くロボット
この物流センターで活躍するロボットの頭脳を開発するのが、産業用ロボットを「知能化」する制御機器(コントローラー)を手掛けるMUJIN(東京・文京)だ。「自分で見て、自分で考え、自分で動く。人間には当たり前のことを、ロボットでも実現したい」。滝野一征CEO(最高経営責任者)は強調する。
既に製造業の現場で活躍する産業用ロボット。あらかじめ教え込まれた動作を正確に繰り返すことにおいては、質・量ともに人間の手作業を圧倒する。
目指すのはロボットの頭脳。客先には「MUJIN インサイド」と書かれたステッカーを配っている
逆に言えば、教え込まれた作業以外は苦手だ。それに「動作を教え込む」のはかなり骨の折れる作業。従来は専門のオペレーターが自身の経験や勘を頼りに、ロボットの動作を関節単位で調整し、プログラムしていた。
例えば、箱に無造作に入れられた何百ものネジから、1つを拾い上げる作業。人間なら幼児でもこなせる簡単な作業だが、ロボットには難しい。
ひっくり返っていたり、ほかのネジとの間に埋まっていたりと状態は千差万別。全ての場合を想定したうえで適切な動作をさせるには、膨大な量の動作パターンをプログラムしておく必要がある。この作業を「事前に教え込むためには何カ月もかかる」(滝野CEO)。
MUJINのコントローラーは動作を事前に教え込むのではなく、最適な動きをその場でその都度、自動設定する。
この手法の最大の課題は、対象物の形状や位置を正確に認識してロボットを動作させるために複雑で膨大な量の計算が必要なこと。ここで生きるのが、MUJINのCTO(最高技術責任者)で共同創業者のデアンコウ・ロセン氏が2006年、米カーネギーメロン大学のロボット研究所に在籍していた頃に編み出した計算アルゴリズムだ。
計算量を大幅に減らせ、最適な動作プログラムを瞬時に生成できる。同大学のロボット工学の権威、金出武雄氏に師事したロセン氏の研究成果は当時、世界中で驚かれた。大手も事前の教え込みをなくすのがロボット知能化のカギとは気付いていたはずだが、計算の遅さがネックであり続けてきたからだ。
もちろん、アルゴリズムだけでロボットを知能化できるわけではない。「障害物を避ける」「ロボットの関節を曲げすぎない」など、現場で求められる条件はまだまだある。
世界の頭脳を集めて開発
こうした条件を一つひとつクリアできるのは、世界中から集まった優秀な技術者がいるからだ。滝野CEOが主導し、MUJINは国内外の大学や研究機関を訪問。「知能化ロボットで世界をリードする仕事をしないか」と、博士号を持つ研究者らを口説き続ける。
現在、MUJIN社員の30人弱のうち約6割は日本国外の出身者が占める。「中国一のロボットコンテストで優勝」「欧州のプログラミング大会で入賞常連」…。7カ国・地域からロボット工学の俊英が集まるMUJINのオフィスは、日本にいることを忘れるような、独特の雰囲気に満ちている。
もちろんファナックなどの大手メーカーも自ら考えて動く知能ロボットの開発を急いでいる。だが、MUJINのコントローラーは既に製品化済みで、多くのメーカーのロボットに対応していることが強みだ。デンソーや安川電機、三菱電機など多様なメーカーのロボットに後付けで実装できる。
「誰でも簡単に知能化ロボットを使える世界をつくりたい」。そう語る滝野CEOの脳裏には、携帯電話業界の教訓がある。携帯は、かつて日本メーカーの得意分野だった。だが米IT(情報技術)企業がソフトを主体に携帯のあり方を再定義し、日本勢は輝きを失った。なかでも米グーグルは汎用性の高い基本ソフト「アンドロイド」を武器に、業界で不動の地位を築いた。「ロボット大国ニッポンは今、携帯と同じ道をたどるか、もう一花咲かせられるかの瀬戸際に立っている」(滝野CEO)。
急成長が見込まれている
●MUJINの売上高推移
「MUJINインサイド」。コントローラーの納入に当たり、同社が顧客企業に配るステッカーにはそう書かれている。言うまでもなく、半導体で高いシェアを誇る米インテルを意識したものだ。インテルの半導体はその存在こそ地味だが、あらゆるブランドのパソコンに搭載可能。パソコンメーカーも、インテルを採用している事実が製品の性能の高さを示す売り文句になる。
長年の信頼や実績がモノをいう製造業に身を置きながら、MUJINは既に日産自動車やホンダ、コマツにキヤノンといった大手メーカーに納入を始めている。産業用ロボットの革新は、日本の基幹産業である製造業の革新を意味する。創業6年の新鋭企業は、その立役者となれるか。
(日経ビジネス2017年1月30日号より転載)
このコラムについて
企業研究
『日経ビジネス』に掲載された、企業にフォーカスした記事の中から読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/032700110
SWOT分析の結果「まず行動」って…君らアホか?
