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米中経済戦争勃発に新たな火種
北朝鮮リスクと中国市場悲観論に傾き始めた米産業界
2017.3.21(火) 瀬口 清之
米国務長官、中国外相と初会談 北朝鮮への対応求める
20か国・地域(G20)外相会合の開催地であるドイツ・ボンで初会談に臨む、レックス・ティラーソン米国務長官(左)と中国の王毅外相(2017年2月17日撮影)〔AFPBB News〕
米中両国は経済的相互依存関係を深めており、仮に経済戦争に突入すれば互いに報復をエスカレートさせ、双方が極めて深刻な打撃を受ける関係にある。
これは両国経済のみならず、最悪の場合、世界経済全体にリーマンショック以上の衝撃を与え、世界大恐慌を招く可能性も十分ある。
米中両国間の経済戦争がそうした深刻な打撃を与えることを考慮すれば、両国政府は経済戦争を仕かけることによるリスクを十分認識し、互いにそうした事態を回避するよう努力するはずである。
以上が米中両国の経済関係には大量の核兵器保有国同士の間の相互確証破壊と似た関係が成立しているように見えると述べた前回2月の拙稿の主な論点である。
3月前半に米国出張した際に、以上の筆者の見方を米国の国際政治学者らに伝えたところ、概ね賛同を得られた。
ただし、米中両国間の外交問題を巡る深刻な対立による関係悪化が経済面での疑似的「相互確証破壊」の成立を妨げ、経済戦争に突入するリスクを完全に否定することはできないなど、いくつかの貴重な指摘を受けた。
本稿ではそれらのポイントについて紹介したい。
1.北朝鮮リスク
先月の筆者の論稿は米中両国の経済関係に焦点を当てたものだったが、米国の国際政治学者は以下のような外交問題が両国の経済関係に与えるリスクについても考慮する必要があると指摘した。
ドナルド・トランプ政権下において、現在、米中外交関係上の最大の懸案は北朝鮮問題を巡る対立先鋭化のリスクである。
トランプ政権は北朝鮮がミサイル発射による対米牽制行動をとったことに対し、北朝鮮に対する武力攻撃を含むあらゆる選択肢を検討し、強い態度で臨むスタンスを示していると報じられている。
早ければ4月にも行われる可能性があるトランプ大統領・習近平主席間の初の米中首脳会談において、北朝鮮への対応が主要議題の1つになると予想されている。
トランプ大統領は習近平主席に対して、中国からも北朝鮮に対してより強く厳しい対応をとるよう要求すると見られている。
しかし、中国と北朝鮮の関係はすでに冷え切っており、中国がある程度強く厳しい制裁措置を実施したとしても、北朝鮮が中国からの要求に耳を貸す可能性はほとんどないとの見方が一般的である。
そうした状況下で中国が北朝鮮に対してとり得る制裁措置は、エネルギーおよび食料の供給停止といった究極の強硬策しかない。もしこれを実施すれば北朝鮮経済は危機的状況に陥り、大量の難民が中国東北地域にあふれ出してくると予想される。
東北地域は過剰設備を多く抱える構造不況業種が集積しており、ただでさえ長期の経済停滞に苦しんでいることから、ここに難民が流入するのは中国の政治経済の安定確保に深刻な悪影響を及ぼすリスクが高い。
これほど内政上のリスクの大きな措置を中国政府が米国のために実施することは考えにくい。
そうした点を考慮すれば、中国が米国からの強い要請に応えて、米国がそれに満足する可能性は極めて低いと見られている。その場合、米中両国の対立が先鋭化し、米国側が中国に対して一段と強硬姿勢に転ずる可能性が高まる。
それが米国政府のどのような施策につながるかは未知数であるが、仮に南シナ海における軍事行動を伴う対中強硬姿勢や台湾に関する「1つの中国」論の見直しを迫るといった対応に出れば、米中関係は一気に悪化する。
そうした米国の強硬姿勢が中国国民の反米感情を煽り、中国全土で米国製品ボイコット運動や反米デモなどを引き起こし、米国政府が為替操作国の認定や関税引き上げなどで対抗するといった形でエスカレートしていくと、経済戦争に突入する可能性は否定できない。
ただし、以上のシナリオは民主党寄りの国際政治専門家が主張する、かなり極端な悲観的シナリオであり、トランプ政権の外交政策の欠陥を強調するために、あえて最悪のケースを想定している面は否めない。
これに対して、共和党寄り、あるいは中立的な立場の専門家は、これほど深刻な事態に至る可能性はそれほど高くないと見ている。
現在、トランプ政権内において対中政策をリードしているのは、ジェームズ・マティス国防長官、レックス・ティラーソン国務長官、ゲーリー・コーンNEC(国家経済委員会)委員長、ケネス・ジャスター国家安全保障会議(NSC)国際経済担当大統領次席補佐官らであると言われている。彼らはトランプ政権内では穏健派に属する。
これに対して、対中強硬路線を主張するタカ派には、スティーブ・バノン主席戦略官、ピーター・ナヴァロ大統領補佐官(国家通商会議担当)、ウィルバー・ロス商務長官らがいるが、今のところ対中政策にはあまり影響を及ぼしていないと見られている。
こうした穏健派主導の体制で対中外交を進めていくと、上述のような激突シナリオを回避できる可能性も十分あると考えられる。
ただし、これらのトランプ政権の主要メンバー間の勢力バランスの変化というリスクに加え、トランプ大統領自身の気分の変化が政策に及ぼす影響がもう1つのリスクであるとの見方がある点は考慮しておく必要がある。
このようにトランプ政権の対中外交方針は不透明で予測不可能な部分が多い。これに対して中国政府があまり過敏に反応せず、じっくりと構えて慎重に対応していくことができれば、米中衝突リスクは軽減される。
2.主要プレイヤーが政府ではないことによるリスク
当面、米中関係を悪化させる主因は上記の政治外交要因であるが、これを受けて米中関係の悪化を加速させる可能性があるのが、経済分野における主要プレーヤーである市場参加者=一般国民の動向である。
安全保障面における本来の相互確証破壊の関係を支える主要プレーヤーは両国政府である。一方、経済面での疑似的「相互確証破壊」の主要プレーヤーは市場参加者=一般国民であるため、政府同士のような制御が効きにくい。
いったん相手国に対する強い不満や憤りが国民感情として広く共有される場合、政府の力でこれをコントロールすることが難しくなる。
つまり疑似的な「相互確証破壊」の関係が成立していると分かっていても、両国の激突を招くモメンタムを止めることができなくなる可能性がある。
具体的には、中国国民による米国製品のボイコット運動や反米デモの動きが中国全土に拡散する場合、これを中国政府が短期間の間に沈静化させるのは極めて難しい。
あるいは、米国の労働者や一般国民の間で強い反中感情の高まりが生じる場合、米国政府もこれをコントロールすることは難しい。これは以前、尖閣問題発生後の日本に対する中国国民の姿勢の変化を思い起こせば容易に理解できる。
この主要プレーヤーのコントローラビリティの低さが疑似的「相互確証破壊」の成立を妨げる1つの要因となる。
3.中国ビジネスに対する米国企業の悲観論増大の影響
さらに、もう1つの指摘は、最近の米国企業の対中投資姿勢の変化である。
米国企業はこれまで、アップル、ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ファイザー、P&G、マクドナルド、スターバックスなど、様々な分野で中国国内市場の大きなシェアを確保し、巨額の売上高と利益を享受してきた。
しかし、最近になって、上海の米国商工会議所の不満に代表されるように、知的財産権の侵害、資金回収難、政府の規制の突然の変更、中国企業と外資企業との差別的な扱いなどに対する不満が強まっている。
この1、2年、これらの問題点により、米国企業にとって中国市場は以前ほど魅力的ではなくなっているとの見方が増大している。
同時に中国経済の減速を眺め、中国市場の将来に対する見方も悲観的になっていることから、対中投資が慎重化しているとの声を耳にすることが多くなっている。ただし、実際の米国企業の対中直接投資金額は減少せず、むしろ逆に増加している。
以上で指摘されている問題点は日本企業にとっては数年前からずっと直面してきている問題であるため、最近になってこうした問題点に関する懸念が高まっているという声は聞いたことがない。
米国企業が最近になってこうした懸念を強めている背景についてはさらに分析を深める必要がある。
以上のような米国企業の中国ビジネス悲観論の拡大、それに伴う対中投資姿勢の慎重化は、両国が激突することによって生じる経済的打撃に対する受け止め方の変化をもたらす。
以前であれば深刻なダメージを懸念して、米中対立が先鋭化しないことを強く望んだ人々が、今後はそれほど強く望まなくなる可能性が高い。
これも疑似的「相互確証破壊」の成立にとってマイナス要因である。
以上のように、経済面における疑似的「相互確証破壊」は上記の3つの要因によって成立しにくくなる脆弱性を内包している。
米中両国はこうした点にも慎重に配慮しながら、経済戦争への突入を回避するために、様々な努力を重ねていくことが望まれる。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49448
ナウル、世界一の贅沢に溺れた国の結末
神野正史の「人生を豊かにする世界史講座」
不労所得による繁栄は、地獄への入り口
2017年3月23日(木)
神野 正史
サウジアラビア・サルマン国王訪日
今月、はるばるサウジアラビアからサルマン国王が来日していました。
サウジアラビアといえば世界最大の産油国であり、日本は原油の3割をサウジアラビアからの輸入に頼っています。このため、日本とは切っても切り離せない深い関係にある国ですが、ほとんどの日本人は「サウジアラビア」と言われてもあまりピンと来ないかも知れません。
サウジアラビアについては、これまでは時折、テレビ番組などで「原油産出国の金満ぶり」が紹介されるくらいでしたが、今回もその政治的・経済的背景よりも、サウジ側が持ち込んだ「エスカレーター式の特製タラップ」だの、「移動用のハイヤーが数百台」だの、「随行者1000人以上が都内に宿泊」だのといった、芸能週刊誌じみた下世話な話題ばかりが前面に押し出された報道がなされていたように感じます。
しかし、今回の訪日で重要なことはそんなつまらないことではありません。なぜサウジアラビア国王が御自(おみずか)ら極東の日本くんだりまでやってきたのか。その理由にこそ、現在サウジアラビアが置かれた切実な窮境があります。
サウジアラビアなどの中東の産油国は、原油の輸出に偏った貿易構造からの脱却が長年の課題だ。
「金満体制」の本質
ところで筆者は、マスコミで定期的に紹介される、そうした産油国の金満ぶりを見ても、彼らに対して羨望の気持ちなどまったく湧いてきません。それどころか、ああした金満ぶりをテレビカメラの前で自慢げに披露する人たちを目にするにつけ、憐憫の情すら湧いてくるくらいです。なぜならば、ああした金満はけっして長く続かないどころか、ひとたび零落(おちぶ)れたが最後、その後にはその国とその民族に末代まで悲惨な運命が待っていることは、歴史が証明しているからです。
例を挙げれば枚挙に遑(いとま)がありませんが、まずは現代においてそうした問題を切実に抱える「ナウル共和国」を見てみましょう。
地上の楽園・ナウル共和国
ナウル共和国とは、日本人にはあまり馴染みのない国かもしれませんが、かつて世界最高水準の生活を享受していたのに、一転して深刻な経済崩壊の状態に陥ったという点で、知る人ぞ知る国です。
オーストラリアとハワイの間、太平洋の南西部にある品川区ほどの面積(21平方km)しかない小島にある共和国であり、世界でも3番目に小さな国連加盟国です。そこに住む人々は古来、漁業と農業に従事して貧しくもつつましく生きる“地上の楽園”でした。
しかし19世紀、太平洋の島々がことごとく欧米列強の植民地にされていく中で、ナウルの“楽園”もまた破られることになります。そして、1888年にドイツの植民地になってまもなく、この島全体がリン鉱石でできていることが判明しました。
リン鉱石とは、数千年、数万年にわたって積もった海鳥のフンが、珊瑚(さんご)の石灰分と結びついてできたもの(グアノ)で、肥料としてたいへん貴重なものでしたから、19世紀後半から採掘が始まりました。
ナウル共和国の経済を繁栄させた、リン鉱石の積出施設。(写真:Alamy/アフロ)
やがて第二次世界大戦を経て、1968年にようやく独立を達成すると、それに伴ってリン鉱石採掘による莫大な収入がラウル国民に還元されるようになります。
その結果、1980年代には国民1人当たりのGNP(国民総生産)は2万ドルにものぼり、それは当時の日本(9,900ドル)の約2倍、アメリカ合衆国(1万3,500ドル)の約1.5倍という世界でもトップレベルの金満国家に生まれ変わりました。
医療費もタダ、学費もタダ、水道・光熱費はもちろん税金までタダ。
そのうえ生活費まで支給され、新婚には一軒家まで進呈され、リン鉱石採掘などの労働すらもすべて外国人労働者に任せっきりとなり、国民はまったく働かなくても生きていけるようになります。
その結果、国民はほぼ公務員(10%)と無職(90%)だけとなり、「毎日が日曜日」という“夢のような時代”が30年ほどつづくことになりました。
はてさて、これが羨ましいでしょうか?
古代ローマの場合
ここで多くの人が勘違いする事実があります。それは、「(地下資源など)最初からそこにあるもの」は“ほんとうの富”ではないということです。富でないどころか、それは手を出したが最後、亡びの道へとまっしぐらとなる“禁断の果実”です。
たとえば──。
古代ローマは、周辺諸民族を奴隷とし、その土地を奪い、その富を食い尽くしながら領土を広げていき、やがては空前絶後の「地中海帝国」を築きあげていきました。彼らローマ人は、そうして手に入れた属州(19世紀の植民地のようなもの)から無尽蔵に入ってくる富を湯水のように使い、贅の限りを尽くしていきます。
富と食糧は満ち溢れ、すべてのローマ市民には食糧(パン)と娯楽(サーカス)が無償で与えられ、運動場・図書館・食堂まで併設された豪華な浴場施設(今でいえば一大レジャーランド)が各地で無料開放され、下々の者に至るまで働かずとも飢えることはなくなり、貴族などは食べきれない豪華な食事を、喉に指をツッコんで吐いては食らい、食らっては吐くを繰り返す有様。
しかし、こうした自堕落な生活は、その民族の精神を骨の髄まで腐らせていきます。そもそもローマが強大になることができたのは、外に対しては命を惜しまず勇敢に戦い、内にあっては勤勉に働いたからです。
しかし、人間というものは、ひとたび不労所得や贅沢を覚えたが最後、「額に汗して働く、貧しくともつつましやかな生活」に二度と戻ることができなくなります。つねに「怠けること」「遊ぶこと」「他者の富をかすめ取ること」しか頭にない人間に成り下がってしまうのです。
あれほど勤勉で勇敢だったローマ人たちは、たちまち怠惰で軟弱な民族と化し、やがてローマそのものを滅ぼすことになりますが、そうした民族性は改まることなく、西ローマ帝国滅亡後も1400年にわたって異民族統治・分裂割拠の時代がつづく一因となりました。
20世紀に入っても、イタリア軍のヘタレっぷりは世界に勇名を馳せた(?)ほど。そして現在、一説にイタリアはデフォルト(債務不履行)寸前とも言われます。
つねに怠けること、遊ぶことを考え、額に汗して働くことを避け、さりとて分不相応な贅沢はやめず、国の生活保障に頼りきりとなれば、それも当然と言えます。古代ローマの時代、不労所得を得た“報い”が21世紀になった今も彼らを苦しめているのです。
近世スペインの場合
さて、近世に入ると、スペインが他国に先駆けて絶対主義を確立するや、アメリカ大陸を“発見”、そこにあった“富”を略奪し尽くしていきました。これによりスペインは「スペイン動けば世界が震える」「スペインの領海に日没なし」と謳われ、その時代の覇権国家として君臨したものでした。
しかし、その富は、スペイン人が額に汗して生んだものではありません。インディアンの富を略奪したものです。ローマについて覧(み)てきたとおり、このような“繁栄”は長続きしないどころか、民の心を腐敗させます。
100年と保たずに新大陸の富を食い尽くすや、スペインはたちまち没落、二度と歴史の表舞台に出てくることはなくなり、現在、スペインもまたイタリア同様、やはりデフォルト寸前です。
“楽園”は地獄への入口
“ほんとうの富”とは「額に汗して自ら生み出した富」だけであって、「最初からある富」から不労所得を得るだけの繁栄は、一見“楽園”にみえて、そのじつ“地獄の一丁目”にすぎません。
それで得た繁栄などほんの一時のことにすぎないばかりか、それが過ぎ去ったが最後、まるで不労所得を得たことへの“神罰”が下ったかのように、その国その民族を子々孫々にわたって苦しめることになるからです。
ナウル共和国では、働かなくても食べていけるようになったことで、働きもせず毎日「食っちゃ寝」の生活が当たり前となり、食事はほぼ100%外食に頼るような生活になりました。
そうした生活が30年にもおよんだため、肉体が蝕(むしば)まれて、全国民の90%が肥満、30%が糖尿病という「世界一の肥満&糖尿病大国」になりました。そればかりか、精神まで蝕まれて、勤労意欲が消え失せ、そもそも「食べるためには働くのが当たり前」という認識すらなくなっていきます。
すでに20年も前からグアノ(リン鉱石)が枯渇するだろうと予測されていながら、ナウルの人々は何ひとつ対策も立てず、努力もせず、ただ日々を自堕落に生きていくことしかできない民族となっていったのでした。
ナウルの“ほんとうの悲劇”
しかし、ナウルの“ほんとうの悲劇”は、肥満でもなければ糖尿病でもなく、ましてや勤労意欲が失われたことでもありません。
さきほど“地獄の一丁目”という表現を使いましたが、文字通り、彼らのほんとうの悲劇はここから。一番の問題は、もはや二度と「“古き佳きナウル”に戻ることができなくなった」という事実です。
いざグアノが枯渇したとき、彼らが考えたことは「嗚呼、夢は終わった。我々はふたたび額に汗して働こう」ではありませんでした。すでに精神が蝕まれ切っていた彼らが考えたことは、「どうやったらこれからも働かずに食っていけるだろうか?」でした。すでに“末期症状”といってよいでしょう。