横山信弘の絶対達成2分間バトル
2017年3月28日(火)
横山 信弘
強み・弱み・機会・脅威に分けて会社の内部環境と外部環境を検討する「SWOT分析」は戦略を考える上で有用なツールです。
しかし、このような分析をしても、あまり意味のない組織があります。豪傑寺部長と鷲沢社長の会話文を読んでください。
○鷲沢社長:「先日の社内勉強会でSWOT分析のレクチャーがあっただろう。当社のSWOTについてどう考えた」
●豪傑寺部長:「はい。強みのSは品質です。弱みのWは差別化、機会のOは東京オリンピック。脅威のTは外資系企業の新たな参入。私はこう書きました」
○鷲沢社長:「なるほど。いい線をいっているじゃないか。で、営業部長の君としてはどうする」
●豪傑寺部長:「私ですか? 目の前の仕事を大事にして一歩一歩やり遂げよう、このように思っています」
○鷲沢社長:「そうだろうな、だいたいそんなもんだ」
●豪傑寺部長:「社長、何か仰りたいことがあるのでしょうか。私が目の前の仕事をきっちりこなそうとしていることに問題があるとでも?」
○鷲沢社長:「問題とは言っていない。ところで君自身のSWOTは何だ」
●豪傑寺部長:「私自身……ですか? うーん、即興で言いますけれど、強みのSは……あえて挙げれば経験でしょうか。弱みのWはクロージング力、機会のOは勉強会の講師に今年抜擢されたこと。自分の知識を生かしてキャリアアップできそうです。
脅威のTは後輩の課長ですかね。成績を伸ばしているのが数人いますので、私の部長の座も安泰かどうかわからないってところでしょうか」
○鷲沢社長:「なるほど。君の機会は講師に抜擢されたことか」
●豪傑寺部長:「そうです。私にはチャンスだと思ってます。新たな経験が積めますから」
○鷲沢社長:「勉強会の講師をこれまでやったことがないのか」
●豪傑寺部長:「ええ。初めてです」
「ははは。あーバカバカしい」
○鷲沢社長:「じゃあ、いい“機会”になるかもしれんな」
●豪傑寺部長:「そうなんです。今期の新しいチャレンジですよ」
○鷲沢社長:「はは。何事もチャレンジだな」
●豪傑寺部長:「チャレンジ精神を忘れてはいけませんね。社長」
○鷲沢社長:「ははは」
●豪傑寺部長:「……」
○鷲沢社長:「あーバカバカしい」
●豪傑寺部長:「え?」
○鷲沢社長:「君自身のSWOTを考えたわけだが仕事にどう生かせるかな」
●豪傑寺部長:「仕事に? ですから目の前のことをきっちりこなしていく、それが大事だと思っています」
○鷲沢社長:「ははは。やはり、そうだよね」
●豪傑寺部長:「……社長?」
○鷲沢社長:「本当にバカバカしいな」
●豪傑寺部長:「社長、含みのある言い方をずっとされてますけれど……。はっきり言ってくれませんか。聞きますよ」
○鷲沢社長:「我が社のSWOT分析をしたとき、君は外資系企業が攻めてくることが脅威、ところが我が社は差別化が弱い、と分析している。さすが営業部長、的を射ている。そうなると強みである品質をもっとアピールしなくてはならない。そうなるな」
●豪傑寺部長:「ええ、その通りです」
○鷲沢社長:「では君がすべきことは何だ。強みである経験を増やすことか。それとも弱みであるクロージングの力を鍛えることか」
●豪傑寺部長:「……。行動、だと思います」
○鷲沢社長:「行動か」
●豪傑寺部長:「そうです。行動がまず先決かと。やるべきことをきっちりやる。それが大事かと思います」
○鷲沢社長:「SWOT分析から導き出した答えがそれか」
●豪傑寺部長:「うーん……。勉強会の後、営業部全員で飲みに行きましたが、結局は『目の前のことをやらないといけない、まずはそれからだ』みたいな話になりました」
○鷲沢社長:「それってSWOT分析をしなくても行きつく答えじゃないのか」
「どいつもこいつも分析結果を眺めているだけだ」
●豪傑寺部長:「そ、そりゃあそうですが」
○鷲沢社長:「だったらSWOT分析なんて意味があるのか。強み・弱み・機会・脅威をそれぞれ整理しても、誰もそこから前に誰も進もうとしない。分析結果を眺めているだけだ」
●豪傑寺部長:「眺めているだけ、というわけでは」
○鷲沢社長:「『やはり、まずは行動です』、こうじゃないか。それは眺めているだけだ。だったら、SWOT分析などやっても意味がない」
●豪傑寺部長:「それを言ってはおしまいかと」
○鷲沢社長:「なんでSWOT分析をやっても意味がないのか、わかるか」
●豪傑寺部長:「恥ずかしながら、わかりません」
○鷲沢社長:「行動力がないからだ!」
●豪傑寺部長:「ええっ」
○鷲沢社長:「普段の行動が足りているのだったら、『やはり、まずは行動することだ』なんて、アホな結論は出てこない」
●豪傑寺部長:「う……」
○鷲沢社長:「SWOTに限らない。どんな分析をしても、どんな調査をしても、『いろいろ分析してみて、とにかく目の前の仕事をきっちりこなすことが何よりも先決』という表現で締めくくられるだろう」
●豪傑寺部長:「な、何も言えません」
○鷲沢社長:「去年、私が来る前に、バランスドスコアカードを導入しようとしたらしいな。結局定着せず、『まずは目先の問題から片付けよう』という話になっている。議事録にそう書かれていた」
●豪傑寺部長:「申し訳ありません」
○鷲沢社長:「行動力がないなら、勉強会をどれほど開いても無駄だ。それなら早く帰って寝たほうがいい」
これまでのやり方を変えずに堂々巡りを繰り返す
SWOT分析以外にも様々な分析ツールがあります。私はそれらを否定しているわけではありません。
しかし、どんな分析結果が示されようとも行動を起こさないのであれば、分析する意味がありません。
「現状維持バイアス」がかかっている組織はこれまでのやり方を変えようとせず、堂々巡りを繰り返すのです。
行動力を付けない限り、すべての分析ツールや経営理論は机上の空論に終わるでしょう。気をつけたいですね。
このコラムについて
横山信弘の絶対達成2分間バトル
営業目標を絶対達成する。当たり前の事です。私は「最低でも目標を達成する」と言っています。無論、そのためには営業目標に対する姿勢を変え、新たな行動をし、さらに上司がきちんとマネジメントしていかないといけません。本コラムで営業目標を絶対達成する勘所をお伝えしていきます。私は「顧客訪問を2分で終える“2ミニッツ営業”」を提唱しており、そこから題名を付けました。忙しい読者に向けて、2分間で読めるコラムを毎週公開していきます。毎回一つのテーマだけを取り上げ、営業担当者と上司と部下の対話を示し、その対話から読みとれる重要事を指摘します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/258310/032300082
窮地のクラッシャー上司は、あの言葉を繰り返す
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
『クラッシャー上司』著者・松崎一葉さん×河合 薫 特別対談(2)
2017年3月28日(火)
河合 薫
話題の新書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)。部下を精神的に潰しながらどんどん出世していくパワハラ上司の事例が次々と登場し、「うちの会社にもいる」と思わせる「いるいる感」に引き込まれて読み進むことになる。