そこで彼らがまず取った行動は、国ごとマネーロンダリングの魔窟となり、世界中の汚れたカネで荒稼ぎすること。それがアメリカの怒りを買って継続不可能となると、今度はパスポートを濫発してテロリストの片棒を担いで裏金を稼ぐ。それもアメリカから圧力がかかると、今度は舌先三寸でオーストラリアから、中国から、台湾から、日本から資金援助を引き出す。
テロリストへのパスポート濫発などといったことに手を染め、ほとんど“ならず者国家”と成り下がった惨状ですが、それでも彼らはけっして働こうとはしません。
── 病膏肓(やまいこうこう)に入る。
ナウル人が額に汗して働くことはこれからもないのだろうと、筆者は思います。ナウルが亡びる日まで。
資源のない日本の幸運
このように、「不労所得」という禁断の果実にひとたび手を出したが最後、あとはけっして後戻りできない“亡びの道”を一直線に歩むことになります。泥棒がなかなか足を洗えないのも、博打打ちがなかなかギャンブルをやめられないのも、宝くじ高額当選者に身を持ち崩す人が多いのも、すべてはこの“禁断の果実”を味わってしまったからです。
よく「日本には地下資源がない」と嘆く表現を見かけますが、筆者は「日本に地下資源がなくて本当によかった」と心から思います。地下資源がないからこそ、それを補うために頭を悩ませて創意工夫し、額に汗して勤勉に働いて富を生み出していかなければ国を維持できません。
そうした厳しい歴史を歩んできたからこそ、日本人は洗練され、世界に冠たる国のひとつとして繁栄することができたのです。なまじ豊富な地下資源などがあったら、それに頼って怠けることを覚え、諸列強からその富を虎視眈々と狙われ、他のアジア諸国同様、日本も19世紀に植民地とされ、亡びていたことでしょう。
ナウルを反面教師にして
今回、サウジアラビアの国王が御自らわざわざ出向いてまで日本にやってきたのは、こうしたことへの危機感からです。21世紀に入って以降、急速に石油に頼らない新エネルギーの開発が進んでいます。遠からず石油に頼らなくてもエネルギーがまかなえる時代が到来するでしょう。
そうなってしまう前に対策を立てておかなければ、サウジもナウルの二の舞となることは火を見るより明らか。そこで今回、石油だけに頼る経済体制から脱却するべく、日本に経済協力を要請するためにやってきたのです。
じつはこれ、地下資源の乏しい日本も他人事ではありません。今の日本が豊かなのは、先人たちの血の滲むような努力の賜(たまもの)です。
現状の豊かさを維持するだけでも、若者には一層の智恵と努力が必要になってくるのに、今の若者を見ていると、先人たちが築きあげたこの“過去の遺産”にどっぷり浸かり、これを食いつぶしながらラクをすることばかり考えているように見えます。もしそうであるならば、日本の未来は殆(あや)うい。短期的視点でリン鉱石(グアノ)に依存したナウルと同様に、日本人が「先人の築きあげた富」に依存してしまえば、我が国もナウルのあとを追うことになるでしょう。
このコラムについて
神野正史の「人生を豊かにする世界史講座」
人生に役立つ知識を世界の歴史から学び、読者の方々が日々の生活に役立てていただくことを目指します。筆者は日頃、歴史を学ぶ歓びを人々に伝える、「歴史エヴァンジェリスト」として活動しており、このコラムをきっかけに、1人でも多くの方に「歴史を学ぶ楽しみ」を知っていただければ幸いです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122700036/032000008
信頼の親日国 投資人気の陰で共産党崩壊の危機も
アジアで急成長のベトナムに視線は熱いがリスクも
2017.3.22(水) 末永 恵
ファイアダンスで悪魔払い、ベトナムの伝統儀式
ベトナム北部トゥイェンクアン省のラム・ビン地区で開催された春祭りで、ファイアダンスの儀式に臨む人(2017年2月10日撮影)〔AFPBB News〕
日本企業の投資先(アジア、オセアニア地域)で最も人気の国はベトナムとなった。2016年のジェトロ(日本貿易振興機構)の日系企業調査で明らかになったのだが、ベトナムで「今後1、2年で事業展開を拡大する」と回答した企業が一番多かった。
中でも、卸売・小売業の拡大割合は、「78.4%」に達し、2位で73.5%のインドを突き放した。さらに、鉄・非鉄・金属、化学・医薬、電気機械器具分野でもベトナムの拡大割合は、それぞれ6割以上を記録し、断トツ人気だ。
全体的に日本企業のベトナムへの投資拡大が今後、さらに加速化すると見られる。
投資先としての魅力は、安価な労働賃金、人口約9400万人のうち、労働人口が約5500万人という豊富な労働力、さらに平均年齢が若い(約31歳)ことが挙げられる。
東南アジアの交通要衝
また、石油、天然ガス、石炭などに恵まれたベトナムは国土がインドシナ半島を南北に走り、地理的にもASEAN(アセアン=東南アジア諸国連合)の中心に位置する。
同地域第2位の経済大国のタイと、最大の経済大国のインドネシア、さらには中国(華南地域)を陸路で繋ぐ拠点に位置することが最大の利点の1つだ。
とりわけ、ベトナム最大の都市、南部に位置するホーチミンは最大の商都で、中国、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールなどと、陸海空路で結べるアジア地域の「経済帯路のハブ」となると見込まれているからだ。
さらに、ベトナムにとって日本は最大の経済援助国だけでなく、安全保障の面でも、対中国で歩調を合わすアジアの同盟国だ。
昨今、政治経済的に中国の影響力が増しているとはいえ、フィリピンやインドネシア、マレーシアなどと比較した場合、ベトナムは今、「アジアで最も信頼できる親日国」とも言える。
しかし、親日的だから、同じ仏教国だから、日本人と考え方が似ているわけではなく、「日本で通用することは、ベトナムでは通用しない」と考えた方が妥当だ。
そう、とかく日本人は外国人に“日本色”を求める傾向が強いが、日本人とベトナム人は、「違って当たり前」。
とは言いながら、ベトナムへの投資リスクは、一企業にとって対処困難な政治経済文化的問題以外でも、ベトナムの人々の価値観や気質など、「現地の常識」を熟知することで、企業として最小限に抑えられるものでもある。
ベトナム人は識字率が約95%で、一般的に勤勉で向上心が高く手先も器用で、資格・技能習得や転職などのために会社終業後、夜学に通う人がいる一方で、教育環境の格差も大きく、社会人としての常識や教育を備えた人が少ないとも言われる。
また、多民族国家のマレーシアやシンガポールと比較し、英語のできる人材は少なく、日本語に関しては、さらに少ない。さらに英語と日本語を駆使する人は、かなり優秀で貴重な存在だ。ベトナムではこうした優秀な人は大抵、共産党で働いたり、技術者になる人が多い。
こうした中、日系企業では、ホワイトカラーの多い職場では英語、工場の労働者などブルーカラーの多い職場では、ベトナム語を使用することが多い。
ベトナム人は一般的に勤勉と言われるが、他の東南アジア諸国のように職場では盗難や職務怠慢も見られ、会計など会社の資金を扱う地位についている人物が、内外で金銭的癒着を起こす場合も多い。
いわゆる賄賂の問題は、日本や欧米ではコンプライアンスなど厳しい罰則のある「タブー」でも、ベトナムでは商習慣、“企業文化”である。かと言って、表向きに露出されるものではなく、構造的で複雑、かつ厄介な問題で、その責任を日本からの出向統括者1人に任せられる問題でもない。
しかも、不慣れなことから判断を間違えると、ベトナムで経営継続ができなくなるだけでなく、刑事事件に発展する場合もあり、ベトナムで日系企業が対応に非常に苦慮する点だ。
また、(東南アジアの特徴とも言えるが)ベトナムでは、男性より女性の方が働き者で優秀、ゆえに企業では主力戦力だ。
半端ではない女性パワー
ベトナム戦争など、戦争で男手がなくなったからでなく、ベトナムでは、「家を守る」ことが、日本のように家庭に入ることでなく、大黒柱、すなわち稼ぎ柱になるということなのだ。そう、ベトナム社会はかかあ天下で、恐妻家がほとんどだ。
ベトナムの企業では、経理、人事、営業部門のほとんどが女性の独占市場となっている。ビジネスの交渉現場でも、必ず男性同僚と、あるいは夫婦でやって来るが、“最後の一刺し”を実行するのは、ボスの女性。
最近では経済的に自立した若年層で、シングルマザーが急増しているともいう。日本と違って欧米と同様、臨月になっても働き続ける妊婦が多く、産休も法令で半年、認められている。
ベトナムでは戦力の妊婦が出産ぎりぎりまで働く中、産休中の代替要員の確保、産休後の女性の復帰など、不慣れな日系企業にとっては大きな問題だ。しかし、ベトナムでの企業の成功は、女性の能力をいかに最大限に生かせるかにかかっており、同対策は不可欠だ。
また、経営上重要な点としては、首都の北部、ハノイと南部のベトナム最大の都市、ホーチミンでは、労働者気質で大きな違いがあることを熟知しておくことだ。
ベトナム最大の商都、ホーチミンを中心とする南部では、一般的に労働意欲や上昇志向が高く、現金主義だが、北部は違う。
一般的に、北部を中心にベトナム人は残業を希望しないが、南部では残業代を目当てに長時間労働を自らかって出る場合が多い。北部から南部への配置換えはあるが、南部から北部への配置換えは、ベトナム戦争の背景もあって南部の人が強烈に拒否するため、現実的ではない。
また、異文化の代表的な例としては、ベトナムでは、個人主義が台頭しており、個人やその家族の利益や考え方、価値観を非常に大切にする。
そのため、仕事の進捗確認がゆるく、計画的に仕事を進めるのも苦手。さらに、日本人のように法令や規則を遵守することも期待できない。団体プレーは不得手でむしろ、日本人にはスタンドプレーと映るべトナム人が目につく。
当然、身内や友人の冠婚葬祭が大事で、社員旅行や会社の仕事は最優先ではない。会社のために個人や家族との生活を犠牲にすることはなく、滅私奉公的発想や集団的利益を美化する文化もない。
よって、会社に対するロイヤルティーや帰属意識はなく、個人主義的考え方から、会社での同僚などとの情報共有をする文化もない。だから、退職時の引継ぎなどが、スムーズにいかない場合もある。
また、ベトナム人には、多目の仕事量を与えて、負荷をかけることが彼らの能力を生かす秘訣だ。3人の部下には、4人分の仕事を与えること。競争心や人事考課の敏感な彼らの労働意欲を高めることになる。
3人に3人分の仕事を与えては、誰かが補佐的な仕事に回り、他の人間のモチベーションも下げ、3人なのに2人、あるいは結果的に1人分の仕事しか達成しないことになる場合もある。
また、2008年4月、ナイキの工場スト関連問題が世界のメディアを賑わせたが、ベトナムでは経済発展に伴い、今後、さらに労働争議が増加することは否めない。そのほとんどが労働組合の指示ではない「山猫スト」だが、経営リスクとして対策を練っておく必要がある。
共産党独裁でも中国より社会情勢の不安は少ない
一方、ベトナム人の国民性や価値観以外のリスクとして、代表的なものは、ベトナムの政治経済、政策制度的なものだろう。
ベトナムが日系企業の投資先(アジア・オセアニア地域)で最も人気の背景の1つに、国内政治や治安の安定がある。中国と同様、共産党の一党独裁支配だが、中国のように、国家主席に権力が集中していないのが特徴だ。
いわゆるトロイカ体制で、共産党書記長、国家主席、首相の間で権力と機能は分離され、「権力の独裁化」を制御し、中国のような政治的リスクに伴う社会情勢の不安もどちからというと少ない。
しかし、筆者の周りの若者の間では、共産党離れが顕著だ。
「経済が発展しても、報道の自由、言論・表現の自由がない国は、国として結果的に崩壊する」(日系企業やベトナム国営企業勤務などのベトナム人)という。
言論統制が厳しく普段は表に出ることは決してないが、日頃、話を深く聞くと、「毎年、ベトナム戦争勝利の戦争記念日のプロパガンダが宣伝される。40年以上も前の話で、終戦以降に生まれた我々は、共産主義でなく、民主主義社会の誕生を願っている」(戦後生まれの知識人たち)と共産党批判は痛烈だ。
中国と同様、経済発展に伴う格差社会の台頭が、共産党一党独裁体制の批判を増幅させており、今後、ベトナムの格差拡大が社会不安を誘引する経営的リスクになる懸念が浮上している。
さらに、社会主義体制の象徴的な課題として、複雑な法体系と一貫性のない運用体制が挙げられる。
新しい法律が施行されても、省庁間で合致しない法律があったりと、結果的に、施行決定から、省令、通達が行われず、「実施細則がないのに、罰則のみが科せられる」という異常事態が発生することがある。
実際あった問題例を挙げると、省エネラベル法(家電などが対象)が施行されたとき、ラベルの内容の記載事項詳細が決定する前に、同法の発令の中で実施日のみが明記され、結果、実施日を迎え、ラベルの貼っていない完成品の輸入が税関で差し押さえられるという事態が起こった。
運用体制に一貫性がないため、行政の水際での役人による判断基準がバラバラとなり、そのため行政手続きで「特例の便宜」と称し、役人が賄賂を要求する温床ともなっている。言い換えれば、賄賂を正当化するため、政府ぐるみで問題を複雑化しているとも言える。
さらに、特筆すべきなのは、為替リスク、製造コストの高騰、裾野産業の脆弱化に、新興国に特徴的な未整備なインフラなどが挙げられる。
国内通貨の「ドン」の信頼性が低く経済的基盤が脆弱なベトナムは、実質ドル連動の変動相場制を敷いている。恒常的にドンの切り下げが行われ、外資系企業は収益を外的要因で左右されるという貿易赤字の産業構造になっている。
貿易赤字体質がもたらす通貨安
ベトナムでは多くの企業が、部材(原材など)を輸入するケースが主流なため、結果的に、インフレを促し人件費高騰や消費者物価の上昇も招いている。
その貿易赤字体質によるドン安は、製造コストの上昇を誘引し、さらに、製造コストの原因の1つに、人件費の上昇も挙げられる。ここ7年ほどで最低賃金の増加率が消費者物価のそれを上回り、ほぼ倍増した。
将来的に、物価上昇がさらに金利上昇を誘引し、企業競争力が一層、下がることも考えられる。また、製造コスト上昇が続く別の要因は、裾野産業の脆弱さにある。
ベトナムに進出した製造業は前述のように原材料を輸入資材に依存し、現地調達率が低く、通貨安による輸入価格上昇だけでなく、物流や在庫コスト、さらにはリードタイムの対応面において弱点となる。
日系企業の人気投資先のベトナムだが、上記のように様々な課題も抱えている。さらに、ベトナムは複雑な諸外国との関係をうまく天秤にかける一方、ゆえにそれらの国の政治や経済、さらには各国間の外交関係の影響をもろに受けやすい。
長年の親密な友好国のロシアは武器提供国で、その敵対国の中国は、南シナ海の領海問題でベトナム人の嫌中がヒートアップする一方で、最大の輸入国。さらにその敵対国の米国は、かつての戦争相手国だが、今では安全保障における対中戦略でなくてはならないパートナーで、しかも、最大の輸出国でもある。
さらに、ベトナムにとって日本は最大の援助国だが、一方で韓国が最大の投資国だ。
「日本のブランド力」は絶大で、昨秋から、東南アジア初、初等教育で日本語を第1外国語として学習教育を始めたベトナム。
しかし、「アジアで最も信頼できる親日国」は、自らの共産党崩壊や、複雑な列強との関係で、その国の成り立ちのもろさを露呈する危険性も同時に抱えているとも言えるだろう――。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49487
ゲイツ氏の「ロボットに課税する」は正しいか
1分で読める経営理論
欧州議会はロボットへの課税を否決
2017年3月23日(木)
エンリケ・ダンス
米マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、最近のあるインタビューで「人間の労働に取って代わる、ロボットの労働に対して課税をすべきだ」と発言して注目を集めた。つまり人間は収入に応じて所得税を課されているのだから、人間に代わってロボットが同じ質・量の労働をするなら、ロボットの労働に課税するのも「あり」なのではないかという主旨である。ゲイツ氏は、荷物を運搬するドライバーや、倉庫の管理、清掃などといった仕事は今後20年ほどでなくなり、人工知能を搭載したロボットがその仕事を担うだろうという考えを示している。
ビル・ゲイツ氏。「ロボットによる大量失業の時代を迎える前に、ロボットに課税すべきだ」(写真:AP/アフロ)
背景には、人工知能を搭載したロボットの導入が今後一気に進めば、人間の大量失業につながる可能性があり、社会が不安定になるその移行期間を何とかうまく乗り切らねばならないという、ゲイツ氏なりの懸念があるのだと推察される。ロボットを活用する企業から徴収した税金を、大勢の失業予備軍の人たちの新たな職業訓練に充当しようという狙いである。今から備えておく必要があると言うのである。
欧州議会「法律でロボットに規制をすべき」
一方、欧州議会もロボットにも課税すべきという、ゲイツ氏のアイデアに似た内容の報告書を出していたが、2月16日に否決された。「ロボット労働の拡大に関しては法律でなんらかの規制をすべきだ」としながらも、ロボット労働そのものへの課税は見送られた。
ロボットの「労働」に対しての課税は、一見単純そうに見えてなかなかの難問である。当然ながら歴史的に前例がない。産業革命以来、製造工程の自動化が進み、多くの労働者の職は奪われた。その後、機械の生産力は増大し、失業者は新たな職業に就き、企業の利益への課税額は増えたが、税金は企業の「利益」にかけられたのであり、機械の「労働」に対して特別の税金がかけられることはなかった。
私は、ビル・ゲイツ氏のアイデアは、理詰めで考えたというよりも直観的という感じを受ける。人間を単純にロボットに置き換えただけのイメージだ。「ある『人間の』労働者が工場で5万ドル(約560万円)相当の仕事をしたので、この給料から一定の所得税、社会保障税(費)を差し引く。ゆえに、その人に代わって『ロボットの』労働者が同じ労働をした場合も、同様に課税するのは当然、というシンプルな発想だ。同じ仕事をしている「人間の代替」という考え方は分かりやすいが、この考えに対しては以下のような疑問が浮かび上がる。
超絶凄いロボットの労働への課税額は?