著者の松崎一葉さんは、筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授で、産業医でもある。クラッシャー上司の話はちょっと怖いけど、「松崎先生には会いたい」との河合薫さんの熱望で実現した二人の対談。
松崎さんによれば、クラッシャー上司は、自らの言動を責められると、一様にある言葉を発するそうです。その言葉に、クラッシャー上司たるゆえんがあるのです。
(編集部)
前回(クラッシャー上司、口癖は「お前のため」)から読む
「人の守護霊になる」ってどういうこと?
松崎 一葉(まつざき・いちよう)さん
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。「クラッシャー上司」の命名者の一人。
河合:人の守護霊になるとは、距離感の問題ということでしたが、これは上司と部下の物理的な距離感ですか? それとも心と心の距離感ということでしょうか?
松崎:両方です。つまり、部下が「河合さん」と呼んだときに、その声が届くところにいてくれて、「どうした?」と来てくれて、「おお、そうかそうか」と話を聞いてくれるイメージです。
河合:今の時代にはやっぱりちょっと、ハードルが高い気がするのですが……。
松崎:確かにそうかもしれません。ただね、大切なのは上司がそういうイメージをもてるかどうかなんです。別にいつも「どうなの? どうなの?」とか、「キミの気持ち分かりますよ」とか、「悩みは何?」とか、御用聞きに行くことじゃない。
河合:そんなウザい上司がいたら、逆に部下はどん引きしちゃうかもしれませんけど(笑)
先生のおっしゃてっていることはわかるんですが、上司も上司だけをやっているわけじゃなく、プレイイングマネジャーがほとんどなので、部下にかまっていられない場合も多い。
松崎:そうですね。それはわかる。
河合:でも、ちょっとだけ、一日一回でもいいから「部下を思い出してみろ」ってことでいいんですかね?
松崎:はい、まさしくそれが「守護霊」です。
河合:私はよく「傘の貸し借りができる、心と心の距離感を持つことが大切だ」と話すんですね。
松崎:ストレスの雨をしのぐ傘ですね?
河合:はい、そうです。「最後はあの人の傘を借りることができる」という確信を持てる関係性が重要なんです。部下にとって、それは上司で。「SOSを出せる。出していいんだ」という確信があれば、ギリギリまで踏ん張ることができて、火事場の馬鹿力じゃないですけど、自分でも思いもしなかったような力が出ちゃうことってあるんですよね。私も結構そうやって生きてきたんで。
松崎:河合さんにも、やはりそういう人が必要ですか? ひとりで何でもできるかと思いましたよ。
河合:ムリです(笑)。こんなこと言うと失礼ですけど、先生だって先生の力だけで、今があるわけじゃないですよね? 人間ってそんなに強くないし。もし「私はひとりきりでがんばってきました!」なんて胸を張る人がいたら、それはおごりだと思うんです。
松崎:確かに。そうなんですよね。うん、そうそう。クラッシャー上司の甘えは、河合さんがいうところの「おごり」と根は同じなのかもしれませんね。おごりがあるから、周囲にも許してもらえる、甘えてもいい……って考える。
河合:私は上司も部下の傘を借りてくださいって、言ってるんですね。「お前たちの力を貸してくれ」って言える上司部下関係があれば、心強いでしょ」と。
ところが、上司の中には本当は傘を借りたいけど、それをやったらかっこ悪いって思ってる人もいる。それで結果的に、雨にやられちゃう。だから、「勇気を出して部下の傘も借りてください」って。それと、雨にびしょ濡れになっている人を見たら、傘を差し出す勇気を持ってくださいって。
松崎:濡れてる人に傘を差し出すのが、守護霊です。
「いつでも相談に来いよ」というのは最低