労働時間から計算される人間の給料体系と、それをベースにした課税システムは、ロボットが人間と同じ内容の仕事を代行した場合にのみ適用可能だ。しかしながら、例えば人工知能などの発達により、人間よりもはるかに生産性が高い次世代ロボットが登場する可能性は高い。そうなってくると、状況は全く変わってくるのではないか。
代替ロボットが、人間をはるかに超えた生産量を実現し、その上、はるかに高品質な製品を生産し始めたら、生産量や品質の向上に比例させて課税額を増やせばよいのだろうか? しかし、である。視点を変えれば、より優れた仕事や、高い生産性、品質の向上を求めて設備投資をした企業に対し、税の負担を重くするというのはいかがなものだろうか。そんなことをしたら、ロボットに投資しようという企業の意欲は薄れてしまうのではないか。
「ロボット時代」にソフトランディングするために
ロボットの労働に課税するというアイデアには、社会がロボットを受け入れてゆくために、「ロボット化」の速度を抑制するという意味もあるとゲイツ氏は言っている。「たとえ自動化ロボット導入のスピードを遅らせても、課税をした方がよい」と同じインタビューで述べているのだ。
しかしながら、やはりこれについても疑問が残る。その考えに従えば、ロボット労働の時代へとソフトランディングさせるために、技術開発のスピードにブレーキを掛けることになるわけだが、人間はテクノロジーの発達にブレーキをかけてもよいものなのか? ということだ。それは理にかなっていることなのか?
もちろん現代では、テクノロジーの発達で得た利益が一部の少数の人の手に握られ、社会の二極分断化が進んでいるという現実もある。米国やヨーロッパを見ても、中流階級はどんどん崩壊している。富裕層と貧困層の二極化によって消費需要が落ち込み、大量生産の製品を消費者に買わせたいメーカーは窮地に追い込まれる。社会は立ち行かなくなる。現状への不満が社会的紛争を引き起こす要因となるだろう。とはいえ、ロボットへの課税によって、所得の再分配を促進し、今述べたような社会不安を緩和することは果たして可能なのだろうか。
ベーシックインカムで対応する方法
ロボット労働にともなう大量失業時代に備えるために、ロボットへの課税ではなく、ベーシックインカム(政府が国民に基本的な所得を保障する制度)など、社会的不均衡を是正するための新たな手段を採用するという考え方もある。無条件に支給されるベーシックインカムは、従来からある条件つき(失業した時などの)給付金のシステムに代わるものだ。
しかしながら、この対案も、根本的な問題とぶつかる。テクノロジーの発達などによって国境はどんどん取り払われているように見えるが、現実には各国がそれぞれ自国の経済政策によって税額を決める自由を持っている。グローバル企業が合法的に課税を回避するために、税金の安い国に拠点を築くことがごく普通に行われているのは誰もが知る事実である。そして、ベーシックインカム導入のために特定の国の法人税が高くなれば、それが企業のさらなる税金回避につながる可能性もある。
一国だけで解決できる問題ではない
ある国がベーシックインカム導入のために、法人税の税率を上げるという政策を取ると、優良企業がその国に定着せずに、他国に移転してしまうといった問題が起こって来る。その上、富の再分配を行う目的でベーシックインカムを導入した国には、移民が大量に流入し、国境警備という問題も起こって来るだろう。
繰り返しになるが、人間に代わるロボットに課税するというのはそんなに単純な問題ではない、ということだ。問題は一国の制度にとどまらないだろう。グローバル企業の税金の回避問題や、世界共通の法律制定の問題など、容易に解決できない大きな枠組みにまで問題は波及してしまうはずだ。この問題に関しては、場当たり的な解決策ではなく、もっと広く、深く、討議がなされるべきだと思う。
このコラムについて
1分で読める経営理論
スペインのIEビジネススクールで教える教授陣が、経営や社会、テクノロジーなどをめぐる最新の話題について分析・紹介するショートエッセイです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/283738/031600039
JFEエンジ、「匠の技」をAIに仕込む
エコロジーフロント
ゴミ焼却炉の人材不足を乗り越える方法とは
2017年3月23日(木)
半沢 智
「やあ、炉内の様子はどうだい」「窒素酸化物の濃度が増えています。考えられる原因は…」
ゴミ焼却炉の監視画面に運転員が話しかけると、人工知能(AI)が焼却炉の状況や適切な運転方法などを教えてくれる。そんな話が現実になろうとしている。JFEエンジニアリングは、同社が運転するゴミ焼却発電施設にAIの導入を進める。2017年度中にも試験運用を開始する。
炎の大きさ、色で異常を検知
発電施設に導入するのは、日本IBMが提供する「ワトソン」と呼ばれるAIである。ワトソンの特徴は、人間が発する言語や人間が見たもの(画像)を解析し、それらの情報を知識として蓄積できるところだ。画像の様子や各種センサーから得られたデータから異常の予兆を見つけ出し、原因や適切な運転方法を助言する。
AIには、ベテラン運転員のノウハウを習得させる。例えばベテラン運転員は、ゴミが燃焼する際の炎の大きさ、色、燃焼範囲などを見て炉の燃焼状態を把握し、先回りして異常を回避するノウハウを持つ。こうした暗黙知をAIに取り込み、ベテラン運転員のテクニックをいつでも利用できるようにする。
JFEエンジニアリングのリモートサービスセンター(写真:JFEエンジニアリング)
同社がAIを導入する背景には、ゴミ焼却発電施設の新設需要の伸びは期待できないという現状がある。人口減少やリサイクル率の向上などが要因だ。一方、施設の更新案件で、運営主体である自治体が運用や保守を含めた包括契約を希望するケースが増えている。ゴミ焼却発電施設の運営は20年以上の長期に及ぶため、受注できれば安定収入を確保できる。
JFEエンジニアリング都市環境本部・戦略技術チームの小嶋浩史氏は、「AI導入でサービス品質向上とコスト削減の両方が可能となる。入札で大きな強みとなる」と話す。
JFEエンジニアリングは、ゴミ処理施設の遠隔支援拠点である「リモートサービスセンター」を2014年9月に設置し、運用・保守体制を強化した。ここでAIを活用する予定である。現在、国内5施設で遠隔監視を実施しており、2018年度までに海外を含めて10施設に拡大する計画である。
廃棄物発電による売電収入の向上にも期待する。処理能力が1日当たり100〜150tの焼却炉を2つ持つゴミ焼却発電施設の場合、年間の売電収入は2億〜3億円になる。AIに発電量を管理させ、電力需要の高まる時期に多く発電することで、3%程度の収入増を見込んでいる。
ゴミ処理発電施設の国内最大手である日立造船も、来年春をめどにAIを活用した施設の運用を始める予定である。今後、AIの予測精度や使い勝手などが、受注の決め手となりそうだ。
発電所やLNG(液化天然ガス)施設などのエネルギー・環境プラントでもAIの導入が進みつつある。
プラントエンジニアリング大手の日揮は、AIを使ったプラントの運営・保守サービスに乗り出した。発電会社やプラントを所有する資源メジャー、化学メーカーなどに売り込みを始めている。
同社が採用したのは、NECのAIである。特徴は、異常の予兆を見つける「インバリアント分析」と呼ばれる技術だ。プラントが正常稼働している状態をAIに学習させておき、実際のデータと比較していつもと違う挙動を検出したら、それを異常の予兆とみなす。
エネルギー・環境プラントでもAIの利用が始まっている。写真は、日揮が建設した石油精製所(写真:日揮)
通常の異常監視では、運転対象の温度、湿度、圧力、化学物質の濃度などを監視し、それぞれが基準値を外れたら異常とみなす。インバリアント分析では、データが基準値を外れない段階の運転員が気付きにくい変化や、過去に経験がない未知の異常を発見できる。
異常の予兆検知は、運用効率の向上だけでなく、バルブやポンプ、圧縮機といった部品の劣化時期の予想にもつながるという。異常が発生する前に部品を交換できれば、不必要な稼働停止を避けることができ、燃料やCO2排出量の削減につながる。