河合:ですね。これまでインタビューしてきた人たちの中には、パワハラに遭ってウツになってしまったり、会社を辞めた人たちもいました。その人たちが共通して言っていたのが、「最初はパワハラを受けて悔しいとか、ひどいとか、すごい思った。お前は何でこれができない、なんてダメなヤツなんだ、と否定され続けていると、パワハラを受けているという感覚が段々となくなって、最後には自分が悪いんじゃないかと思うようになった」と。
雨に慣れちゃう。SOSを出さないんじゃなくて、出せなくなる。気が付くと「上司の奴隷」になってしまうんですよね。
松崎:それ、すごくわかります。クラッシャー上司につぶされた部下たちにも、そういった感じがありました。
僕はね、いつもロジャース流の受容と傾聴と共感の3ステップの中で、共感というのは受容と傾聴の末に自然に発生してくるものだというふうに言っているんですよ。
河合:現代カウンセリングの祖と呼ばれる、カール・ロジャースですね。
松崎:はい。カウンセリング理論にはいくつかあるんですが、日本では一般的にロジャース流に基づいています。カウンセリングっていうとね、なんか特別のように思うかもしれないけど、上司部下関係も同じなんです。
部下に「ちょっと相談があるんですけど」とオファーされたら、まずは受容する。「おお、いいよ」と言って、そこで自分の時間枠を明確に提供する。この行為が受容なんです。ところが、おおかたの人たちは、それができない。
河合:上司も時間的余裕がないですからね。
松崎:でもね、そこで具体的に日時を決めなきゃ共感にならない。「おお、今度な」と先送りするのではなく、まず手帳を開いて予定を確認して、「今日はちょっと無理だけど、明日の10時から10時半までどうだ」と、自分の時間枠を明確に提供する。
河合:それだけで部下はホッとしますね。
松崎:僕はね、「いつでも相談に来いよ」というのは最低だと思ってるんですね。
河合:メディア業界では「やりましょう!やりましょう!」っていって、永遠に「やる」が来ないのは日常茶飯事ですが(笑)
松崎:業界の“外交儀礼”ってやつですね。
河合:でも、先生がおっしゃるように仕事でも、「じゃあ、いついつ、これで」ってなると、それだけで何か一歩進んだような。っていうか、実際に会って仕事につながらなくてもいいんです。その人とつながる。それだけで十分。
松崎:自分が困ったときに「この人は自分に時間を提供してくれるな」という信頼感が、芽生える。まさしく守護霊です。
河合:あああ、なんかこの辺(肩のあたり)にいろんな守護霊がいる気がしてきました。
松崎:(笑)いいですね、その感覚。
彼らは一様に、「心外だ」を繰り返す
河合:ただ、部下の守護霊でありたいと思っても、ビビって躊躇する上司も多いように感じます。「こんなこと言ったら、パワハラになるんじゃないか」とか、「これをするとセクハラになるんじゃないか」って。
実際にあったんです。部下が辞めることになって、その理由を人事部が本人に尋ねたら「上司にセクハラされた」って。上司は確かにご飯を食べに行ったり、会議室で相談に乗ったこともあった。でも、それは部下が「相談がある」と言ってきたからやっただけだった。
とかく今の会社は、部下オリエンテッドなので、結局、その人は左遷されてしまったんです。
松崎:なるほど。部下も都合が悪くなると、上司を売ることがあるかもしれないですね。
僕はもっと割り切ればいいと思うんです。つまり、共感は単なるスキルだと。いやらしいといえばそうなんですけど、初めからスキルとして管理職に教育していかなきゃいけないんです。
河合:じゃ、スキルだと考えると、逆に自分が「クラッシャー上司になっているかどうか」のセルフチェックってできますか?