AI活用でまず300億円の事業を創出
これまでプラント建設を主力としてきた同社は、運用・保守を新たな収益源としたい考えだ。2016年5月に発表した中期経営計画では、事業領域拡大の1つとして、運用・保守事業への本格進出を掲げた。同社がこれまでに手がけたプラント以外の運用・保守も請け負う計画だ。
昨年1月には専門部署「ビッグデータソリューション室」を立ち上げ、故障原因を特定するサービスを開始。既に5社と契約した。インフラ統括本部の三浦秀秋・統括本部長代行は、「AIはサービス強化の大きな一手となる。5年後に300億円のビジネスにしたい」と意気込む。
AIは、省エネ技術として活用できるだけでなく、人材育成や海外展開など、多くの国内企業が抱える課題に応えられる可能性を持つ。環境プラントの運用・保守にAIを導入する取り組みは、千代田化工建設や富士通なども進めている。AIの活用で環境ビジネスは新たな局面に入った。
このコラムについて
エコロジーフロント
企業の環境対応や持続的な成長のための方策、エネルギーの利用や活用についての専門誌「日経エコロジー」の編集部が最新情報を発信する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230270/032200044
AIをどう使いこなすべきか、羽生棋士と考える
トレンド・ボックス
棋士 羽生善治氏×プリファード・ネットワークス 西川 徹社長、岡野原大輔副社長
2017年3月23日(木)
池松 由香
あらゆる産業のあり方を大きく変える可能性を秘めるAI(人工知能)。機械学習によって加速度的に賢くなるAIを、人類はどう使いこなすべきか。日本を代表する将棋の棋士とAIベンチャーのトップが未来を語った。
(写真=陶山 勉)
羽生善治氏(以下、羽生):1年前のCES(世界最大の家電見本市)でトヨタ自動車のブースに展示されていた機械学習による自動走行のデモンストレーションをビデオで見ました。交差点のような場所をミニチュアカーがぶつからずに行き交っていました。システムを作ったのがプリファード・ネットワークス(PFN)さんと聞き、いつかお話ししたいと思っていたんですよ。
西川徹氏(以下、西川):私と岡野原がコンピューターサイエンス関連の最先端技術を開発するプリファードインフラストラクチャーという会社を創業したのが2006年です。
岡野原は機械学習やAI(人工知能)を、私は処理スピードの速いコンピューターの研究を担当してきました。技術のビジネス活用を目的に2014年に設立したのがPFNなんです。
岡野原大輔氏(以下、岡野原):これまで機械学習は、バーチャルの世界でしか使われてきませんでしたが、これが今、現実の世界でも使われ始めています。最も分かりやすいのが自動運転で、僕らはさらに産業用ロボットやライフサイエンスの分野でも機械学習の技術を実装しようとしています。まだ一般の人の元には届いていませんが、あと数年くらいで実現するのではないかと思っています。
経験の「集約」がAIの強み
羽生善治 Yoshiharu Habu
1970年生まれ。85年にプロデビューし19歳で竜王位獲得。96年に史上初の七冠独占達成。現在は三冠(王位、王座、棋聖)。(写真=陶山 勉)
羽生:私がNHKの番組のリポーターとしてAIを取材して思ったのは、サイバー空間でやっていたことをリアルの空間に落とし込もうとすると、物理的や社会的、法律的な制約が出てくるということです。
だからこそ、AIをどのような形で導入するかという最初の一歩がすごく大事だと思うのですが、何か青写真はあるのですか。
岡野原:自動車分野では、どのような時に事故が起きるのかをシミュレーターで機械に学習させています。でも、実際にはシミュレーターと現実との間の差が埋まらないと活用はできません。
ですから、世界を走る10億台ものクルマから事故の状況やヒヤリハットのデータを集めて機械に学ばせれば、事故を防ぐ方法を学べるのではないかと考えました。ここで重要な役割を果たすのが「ネットワーク」なんです。
西川:人と違うAIの能力は、ネットワークでつなげられる点です。人間は複数の脳をくっつけて大きくすることはできませんが、コンピューターはネットワークでつなげれば、膨大な情報を持つストレージにアクセスすることも、複数のプロセッサーを並べてスキルアウト(能力を増大)することもできるようになります。
岡野原:つまり、経験を「集約」できるんですよ。人間は他人に経験の内容を伝えられても、経験そのものは共有できませんよね。でもコンピューターなら、データを基に経験を再現できるので、学習スピードも速くなる。10台の機械が互いに経験を共有できれば、1台でする10分の1の時間で学習できる。これが機械の持つ可能性なんです。
羽生:自動運転では、例えば2019年1月1日に全てのクルマを自動運転に切り替えることができるなら、とても安全なような気がするんですよ。それこそ交通事故やそれによって亡くなる方が1桁2桁、いや3桁減る可能性もあるのではないかと。
でも実際は、当分は人間が運転するクルマと混在しているわけじゃないですか。その時に、安全をどう担保するかがすごく難しい問題ではないかと思います。
岡野原:その通りですね。羽生さんに見ていただいたビデオでは、1台だけ赤いクルマが危険運転をしていました。あれは僕が操縦していたんですが(笑)、あの状況がまさにそう。学習したことと違う動きに柔軟に対応できるようにするのは容易ではありません。相手が何を考えているかを想像することは、まだ人間のようにはできません。
動物なら、例えば馬は生まれて数分で立ち上がれますし、人間は絵本でも本物でもそれが象であると認識できます。これは、遺伝的な進化の過程でそういった知識が組み込まれているんですね。コンピューターではそうした側面は未熟と言わざるを得ません。
羽生:これから先、例えばクルマ以外のところでAIとかディープラーニングが目に見えて進んでいきそうな分野ってあるのですか。
西川 徹 Toru Nishikawa
プリファード・ネットワークスの創業者で社長兼CEO。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。(写真=陶山 勉)
西川:例えば産業用ロボットがあります。人間は物のつかみ方を一度覚えればそれで済みますが、機械は試行錯誤しないとうまく取れるようになりません。でも、世界中のロボットをネットワークでつなげれば、物をつかむというモデルをすぐに作れるようになるのではないかと考えています。
羽生:確かに、知覚についてはこれからすごいことが起こるんじゃないかと思います。だって、人間の視力はどんなによくたって2.0。機械なら7.0でも10.0でも、何百倍、何千倍にすることができる。耳でも鼻でも同じですよね。それがつながって回るようになれば、ものすごいことができそうですね。
西川:人と違ってものすごく小さな物から大きな物までつかめるようになるなど、可能性は膨らみます。
音楽や絵画でもAIが創作
岡野原大輔 Daisuke Okanohara
プリファード・ネットワークスの創業者で取締役副社長。1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。(写真=陶山 勉)
岡野原:まだ見えていないAIの応用先として、クリエーション(創造)があります。人の下手な絵を格好いい絵にしてくれるなど、人間の創作活動のハードルを下げるという方向性です。
演奏が難しいバイオリンしかなかった時代は、人間にとって音楽の創作活動は難しかったかもしれないけれど、ピアノの登場でハードルが下がった。これと同じように、音楽や絵画なんかでAIによる創作が世の中にあふれるようになるのではないかと思っています。
羽生:創造というのは、99%は過去にあった何かの組み合わせだと思うんですよね。ですからそうした意味での創造はAIでもできるようになるような気がします。
将棋の世界では、AIが新しい発想やアイデアのきっかけになるということが既に起こっているんですよ。今、膨大な数のソフトが日々、対戦しているのですが、その中から創造的な作戦や戦法とかが生まれているんです。
西川・岡野原:そうなんですか!