先生のご著書を読んで「もしや自分も?」とヒヤッとした人は、問題ないと思うんですね。ここまでの先生と私の話を聞いて、なにがしか心に刺さるものがあるはずで、それがなんらかの行動につながっていくと思うんです。
問題は「あ〜、いるいるこういうひどいヤツ」とまるで他人事の人。そういう人向けに「これをやっていたらアナタもクラッシャー!」みたいなセルフチェックリストがあれば、教えてください。
松崎:そうね〜、セルフチェックね……。あのね……よく「心外だ」って言う人。
河合:心外、ですか?
松崎:そうです。僕ね、何人かの本当のクラッシャー上司に対して、「あなたはクラッシャー上司ですよ」と指摘して、「あなたがやっていることは、こういうことなんですよ」って言ったことがあるんです。
そうしたら彼らは一様に、「心外だ」と言っていました。私は部下を育てようと正しいことをやっているのに、何でそんなことを言われるんだって。僕が証拠を突きつければ突きつけるほど、「心外だ」と繰り返す。
河合:チェックポイントその1。「自分の言動を責められると『心外だ』とつい言ってしまう」。
松崎:河合さんのコラムのコメント欄にも、コラムの本筋とは全く関係なく「アンタはフリーランスだから組織のことまるでわかってない」とか、「アンタは女だからいつもそういう風に書く」とか書き込む人いるでしょ? ああいうタイプは意外と「心外だ」チェックに当てはまるかもしれないですね。
クラッシャー上司って、メタ認知を全然持てない
河合:ってことは、私のことを「育ててやろう」って思ってくれてくれている読者が、多いということですかね(苦笑)
松崎:自分勝手な解釈でね。つまり、クラッシャー上司って、メタ認知を全然持てない。
河合:自分の思考や行動を客観的に把握したり認識できないということですね。だから、自分が悪いことを言ったりやっているという自覚がない。言われた方は結構、凹むんですけどね。
チェック項目はほかにもありますか? 外見とか。例えばちょっとイケメンだとか、ちょっとおしゃれだとか、何かそういうのはあるんですか。
松崎:ちょっと「変なスノッブ」が多いかもしれない。
河合:変なスノッブ??
松崎:彼らは何においても承認されたいタイプです。だから持ち物一つについても、「それは何とかのペンですね」とか、「それってイタリアのアレですね」みたいなことを言ってほしくてしょうがない。
河合:ヤバッ。私の財布、一見、渋谷の109とかで売ってそうなやつなんですけど、実はプラダなんです。それで、マルキューと思われたくないから、プラダのマークをいつもこうやって表にしているんです。私、クラッシャータイプですかね(笑)
編集Y田:河合さん、危ないな……(笑)
松崎:それがね、例えばルイ・ヴィトンでいえば、モノグラムではなくタイガを選ぶっていうか……。ブランドのロゴなどが前面に出ている「いかにも」ってものは好まない。イメージ的には、百貨店とかにある、目利きのバイヤーが選りすぐってきた商品。
河合:ん?