羽生:はい。でも、あまりに膨大な量のデータなので、ソフトを作った人はそれに気付いていない。棋士が見て初めて、「これって今までにないすごい戦法だよね」と分かる。
岡野原:それは面白いですね。そのひらめきみたいなものを人と機械が共有できれば、これまで以上のアイデアが生まれそうです。
羽生:PFNさんは「Chainer」という機械学習ソフトを無償で公開していますよね。公開する理由や意図はどこにあるのですか。
西川:僕らはディープラーニングの研究開発はいろいろな人がやった方がいいだろうと思っているんです。僕らはまだ60人くらいしかいないので、アプリケーション、具体的にはクルマやロボットに実装するところで勝負すればいいと。
僕らの予想では、ディープラーニングはいろいろな分野で使えて、しかも成功するという状況がしばらく続きます。であれば、いろいろな分野で試してもらった方が世の中のためになる。
あと、採用活動をうまく進めるという目的もあります。僕らも当初は名前が知られていなかったのですが、Chainerを出してからは、「日本でディープラーニングといえばPFN」と言われるようになりました。
羽生:この分野でも技術者の人だったり、プログラムを書ける人の数が足りないのですか。
西川:足りないですね。
岡野原:ただインターネットが登場してから変わってきてはいます。今では研究者が論文を公開すると、1週間後とか2週間後に別の国、別の企業や研究機関からその改良版が出るんです。
笑い話ですが、学会で賞を取った人がプレゼンテーションで、「もうこれの改良版の改良版が出ているからそっちを使ってください」と言うくらい、日進月歩の世界なんです。
羽生:例えば企業として、情報はどこまでオープンにして、どこまでクローズにするのかといった、ルールというか暗黙の了解はあるのですか。
というのも将棋の場合、対局が終わった後に棋士同士で、「ここが良かった」「あれが悪かった」といった意見を共有する「感想戦」があるんですね。そこには、ここまでは聞いてもいいけど、これは聞いちゃダメという暗黙の了解があって、それを踏まえて自由に話し合っているんです。
西川・岡野原:へ〜え。
羽生:ですからネットワークとかAIの世界ではどうなっているのかと。
人間が賢くなるために使えばAIは決して怖くない
岡野原:やはりオープンとクローズの両方の世界があります。米グーグルのような一部の企業だけが情報を持ってはいけないということで、オープン化を進めている組織もあります。グーグルは個人の写真データを数千億枚、1兆枚という規模で持っています。そこで既に様々な研究がなされている可能性はありますよね。
AIの世界では、非常に優秀な一握りの研究者が論文などに書かれていないアイデアやノウハウを持っていると言われています。その人たちの採用合戦もし烈になっています。米国では、優秀な人材の採用には、メジャーリーガーと同じくらいの年俸が必要だとも言われています。
羽生:人材が欲しいがために会社を買っちゃうような世界ですね。
岡野原:ですからこれまでAIの研究をクローズでやっていた米アップルも、つい先日、オープンにすると言い出しました。研究者には論文で名を上げたいという心理があるので、優秀な人材にとどまってもらって能力を発揮してもらうためにも、そういう環境が必要だと判断したのでしょう。
西川:(アイデアやノウハウを)特許で守ることが難しいので、情報を公開して「我々は先進的な研究をしていますよ」と宣伝しながら、データと(データセンターなどの)計算資源を押さえることが重要なんです。我々がトヨタさんと提携したのも、自動車のデータを押さえたいということもあるんです。
学習方法を機械に学ぶ
羽生:将棋の世界でもソフトが強くなってきています。人間の棋士が朝から晩まで長時間の試合を毎日続けるのは不可能でも、コンピューターだとそれができてしまうんですね。
ですから私が今、考えているのは、膨大なデータの中から機械が見つけ出した特徴を、人が学ぶことができないかということです。だいぶ先かもしれないですが、「学習する方法」を人が機械に学ぶ時代は来るのでしょうか。
岡野原:来ると思いますね。人間が最も学習しやすいのは、難しすぎず、簡単すぎない問題を与え続けられること。「フロー状態」と言いますが、これを機械がパーソナライズできればいいのだと思います。
西川:AIは人類の新たな道具だと考えればいいと思います。コンピューターのプログラミング言語が進化して、どんどん新しいアプリケーションが出てきたように、ディープラーニングも人間の想像力で発展させて、生かせばいい。むしろAIは人間にとって、楽しみの方が多いと思います。
羽生:これから機械がどんどん賢くなるのは目に見えているので、人間の知能も同時に上がっていかなければ、社会に導入する際に何らかのひずみが生じてしまうことになりますよね。
だから、人間がより賢くなるためにAIの力を使うことができればすごくいいなと。AIを脅威に感じている人も多くいるでしょうが、そう考えれば怖くなくなるかもしれませんね。
(日経ビジネス2017年1月9日号より転載)
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急速に変化を遂げる経済や社会、そして世界。目に見えるところ、また見えないところでどんな変化が起きているのでしょうか。そうした変化を敏感につかみ、日経ビジネス編集部のメンバーや専門家がスピーディーに情報を発信していきます。
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掃除機に革命? 床を水洗いできるヘッドの狙い
トレンド・ウォッチ from日経トレンディ
世界初、家電ベンチャーが開発
2017年3月23日(木)
日経トレンディ
家電ベンチャーのシリウスが、水洗いクリーナーヘッド「スイトル SWT-JT500」を発表した。4月21日発売で、予想実売価格は2万円前後。スイトルは掃除機のヘッドの代わりに取り付けることで、ペットの糞尿や食べこぼしなど、水分の多い汚れを吸い取ることができる。既存の掃除機に取り付けて使う水洗いクリーナーヘッドは世界初だという。
家電ベンチャーのシリウスが4月21日に発売する、水洗いクリーナーヘッド「スイトル SWT-JT500」(オープン価格で、予想実勢価格は2万円前後)
シリウスの亀井隆平社長は「掃除に革命を起こし、掃除機の新しいカテゴリーを作り出す商品」と自信を見せる。
「水の力で掃除する世界初の水洗いクリーナーで、カーペットなどにこびりついた汚れや頑固なシミ、チリ、ホコリなどをニオイも残さずにきれいに吸い取る」(亀井社長)
シリウスの亀井隆平社長
2016年10月24日からクラウドファンディングサイトの「Kibidango(きびだんご)」でスイトルの支援を募集したところ、10月26日には目標金額(100万円)を達成。最終的に503人の支援者から700台、1164万8136円の金額が集まった。
クラウドファンディングサイト「Kibidango(きびだんご)」で、2016年10月24日から12月22日まで支援者を募集していた
スイトル自身は動力を内蔵せず、取り付けた掃除機の吸引力によって内部のファンが回転し、ゴミと空気を分離する。単純に水分の多いゴミを吸い取るだけでなく、本体内のタンクから水を噴射しながら掃除するのがポイントだ。
日本では一般的ではないものの、欧米では水フィルター式掃除機など水分を吸い込める掃除機が普及している。しかし従来のものは大きな問題があったと亀井社長は語る。
「欧米では水を吹き付けてから湿式掃除機で吸い取る『水掃除機』や、吸い取った空気を水でこす『水フィルター掃除機』が普及していたが、汚水と空気を完全に分離する技術は確立されていない。そのため、汚水が吸引されてモーター部に達すると電極部が漏電して故障の原因になるし、モーターの羽根などに汚水が付着すると排気の悪臭やサビ、汚れ、カビなどが発生する。また、吸い込み仕事率が低下するなど、さまざまなトラブルを引き起こし、製品そのものの寿命が落ちる原因となってしまう」(亀井社長)
欧米は日本に比べて一般的に湿度が低く、室内でも靴を脱がない生活スタイルであることから水を使う掃除機が普及している。一方で、日本で普及していない理由について、亀井社長は「安全性、耐久性、操作性、収納性、また生活スタイルの違いなどから家庭用掃除機としては普及・定着していない」と語る。
「潜在ニーズがあっても、日本人の家電に求めるクオリティーを満たす商品がなかったのが実情」(亀井社長)
スイトルは広島県福山市の発明家、川本技術研究所の川本栄一代表が約20年前から温めていたアイデアを具現化したものだ。
「川本さんが発明したアクアサイクロン技術やターボファンユニット、ノズルによって、カーペットなどにこびりついた汚れやシミなどを洗浄しながら吸引できる」(亀井社長)
水を噴射しながらゴミを吸い取る
スイトルはキャニスター型掃除機のノズルを取り付けて掃除できるクリーナーヘッドだ。本体下部に水タンクがあり、先端のノズルをカーペットなどに密着させたときに負圧(外の気圧より圧力が低い状態)になることで弁が開き、タンク内の水が噴射される。
スイトルで掃除しているところ
カーペットにノズルが密着して負圧になることで弁が開き、タンク内の水が噴射される
コーヒーのシミがきれいに吸い取られているのが分かる
ノズルから吸い取られたゴミは汚水槽のほうに入るが、「技術的な最大の課題が、吸引した汚水が壁面を伝わって掃除機本体に浸入することをいかに防ぐかだった」(亀井社長)という。
「従来の水フィルター掃除機などの最大の弱点はここにある。汚水の侵入経路は回転するファンと本体の外壁との隙間だが、この隙間がなければファンがロックして回転できない。スイトルは掃除機の風圧を利用して逆噴射ターボファンユニットを回転させ、フタの天面にある外気取り込み口から外の空気を取り込んで『エアシール』、つまり空気の壁を作る。このエアシールの押し下げる力が、ファンの本体の外壁との隙間から浸み上がってくる汚水の侵入を防いでいる」(亀井社長)
スイトルの上部のフタを外したところ。上が汚水槽になっている
スイトルの下部のフタを外したところ。こちらに洗浄用の水を入れる
スイトルのノズル部分。ゴミなどを吸い取る様子や、水が出る様子がよく見えるようになっている
ノズル部分を下から見たところ。固形物をこすりつけないように、アヒルの口のような形状になっている
スイトルのフタの部分には、吸い込んだ汚水が掃除機のほうに流れないようにする逆噴射ターボファンユニットが付いている
さらに、転倒時や落下時に掃除機に水が入らないようにする逆流防止弁も備えており、二重三重に安全対策を施している。
本体前面にはレバーが備えられており、レバーを切り替えることで水の噴射をオン・オフできる。水を噴射してひと通りきれいにしたあとは、噴射を止めて吸い取れるという仕組みだ。スイトル本体には電子部品が全くないので、すべて水洗いできるようになっている。
本体前面のレバーで水の噴射をオン・オフできる
「狙ったゴミをわずか1分で吸い取るスポットクリーニングが可能。汚れやニオイ、雑菌を閉じ込めて空気中に逃さない。わずかペットボトル1本分、500mlの水で最長3分間、高い洗浄力を発揮する。さらに除菌水の素を入れて50ppmの弱酸性次亜塩素酸水を作ると、家庭の除菌・消臭対策、特にペットのおしっこに極めて高い効果を発揮する」(亀井社長)
ターゲットは「ペット世帯」
スイトルのターゲット層は「ペットを飼っている世帯」だと亀井社長は語る。
「キャニスター型掃除機を持つ全国5340万世帯にスイトルを提案していくが、その中でコアとなるターゲットは犬を飼っている全国約800万世帯、猫を飼っている560万世帯。ペットがしてしまったおしっこの汚れ、いつまでも取れないシミ、抜け毛、しつこいニオイなど、ペットにまつわる悩みを持つ人は増えている。ペットの数は犬と猫を合わせると1980万頭にも達しており、今や15歳未満の子どもの人口より多い。ペット関連の消費も多様化して着実に拡大している」(亀井社長)
ペットを飼っている家庭がスイトルのメーンターゲットとのことだ
ペットの数は犬と猫を合わせると1980万頭に達し、15才未満の子どもの人口より多い
もちろんカーペットを使用している一般家庭もターゲットになるが、最近の新築住宅のほとんどがフローリングになっている。そのあたりは逆風ではないのだろうか。
「たしかにほとんどがフローリングだが、ペットにとってフローリングは足を滑らせて危険なこともあり、ペットを飼っている家庭の多くはカーペットやラグなどを使っているので、十分にチャンスはあると思う」(亀井社長)
ペットを飼っている世帯以外では、高齢者や幼児のいる家庭にも訴求していくようだ。
「高齢者の介護や幼児の食べこぼしなども有力なターゲット。発明した川本氏は20数年前に介護で苦労された経験があり、手を汚さずに排泄物などを一気に吸引できるものは作れないかと考えたのがスイトル開発の動機だったそうだ。スイトルは『掃除プラス洗浄』という掃除マーケットにおける新しいカテゴリーの提案」(亀井社長)
「デザイン」と「品質」を重視して開発
亀井社長は2010年に三洋電機を退職してシリウスを起業し、三洋電機時代から関わりがあった次亜塩素酸水を空間清浄に用いた「J-BOY」を開発。医療機関や介護施設向けに販売している。
次亜塩素酸水を用いたシリウスの空間清浄システム「J-BOY」
「三洋電機のDNAを受け継ぐ一人として、いつかは日の丸家電の復活をと胸に秘めていた」という亀井社長が川本氏の発明に出会い、「私にとっては日の丸家電復活のトリガーになる商品と直感した」と言う。
ただし、シリウスはわずか6人の零細企業。スイトルを商品事業化するにはシリウスのみでは不可能だったと、亀井社長は語る。「独自の強みを持つパートナー企業との協業戦略が不可欠の前提となる。製販可能なら官民コラボなどの力を借りてでもヒット商品を生み出すことを期し、成功の条件として『デザインファースト』『クオリティーファースト』という2つの条件を設定した」(亀井社長)
「デザインと品質は、ものづくりで最も優先されるべき基本原則事項」という信念を持つ亀井社長が重視したのが、全体を統括するディレクターにデザイナーを起用することだった。
「デザインを製品戦略の根幹にすえて、デザイナーが商品の構造、企画段階から開発、販売、市場導入まで、全体を統括するディレクターとして開発に当たった」(亀井社長)
デザインと商品のコンセプト設計は、秋葉原に拠点を持つクリエイター集団exiii(イクシー)が担当している。イクシーは電動義手「Handiii(ハンディー)」の開発によって「iF design award」でGOLD Awardを受賞し、国内では2016年のグッドデザイン賞金賞を受賞するなど、国内外で実力が高く評価されている。
また、コンセプト設計とプロモーション戦略、コミュニケーション戦略については、ブランディングやマーケティングを得意とするクリエイティブ集団の未来予報の力を借り、設計・製造に関しては兵庫県加古川市のユウキ産業が担当した。
ユウキ産業は、旧三洋電機の掃除機などの協力会社であり、今でも電機・自動車メーカーの金型樹脂成型、組み立て加工までこなす製造メーカーだ。スイトルの開発には、三洋電機の掃除機「Airsys(エアシス)」の開発チームが担当したという。
「ユウキ産業は、掃除機そのものを知り尽くし、家電の品質基準を熟知し、品質に対する基本の考え方や姿勢が徹底している。かつて三洋電機でものづくりに取り組んだ一体感によって、利害が衝突する切迫した商品検討の現場や、妥協が許されない品質課題検討の場などにおいても信頼が得られたと確信している」(亀井社長)
今回発表したスイトルの第1弾モデルは掃除機のノズルに装着するアタッチメントタイプだが、現在動力内蔵型(掃除機型)のモデルの開発も進めており、そのほかにも湿式乾式両用タイプ、さらには大型化、小型化したモデルなど商品ラインアップの拡充を図っていくとのことだ。
モーターを内蔵。単体で動作する水洗い掃除機も開発中
発表会には製品デザインを担当したイクシーの小西哲哉CCOが登壇し、デザインプロセスについて解説した。
製品デザインを担当したイクシーの小西哲哉CCO
「2015年11月にプロトタイプを見せていただいたときに、『おーっ!』と思った。カーペットにカップラーメンを散らかして掃除したときは本当にきれいに吸い取れて、『これは本当に欲しい』と思った。これをどうやってお客様に伝えるか、アイコニックな形状にするか、水の流れをどのように見やすい形にするかを念頭に置いてデザインした」(小西氏)
初期のデザイン案
数種類作ったデザインコンセプトの中からハンドルに注力したものと、水の流れを強調したものとの2つに絞り込み、最終的にハンドルに注力したデザインを基に進めていったという。
2つに絞り込んだデザイン案
もともとのプロトタイプは川本氏が図面なしに、勘を頼りにしながら手作業で作り上げたもの。それを3Dスキャンして構造をモデリングし、デザインの中に入れ込んでいったが、細部まで詰めていく段階で川本氏から新たなプロトタイプが生み出されていった。
「そのたびにモデリングをし直さなければいけないのだが、第1弾より第2弾のほうが確実に性能がアップしているので、やるしかない」。小西氏は笑いながらそう語った。
「今回は動力内蔵ではないが、モーターを内蔵して単体で動くものを考えている。今回、ユウキ産業さんと一緒に製品を開発していく中で得られた知見も加えて、さらにクオリティーの高いものを作りたいと思っている」(小西氏)
スイトルの仕組みを発明した、川本技術研究所代表の川本栄一氏も続いて登壇した。
「小西さんのデザインと実際の機能とのマッチングが難しい面もあったが、ノズルのラインや全体の出来上がりがすばらしく、リビングのどこに置いていても違和感どころか注目を集めるようないい商品になったと、本当に喜んでいる。この商品に限らず、水と空気を操る技術を使った違う商品が頭の中にあるので、これに飽き足らず、水と空気を制御する次の商品を作りたいという心境だ」(川本氏)
スイトルの仕組みを発明した、川本技術研究所代表の川本栄一氏
川本氏による原理試作。小西氏とユウキ産業がプロトタイプの試作を進めている最中にも、次々に新たな試作品が生まれていったという
3Dプリンターによって作られた試作品(写真左)と、完成一歩手前のモデル(写真右)
筆者も発表会場でスイトルの使い勝手を試してみた。本体下部の前方が少しラウンド形状になっており、少しだけ力を入れて前に倒すだけでスムーズに吸い取れる。
ノズルをカーペットに密着させて負圧になると、自動的に水が出てくるという仕組みもユニークで興味深い。ただし、そのためにはしっかりと密着させなければならず、少し慣れが必要なように感じた。このあたりは完全に電源なしで、掃除機の吸引力とそれを基にした気圧の変化だけで負圧が実現していることに起因しているのだろう。
電源なしで使えるので完全に水洗いできるのがメリットではあるものの、床に凹凸がある場合などはうまく水が出てこない可能性もあるのではないだろうか。
水が吹き出す量も多からず少なからず。ただし、水を出したそばからノズルで吸い込むので、できるだけ濡らしたくない場所(例えばベッドやふとん、ソファー、たたみなど)では水の量を減らしたり、反対に頑固汚れの場合は水の量を増やしたりと、水の噴出量をコントロールできる機構があればさらにいいのではないかと感じた。
筆者も以前には猫を、現在は犬を飼っている。粗相をしてしまったり、吐いてしまったりということは日常茶飯事だ。掃除機に取り付けて掃除し、その後しっかりと水洗いするという手間がかかるものの、手を汚さずに掃除できることに魅力を感じる人は多いだろう。現在開発中だという掃除機タイプの製品の完成も楽しみにしたい。
(文・写真/安蔵 靖志=IT・家電ジャーナリスト)
[日経トレンディネット 2017年3月7日付の記事を転載]
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