松崎:優れたバイヤーが、パリとミラノのマニュファクチャリングのところに行って、直接仕入れたこだわりの品って感じのもの。そんなに大量には輸入できなくて、「ここだけで販売しますよ」といったセリフでアピールする。「分かる人には分かる」がウリの、オシャレ感の高いヤツって感じなんですが。
河合:あっ……なるほど。クリエーターの方がよく持っているような。あ、クリエーターのみなさま、これまたすみません(笑)
チェックポイントその2。目利きバイヤーの選りすぐり商品が好き。ああ、これを読んだ人たち、いきなり自分の身の回りのものをチェックしますよ(笑)
松崎:ただ、今の話、あくまでもちょっとした傾向なので……。みんながみんなそうではないですし、「そうしたものが好きな人=クラッシャー上司」ということでは決してないので、その点は誤解しないでください。
河合:まぁ、あくまでも「セルフチェック」の一項目ですからね。他にはどうですか? 基本的に体力があるとか、大食漢であるとか。
自分がルールだから、自覚がない
松崎:基本的にタフですよ。人をクラッシュしていくんだから。
クラッシャー上司って「仕事ができる」から、パワハラしても、その上の上司も見て見ぬふりをしてしまう。で、部下を執拗に責め、クラッシュさせるスタミナもある。基本的には能力が高く、エネルギーにあふれています。
河合:朝からスポーツジムに通って、夜遊びしても全くオッケー、24時間働けます!という、ハイスペックな人ってイメージですか?
松崎:そういうタイプもいますね。
河合:ただし、そういうタフな人でも、「自分の外にある傘」を使える人は、クラッシャー上司とはちょっと違いますよね?
松崎:「外にある傘」とは?
河合:外的資源です。ストレスという雨に対峙する傘の置き場は2カ所あって、ひとつは自分の心の中(=内的資源)。もうひとつは自分をとりまく環境(=外的資源)。外的資源でいちばん大切な傘が、先ほどお話しした、「傘を貸してください」と言える心の距離感の近い人です。
松崎:なるほど。どんなにタフでも、自分ひとりではできないことがあると認められる人ですね。
河合:はい、そうです。所詮、人間なんてひとりじゃ何もできないし、自分の能力にだって限界がある。それを素直に認めて、他者の傘を借りる勇気を持てる人はクラッシャー上司にはならないように思うんです。一方、内的資源だけで生きてる人、要するに自信満々で、自尊心も自己効力感も高過ぎる人が行き着くのは、「自分がルール」です。
松崎:そうそう。おっしゃるとおりです。自分がルールだから、自覚がない。
河合:ただ、そういう人って、実は弱い、というか、自分の心の中のリソースだけで乗り切れないことに遭遇すると、ポキリと折れちゃう。
松崎:ええ、そう思いますよ。クラッシャー上司は、承認がもらえなくなった瞬間にエネルギーが補給できなくなるので、そこで前進が止まっちゃうんです。
僕が「クラッシャー上司」の中で書いた、事例の5番目。メーカーで地方営業所次長を務めていたDは、営業の結果は出してくるが、部下を2人をつぶし、家庭でもDVをふるう「クラッシャー」でした。その彼は、奥さんと子供が“夜逃げ”したのを機に、うつ病になってしまう。「妻の不満には全く気付かず」「部下に厳しかったのは確かだが、それもよかれと思ってやっていた」と話していました。
河合:そうですか……。
松崎:また、本で紹介した事例1のクラッシャー上司Aは、本の中では詳しく触れていませんが、最後は本人がメンタルに不調を来してしまった。何でうつになっちゃうかというとね、彼がクラッシュした若い女性社員の次に来たのが、帰国子女だったから。
河合:帰国子女が原因???
松崎:仕事はとてもできたそうです、ただ、帰国子女である彼女には、日本的な同調圧力だとか、あうんの呼吸が分からない。それで彼は余計頑なに、「お前のために鍛えてやっているんだよ」みたいな言い方でかかわろうとするわけです。
するとね、「えっ、いや、別にいいです」みたいな反応で。帰国子女だから。「暖簾に腕押し」で、その部下の業務を自分で担うようになってオーバーワークになり、最終的にはメンタルを壊したんです。
河合:そうですか……。私もそうやって、おじさんたちを何人も泣かせてきました。「クラッシャー上司対策には、河合薫を」とでも言っておきましょうか(笑)
*3月29日公開予定「クラッシャー上司が「社員は家族」を好む理由」へ続く
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このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/031600097
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